たきた・やすお 1944年生まれ。郡山市出身。安積高、学習院大法学部卒。東北アルフレッサ㈱最高顧問。郡山青年会議所理事長、郡山商工会議所青年部会長など歴任。現在、会頭3期目。
ヒトやモノの動きはコロナ禍前に戻ったが、人口減少に伴う人手不足や後継者問題、政府による賃上げ要求など、経済における課題は山積している。「経済県都」と言われる郡山の現状はどうなっているのか。石破内閣が発足し解散総選挙に突入した最中、郡山商工会議所の滝田康雄会頭に管内の様子や政府に求めることなどを聞いた。
飽くなきチャレンジ精神で郡山の発展につなげていく。
――全国的に人手不足や後継者問題が深刻化していますが、郡山商工会議所管内はどのような状況にありますか。
「当会議所で行った経営実態アンケートの結果では、規模や業種にかかわらず約半数の会員事業所が『不足気味』と回答していま
す。特に建設業やサービス業は深刻です。人口減少が進めば人手不足になるのは当然で、郡山の労働人口も年々減っているのが現状です。
地元企業は東京の企業に負けない技術や魅力を持っているところが少なくないのに、地元の若者には伝わ
っていないと感じます。若者が東京に流出してしまうのはやむを得ない面もありますが、若い労働力が少しでも地元に残るように、市内の高校や専門学校などの就職担当者と連携し、企業説明会や企業訪問の機会を設けるなど地元企業のPRに注力しています。
また、毎年秋に開催している産業博も、商工業やサービス業などで出展される企業が多く、企業内容の周知により採用活動の一助になっています。こうした取り組みにより、引き続き人手不足に関する地域企業の支援に努めていきます。
後継者問題については、今年初めの調査において約4割の会員事業所が『後継者が決まっていない』と回答しています。引き続き情報収集に努め、会員事業所の支援につなげていきます」
――政府は民間企業に対し賃上げを要求していますが、大企業は対応できても、中小零細企業の中には賃上げしたくてもできないところもあると思います。管内の状況はいかがですか。
「今年の最低賃金引き上げを機に行われた調査の結果では、県内企業の約4割が『賃上げする』と回答している一方で『賃上げへの息切れが徐々に顕在化している』との報道もあります。管内企業は、資材やエネルギー価格の高騰など厳しい経営環境が続く中で、人材定着においても難しい舵取りを迫られているようです。
賃金の引き上げは物価上昇や生活コスト増加への対応でもあります。また、人材確保の面からも取り組むべき課題です。一方、賃上げのためには企業の業績を上げなければなりませんが、少なくとも『会社の発展が従業員の幸せにつながる』との姿勢で、金額の多寡はあるにしても賃上げを進めていただきたいと思います。
卵が先か鶏が先かではありませんが、まずは賃上げし、賃上げが消費に回る、消費に回れば企業は潤う、企業が潤えばさらに賃上げが期待できる、という好循環が理想です。
ただ、先日公表された最低賃金を見ると、東北地方は全国の中でも低く、それが地域の現状を表しているととらえれば、さらなる収益の改善が必要です。今後とも、会員事業所の課題解決に向けて支援していく考えです」
――物価高の中、会員事業所はきちんと価格転嫁できているのでしょうか。
「経営実態アンケートの結果を見ると、約半数の会員事業所で価格転嫁が行われているようです。卸やメ
ーカーから値上げ要求される小売業のほとんどは価格転嫁ができています。しかし、仕入れ値が上がっているわけですから、満足な利益を確保できているとは言い難い状況です。現状は、精いっぱいのところが多いと思います」
――Eコマースの進展により商取引の形態が変化しています。郡山商工会議所でもSNSを活用した販売促進・売り上げ向上セミナーを開催しましたが、参加者の反応はどうだったのでしょうか。
「地元企業は非常に高い技術を持っており、きちんとPRさえできれば販路拡大が期待できます。セミナー開催は、世の中に発信する技術や手法を知ってほしいと考えたからです。参加者には大変好評で、一部の企業では、セミナー会場に自社製品を持参し、その場で写真を撮って早速、ホームページに載せているところもありました。
ただ、そういう企業がある半面、セミナーは良かったと言いながら、そこで学んだことを実践に移せていない企業があるのも事実です。
せっかく高い技術や魅力的な商品をお持ちなのに、PRに消極的なのは残念です。SNSの活用まで手が回らない経営者もいるかもしれませんので、会議所としては引き続き、SNSに関するセミナーを開催していきたいと思います」
「若者の夢を応援したい」
――滝田会頭が掲げている「若い世代のまちづくりへの参加」と「グランドデザインプロジェクト」について、その進ちょくと手ごたえについてお聞かせください。
「同プロジェクトは若者の視点から郡山の将来像を考えるため2017年にスタートしました。提案された内容は、公共施設の整備や中高一貫校の設立、郡山駅舎の改築、サードプレイスやコワーキングスペースの開設など多種多様でした。
私は『将来ある若者の夢を応援したい』という思いから2020年に具現化に取り組み、道路や公園の整備、中高一貫校の設置については管理者である市、県への要望を行いました。また、サードプレイスなどについては実現に向け支援してきました。その他についても管理者と協議し、その必要性について合意が得られています。引き続き、提案された内容の実現に向けて尽力していく考えです」
――石破内閣が発足しましたが、政府に求めることは。(※このインタビューは解散総選挙中の10月15日に行った)
「世界各地で発生した戦争などの影響で、原油高騰やサプライチェーンの分断が起こりました。さらには円安進行、中国との貿易減少など、激変する経済環境の中に地方の中小零細企業は置かれています。
石破茂首相は『地方こそ成長の主役』とおっしゃっていますので、地方が今、どういう状況にあるのかをしっかりと認識され、真に必要な支援策を講じていただきたいと思います」
――最後に、抱負をお聞かせください。
「郡山にはもともと『仙台に追いつき追い越せ』という意識があります。その意識を忘れず、飽くなきチャレンジ精神で郡山の発展につなげていく努力を惜しまぬよう呼びかけたいですね」