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【座談会】放射能を測り続ける人たち【福島第一原発事故】

【座談会】放射能を測り続ける人たち【福島第一原発事故】

小豆川勝見(東大大学院助教)
白髭幸雄(南相馬市在住)
伊藤延由(飯舘村在住)
山川剛史(東京新聞編集委員)

原発事故から11年経ったいまも、県内各地の空間線量を測り続け、データを記録している人たちがいる。彼らはどんな思いで測定し、現状をどのように捉えているのか。一般市民、専門家、記者など4人の測定者に語ってもらった。
(※ミリシーベルト毎時は㍉、マイクロシーベルト毎時はマイクロと表記。ベクレルはすべて1㌔当たりの数値)。

しょうずがわ・かつみ 1979年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科(広域科学専攻)博士課程修了。現同研究科助教。小中学生向けの勉強会を多数開講。原発周辺での測定・研究も行う。よく使う測定器はゲルマニウム半導体検出器、TCS-172の改造版など。
しらひげ・ゆきお 1950年生まれ。原発事故前から福島第一原発内で放射能汚染密度を測定する仕事に従事。原発事故後は原発作業員・除染作業員として勤務するかたわら、ボランティアでも測定。よく使う測定器はシンチレーションサーベイメータTCS-172Bなど。
 いとう・のぶよし 1943年生まれ。新潟鐵工所勤務などを経て、2010年3月から飯舘村の農業研修所「いいたてふぁーむ」管理人。現在は知人が所有する村内の一軒家を借り、測定しながら生活する。よく使う測定器はNaIシンチレーションγ線スペクトロメータSEG-63など。
やまかわ・たけし 1966年生まれ。筑波大卒。東京新聞原発取材班のデスクを務め、2012年に取材班として菊池寛賞受賞。編集委員として原発取材を続ける。共著に『レベル7』(幻冬舎)、『原発報道』(東京新聞出版)。よく使う測定器はTCS-172B、PM1703MO-ⅡBTなど。


 ――日常生活や仕事の一環で県内の測定を続ける皆さんですが、まず現在の福島県の汚染状況についてどう捉えていますか。

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 南相馬市小高区の自宅はリフォーム済みですが、天井裏などをウェス(シート)でふき取ると放射性物質が検出されます。洋服たんすの中の服、スーツのカバーなど、ほこりが付くところは汚染されていますね。

 最近は身の回りのものを測定対象に選んでいます。先日、蜘蛛の巣を測定したところ、約200ベクレル出ました。ただ、この数値が蜘蛛の巣自体のものか、巣に付いたごみや虫によるものかまではよく分かりません。

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 僕は食いしん坊なので、キノコや山菜など食べられるものを中心に測っています。こうした〝山の幸〟が味わえる点が飯舘村の大きな魅力だと思っている。原発事故からどれくらい時間が経てば食べられるようになるか、という純粋な興味から、飯舘村で生活しながら測定するようになりました。

 事故直後、飯舘村で取れたコシアブラは27万ベクレルありました。その後も毎年、山川さんとともに山菜やキノコの汚染状況を定点観測し、東京新聞紙上で結果を紹介しています。時間が経つにつれて放射線量は低下傾向にありますが、「なんでこんな高い数値が出るの?」と驚くときも多々あります。

 県の統計によると、2009年現在の県内の土壌は23〜29ベクレル。飯舘村の山の土壌は未だに3~4万ベクレルあります。それだけ山が汚染されたということです。

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 県内で取材活動を続けていますが、汚染状況という意味では、原発構内は劇的な変化がありました。2012年2月、免震需要棟の現地対策本部の玄関前の空間線量率は、手持ちの線量計で500マイクロでした。先日、同じ場所で線量計を見たら1マイクロ以下まで下がっていた。敷地内のがれきや表土の除去、モルタル舗装などで空間線量が大幅に下がったのだと思います。

 中間貯蔵施設のエリアも2016年当時、10マイクロを超えるところがあちこちにあったが、先日行ったら拍子抜けするぐらい線量が下がっていました。施設整備に当たり地盤改良し、新しい山砂を入れた効果だと思います。

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 福島県には研究活動や小学生向けの出前講座で足を運び続けているが、まだまだ汚染されているところがあるし、完全にきれいになったところもある。

