【双葉町】伊澤史朗町長インタビュー(2025年)

【双葉町】伊澤史朗町長インタビュー(2025年)

経歴

いざわ・しろう 1958年3月生まれ。双葉高、麻布獣医科大(現麻布大)獣医学部卒。獣医師を経て2003年から双葉町議を4期務め、2013年の町長選で初当選。今年1月の町長選で無投票再選し現在4期目。

 ――1月に行われた町長選では無投票で4選を果たしました。率直な感想をお聞きします。 

 「2013年に初当選した当初は中間貯蔵施設の受け入れ判断や、警戒区域の帰還困難区域等への見直しについて国と交渉するのが重要な役割でした。本来の町長としての業務よりも国レベルの課題の対応に常に追われてきました。3期目、4期目と迷いはありました。帰還困難区域の避難指示解除に向けた取り組みや特定帰還居住区域の復興に関して国との交渉があり、判断が難しい問題も多いです。4期目も難しいかじ取りが続くと自覚しています」

 ――2028年度に町内に新たな義務教育学校を整備する方針を決定しました。 

 「2014年にいわき市の仮設校舎で学校を再開しました。今回、旧双葉中学校跡地にこども園と小中学校を一貫化させた義務教育学校を設置する方針が決まりました。単純に校舎を造っただけでは帰還する住民や移住者に魅力を感じてもらうのは厳しいと思います。英語をキーワードに様々な異文化を学ぶ教育に取り組む方針で教育委員会が検討を進めており、子どもたちには英語を中心にした教育を進めていきたいと思っています」

 ――帰還が進む中で高齢化が顕在化しつつあります。生活支援、医療・介護体制の整備について聞かせてください。 

 「県内の大半の自治体が同じ問題を抱えています。医療や介護に関しては、2022年、特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された後に帰還した住民に対して、優先順位を設けながらハード面の整備を進めてきました。特に医療面では医師や医療従事者の人材定着に苦労しています。2023年に診療所を開設しました。JA福島厚生連や震災前に町内で開業されていた医師に協力を仰いで週4日の診療体制を維持しています。今後は県立大野病院の後継病院が再開する予定ですので、協力を仰ぎ、医療体制を整えていきます。

 高齢者の生活支援や介護に関しては社会福祉協議会が県内全域に避難した方にケアを行っていますが、人材不足が問題になっています。すぐ改善するような特効薬はありません。今後も高齢者の皆さんが安心して生活できるようにあらゆる手法で取り組んでいきます」 

 ――第2期復興・創生期間が最終年度となりました。 

 「第2期復興・創生期間が最終年度を迎えましたが、双葉町の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されたのは2022年8月30日でした。避難指示解除から2年10カ月しか経過していません。まだ85%の帰還困難区域を抱え、その全域の避難指示を解除するために復興支援の取り組みが必要です。解除されたとしても、先行して避難指示を解除した地域とインフラ整備の差もあります。震災から1年後に避難指示解除した自治体ではハード面の整備はほとんど終了し、ソフト面の事業が行われていますが、当町はようやくハード面の整備に取り掛かったばかりで、思うような復興の進展にはなっていないと感じています。 

 いま国に要望しているのは福島再生加速化交付金制度の拡充です。先行的に避難指示を解除した地域には、市町村ごとにインフラ整備などに対して十分な予算が交付されました。ところが避難指示解除が遅かった地域に必要な再生加速化交付金が交付されているかというとそうではありません。国に認可してもらうのには事務手続きが難しくハードルは高いです。先行して避難指示を解除した地域以上の予算を要求しているわけではありません。先行して避難指示を解除した地域と同じ予算をお願いしています。同じ水準になった後は我々の努力で、町を振興させていきます」 

 ――県外最終処分が定められている除染土について、町としての考えを積極的に伝えています。

 「私の発言により報道などでずいぶんお騒がせしましたが、次のことを伝えたかったのです。双葉・大熊両町にある中間貯蔵施設の土壌は『1400万立方㍍』を超えている状況にあります。県内にあった約1350カ所の仮置き場にあった土壌のほとんどが運びこまれましたが、その中で線量の低い、8000ベクレル/㌔以下のものに関しては問題がないと科学的根拠が示されています。再生利用する取り組みが行われていますが、残念ながら県内の仮置き場のあった自治体や県民の皆さんには理解が進んでいない状況にあると感じています。 

 私は中間貯蔵施設の土壌の総量を減らすことが次の最終処分地の選定に向けてハードルを下げることになると思っています。今後、最終処分地選定は難しい課題だと思います。この問題のハードルを下げるためにも『1400万立方㍍』の土壌を減らすことが一つの条件になってくると考えています。 

 福島第一・第二原子力発電所でつくったエネルギーの100%が首都圏で消費され、事故で汚染された土壌が生じたわけですが、残念ながら福島県でつくった電気を消費してきた首都圏の皆さんに理解が進んだ状況とは言い難い。理解醸成が進まない限りは今後も議論が続く難しい課題だと感じています」 

 ――今年度の重点事業について。 
 「双葉駅西側の災害公営住宅と再生賃貸住宅整備が終わり、86戸のほぼ100%が入居済みです。現在は駅東側でスーパーなどの商業施設整備に取り組んでおり、住民の皆さんの生活環境・利便性はかなり進展すると思います。体育館跡地に飲食店などの商業施設3店舗がオープンすれば、帰還した住民の皆さんが過ごせる場所も増えると思います。 
 大和ハウスグループの大和ライフネクストが原子力災害伝承館の北隣にホテルを建設しています。インバウンドを想定してグレードの高いホテルができるそうです。コンベンション施設としても廃炉や被災地復興に関する会議など双葉郡内で行うべき会議が呼び込めると期待しています」
 ――今後の抱負。 
 「避難指示が解除されて2年10カ月が経過しました。町内の居住人口は約180人です。そのうち約80人が帰還住民で、残り約100人が移住者です。今後も帰還者・移住者増加のために取り組んでいきます。震災前に町内に住民票があった方が帰還して家を建てる場合は、町が独自に500万円、県から300万円、計800万円の建設補助が受けられます。それだけでは単身者向けの住宅需要に応えきれてはいないと感じています。民間でのアパート整備が必要と考えており、町では建設を補助する制度を構想しています」

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