自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、派閥からの寄付を自身の団体に資金還流していた議員は政治資金収支報告書への不記載について「派閥からの指示があった」と説明している。記載はしたものの議員個人から議員の団体への借り入れや寄付と処理した者もおり、「正直に記録できない金を何に使っていたのか」と国民は疑う。本誌は裏金の疑惑が向けられている県内国会議員5人に6項目に渡る質問状を送り、説明を求めた。だが、3人は一括での回答を寄せ、はぐらかした。
個別質問をはぐらかした森氏、吉野氏、亀岡氏

3月20日に自民党県支部連合会の定期大会が福島市で開かれた。党員や議員、友好関係の公明党員ら約400人が集まった会場がピリついたのは、優秀党員表彰の時だった。二本松市東和支部幹事長の安部匡俊氏が代表で県連会長の亀岡偉民衆院議員から表彰状を受け取った。安部氏は代表謝辞で亀岡氏ら県連幹部を労った後、こう続けた。
「政治資金収支報告書への不記載問題が政治不信を招き、党員は3万3000人減少し、我が党に逆風が吹いている。国会で法律をつくる議員100人が100人とも法律を無視しているのは一党員として怒りを覚える。いち早く国民が望む解決策を示して実行してほしい」
謝辞を終えた後、会場からは「良かったよ」という声と拍手が上がった。定期大会で厳しい指摘が上がるのは異例のことだ。閉会後、安部氏に聞くと「釘を刺して引き締めねばと思った」と語った。
自民党員をはじめ国民は怒りを覚えている。収入を不記載にしたり、実態とは違う名目にしたら「誤って記載した」としても民間企業や役所では責任者は責めを負う。国民の収入は課税されるが、議員は正確に報告しなかった収入を「政治活動に使った」と言えば課税されないことも怒りを呼んだ。自民党は大企業をはじめ、地方の中小経営者、農家からの幅広い支持を得て「国民政党」を自認するが、市井の金銭感覚からは乖離している。
県連定期大会には、県関係の自民党国会議員8人が出席した(吉野正芳衆院議員は秘書が代理出席)。渦中の清和政策研究会(安倍派)の議員が5人を占める。5議員は収支報告書を訂正している(表)。
政治資金収支報告書を巡る派閥からの寄付の記載額
2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|
吉野正芳氏 | 210万円 | 94万円 | 110万円 |
亀岡偉民氏 | 40万円 | 200万円 | 52万円 |
菅家一郎氏 | 104万円 | 574万円 | なし |
上杉謙太郎氏 | 46万円 | なし | 240万円 |
森 雅子氏 | 38万円 | なし | 130万円 |
(元職)岩城光英氏 | 68万円 | 54万円 | 10万円 |
当人は「裏金」と言われることをどう考えているのか。本誌は安倍派所属の5議員に3月18日、質問状を送った。項目は以下の六つ。
①未記載の金額は自民党が今年2月に公表したものですべてか。質問時点で訂正を加えた累計を教えてほしい。
②派閥からパーティー券販売のノルマはあったか。あった場合は金額を教えてほしい。
③還流した金額を記載していなかった理由。
④還流分の具体的な使途。
⑤還流分の金額は政治活動に使ったということでよいか。
⑥政治活動に関わる収入として認められなかった場合、政治活動以外に使っていた場合、追加納税する意思はあるか。
期限は1週間後の25日午後5時。26日までに全員からファクスやメールで回答が届いた(以下、回答が届いた順に記す)。
上杉謙太郎氏

①派閥の収支報告の修正を受け、過日、令和2年、令和4年の収支報告を訂正致しました。未記載となっていた金額は286万円になります。
②派閥のパーティのノルマについては、パーティ開催ごとに派閥から割り当てがされておりました。通常時が55枚・110万円で、コロナ時期については30枚・60万円の割り当てを受けていました。
③派閥からの教示があり、収支報告書への記載義務の認識がありませんでした。結果として適切な政治資金の処理が出来ておりませんでした。
④派閥からの還付金について私的流用は無く、全て政治活動に充てておりました。具体的には、主に事務所費や組織活動費、渉外費、会合費等に充てておりました。
⑤派閥からの還付金について私的流用は無く、全て政治活動に充てておりました。
⑥派閥からの還付金は全て政治活動に充てており、政治活動以外の目的に使用したことは無い為、問いには該当致しません。地元の皆様に政治不信を招いたことを深くお詫びを申し上げます。今後、信頼回復にむけて、法改正や制度改正のみならず、政治家そのものの意識改革に向けて努力して参ります。
森雅子氏は項目別に答えず、一括で次のように回答した。

