福島市松川のメガソーラーで工事費未払い問題が起きていることを2月号で報じたところ、事業者の関係者や未払いを起こした業者を知る人から様々な情報が寄せられた。
未払いと雪害で滞る松川町の現場 外資事業者が陥りやすい落とし穴

福島市松川のゴルフ場跡地(旧福島カントリークラブ)では、ポルトガルのエネルギー企業EDPの子会社で再エネ大手EDPRが「NW福島CC太陽光発電所」(35㍋㍗)の建設を進めている。工事はEDPRから自然エンジニアリング(東京都中央区)に発注され、一次下請けにアークスフォーム(宮城県岩沼市)、二次下請けにサムスターク(郡山市)が入ったが、アークスフォームがサムスタークに工事費を払わなくなりサムスタークが撤退したため、今年9月の稼働開始までに工事が終わるのか注目されている。
サムスタークは工区全体の3分の2を任され、契約では昨年末までにパネルの設置をほぼ終える予定だったが、進捗率は同10月時点で3割にとどまり、未払い金は同11月時点で5000万円近くに上っていた(未払い問題の詳細は2月号参照)。
続く3月号「情報ファインダー」では、2月に降った大雪の影響で施工を終えていたパネルの架台が8割近く壊れたことを報じた。
《原因については今後調査する必要があるが、現場の業者いわく「金具が折れたり杭が歪んだり、明らかな強度不足。作業員たちは『設計の瑕疵』と呆れています」。筆者も損壊状況を写した写真を見たが、雪の重みに耐えられず凹んだパネルも見受けられた》(3月号より抜粋)

同様の記事は毎日新聞県版も2月28日付で取り上げ、工事費未払いが起きていることも報じた。他のマスコミからもEDPRや自然エンジニアリングに問い合わせが相次ぎ、対応に苦慮しているという話がEDPR内から本誌に漏れ伝わっている。
「マスコミからの質問をいったん東京支店で預かり、それをシンガポール本部に渡して、本部から支店に回答が届くというまどろっこしいやり方をしているのでスムーズに対応できない。加えて法務担当が海外の弁護士なので、日本語の回答づくりに苦戦している」(EDPR関係者)
後手に回る対応
この関係者は、未払い問題や雪害は「事業者が外資だからこそ起きた問題」と指摘する。
「対外的には、EDPRにとって福島のメガソーラーは日本初の事業とPRしているが、実態は必要最低限の事業費だけ投じて、あとは元請けに任せっきり。だから、下請けに未払いが起きても、雪害で架台が壊れてもすぐに詳細を把握できず、対応も後手になる」(同)
そもそも雪害をめぐっては、周辺のメガソーラーには架台やパネルが壊れた形跡がないため「本当に雪害が原因なのか。手抜き工事や安い部品を使った可能性はないのか」(同)と疑う向きがある。だが、EDPRに現場を直接確認する気配はなく、原因究明は期待薄だ。
今後、EDPRは未払い問題や雪害による工事の遅れにどう対応していくのか。
「自然エンジニアリングと取引のある業者が新たに現場に入った。ただ、残った杭打ちを頼んだら『地盤の問題で難しい』と言われ、金額面でも折り合っていないと聞く」(同)
この現場で未払い問題が起きたことは代替業者も分かっているはず。だとすれば、金額面で慎重な姿勢を見せるのも当然だろう。
雪害で壊れた架台やパネルは、3月中旬に新しい部品が届いたあと、順次修繕が始まるという。ただ、今年9月の稼働開始は難しくなったとして「一部マスコミには、今年後半の稼働開始を目指すとコメントしている」(同)。
本誌はEDPRに▽工事費未払い問題が起きたことをどう受け止めるか、▽架台やパネルが壊れた原因は本当に雪害なのか、▽予定通り今年9月に稼働開始できるのか――など六つの質問をメールで送ったが、期日までに返答はなかった。
本誌には事業者のEDPRだけでなく、未払い問題を起こしたアークスフォームに関する情報も複数寄せられている。
3月上旬には、2月号の記事を読んだという男性からこんな電話がかかってきた。
「私もメガソーラー工事でアークスフォームの下請けに入ったが、未だに工事費2000万円をもらっていない。最初のうちは払ってくれたが、途中から『過払い分がある』と言い出して払ってくれなくなった。記事を読んで、サムスタークも同じ目に遭ったんだと思った」
男性に、どこのメガソーラーかと尋ねると「それを言うと私の身元がバレる。ともかく、アークスフォームがトラブルを起こしている現場は一つや二つでないことを知ってほしい」と言って電話を切った。
国交省に〝告発〟した業者

