持続可能な企業に不可欠な「健康経営」

持続可能な企業に不可欠な「健康経営」

 従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することで経営面の成果にもつないでいく「健康経営」という経営手法が広まりつつある。「健康経営」とは具体的にどのような取り組みで、どうやって始めているのか。県内の認定事業所に取り組み状況を聞いてみた。

福島県内の優秀事例を紹介

<「長期」認証状>
  <「長期」認証状>
<「長期」ステッカー>
<「長期」ステッカー>

 福島県の健康・生活習慣に関する指標はいずれも厳しい状況にある。特定健診でメタボリック症候群に該当した県民の割合(メタボ率)は19・5%で2022年全国ワースト4位。1日当たりの食塩摂取量(男性)は11・9㌘で全国ワースト1位。がんや脳血管疾患、心疾患など生活習慣病の死亡率も全国ワーストクラスとなっている。

 改善するためには一人ひとりが生活習慣の見直しや健康管理の徹底をする必要があるが、近年、少し違った動きもみられている。

 生産年齢人口の減少が全国的に顕著になる中、企業が主導的に従業員の健康改善に取り組み、長く働ける環境を築いていこうとするケースが増えているのだ。従業員にプラスになるのはもちろん、働き盛りの従業員を襲う重大疾病や病気に伴う生産活動の低下・事故などを予防することで、事業所にとってのリスクを回避できるというメリットもある。

 経済産業省が「健康経営」を推進しており、県も独自の認定制度「ふくしま健康経営優良事業所」を設けて普及を図っている。同事業所に認定されれば社会的評価と企業イメージ向上につながるほか、工事等入札参加資格審査で10点加算、総合評価方式(標準型、簡易型)で0・5点加算されるなどのメリットもある。

 県の認定制度では、2024年度、183事業所が新たに認定され、3期(1期2年)連続で認定を受けた77事業所が「ふくしま健康経営長期優良事業所」として認定された。

 認定された事業所のうち、特に優れた取り組みを実施している事業所として、知事賞=藤建技術設計センター(棚倉町、青砥利一代表取締役社長)、福島民報社賞=富士電業社(棚倉町、渡辺智夫社長)、福島民友新聞社賞=松本建設工業(松本新太郎社長)の3社が選ばれ、昨年12月25日、福島市のウエディングエルティで表彰が行われた。

表彰3社の取り組み

藤建技術設計センター

社員が体を動かすイベントを企画(藤建技術設計センター提供)
社員が体を動かすイベントを企画(藤建技術設計センター提供)

 藤建技術設計センターでは、健康診断後、二次検査になる社員が多かったことから、健康について学び自覚を促す意味合いで、健康経営に取り組むようになったという。

 「測量・建設コンサルタントを主な業務にしているので、どの仕事にも必ず工期が決まっている。ISO規格も取得しているので、社員が病気で抜けて工期が遅延したり体調悪化に伴い生産力が低下する事態は避けなければならないと考えました」(中川西富吉代表取締役専務)

 同社では社員が能動的に健康維持に取り組むようにするため、社員による健康推進委員会を2020年に設立。委員を務める社員がウオーキングやボウリング大会など体を動かす全社員参加イベントを定期的に企画・実施するようにした。

 食生活改善のためカゴメの社員による勉強会を開催しているほか、体力チェックなども実施。さらに内臓脂肪を減少させるには有酸素運動が必要と聞き、歩数計測が行える「ふくしま県民アプリ」を活用。歩数で順位付けして上位者には賞金(インセンティブ)を与えるなどの取り組みを行っている。このほか、人間ドッグ費用支援なども実施している。

 「社員の間で健康に関しての話題が日常的に出るようになり、コミュニケーションも深まっているように感じます。社員の食生活に関する意識も変わりつつあり、カロリーを見て食品を選ぶようになったり、野菜から食べるようになっています」(同)

 同社では経営理念の一つとして「会社と地域の持続的な繁栄と、社員とその家族の幸福を実現する企業を目指します」と掲げている。社員が長くいきいきと働き続けられる環境づくりに今後も努めていく。

富士電業社

総菜食品が入った冷蔵庫を設置(富士電業者提供)
総菜食品が入った冷蔵庫を設置(富士電業者提供)

 富士電業社は社員の平均年齢は38歳と若いが、近年体重増加が目立つようになり、健診の結果をもとに会社もサポートして改善に努め始めたのがきっかけだったとか。

 「朝は食べないという社員が多く、昼はコンビニでカップ麺や弁当を食べている様子がうかがえた。そこで冷蔵庫にレトルト総菜食品を常備するようにして、社員が昼食用に購入できるようにしました。各メニュー100円に設定して、バランスよく食べられるようにしました」(渡辺智夫代表取締役社長)

 社員一人ひとりに健康に関する目標を設定させたところ、健康に対する意識が高まっている様子が見られ、健康診断の結果を互いに見せ合って分析したり目標を意識して行動するようになっているという。

松本建設工業

社員が健康状態の把握に努めている(松本建設工業提供)
社員が健康状態の把握に努めている(松本建設工業提供)

 松本建設工業では、30年以上勤務してきた従業員が6年前に肺がんを患い亡くなったことが大きなきっかけとなり、禁煙を推奨する取り組みに力を注いでいる。会社の敷地内を全面的に禁煙とし、昨年春にはすべての工事車両から灰皿を取り外した。この間、社内において健康意識が向上した結果、社員の喫煙率は年々低下しているという。

 毎年春には全社員を対象に健康診断を実施するほか、全社員が集まる給料日に血圧測定、体重測定を行うなどひと月ごとに体調管理に鋭意取り組んでいる。また、歩数計の配布や健康関連情報を定期的に提供しながら日常の健康管理推進に努めている。今後については、体脂肪率の測定なども検討するという。同社の松本新太郎社長は「建設業界は大変厳しい状況の中、一緒に働く従業員を大切にするためにも、今後も健康意識の共有化・浸透化に注力していきたい。今後もさまざまな工夫を図りながら従業員の健康促進に努めていきたい」と力強く語る。

 県内でこうした取り組みが広まることで、健康経営に新たに取り組む企業が増えていき、地域社会全体で健康に関心を持つようになることが期待できよう。

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