【猪苗代町】「世界のガラス館」に身売り説

【猪苗代町】「世界のガラス館」に身売り説

 猪苗代町の観光施設「世界のガラス館」(以下、ガラス館と略)に身売りのウワサが持ち上がっている。施設の引き受け先に挙がっているのは会津地方の複数の観光施設を傘下に置く「㈱DMC aizu」(ディーエムシー・アイヅ。以下、DMC社と略)だ。引き受け先が本当にDMC社だったとしても特段の驚きはないが、ガラス館が今、どういう経営状態にあるのかは気になる。

引き受け先は遠藤昭二氏率いるDMC aizu!?

 建物の中に足を踏み入れると、静けさの中に広がるきらびやかな光景に思わず目を奪われる。直輸入品やオリジナル商品など、世界各国の手作りガラス製品を扱うガラス館は1995年にオープンし、今年はちょうど30年の節目に当たる。

 2階建ての館内に整然と並ぶ商品の数は2万5000点以上。1階では低価格のグラスやアクセサリーなどが販売され、2階は高価な商品が揃う美術館的な位置付けになっている。グラスの表面にオリジナルの模様を彫刻する制作体験もできる。

 ガラス館が営業しているのは猪苗代町の国道49号沿い。一帯には野口英世記念館や河京ラーメン館、会津民俗館などが集積し、ガラス館はそのエリアを形成する目玉施設の一つになっている。

 ガラス館の敷地内にはほかにも観光施設がある。地ビールの製造販売とレストランを営業する「猪苗代地ビール館」と、県内土産品や海外菓子の仕入れ販売を行う「猪苗代おかし館」だ。

 これらの施設を運営するのが親正産業㈱(猪苗代町三ツ和)という会社だ。法人登記簿によると会社設立は1989年9月。資本金1000万円。事業目的は①ガラス、陶器、アクセサリー、絵画、室内装飾品、家具、貴金属、その他の外国製品の輸入およびこれら製品の国内での製造販売、②菓子類の製造販売、③酒類の製造販売など。役員は取締役・代表取締役として成井理人氏のみが登記されている。

 親正産業がガラス館を営業していたのは猪苗代町だけではない。かつては香川県宇多津町と石川県加賀市でもガラス館、地ビール館、おかし館を営業していたが、香川県の施設は2014年11月、石川県の施設は同12月に閉鎖。親正産業にとって、猪苗代店は残された唯一の施設ということになる。

 そんな猪苗代店に今、持ち上がっているのが身売りのウワサだ。地元の事情通が言う。

 「親正産業は現在、経営改善計画に沿って経営の立て直しを進めているが、それと併せてガラス館の身売りも模索しているらしい」

 施設の引き受け先に挙がるのがDMC社(猪苗代町字葉山)だ。

 「会津の観光施設が経営に行き詰まった時、真っ先に駆け込む先が遠藤さんなので、ガラス館がDMC社に身売りしたとしても驚きはありません」(同)

 事情通が言う「遠藤さん」とはDMC社の遠藤昭二社長のことだ。

 遠藤氏は猪苗代町出身で、会津工業高校卒業後、都内でビジネスに成功。㈱ISホールディングスを中核会社に証券取引、外国為替証拠金取引、不動産、M&A仲介、再生可能エネルギー、宿泊・レジャー・飲食など16社で構成される「ISHグループ」を率いる。その中の1社がDMC社だ。

 DMC社は猪苗代スキー場、裏磐梯スキー場、北日光・高畑スキー場、道の駅猪苗代いちご園、道の駅山口温泉きらら289、ヴィライナワシロ、猪苗代観光ホテル、会津磐梯カントリークラブ、小豆温泉窓明の湯、花木の宿など会津地方の様々な観光施設を運営。猪苗代スキー場近くでは現在、眺望施設やゴンドラリフトなどを備えた新施設「会津テラス」を建設中だ。

 最近は会津地方を飛び出し、中通りにも進出。今年3月には福島市・高湯温泉の旅館玉子湯と郡山市・磐梯熱海温泉の四季彩一力を子会社化した。4月からはISホールディングスが事業主となった郡山市の「ふくしま逢瀬ワイナリー」でワインの製造・販売も行っている。

 こうした拡大経営を念頭に、前出の事情通は「困った時は遠藤さん」と述べたわけ。ちなみに本誌は、昨冬から営業停止している猪苗代町の箕輪スキー場にDMC社が関心を寄せていることも報じている。

窮境の要因と対策

苦戦する「世界のガラス館」
苦戦する「世界のガラス館」

 翻ってガラス館は今、どういう経営状態にあるのか。

 民間信用調査機関によると前出・親正産業の直近6年間の決算は別掲の通り。売上高は新型コロナが発生した2020年に大きく落ち込んだ後、徐々に回復しているが、当期純利益は2022年を除いて赤字で、苦戦している様子がうかがえる。