「私はアークスフォームが建設業許可を得て仕事をしていること自体がおかしいと思い、同社と一緒に関わった本宮市の太陽光発電所の工事で起きた出来事を手紙に綴り、国土交通省に送ったほどです」
こう話すのは悠誠産業(福島市)の赤間祇大社長である。
アークスフォームの登記上の代表取締役は山口一智氏だが、実質的な経営は副社長を名乗る上坂賢二氏が行っている。2月号で筆者の取材に応じたのも上坂氏だった。
上坂氏は宮城県名取市に本社を置く北都建設の社長で、赤間氏によると、悠誠産業は岩手県陸前高田市の震災復興工事で北都建設の下請けに入った際、500万円の未払いを起こされた。この時は元請けの大手ゼネコンに相談したら、上坂氏は未払い金をすぐに払ったという。
その後も浪江町の用水路工事や栃木県のメガソーラー工事などで上坂氏と関わったが、陸前高田の一件があってから赤間氏が上坂氏から実害を受けることはなかったという。一方で、北都建設の名前では仕事がやりづらくなったのか、上坂氏は須賀川市や宮城県丸森町のメガソーラー工事をアークスフォームで受注していたという。
「ただ、これらの現場でも上坂氏は未払いを起こしていた」(同)
看板を変えても、結局やっていることは変わらなかった上坂氏。そんな上坂氏のやり口を赤間氏が国交省に〝告発〟したきっかけは、本宮市の太陽光発電所の工事だった。
2023年、東京都内の工務店が事業者・施工者となった太陽光発電所の工事にアークスフォームが一次下請け、悠誠産業が二次下請けで入った。しかし、工務店が資金繰りに窮し、アークスフォームに工事費を払えず、その煽りで悠誠産業も払ってもらえない状態が続いた。未払い金は2200万円に上った。
その後、工務店が別の太陽光発電所の工事で多額の資金を得たため、悠誠産業の未払いも解消されたが、
「工務店が太陽光のIDをめぐり何らかの不正をしており、それをつかんだ上坂氏が工務店に揺さぶりをかけて契約額より多いカネを払わせていたことが分かった」(同)
この時も、赤間氏が上坂氏から実害を受けることはなかったが「これ以上、上坂氏を野放しにしない方がいい」と判断し、国交省に前述の手紙を送った。
「北都建設に続きアークスフォームでも仕事がやりづらくなった上坂氏は、宮城県岩沼市で新たな建設会社を興そうとしているようです。これ以上被害者を出さないためにも、役所はそんな会社に建設業許可を与えるべきではない」(同)
ところで、2月号では自然エンジニアリングの工事部長について、特定の業者から裏金をもらい工事で優遇しているウワサがあると書いた。特定の業者にはアークスフォームも含まれるが、工事部長は筆者に「私の名前を使って仲介人が裏金を取っていた」と自身の関与を否定した。だが、業界に身を置いていればアークスフォーム(上坂氏)の悪評を耳にしないはずがない。にもかかわらず、それを承知で下請けに入れたとなると、工事部長をめぐる裏金のウワサは真実味を帯びてくる。
あらためて上坂氏に話を聞くためアークスフォームに連絡すると、担当者が「上坂は忙しいが、取材に応じるか聞いてみる。松川の工事では自然エンジニアリングの下請けから外され、サムスタークからは仮差押を受けたが(注・2月号参照)、その時と今の状況は変わっていない」と答えた。3月28日現在、上坂氏から返答はない。