 一番の問題はそうした実態がよく知られていないことです。特定復興再生拠点区域やその周辺のエリアについても、現状が広く知られているとは言い難い。

 混乱させられるのは、国が何を目標に定めているのか、見えづらいことです。例えば居住制限区域の大熊町大川原地区、避難指示解除準備区域の大熊町中屋敷地区が解除された際は、0・23マイクロ(年間1㍉シーベルト)を基準に除染が進められていた。ところが、6月30日に解除された特定復興再生拠点区域は3・8マイクロ(年間20㍉シーベルト)を基準に除染が行われたのです。なぜ基準が変わってしまったのか。

 おそらく特定復興再生拠点区域の設定を議論する中で、「(空間線量が高い帰還困難区域でも)これなら解除できそうだ」と新たな基準が出てきたのだと思います。実際、「この基準だから解除できた」というような、汚染が厳しいエリアも多いです。

 何を目指して除染しているのか。住民が帰って生活をするには問題ない線量なのか。明確に数字を示し、長期的な見通しが付けられない状況が僕は一番まずいことだと思います。(委員として名を連ねている)大熊町除染検証委員会でも繰り返し主張しましたが、町内にはまだまだ除染をしなければならないところが残されている。にもかかわらず、当初の基準を変え、なし崩し的に避難指示を解除したのは、後世に禍根を残すのではないかと心配しています。

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手抜き除染の実態

 ――除染に関しては、費用対効果の低さや手抜き除染の横行も問題視されました。皆さんは除染についてどう見ていましたか。

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 除染と言っても宅地と農地と道路、その境界から20㍍だけが対象範囲で、山は対象外。しかも、私が確認した限り、飯舘村の除染は手抜きのオンパレードでした。

 除染前の空間線量を測定したら2・20マイクロで、除染終了後に同じ場所で測ったら1・72マイクロ。思ったほど下がっていなかった。家の前の砂利が手付かずだったことが分かり、環境省に訴えて再除染させたら、0・80マイクロまで低減しました。当時飯舘村は全村避難中。私はたまたま気付いたが、除染の経緯も除染後の結果も誰も確認していないからやりたい放題でした。

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 自宅の庭の除染で、表土を5㌢はぎとり、山砂を入れてもらいました。その山砂の放射線量が気になり5カ所で採取したところ、一番高いところで約1000ベクレル、平均約700ベクレルあった。自宅の向かいの公園の土壌は約100ベクレル。おそらく山砂を取るとき、汚染された表土などと混ざって、放射線量が高くなったのだと思います。環境省と交渉してもらちがあかず、入れてもらった山砂を自前で除去して、引き取りだけはやってもらいました。 

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 ずさん除染に遭遇しても、環境省にお願いすれば、何らかの応対はしてくれるはずです。ただ、宅地の所有者などが自らアクションを起こすのが大前提です。

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 結局、環境省が現場に足を運ばず、〝竣工検査〟もしていないのが問題だと思います。業者に何億円も払う以上、除染によって線量がどれだけ下がったか検証してしかるべきなのに、一切やっていないから呆れる。

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 福島市の除染事業で下請企業の一部が森林除染を竹林除染と偽り、本来の単価の10倍の除染費用を不正に受け取っていたことがありました。環境省はなぜ気付かなかったのか確認したら、現場担当者はわずか2人だったことが判明しました。

 そもそも環境省は、兆単位の予算規模の公共事業に対応できる役所ではないということでしょうね。

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 福島市など市町村主体の除染の方がかえってしっかり進めているように見えました。

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 除染前の農地の土壌を測ったら2万~3万ベクレルで、除染後に測り直したら5000ベクレルぐらいでした。耕作基準である5000ベクレルに合わせて放射線量を落としたのだと思います。

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 表土除去により最低でも85%下がると言われている。表土が3万ベクレル、2層目が5000ベクレルはかなり高くないですか。

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 農地の端の土壌を採取したので、未除染の土手の分が混ざってしまったのかもしれません。

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 ――除染の効果は限定的でずさんな実態もあるのに、「除染が完了したので安心だ」とばかり、国や県、市町村が帰還政策を進める姿には違和感を抱いてしまいます。