「この度の政治資金不記載の件では国民の皆様の政治不信を招き、大変申し訳なくお詫び申し上げます。政治資金報告書を修正申告しました。3年分168万円(令和2年38万円、令和3年0円、令和4年130万円)の修正申告をし、1月26日付で受付されています。
全額、返金しました。役職も全て辞任しました。
これまで地元の有権者等への説明を重ねてきましたが、更に説明責任を果たすべく、3月4日に福島県庁記者クラブにて記者会見という場を設けました。当時、金銭は、秘書が受け取り、当日のうちに当事務所の政治資金用銀行口座に入金されており、その口座からの支出は交通費や通信費等の政治活動費です。使途について、違法な支出や私的な流用は一切ありません。
秘書は『記載不要』との清和会事務局からの説明を信じ、違法性の認識がないまま報告書に記載しなかったのです。議員である私に対しても報告がありませんでした。私が知っていたならば記載をしましたし、結果として自分の政治信条に反することですので、本当に忸怩たる思いです。
しかし、私が知らなかったとはいえ、秘書に責任を押し付けるつもりはありません。自分自身の監督責任です。そのため、自民党の役職である人事局長を辞任し国会の決算委員会理事も外れました。
各社からの取材にもお答えしているとおり、清和会の解散による残余金はすべて被災地等の公共的なことへ法律に則った形で寄付等をして使われるべきと主張しています。
派閥も解散しました。これからは無役無派閥の政治家として一から出直す覚悟で働いてまいります。
また、今回の深い反省のもとに、事務所内の報告連絡相談や第三者におけるチェック体制を整備し、かつ党の自浄作用をはかり党改革を断行し、国民の信頼を取り戻す努力をして参ります。今後も誠心誠意、全身全霊をかけて国家国民のために働いてまいります」
森氏は②パーティー券ノルマについてはあるかないか答えなかった。
森氏は不記載分を安倍派に返金し、寄付すべきと主張している。本誌は2009年2月号で参院議員1期目の森氏がテレビ番組でボーナスの国庫返上を「公約」した際に、公職候補者が選挙区にある者への寄付を禁じた公職選挙法に阻まれ苦労した経験を報じた。返上は国への寄付行為とみなされ違法、慈善団体に寄付するにしても福島県に支部がある団体への寄付は違法となる。安倍派議員は全国にいる。森氏には解散した旧安倍派から被災地への寄付も同じ問題に直面するのではないかと尋ねたが、弁護士である森氏から具体的な実現法の説明はなかった。
吉野正芳氏も個別の質問に対し一括で答えた。

「清和政策研究会から私が代表を務める政党支部がいわゆる還付金を受領していましたが、これは自民党本部から公表されたとおりです。受領時に同会事務局から『収支報告書への記載不要』との説明があったため、結果的に不適切な会計処理を行うこととなってしまいました。政党支部は全額政治活動費として使用し、先般、収支報告書の訂正を行ったところです」
吉野氏は①の未記載金額の累計には答えず。②のパーティー券ノルマや④の具体的な使途も明かさなかった。
亀岡偉民氏もなぜか一括回答。

「清和研からの還付金は未記載は無く、全て記載してありました。還付元を『清和研』と記載できず『借入金』として記入しておりました。清和研からの寄付という事で既に修正しております」
亀岡氏は③の還流分不記載の理由しか答えていない。しかも、なぜ清和研(安倍派)からの寄付と記載できなかったのかを明らかにしておらず、答えになっていない。
菅家一郎氏は個別の質問に回答した。

①「派閥からの還付金は、全額を私名義の個人寄附として選挙区支部に入金し、収支報告書にすべて記載していたので、未記載の金額はございません」
②平成30年…120万円
令和元年…120万円
令和2年…60万円
令和3年…60万円
令和4年…60万円
③「派閥からの還付金は、全額を私名義の個人寄附として選挙区支部に入金し、収支報告書にすべて記載していたので、不記載はございません」
④「組織活動及び事務所運営(印刷費、通信費、交通費、人件費、消耗品費)」
⑤「全て政治活動に係るものです」
⑥「税理士を通して訂正のうえ、既に全額納付済みです」
実態は安倍派から菅家氏自身の団体への寄付だったが、「菅家氏個人から団体への寄付」と処理していたため不正確記載だった。亀岡氏と同様に、なぜそうしていたかの説明はなかった。
裏金を指摘されている議員は「裏金ではない」、「還流ではない」と否定している。あくまで問題は「不記載」や「誤記載」にあったというスタンスだ。本来は、なぜ正確に記載しなかったのか、その理由が重要なのだが……。裏金ではなかったと納得できる根拠は見当たらない。