令和元年東日本台風に伴う水害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、その一環として、鏡石町、玉川村、矢吹町で阿武隈川遊水地整備事業が進められている。
総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収する。対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地。対象エリアの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村がそれぞれ60〜70戸、矢吹町が約20戸。
住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安が渦巻いている。
そのため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行ってきた。
本誌では何度か同委員会を取材(傍聴)し、今年7月号に「鏡石町遊水地特別委が国・県に意見書提出」という記事を掲載した。
同町議の任期は9月3日までで、8月22日告示、27日投開票の日程で議員選挙が行われた。そのため、任期満了前、最後となる6月定例会で一区切りとし、意見書案をまとめて本会議に提出、採択された。これをもって同特別委は解散となった、
意見書の主な内容は、①遊水地事業区域の住民の高台移転のための支援、②移転に伴い生じる各種法令・規制の見直しや手続きの簡素化、③阿武隈川本川及び県管理支川の鈴川も含めた治水対策(特に、阿武隈川本川の河道掘削及び堤防強化)、④二度と水害(洪水被害・浸水被害)のないまちづくり・地域づくりを行うための支援、⑤遊水地事業関連施設の整備、⑥遊水地整備後の土地の有効利用のための支援など。
これを内閣総理大臣、国土交通大臣、衆議院議長、参議院議長、県知事、県議会議長に提出した。
一方で、同特別委の委員長を務めた吉田孝司議員は、「改選後も特別委を再度立ち上げ、引き続き、調査・研究していきたい」と述べていた。吉田議員は、遊水地の対象地区である成田地区出身で、自身の自宅も令和元年東日本台風で浸水被害を受けたほか、遊水地の対象エリアにもなっている。
実際、吉田議員は改選後の9月定例会で特別委設置案を提案した。しかし、賛成4、反対7で否決された。理由は、玉川村や矢吹町ではそうした動きがないこと、前任期の議会で一定の役割を終えたこと、あとは国に任せるべき、というものだったようだ。
ただ、ある関係者はこんな見解を示した。
「吉田議員は対象地区に自宅があり、住民の思いが分かるから、この問題に熱心に取り組んでいたが、吉田議員が中心となって国や県に要望するなど、目立った動きをしたことをよく思わない議員もいたように感じる。もう1つは、今改選では12人中6人が新人で、そのうちの5人が反対だった。よく分かっていない可能性もある。そういった理由から改選後の議会での特別委設置が否決されたのではないか」
改選前の特別委では、国(福島河川国道事務所)の担当者を呼び、直接見解を聞いたこともあった。そういった意味でも意義のあるものだったと言えるが、前出の関係者が語ったように、議会内の勢力争いが原因で否決されたのだとしたら、議員の存在意義が問われかねない。
鏡石町遊水地特別委が国・県に意見書提出 2023年7月号
【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家 2023年4月号