 新型コロナによる落ち込みは親正産業に限った話ではなく、観光を生業とする企業はどこもダメージを受けた。一方で、コロナ収束後は着実に回復している企業も少なくない。では、親正産業が苦戦する原因はどこにあるのか。

 親正産業は今年3月、2029年12月期までの5カ年を計画期間とする経営改善計画を策定し、経営改善を進めているが、計画書の中で窮境の要因を次のように挙げている。

 ガラス館

 〇取り扱い品目が多岐にわたることから、全体としてのコンセプトが不明瞭で購入までつながりにくい。
 〇販売面積が大きく、スペースを埋めるために商品在庫を多く抱えていることが資金繰りを圧迫している。
 〇コロナの影響で海外から商材を仕入れることができなくなり、原価が高止まりしている。

 地ビール館(醸造)

 〇製造量減少で原価が高止まりしていることに加え、瓶で販売しているため梱包・輸送コストが大きい。
 〇使用しているビール詰機が瓶にしか充填できず、導入後20年を経過したことで更新が必要な状況にある。
 〇現状は瓶のみ製造しているが、要冷蔵で賞味期限が45日と保管・販路開拓が難しい。
 〇ウクライナ戦争や円安の影響でドイツから輸入しているモルトの価格が高騰している。

 地ビール館(レストラン)

 〇メニューの価格設定と購買意欲促進の仕組みに改善の余地がある。
 〇ホールが広いのに担当従業員が少なく、注文しづらい印象。
 〇子どもメニューがお子様ランチしかない。
 〇物価高騰の影響で原材料価格が高騰している。
 

 おかし館

 〇基本的には土産屋で、子どもが喜ぶような商品はわずか。
 〇集客力の高い道の駅猪苗代が近くにある。
 

 全体

 〇施設全体の魅力を訴求する取り組みや回遊を促す仕組みに乏しい。
 〇月ごとに売上がばらついている。
 こうした要因を踏まえ、計画書では窮境を除去するための施策も示している。

 ガラス館

 〇コンセプトの明確化
 〇滞留時間延長による購買率向上
 〇商品テーマをより訴求する陳列方法の導入

 地ビール館(醸造)

 〇缶・瓶いずれにも充填可能なビール詰機の導入
 〇賞味期限を延ばすことが可能となる遠心分離機の導入
 〇製造量拡大と新たな販路開拓
 〇ターゲットの絞り込みと適切な訴求
 

 地ビール館(レストラン)

 〇ターゲットにあったメニューの提供
 〇タブレット端末やスマホから注文できる仕組みの構築
 〇付加価値の高いメニューや注文点数の増加による客単価の向上

 おかし館

 〇子ども向け商材の充実

 全体

 〇全体を回遊する仕組みの構築
 〇体験型観光の提供で道の駅猪苗代と差別化
 〇冬季集客に向けたイベント開催

元は成井農林の施設

瓶のみの販売が課題の地ビール館
瓶のみの販売が課題の地ビール館

 各施設の収益は、地ビール館の醸造部門とおかし館は黒字だが、ガラス館と地ビール館のレストラン部門は赤字だという。計画書では赤字部門の縮小と黒字部門のさらなる収益性向上で赤字経営からの脱却を図るとしているが、そのために欠かせないのが金融機関の支援だ。

 親正産業にとって大きなネックになっているのが借入金だ。2023年12月期時点で長期借入金が5億2000万円ある。内訳は日本政策金融公庫に3億3000万円、東邦銀行に1億4000万円、会津商工信用組合に5000万円。このほか成井理人社長、家族、関連会社からの借入金が計300万円ほどある。

 親正産業は経営改善を実現するため、東邦銀行と会津商工信組に5年間の返済猶予と新規の融資、日本政策金融公庫に2028年から2年間の返済猶予を求め、返済原資が出た場合は内入弁済するとしている。

 「実は、長期借入金はほかにもあったんです」

 と話すのは前出・事情通だ。

 「成井理人社長の兄弟から7億円余り借り入れていたが、債権放棄してもらって債務を半分以下にすることができた」(同)

 損益計算書にもその形跡が残っている。2022年12月期を見ると、特別利益(債務免除益※1)として7億3600万円が計上されているのだ。前述の過去6年間の決算で、赤字続きの中、この年だけ大幅黒字になっていた理由がこれだ。

※1=債務免除益とは、債権者が債務者に債務の返済を免除することで生じる利益で、経営不振の企業にとっては事業再生のきっかけにもなる。

 少額の債権放棄では〝焼け石に水〟だが、債務が半分以上消えたわけだから、親正産業にとっては経営改善の大きな糸口になったはず。ただ、親正産業の経営改善に向けた姿勢はまだ甘いという。

