11月12日投開票の川俣町議選には定数12に対し14人が立候補し、70歳、82歳のベテラン2人が落選し、40~70代の新人3人が当選した。7月の議員報酬引き上げ後、初の選挙となったが新人3人はどう捉えるか。議会での抱負と併せて聞いた。
「立候補促進には無関係」 厳しくなる町民の評価
川俣町議会は2020年に「議会改革等に関する調査特別委員会」を設けて議員報酬引き上げなどを審議した。同委員会は報告書で議員月額報酬が1995年以降22万8000円と変わらない点、「町村長の給与の30ないし31%」(川俣町長の給与は月額84万6000円)とした全国モデルが86年当時のものであり、合併協議や東日本大震災への対応など協議事項が増える中で報酬が見合わない点に言及。「名誉職」化で特定の人しか議員を志せないことがなり手不足につながると懸念した。
適正報酬を検討するよう求める議会の決議を受け、藤原一二町長は「川俣町特別職報酬等審議会」を設置。答申を受けて執行部が策定した議員報酬改定条例案を議会が可決し、7月から引き上げられた(改定額は別表の通り)。11月12日投開票の同町議選は、報酬引き上げ後初の選挙となった。
川俣町議会議員の報酬
役職名 | 改定前 | 改定後 | 引き上げ額 |
---|---|---|---|
議 長 | 33万8000円 | 41万2000円 | 7万4000円 |
副議長 | 25万4000円 | 31万円 | 5万6000円 |
議 員 | 22万8000円 | 27万8000円 | 5万円 |
同町議選は毎回選挙戦となり、なり手はいる。ただ、構成が高齢者に傾き、町民の「飽き」が来たのか今回は新人3人がベテランの佐藤喜三郎氏(7期)と高橋真一郎氏(4期)を押し出す形で当選した。
川俣町議選の開票結果(定数12)※敬称略
得票 | 立候補者 | 年齢 | 今回も含めた期数 | 所属 | |
---|---|---|---|---|---|
当 | 810 | 山家 恵子 | 59 | 2期 | 公明 |
当 | 612 | 作田 善輝 | 69 | 2期 | |
当 | 549 | 藤野 圭史 | 47 | 1期 | |
当 | 520 | 石河 ルイ | 71 | 2期 | 共産 |
当 | 512 | 高橋 文雄 | 71 | 1期 | |
当 | 487 | 新関 善三 | 80 | 7期 | |
当 | 429 | 高橋 清美 | 68 | 3期 | |
当 | 426 | 高橋 道也 | 64 | 6期 | |
当 | 422 | 菅野 清一 | 73 | 6期 | |
当 | 418 | 菅野 信一 | 64 | 2期 | |
当 | 413 | 藤原 正 | 55 | 1期 | |
当 | 378 | 蓮沼 洋志 | 75 | 2期 | |
376 | 佐藤喜三郎 | 82 | 6期 | ||
141 | 高橋真一郎 | 70 | 4期 |
「最下位の高橋真一郎氏は地元の推薦を得られないまま出馬した。票が同じ飯坂地区の新人、藤原正氏(55)に流れた」(町内の選挙通)
藤原氏は藤原一二町長の甥に当たり、保険代理店業を営む。他に当選した新人2人は過去に立候補歴があるので、純粋な新顔は藤原氏のみだ。
藤原氏に「今回初当選した3人を取材しているので応じてほしい」と自宅に電話を掛けると「バタバタしていて申し訳ないが受けられない」と答えた。
11月15日、初当選議員対象の研修会で町役場を訪れた藤原氏に改めて依頼するとその場で応じてくれた。
「地元の声を受けて立候補しました。人口減少対策と若者移住につながるよう議会活動に取り組みたい。報酬引き上げは立候補に影響していません」
2人目の新人は高橋文雄氏(71)。町内で電器店とガソリンスタンドを経営し、2015年に屋号「せっけんや」で立候補するも18人中15位で落選。次の19年にはX(旧ツイッター)のアカウントを開設して「川俣町議会をぶっ壊して再生します」と出馬表明するも準備不足から直前で見送った。
「〇〇をぶっ壊す」というフレーズは自民党の改革派を演出した小泉純一郎元首相に始まり、最近は「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が好んで使っている。高橋文雄氏のXのプロフィールには「N国支持派」とあり、川俣町で初のN国議員誕生かと思い高橋文雄氏を訪ねた。
「Xアカウントは4年前に立候補しようとした時に知人に開設と投稿を頼みました。N国支持表明は記憶にありませんし、共感した覚えもありません。同党に共鳴した知人が私の意見に付け足したのではないでしょうか。そもそも、あなたは今のことを聞きに来たんでしょ? 4年前は関係ない」(高橋文雄氏)
「議会をぶっ壊す」
議会をぶっ壊す発言については、
「議会は4年に1度選挙で盛り上がるが、その間は何もやらないという印象があります。そういう体質を改めるという意味です」
報酬引き上げについては、
「毎回選挙戦なので、なり手不足だから引き上げるという論理は立たない。上げるにしても5万円程度では、一押しにはならない。時期は改選後にするべきだった。自分たちの報酬を自分が議員を務めている間に上げたと私には映った」
「なぜそんなことを聞くのか」と筆者の質問を遮るなど気難しい印象の高橋文雄氏だが、「綺麗ごとは言わない主義。他人が評価するか分からないが、自分が言っていることは間違っていないと思う」と話した。
最年少の47歳、藤野圭史氏は高橋氏と同じく2015年以来2度目の立候補で初当選した。
「議会で世代のバランスを取るのが大事と思い立候補しました。同年代が議会にいないと町への関心が薄れ、若手は期待せずどんどん町外に流出してしまう。志があれば仕事をしながらでも議員ができることを示したい」
議員報酬引き上げで立候補に前向きになったかと聞くと、「関係ありません。そもそも私は8年前に立候補していますから」。
藤野氏はビルメンテナンスの㈱藤野(川俣町)社長で町商工会青年部長を歴任。大震災・原発事故後に町内の除染作業に参入し、福島市や郡山市に業務を広げた。町外の事業者や行政関係者と交流が生まれる中で故郷を客観的に見るようになり、町政に関心を持ったという。
2015年の町議選では18人中16位で落選。前回(19年)の町議選には出馬しなかった。
「ある先輩から『徳を積みなさい』と言われました。議員になる前に実績を積むのが先だと捉え、本業と商工会活動に邁進しました」
町の課題については、
「川俣町には工場が多く立地し、福島市や伊達市などから通ってくる従業員が多い。通っている人たちに住んでもらえるように、いかに環境を整備するかが重要です。議会では住宅確保の観点から若年層の声を伝えたい」
本業と議員活動の利益相反を防止する兼業規制に関しては、自身が代表取締役社長を務める㈱藤野の取引先はゼネコンが主で、町との取引はなく問題ないという。
新人3人の話を聞くと、立候補と報酬引き上げは無関係だった。5万円程度の引き上げでは、労力を考えると進んで立候補する者はいない。だが本業の他の「余禄」としては多い印象。30年近く上げてなかったので上げたというのが実情のようだ。ただ議員としての仕事ぶりの評価は厳しくなるのは間違いない。