今シーズンから郡山市にホームタウンを移転したデンソーの女子バレーボールチーム「デンソーエアリービーズ」。国内トップリーグの「大同生命SVリーグ」に参戦し、全日程の半分弱が終わった昨年12月上旬時点で2位につけている。その盛り上がりを体験すべく、12月7日に南相馬市で行われたホームゲームを取材した。(末永)
郡山3大スポーツチームの盛り上がりを検証

筆者にバレーボール経験はないが、母校は春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)の常連校。1学年下には、後に国内トップリーグでプレーし、日本代表にも選ばれたことがある選手がいた。オリンピックには出ていないが、世界選手権などの出場経験を持つ。
その選手とは、現・大阪マーヴェラス監督の酒井大祐さん(南相馬市出身)。大阪マーヴェラスは現在首位に立っており、エアリービーズのライバルと言える存在だ。
酒井さんが現役バリバリのころはバレーボールトップリーグの結果を気に留めていた。ただ、酒井さんが2018年に引退してからは、プロ野球やサッカー・Jリーグなどと比べると、バレーボールトップリーグは筆者にとって少し遠い存在になっていた。
そんな中、デンソーの女子バレーボールチーム「デンソーエアリービーズ」が今シーズン(※ワンシーズンが年を跨ぐため、2024―2025シーズン)から、ホームタウンを郡山市に移転した。県内には、田村市にデンソー子会社の「デンソー福島」があり、震災からの復興支援も考えて移転を決めたという。
「せっかく、福島県(郡山市)をホームタウンとしてくれたのだから、一度は取材に行ってみたい。その中で、盛り上がりや楽しみ方を伝えられたら」と思っていた。ただ、その時点でデンソーエアリービーズに関する知識は皆無。まずは知ることから始めよう。
チームのHPでは次のように紹介されている。
「1972年創部し2022年に創部50周年を迎えました。1985年度に日本リーグ(現V.LEAGUE V1)昇格を果たしました。V.LEAGUEでの最高成績は2007年度の準優勝です。日本一のタイトルは2008年度の全日本男女選抜大会、2010年度の全日本選手権大会、2017年度の全日本男女選抜大会で獲得しています。悲願のV.LEAGUE優勝を目指し、日々チーム強化に取り組んでいます」
エアリービーズは「快活なミツバチたち」という意味で、コート上で躍動する選手たちの姿をミツバチに例えている。「蜂のように速く鋭い攻撃で日本バレー界の女王を目指す」という。歴史と伝統があるチームで、この間、タイトルも複数獲得している。ちなみに、本誌は1972年創刊だからエアリービーズと〝同級生〟ということになる。
チームは2017年11月に、福島県、郡山市とそれぞれホームタウンパートナー協定を締結し、郡山市をセカンドホームタウンとしていた。以降、交流イベントやバレーボールスクールなどを実施してきたほか、小学生チームを対象とした「エアリービーズ杯」を開催している。
今回の移転に伴い、数年以内に練習拠点となる体育館を郡山市内に新設するほか、同市の宝来屋郡山総合体育館でホーム戦の8割を開催するという。ただ、同体育館は今年3月末まで改修工事中で使えない。そのため、福島市、会津若松市、須賀川市、南相馬市などでホームゲームを開催している。結果的に、移転初年度ということで県内各地を「お披露目」して回ったような形になり、むしろ良かったのではないか。
今シーズンからリーグ様式が少し変わり「大同生命SVリーグ」が始まった。いわゆる1部リーグという位置付けで、そこに参戦している。試合を配信(中継)しているJスポーツオンデマンドには、次のように紹介されている。
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(前略)1972年創部。1985年に日本リーグ(現在のVリーグV1)に昇格。2010年に全日本選手権大会で優勝、黒鷲旗でも二度の優勝を勝ち取った。Vリーグでは未だ掴み取れていない悲願の初優勝を目指す。
今シーズンからは、2022年から海外リーグで力を磨いてきた東谷玲衣奈(OH)がチームに復帰する。そのほかにもクインシーズ刈谷からツーアタック、ブロックに定評のある山上有紀(S)が、PFUブルーキャッツからクイックとサーブが得意な瀬戸杏華(MB)が入団。
海外勢はレシーブにもアタックにも定評があるオールラウンダー、コロンビア出身のコネオ・カルドナ・アマンダ・ダニエラ(OH)が新戦力として加入した。2015年からエアリービーズを支えている小口樹葉。大学時代4冠を達成し、現在キャプテンを務める川畑遥奈、2023年日本代表メンバーに選出された福本眸など粒ぞろいだ。(後略)
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そのほか、東京・パリ五輪ブラジル代表のロザマリア選手も所属している。試合では、それら選手に注目して見てみよう。
南相馬市でのホームゲームを観戦