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 避難指示が解除になった区域への帰還が伸び悩んでいるのは、避難先での生活が確立しているのに加えて、空間線量が高いことへの懸念も大きいのではないでしょうか。

 前述の通り、大熊町の特定復興再生拠点区域は、3・8マイクロが解除基準になっています。町内の各地点の空間線量一覧を見ると、3・78マイクロ、3・6マイクロなど、解除基準を何とか下回ったようなところがずらりと並んでいます。

 帰る・帰らないは、個人の自由ですが、「帰れるようになりました」とアピールして、帰還を呼び掛けるのであれば、せめて元の環境(空間線量)に近づけるのが筋でしょう。

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放置されるホットスポット

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 3・8マイクロ以下になったから、それ以上空間線量を下げる努力をしなかったのでしょうか。

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 あえて環境省の肩を持てば、頑張って除染してギリギリ解除基準を下回ったのかもしれません。だとしても、3・79マイクロが安全で、3・81が危険ということにはならないし、根本的に空間線量を下げる努力をしなければならない。

 放射性物質が集まりやすい場所だと簡単に10~20マイクロになります。JR大野駅前の農業用水路の床(底)を測ったら30マイクロを超えました。避難指示は解除されているので、その農業用水を使って営農してもルール上は問題ないわけです。そういう状態を看過しているのが私にはとても信じられません。

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 そうした高線量の場所はフォローアップ除染(追加除染)の対象にはならないのでしょうか。

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 個人の宅地のケースなどでない限り、フォローアップ除染は難しいと思います。問題なのが、表土除去・覆土で何とか3・8マイクロを下回ったところです。土の中にある以上、放射性物質が雨などで移動することが期待できないので、セシウム137が半減期(30・2年)を迎えて空間線量が少しずつ下がるのを待つしかない。逆に言えば、周辺住民や通行人に長期間にわたり被曝を強いることになります。だから、私は大熊町除染検証委員会で「覆土するのは最後の手段だ」と訴えていました。

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 そもそも一般公衆の線量限度は年間1㍉シーベルトと定められているのに、福島だけダブルスタンダードになっているのがおかしいのです。

 8月30日、避難指示が解除された双葉町の特定復興再生拠点区域に足を運び、10カ所の土壌をサンプリングして測定しました。指定廃棄物の基準である8000ベクレルを上回っていたのはそのうち5カ所です。

 今春オープンした飯館村のオートキャンプ場の空間線量を測定したら0・56マイクロでした。ちょっと山に入れば1マイクロを超える。そんな場所に家族連れがキャンプを楽しみに来るわけですよ。

 村議会6月定例会で杉岡誠村長は「365日24時間いる想定ではない。空間線量が高いところにある程度近づく程度であれば、年間の被曝線量の中では看過される部分がある」と答弁していました。

 管理棟の前には敷地内4カ所で測定した空間線量率が掲示されています。モニタリングポストもありますが、周辺より数値は低めです。

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 ――放射線管理区域の被曝線量の基準は3カ月1・3㍉シーベルト(年間5・2㍉シーベルト)と考えると、年間被曝量20㍉シーベルトというルールに違和感を抱きます。

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 ただ、放射線管理区域の被曝と日常での被曝は単純に比較できません。仮に放射線管理区域で何かをこぼして汚染が発生しても、管理されているのですぐに対応できる。一方、日常では何がどうなって汚染が発生するか分からないし、雨などの影響で放射性物質が移動するリスクもあります。それを確認するためには何度も測定するしかありません。

 最新技術を活用してより効率がいい方法を見つけていくのがわれわれ専門家の仕事です。ただ、「繰り返し測る」という基本は変わりません。

 関心が薄れ、誰も測定していないときに深刻な汚染が確認されれば、大きな混乱につながりかねない。

 コロナ禍以降、至るところで体温を測定しているように、放射線測定に関しても習慣付けることができれば自ずと知見が溜まっていく。国レベルで動機づけを行い、徹底していくべきだと思います。

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 繰り返し測るということでは、私が参加している放射能測定センター・南相馬という団体でも、原発被災地の空間線量を継続して測定していきます。測定エリアを南相馬市小高区、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町に限定し、道路上と道路脇(草地など)において、地上1㌢、1㍍の高さで測っており地図にまとめる予定です。

