政経東北|多様化時代の福島を読み解く

【高額報酬】存在感が希薄な福島県議会

存在感が希薄な福島県議会

 今年は県議の改選イヤー(11月19日任期満了)。だが、一般県民からすると馴染みがない存在で、知名度も低い。年間報酬は約1400万円。その金額に見合った役割を果たしていると言えるのか。(志賀)

つまらないやり取りで高額報酬

 昨年10月30日投開票の知事選。現職・内堀雅雄氏の福島市の事務所で、固唾をのんで開票結果を待っていたのが県議たちだ。

 県議の定数は58。会派別の議員数は、自由民主党福島県議会議員会(自民)31人、福島県議会県民連合議員会(県民連合)18人、日本共産党福島県議会議員団(共産)5人、公明党福島県議会議員団(公明)4人。

 知事選では、共産党を除く自民、県民連合、公明が支援する内堀氏が55万1088票を獲得。共産党推薦の草野芳明氏に48万票の大差を付けて3選を果たした。

 内堀氏は2014年の初陣から与野党相乗りの「オール福島」体制で当選してきた。旧民主党県連、社民党県連、連合福島、県民連合の4者協の主導で、当時副知事だった内堀氏の擁立を計画。自民党県連執行部は独自候補の擁立に失敗し、執行部と距離を置く自民県議らが野党側に接近。党本部の指示もあり、後追いで相乗りとなった経緯があった。

 2期8年の間に自民党との結び付きは強くなり、今回の知事選でも内堀事務所で最も目立つところに陣取っていたのは自民系の衆院議員・県議だった。社民党県連は汚染水問題や原発新増設・再稼働問題への姿勢が合わないとして支援を見合わせたが、圧倒的な差で勝利し、あらためて支援態勢の盤石さを示した。

 県議会では9割が〝与党〟議員ということもあって、この間、知事提出の議案が否決されたことは一度もない。一方で、共産議員から提出された汚染水や原発関連の議案はことごとく否決されている。

 例えば、昨年9月定例会での知事提出議案は22件が原案可決、1件が同意となった。一方で共産議員が提出した「県民の理解が得られていないALPS処理汚染水海洋放出は行わないことを求める意見書」、「原子力発電所の再稼働・新増設及び老朽原発の運転期間延長の方針の撤回を求める意見書」は共産以外の全会派が反対し、否決されている。

 ある自民議員は「何でもかんでも知事の議案を通しているわけではない。二元代表制を理解し、是々非々でチェックしている」と述べる。ただ、別の県議は「以前は共産が出す議案も検討していたが、いまは無条件で反対している節がある。当局と〝オール与党〟の議会が相互依存しているようなもの」と疑問を呈する。

 本誌では昨年8~10月号と50周年増刊号で、ジャーナリスト・牧内昇平氏による内堀県政の検証記事を掲載した。国に批判的な発言をせず、汚染水の海洋放出に関しても「県が容認する・容認しないという立場にない」と言及しようとしない。さまざまな人に会って話を聞くが、記者会見では批判の声に向き合おうとせず、直接意見を述べようとする被災者団体とは顔を合わせようとしない。

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内堀雅雄氏



 記事ではそんな一面が浮き彫りとなったが、県議からは知事の対応などについて表立った批判は出てこない。県議らは「それだけ内堀氏がきちんとやっているということだ」と口をそろえるが、実質的に執行部の追認機関となっている。

 前回改選時(2019年)の県議会報に掲載された県議の主な経歴によると、大学卒33人、大学院卒2人、高校卒(大学中退含む)14人、短大・専門学校卒4人、不明5人。

 内堀氏は東大卒、副知事の鈴木正晃氏、井出孝利氏はともに東北大卒。高学歴でともに元官僚、元県職員なので行政経験も豊富だ。いまの県議たちがチェックし切れるのか。

 何も学力偏差値が高い県議をそろえろと言っているわけではない。元知事の大竹作摩氏、元建設大臣の天野光晴氏は尋常高等小学校卒で、どちらも県政発展に大きな功績を残した。緊張感を持って知事をチェックできる県議が求められており、いまの県議は物足りないということだ。

数十日勤務で報酬1400万円

 県議会ホームページによると、県議の仕事として以下のようなことが示されている。

 ①議決権(県条例や予算、工事請負契約などの議決)、②選挙権(議長、副議長などを選任)、③同意権(副知事、教育委員会委員などを知事が選任・任命する際に同意)、④調査権・検査権(県が議決通りに仕事しているか調査)、⑤意見書提出権(政府・国会に意見書を提出)、⑥請願受理権(提出された請願を審査し、採択したものは知事などに実行を要求)。

 選挙になると政策的なことを公約に掲げる候補者がいるが、県議会(地方議会)は政策立案機関ではない。意見書提出は定例会ごとにそれなりに行われているが、内堀氏が就任した2014年12月定例会以降、政策的な条例が制定された事例はない(議員定数や政務活動費など議会関連の条例は除く)。