 「役員は成井理人社長一人だが、成井一族がこぞって給料をもらっているというのです。実際に働いているとか、役員に就いているとか、株を持っているとか、会社と何らかの関わりがあれば給料をもらう資格はあるが、そうではない人にまで給料を払うのは従業員のモチベーションを下げかねない」(同)

 損益計算書を見ると、役員報酬はそれまで600万円台だったのが、2021年12月期から300万円台に半減している。一方、給料手当は5年かけて1億円台から7000万円台に漸減しているが、1人当たりの給料を下げたのか、それとも従業員が少なくなった結果、全体の金額が減ったのかは判然としない。

 昔を知る人は親正産業と聞いてもピンとこないかもしれないが、成井農林と言われれば分かる人も多いのではないか。

 成井農林㈱(西郷村、成井弘之社長)は福島県、北海道、徳島県で七つのゴルフ場開発を手掛け、ピーク時には100億円以上の売上を計上したが、バブル崩壊で経営が傾き、2004年に特別清算した。「世界のガラス館」3館を経営していたのも成井農林だったが、2003年に観光事業部門を子会社の㈱ナルイコーポレーションに引き継いだ。ナルイコーポレーションは2004年、商号を親正産業に変更。当初、経営は成井農林社長の成井弘之氏が取り仕切ったが、数人の社長を挟んで2019年から息子の理人氏が社長を務めている(※2)。

※2=成井農林元社長の成井武雄氏は、2007年に白河市長在職のまま急死した成井英夫氏の叔父という間柄にある。

 隆盛を誇った成井一族にとって、猪苗代町のガラス館は最後の砦と言っていいが、

 「経営改善計画を進める一方、身売りも模索しているとなれば経営改善の本気度が疑われる。半面、遠藤さん(DMC社)に委ねれば安泰という声も聞かれるが、そうなると、今度は成井一族の収入源をどうするのかという問題が出てくる。成井社長の判断が注目されます」(同)

身売りには一切触れず

 果たして、ガラス館の行方はどうなるのか。親正産業に取材を申し込むと、成井社長からメールで次のような回答が届いた。

 《DMC社様とはふるさと納税のQRコード決済や弊社の季節限定のストロベリーエールというビールの製造にあたりイチゴのご提供をいただいたり、商工会でもお世話になっています。私は猪苗代町商工会の観光業部会、部会長の任を賜っておりますので、私の任期中に猪苗代の飲食業と観光業を営んでいる事業主様が一丸となって飲食業の地域おこしや観光地としてのブランディングを推進できればと様々な企業様とコンタクトを取り、部会長としての責務を果たそうと動いているところです。

 DMC社様は猪苗代の観光ホテルやスキー場を経営されていることもあり、弊社だけに関わらず、猪苗代全体の事業主様と共に観光業への取り組みでご協力、ご助力いただければと考えております。

 弊社は経営改善計画を策定し、金融機関からの支援もいただく中で、定例会議を行いながら今後3カ年で経営改善を目指しているところであります。今年は大雪で冬の時期は大変厳しい状況でありましたが、6月以降は団体バスで来訪される団体客も増えており、7、8月も昨年の150%の来客予約をいただいております。磐梯山の紅葉の時期である9~11月の繁忙期も同様の予約率で、収支状況も上向きが見込まれる状態です。コロナ禍から観光業は厳しい状況に陥っておりましたが、今現在は順調に客足が戻り、皆様からの温かい支援の中で経営改善への道を順調に歩んでいるところです。

 来年はデスティネーションキャンペーンの年でもありますので、弊社や猪苗代の観光業全体を含め、観光客の来訪を心待ちにしております。今後も猪苗代地域全体で皆が協力しながら観光業を盛り上げていきたいと考えております》

 身売りについては一切触れず、来客数が増える中で経営改善を目指していることを強調している。

 DMC社にも取材を申し込むと、遠藤俊平常務から以下の回答が寄せられた。

 《現時点でお話しできることはありません。ただし、同じ地域で観光関連事業を行う事業者様でありますので、親密先としてお付き合いさせていただいています。地ビール館様におかれては、当社のイチゴとコラボしたビールも開発されており、既に一定のシナジーを出せていると認識しています》

 地元の観光業関係者が言う。

 「確かにガラス館の経営は厳しそうだ。親正産業は経営改善計画に基づいて立て直そうとしているが、実現できるかどうか。DMC社への身売りは、今は『最終手段としてその可能性もある』という程度。ただ、会津一円の観光施設は遠藤さんが面倒を見ている状況なので、そういうウワサが出るのは自然だと思う」

 経営改善計画の先に待っているのは赤字経営からの脱却か、それともDMC社の傘下入りか。成井社長の手腕と本気度が試される。

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