 浪江町津島地区は道路上が1㍍1・06マイクロ、道路脇が2・30マイクロでした。道路脇は高いところが多い。山から放射性物質が流れてくることも影響していると思います。

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 大きな山がある場所では雨が降るたびに放射性物質に顕著な移動が見られます。山に放射性物質が100あるとすると、1年に1ずつ流れてくるイメージです。チェルノブイリ(チョルノービリ)原発周辺は比較的なだらかな地形なので、放射性物質がそこまで移動することはありませんでした。

 雨が降って山から流れた放射性物質は、側溝を通り、小川を抜けて排水ますに溜まり、ため池に流れて、川へと向かう。どんなスピードで流れ、どこに蓄積するかは環境によって異なります。繰り返しになりますが、だから、継続して測り続けなければならないのです。そうすることで、「この時に数値が大きく変わったのは台風が来て、山から放射性物質が流れてきたからだ」などと読み取れるようになります。

 この面倒臭さこそ、原子力災害の最も厄介な点なのですが、広く伝わっていないと感じます。放射線の話が何十年もタブー視されてきたためか、先生も生徒もよく分かっていないように見える。もう少しうまく知見を溜めていけばいい解決方法が見つかるのに、ともどかしい思いを抱くときもあります。

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座談会の様子

違和感がある「風評被害」

 ――汚染状況に対する懸念や帰還政策への是非を唱える声に対し、「風評被害につながる」と批判する傾向もみられます。

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 原発事故直後の5月ごろ、仕事の一環で、いわき市の駅前通りにあるビルの周りを測定していた。そうしたら、突然ビルのオーナーに「風評被害で訴えるぞ」と言われて驚いた記憶があります。風評被害対策であれば各種事業に予算(補助金)が付きやすいなど、いろいろな意味で「使い勝手」がいい面もあるのだと思います。

 国際放射線防護委員会(ICRP)は2007年勧告において、原発事故に伴う大規模放射能汚染が深刻な「緊急被ばく状況」から、汚染地域で生活せざるを得なくなった移行段階を「現存被ばく状況」と呼んでいます。その場合、年間被曝線量1~20㍉シーベルトを目安に指標値を設定し、一般公衆の線量限度である年間1㍉シーベルトに近づける努力をするように示されています。

 ところが、国は指標値を最大値の20㍉シーベルトに設定し、除染以外の事業を徹底して行っていません。それなのに、汚染を深刻視する声を「風評被害」で片付けてしまうのには違和感があります。

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 測定データがあんまり出てこないことが逆に風評被害を広める面もあります。例えば、水産庁のホームページを見れば、流通している福島県産の魚が危なくないことは明らか。突発的に基準値超の魚が出ることもあるが、基本的にスクリーニングが機能しており、普通の思考ができていれば風評なんか起きません。ただ、都内のスーパーの店頭に福島県産の物がキャンペーンで並んだ時、それを喜んで買う人と忌避する人は二極化していると感じます。おそらくこれは福島県民の中にもみられる傾向ではないでしょうか。

 日常的に測定して記事にしている立場としては、もうちょっと、根拠を持って安全か安全でないか、判断してほしいとも思います。

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 双葉町の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された日、双葉町長が囲み取材を受けていたが、地元紙やテレビなどの大手メディアは放射能汚染について全く質問しなかった。内堀雅雄知事も盛んに「風評被害の克服」と話しているが、メディアがその言葉を無批判に報じることも多い。原子力災害の厄介さが伝わらない背景にはメディアの責任もあると思います。

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 広く理解してもらえるような努力は行政にも我々メディアにも求められると思います。放射線のデータを積極的に報じないスタンスのメディアは理解できませんね。

 報道や企業のプレスリリースでは一般食品の基準値である100ベクレル以下かどうかしか出てこない。大半がND(検出限界値未満)なのに、数字がないから「90ある?」「50ある?」となってしまう。積極的に実数を示すことで、福島県産だけ忌避されることは無くなっていくのではないかと考えています。

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[ふきだし icon=”https://www.seikeitohoku.com/wp-content/uploads/2023/01/bb63fb41054ce87a7d579624719a2fdf.jpg” align=”left” name=”伊藤” col_border=”#000″ col=”#fff” type=”speaking” border=”on” icon_shape=”circle”]