 敢えて言うなら、それぞれが考える政策を実現するための予算を獲得できるように、知事や知事部局に伝え、定例会などで質問して問題点を周知するのが仕事と言える。予算を最終的に決めるのは議会に与えられた権限だ。

 ただし、予算案を議会に提出する権限は知事だけが持っており、議会は自ら予算を作れない。

 知事選前の10月8日付の朝日新聞では《内堀の最大の強みは、政治家を動かし、霞が関とも折衝を重ねて、「国からお金を引っ張ってくることだ」と、内堀を支える県議は口をそろえる》と報じていた。文句の言いようがない予算案を出されたら、県議の出る幕はないことになる。

 県議らに話を聞くと、「観光や道路行政など広域的な話は県単位でなければ進まないことも多い」、「住民から不満の声を聞いて、市町村につなげることもある」という。県民の役に立っている、と。ただ、会期中は地元を離れることも多く、身近な存在と感じている人は少ないだろう。

 浜通りのある政治家経験者は「震災・原発事故後、浜通りの市町村は国との距離がずいぶん縮まった。国の職員が出向し、大臣などが視察に来る回数が増える中で、県の存在自体が薄れているのは否定できない。制度自体にひずみが生まれていると感じる」とも語る。「県に話を通したいとき、県議がいてくれると助かる」という市町村職員の声もあるようだが、その役割が揺らいでいるということだ。

 2019年9月号「県議会をダメにする専業議員」という記事で2018年度の活動実績を調べたところ、本会議28日、各常任委員会(県内外の調査を含む)19日、統括審査会3日、特別委員会(交流人口拡大・過疎地域等振興対策、健康・文化スポーツ振興対策、避難地域等復興・創生対策)12日で、合計62日だった。議会運営委員会、広報委員会などに所属していたとしても80~90日。

 にもかかわらず、県議には高額な報酬が支払われている(表1)。月額報酬は83万円。期末手当は条例で「報酬月額×1・45×1・60」と定められている(昨年12月20日時点。12月定例会でアップする見通し)。


 それ以外にも旅費や政務活動費などの〝余禄〟が支給されている。

 県議が本会議や委員会に出席すると、交通費1㌔当たり25円、日当3000円を支給。福島市以外に住む県議が宿泊する場合は1泊当たり1万4900円の宿泊料も出る。

 視察や調査では、交通費1㌔当たり37円(鉄道などの公共交通機関を利用した場合は実費)、日当3300円、宿泊費1万4900円、食卓料(海外視察など、宿泊せず移動したときの食事費用)3300円。

 政務活動費は会派を通して月額30万円が交付されている(条例では35万円だが、5万円減額している)。

 昨年6月30日、2021年度交付分の政務活動費2億0490万円の収支報告書が公開された。総支出額は2億0450万4063円(99・8%)だった。

 自民党は交付された1億0770万円をすべて使い切った。県民連合は交付額6480万円、返還額2万9486円、共産党は交付額1800万円、返還額3万5286円、公明党は交付額1440万円、返還額33万1165円。なお共産党は議員別には支給せず、会派単位で使用している。

 支出別で最も金額が大きいのは、県政報告の広報紙の制作・印刷・発送などに使われる「広聴広報費」(9964万9368円=全体の48・7%)。

 県の持ち株の関係で、福島テレビなど関係会社の役員に就き報酬を得ている議員もいる。議会選出の県監査委員などに就くことでも報酬が得られる。これらも〝余禄〟だ。

専業議員は無気力議会の元凶

 昨年7月4日には2021年の県議の所得が公開された。それをまとめたのが表2だ。



 2021年に1年間議員を務めた人が対象。そのため、同年4月の県議補選で初当選した山内長氏(自民、大沼郡)、22年10月の県議補選で初当選した佐藤徹哉氏(自民、郡山市)、佐々木恵寿氏(自民、双葉郡)は含まれていない。

 先ほど県議の年間報酬が約1400万円と説明したばかりなので、混乱するかもしれないが、表で示しているのは所得税や共済費など法定控除後の「所得」だ。議員報酬や関連会社の給与所得、事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得、雑所得、一時所得などの合計金額を示す。

 これを見ると、最も多い1186万円が県議の報酬ということになるのだろう。それを下回っているのは、事業所得などでマイナスになったためと考えられる。逆に議員報酬が高い議長や副議長などに就いたり、関連会社の役員を務めて給与所得を得たり、県監査委員を務めて報酬を得た場合、所得に計上され、上位にランキングされる。

 こうして見ると大半は専業議員だ。落選したら収入がなくなる立場だと、選挙活動を優先させるようになり、執行部に厳しい目を向ける姿勢がなくなる。県議会の存在感の希薄さはそこにも一端があるのだろう。