チームは昨年10月の開幕から9連勝を飾るなど好発進。チームが好調ならより楽しめそうだ。ということで、昨年12月7日に南相馬市のまるさん・あったまるアリーナで行われたホームゲームを取材した。
試合開始の約30分前に会場付近に着いたが、駐車場はかなり混み合っていた。中には、愛知県内のクルマのナンバーもチラホラ見かけた。もともとは愛知県西尾市がホームタウンだから、根強いファンが駆けつけたということか。
会場の外にはキッチンカーが出店されていた。会場に入ると、グッズ売り場があり、アリーナ内では選手たちが試合前練習を行っていた。試合前に南相馬市長代理のあいさつなどのセレモニーがあり、試合がスタート。


対戦相手は東レアローズ滋賀で、勝率はエアリービーズの方が上だが、その試合まで8連勝中と好調のチームだった。試合はキャプテンの川畑遥奈選手、麻野七奈未選手、ロザマリア選手らの活躍で25―21、25―21、25―20のストレート勝ちとなった。
試合は地元中高のバレーボール部員などがボランティアとして携わった。間近でトップリーグの選手たちのプレーが見られるのは貴重な経験だろう。また、セット間には、地元小学生チームのメンバーによるミニ企画も催され、思い出に残ったに違いない。

試合後はヘッドコーチ、活躍した選手(プレイヤー・オブ・ザ・マッチ)のインタビューがあり、その後は選手全員でコートを一周し、観客席に手を振ったり挨拶して回った。12月ということもあり、選手は皆、サンタクロースの帽子やトナカイの角(カチューシャ)をつけていた。最後は選手、会場の観客みんなで「こでらんに」の決め台詞。「こでらんに」は方言で、こたえられない、たまらない、最高だ、といった意味を持つ。だいぶ福島ナイズされてきた。

楽しみ方を見つけよう

バレーボールはワンプレーで必ずどちらかに得点が入るため、試合進行が分かりやすく、一つひとつのプレーから目が離せない。ホームチームに得点が入ると、アリーナDJのアナウンスとともに、選手の名前が入った応援タオルを回したり、手拍子をしたりと、会場に一体感が生まれる。また、バレーボールは一度交代を告げられた選手が再びコートに戻ることができる。これはほかのスポーツではあまりない。精通していけば、その辺の選手起用や戦術、相手チームとの駆け引きなども楽しめるようになるに違いない。「推し」の選手を見つけることも楽しみ方の1つだろう。ちなみに、筆者は1試合の観戦ですでに「推し」ができた。キャプテンでリベロの川畑遥奈選手。前段で筆者の母校のスター・酒井さんについて触れたが、酒井さんもリベロだった。エースアタッカーのような華やかさはないかもしれないが、「縁の下の力持ち」のような感じで格好いい。
チームは昨年12月8日時点で2位につけている。リーグ開催要項によると、上位8チームがチャンピオンシップに進むことができ、現状は余裕を持ってその圏内にいる。今シーズンから始まった「大同生命SVリーグ」の初代チャンピオンも十分狙えよう。同時に県内での知名度・認知度も高まっていくに違いない。
ところで、郡山市はエアリービーズのほかに、2つの競技のトップチームがホームタウンとしている。バスケットボール(B.LEAGUE B2東地区所属)の福島ファイヤーボンズと、プロ野球独立リーグ(ルートインBCリーグ所属)の福島レッドホープスだ。
市では、エアリービーズ、ファイヤーボンズと連携協定を結んでおり、ホームゲームの一部で「郡山市サポーティングマッチ」として、来場者にプレゼントを配布したり、市の特産品を扱うPRブースを設けたりしている。そのほか、トップチームの選手たちによる指導教室、イベント参加などの地域活動も実施している。
「郡山市はサッカー人気が高いですが、エアリービーズ、ファイヤーボンズの影響で、子どもたちの中でバレーボール、バスケットボールも徐々に人気が上がっていると感じます。市民の盛り上がりも徐々に高まっていると感じているので、市としてももっと盛り上げていきたい」(市スポーツ振興課)
その一方で、昨シーズンまで郡山市をホームタウンとしていたアイスホッケーの「東北フリーブレイズ」が今シーズンから本拠地を青森県八戸市と東京都に移した。これまで、郡山市と八戸市を本拠地にしてきたが、「より多くの集客を」といった理由から移転することになったのだという。
郡山市でのホームゲームは磐梯熱海アイスアリーナが使用されていたが、観客席が216しかなく、試合時は特設で増やすのだろうが、それでも限界がある。それに対し、八戸市のアリーナは3000超の観客席があり、トップリーグに所属している以上、「より多くの観客を入れて主催試合を行いたい」と考えるのは当然。そうした理由から、本拠地移転となった。いまはまだシーズン途中で、平均観客動員数などは発表になっていないが、どんな変化があったのかは注目したい。
郡山市は「ファウンディングタウン(創設のまち)」となり、「完全に関係がなくなったわけではない」(市スポーツ振興課)とのことだが、トップチームが去ってしまったという印象は拭えない。
それだけに、いまあるチームは郡山市としても、県全体としても、もっと盛り立てていきたいところだ。