 9月下旬、マスコミ倫理懇談会全国協議会の全国大会でお話しする機会がありました。そこで、メディア関係者から「原発事故の光と影を報道するのは難しい。影を報道すれば被害者が出る」という話を聞いて、疑問を抱きました。

 原発事故の光も影もありのまま報じて、原発被災地の課題を浮かび上がらせることがジャーナリズムの使命でしょう。

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 大学で放射線についての授業を担当しているのですが、1年の最後に必ず聞くのが「スーパーの棚に福島県産米と他県産米が同じ価格帯で並んでいたとき、福島県産米を買いますか?」という質問。
 昨年は8割の学生が「買う」と答えました。その理由が「この程度の放射線量なら普段の生活には影響しない」というものです。逆に買わないと答えた学生に理由を尋ねると「他県産米を買えばもっと被曝線量を低く抑えられる」と答えました。要するに、放射線の知識がある学生でも判断は分かれるということです。
 ちなみに、ヨーロッパの研究所の学生にも同じ質問をしたところ、ドイツでは全員「福島県産米を買わない」、フランスではほぼ全員が「福島県産米を買う」と答えました。
 

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 原発ゼロを目指してきたドイツと、原発増設に舵を切ったフランスが真逆の回答なのは象徴的です。

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 もっと言えば、教え方や伝え方で受ける印象は一変します。だからこそ、情報を発信する人が気を付けるべきことは多いと思います。

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 ――測定者の立場から見て汚染水問題についてはどのように受け止めていますか。

[ふきだし icon=”https://www.seikeitohoku.com/wp-content/uploads/2023/01/da6e904d8283193b57d744e2e68efb3a.jpg” align=”right” name=”小豆川” col_border=”#000″ col=”#fff” type=”speaking” border=”on” icon_shape=”circle”]

 議論の前提となる情報が圧倒的に不足していると感じます。新型コロナウイルスはニュースや情報番組などで最新情報が流れますが、放射線に関しては情報自体が少ない。しかも、発信者によっていろいろな意図があり、受け止め方が難しい。第三者として、自然に話し合える環境を作っていきたいと考えています。

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いま、測定者ができること

 ――2020年には、小豆川さんらの研究チームが、福島第一原発近くの地下水から、敷地内で生じたとみられる微量の放射性セシウムを継続的に検出しました。敷地内から敷地外に汚染された地下水が流れていることが確認された格好です。

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 東電が定めた基準からすればはるかに低い値ですが、検出されたのは事実。問題なのは、東電のコントロール下にない流れだということです。法律違反には当たらない汚染だが、原発敷地境界線の地下水も常時確認したらいかがですか、と東電には提案しています。10㍍先の敷地内からは基準値超の放射性物質が確認されており、それが壁の外に流れてきても不思議ではありません。希釈して海洋放出する一方で、内陸部に漏れていたら何の意味もありません。

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 ――汚染水問題で言えば、10月3日付の東京新聞で、福島第一原発の視察ツアーで、東電が処理水の安全性を強調するパフォーマンスを繰り返していたと報じていました。東電担当者はトリチウムが検知できず、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使っていました。

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 この話を記事にしたのは、こういう行為が逆に福島への風評を加速化させると感じたからです。

 コロナは自分に降りかかってくるかもしれない問題だけど、福島第一原発の話は多くの東京の人にとっては直接関係する問題ではない。そうした中で、その人がどれだけ自分事と捉えられる情報を出せるかがメディアに勤める自分の使命ではないかと今日話していて感じました。

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 空間線量が高いホットスポットを解消し、無用な被曝を回避するためにはどうすればいいのか。そうした課題に対し、測定をやってきた知見から「こちらを優先して片付けた方が効率いいですよ」などと提言していくのがわれわれ測定者の一番の仕事だと考えています。

 ここにいる4人は測定活動を通して、現状はもちろん、これまでのコンテキスト(文脈)をすべて理解しています。本来こうした知識はさまざまな人達と共有され、議論に生かされるべきだが、「もう原発事故や放射性物質の話はしたくない・関心がない」という人たちが増えており、なかなか議論につながっていかない。

 だから、私は放射線教育に取り組んでいるのです。子どもたちはもちろん、保護者や教員の意識づけにつなげていくことで、原発を取り巻く問題の議論が進むことを期待しています。

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