 ベテラン県議は議員報酬についてこう持論を展開する。

 「県職員で言えば部長職相当の金額であり、小さな会社の役員や30、40代の人は『高額な報酬』と感じるはず。でも、企業経営者クラスになると、『金額が低すぎて暮らしていけない』と話していたりする。要するに、人によって受け止め方は異なるということです。だからこそ『この報酬をもらっていても不思議ではない』と言われるぐらいの働きをしなければならないと考えています」

 一方で、あるジャーナリストは「県議を見て『年収1400万円に値する働きをしている』と感じる人がどれだけいるだろうか。専業議員なんて言語道断。仕事を持ちながら議員を務めるのがあるべき姿で、兼業できる環境をまずは整えるべき。その働きぶりを考えると、月額報酬30万円、期末手当はナシというのが妥当でしょう」と断言する。

 昨年、県議会では改選に備えて、議員定数等検討委員会(佐藤憲保委員長)を設けた。直近の国勢調査人口を踏まえた定数について各会派が議論を行ってきた。

 注目されていたのは双葉郡選挙区(定数2)の行方だ。選挙区として存続するためには、選挙区人口が「議員1人当たりの人口」の半数を上回る必要がある。前回県議選のときは、その基準に達せず、強制合区となる見通しとなった。そのため、「これでは復興が進まない」と国に求め、特例法が制定され定数2を維持した。

 2020年度の国勢調査で双葉郡選挙区の人口は1万6484人。議員1人当たりの人口3万1606人の半数をぎりぎり上回った。ただ、県全体の人口183万3152人を現行の19選挙区に割り振って各選挙区の定数を単純計算すると、双葉郡の定数がゼロになり、福島市といわき市の定数がそれぞれ1増える計算となることが分かった。

 そもそも地方自治法で定められていた法定上限数(2011年に撤廃)からすると、現在の人口は定数57相当となっている。

 そのため、今後の人口減少も見据えた話し合いが各会派で行われるものと思われたが、結果的には定数58、19選挙区、双葉郡選挙区(定数2)など、すべて現行通りで維持することになった。

 渡辺義信議長に意見を求めると、このように語った。

 「県内19選挙区の中には、広大な選挙区に1人というところもある。人口だけで選挙区を決めると逆にアンバランスな面が出てくる。人口が少ない地域ほど課題が多いという事情もあり、復興途中の本県はなおのこと議員を減らすべきではないと考えます。そういう意味で検討委員会の答申は納得できるものでしたし、県議会として可決した次第です」

 とはいえ、双葉郡の帰還の動きは鈍っており、県全体の人口減少も加速している。衆院議員ですら「1票の格差」の問題に対応すべく、10増10減の新区割りを導入した。そうした中で県議は現行維持というのは、問題を先延ばしにしている印象を受けるし、職を失いたくないための単なる〝保身〟にも映る。

 元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所の主任研究員を務める今井照氏(地方自治論)に県議の役割について見解を求めたところ、次のように述べた。

 「日本の地方自治制度は二元的代表制をとっているので、議会と知事は別の意思を持っていても構わないという制度になっています。もしそこで相互の意見が最後まで一致しなければ、最終的には議会の方が強い制度になっています。議会とその議員はそのような制度を前提としながら、きちんと知事に立ち向かわなければなりません」

 「そのためには個々の議員や政党会派はもとより、議会内部に組織としてきちんとしたシンクタンクを置くことが必要です。議会には議会図書館を設置することが地方自治法で義務付けられていますが、その組織を発展させてもいいと思います。たとえば予算審議を見ていても、知事から出てくる資料は概括的なものばかりで、財政分析することもできません。そのときは議会のシンクタンク(図書館)が知事側に対し必要な資料を請求することができるような仕組みがあるべきです。情報が知事側に握られていれば、議会や議員の立場は強くなりません」

 「しかし、福島県に限らず、一般的には国会の議院内閣制のように、あたかも議会が長を選んで、だから長を支える会派とそうではない会派があるかのように思われています。議員ですらそう思っている節がある。そこが、緊張感のない県議会にしている最大の要因だと思います。県議に与党も野党もないのです」

 地方自治制度においては、首長や執行部に立ち向かう議会が求められているのに、福島県議会はそうなっておらず、「オール与党」などと錯覚しているから緊張感のない議会が生み出されているのではないか、と。

 ある県議経験者は「いろいろできると思って県議になったが、何もできなかった」と振り返る。

 「県議会で影響力を持っているのは、正副議長やその経験者、最大会派である自民の幹事長ぐらい。県の部長クラスもその辺の意見には熱心に耳を傾けるが、1、2期の県議の声は相手にされない。かといって、市町村や住民とも距離があり、言動は会派の方針に従わなければならない面もあったのでもどかしかった」

 こうした状態だからこそ、首長に転身する県議が多いのだろう。12月20日現在、県議出身の首長は8人。かといって、際立った業績を挙げた県議出身首長がいるわけでもない。

 県議は首長や国会議員になるステップと見られているため〝中二階〟と称されることもあった。その傾向は年々強くなっている。加えてオール与党の無気力議会。空っぽの〝中二階〟にお金をかけたいとは誰も思わない。

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