くつわた・くらじ 1942年生まれ。岩瀬村商工会・岩瀬商工会の会長を6期務める。2012年5月から現職。現在4期目。2021年6月から全国商工会連合会副会長。
伴走型支援で経営安定化を後押し
――コロナ禍が収束に向かう一方で、円安、原油高、物価高騰による地域経済の低迷が顕著となっています。会員事業所の現況についてうかがいます。
「新型コロナウイルス感染症の法的位置付けが昨年5月8日以降、季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げとなって以降、人の動きも戻ってきたように実感しています。また、インバウンドの回復も相まって会津地域など観光地がある商工会地区などでは多くの来訪者で賑わっているようです。
しかし、本県の商工会地区の多くは農村・山間部にあるため、都市部に比べ少子高齢化による人口減少によって消費需要が低迷している現状にあります。
また、コロナ禍における『ゼロゼロ融資』の返済時期も重なり資金繰りに苦慮している事業者も出始めています。さらには原油高、物価高、特に『人手が足りない』という悩みの声が数多く聞かれ、事業継続にも支障をきたすなど、非常に心配しています。
これらを踏まえ、当連合会では、事業環境の変化に対応し、生産性向上に向けた経営改善の取り組みに尽力します。具体的には、人手による労力を設備や機械で補完し、デジタル化、人工知能(AI)等技術を活用することで経営効率の向上を図っていきます。今後は、国・県などにおける助成金の活用を含め、より一層の相談支援体制の強化に努めていく考えです」
――2023年10月から、消費税の仕入れ税額控除の方式としてインボイス制度が導入されました。適格請求書発行事業者になると年間売り上げが1000万円以下であっても免税事業者にはならず消費税の申告義務が生じます。連合会としての対応と、会員事業所への影響についてうかがいます。
「小規模事業者、特に個人事業者の場合、事務処理量の増大に加え、新たな税負担が発生することから、事業者の中には廃業を考えるケースも見られ、看過できない状況にあります。2月、3月はインボイス制度導入後初となる確定申告を迎えますが、混乱が生じる可能性もあり注視しています。
当連合会の上部組織である全国商工会連合会として、同制度施行後の経過措置も含め、中小・小規模事業者に対し複数年度にわたり支援する万全の体制構築の実現に向け、組織一丸となって要望活動を展開しています。この間、商工会職員は、同制度の開始前から現在に至るまで懇切丁寧に説明を重ねてきましたが、確定申告を控える中、これからの申告業務などに対しても事業者に寄り添った支援に注力しなければならないと考えます」
ECサイトが好評
――震災・原発事故からまもなく13年を迎えます。原発被災地における商工会の現況についてうかがいます。
「被災地域における各商工会の事業再開率は久之浜町(いわき市)100%、広野町97・1%、楢葉町92・4%(地元再開率75・8%)、富岡町92・9%(同54%)、大熊町77・8%(同25・3%)、双葉町73・9%(同25・4%)、浪江町77・3%(同36・3%)、小高(南相馬市)67・3%(同41・8%)、飯舘村73%(同41・7%)、川内村96・4%、葛尾村100%、都路町(田村市)97・2%、川俣町100%、鹿島(南相馬市)96%となっています。
特に、原発事故の被害が甚大だった大熊町、双葉町では、特定復興再生拠点区域内の避難指示が解除されましたが、医療機関の施設再開に年数を要すことから、帰還に躊躇してしまうことがあるようです。当連合会でも、引き続き被災自治体と連携を図りながら、住民と事業者の帰還はもちろん、避難先での事業継続と安定を支援していかなければならないと考えます」
――2024年度の重点事業と活動方針についてうかがいます。
「アフターコロナを見据えた経営支援として、ECサイト『シオクリビト』による通販事業の充実・強化を図っていきます。今般『売りはモノではなくヒト』をコンセプトに、福島の面白い生産者100人の思いを掲載した『シオクリビト図鑑』を発行しました。同事業は大変好評なので、今後もさらに充実・発展させながら、消費喚起やビジネスチャンスにつなげていきたいと考えます。また、懸案である事業承継をはじめ、創業支援にも鋭意努めていきます」
――今後の抱負を。
「当連合会は、徹底した伴走型支援を大きな柱に据えた支援を展開しています。職員が積極的に会員事業者に出向くスタイルを貫徹するなど、しっかり寄り添った支援体制を構築しながら中小・小規模事業者の経営安定化・事業継続を強力に後押ししています。おかげさまで『商工会の職員は非常に良くやってくれている』、『よく指導支援していただき助かっている』との声も寄せられています。今後もこの方針を堅持しながら会員事業所から信頼される商工会を目指していきます」