北塩原村6月議会で、遠藤和夫村長の辞職勧告決議案と、五十嵐善清議長の不信任案が提案され、いずれも賛成多数で可決された。ある村民は「村長の辞職勧告と、議長の不信任が同時に可決されるのは前代未聞」と断じたが、その背景には何があったのか。
今夏村長選を見据えた攻防

北塩原村6月議会の開会日(6月14日)、執行部から議案説明があった後、遠藤和夫村長に対する辞職勧告の緊急動議が出された。その理由は大きく2つ。
1つは、「北塩原村税条例の一部を改正する条例」(2件)と、「北塩原村税特別措置条例の一部を改正する条例」の計3件を専決処分により決めたこと。
緊急動議では「条例は議会が決めるもの。それを専決で決めるのはあり得ない。議員を愚弄している。これを許したら、今後もこういったことが頻発してしまう」との理由が述べられた。
ある関係者はこう解説する。
「災害復旧など、緊急を要するものなら専決も仕方がないが、今回は条例改正ですからね。しかも、臨時議会を招集して正規の手順を踏むだけの時間的な余裕はあったと思います。ですから、これを認めるわけにはいかないということで、辞職勧告の緊急動議に至ったのです」
もう1つは、ラビスパ裏磐梯の問題だ。この点については、本誌1月号、5月号でリポートした。同施設はオープンから30年近くが経ち建物や内部設備の老朽化が進んでいた。そのため、議会では今後どうするかが議論されていたが、遠藤村長は昨年12月議会(全員協議会)で「廃止」の方針を示した。

閉鎖されたラビスパ裏磐梯1

実際、同施設は1月末をもって営業を停止し、議会には同施設が存在する根拠になっている「温泉健康増進施設条例」の廃止案と、同施設の指定管理契約の変更に関する議案が出された。ただ、両議案は1月31日に開かれた臨時議会と3月議会で二度にわたって否決された。なお、指定管理契約については、契約期間が2026年度までとなっているため、期間を変更するための議案だった。ただ、指定管理料は年度ごとに支払うため、新年度(4月以降)の指定管理料は発生していない(支出されていない)という。
二度の関連条例案否決後、村は本誌取材に「廃止の方針に変わりはない」(村総務企画課)としたうえで、「今後、ラビスパ裏磐梯を利活用する民間事業者の公募を行い、状況が整った段階であらためて議会に説明したい」(同)とコメントしていた。
ところが、その後、動きがないことから、遠藤村長の責任を問う意見が出たのだ。
緊急動議では「老人クラブからは存続の要望が出ている。修学旅行などでの利用もある。だから、修繕費がかかっても存続してもらいたい。そういったことから(前述した)条例案を否決したわけだが、そのままにしておくだけでなく、(施設を利活用する民間事業者の公募を行い)勝手に村の財産を売却しようとしている。こうしたことを許すわけにはいかない」として、先の理由と合わせて「村長の辞職を求める」とされたのである。
1期4年で2回目
辞職勧告決議案は、採決の結果、賛成6、反対3の賛成多数で可決された。
村長辞職勧告 | 議長不信任 | |
北 原 安 奈 | 反対 | 反対 |
遠 藤 康 幸 | 反対 | 賛成 |
柏 谷 孝 雄 | 賛成 | 賛成 |
渡 部 哲 夫 | 賛成 | 賛成 |
伊 藤 敏 英 | 賛成 | 賛成 |
五十嵐 正 典 | 賛成 | 賛成 |
遠 藤 祐 一 | 賛成 | 賛成 |
小 椋 眞 | 賛成 | 賛成 |
遠 藤 春 雄 | 反対 | ―― |
遠藤村長は本誌の取材に「今回の件を重く受け止め、村政発展や村民のために尽力したい」とコメントし、辞職は否定した。同決議に法的拘束力はない。
実は遠藤村長が辞職勧告決議を可決されるのは2022年6月に続いて二度目。このときは、介護保険の高額介護サービス費の支給先に誤りがあったこと、支給事務手続きが遅延したことが原因だった。この問題に対する質疑の中で、遠藤村長からは「自分の責任ではない」といった発言があったのだという。そのため、「村長は自分に責任がないような説明をしている。この先、事務執行するに当たって誰が責任を取るのか、明確にしておかないと支障をきたすと考え、この場で村長の責任を追及しておきたい」として、辞職勧告決議案が出された。採決の結果は、賛成5、反対2、退席2の賛成多数で可決された。
この時、村内では「寄ってたかって村長をイジメて、議会は何がしたいのか」といった意見もあった。もっとも、「村長支持者が遠藤村長に非はなく、議会が悪いように吹聴していたから、それが広がってそういった話が囁かれるようになった」との指摘もある。今回もそのような攻防が起こるのではないか。
一方で、ある村民はこう話した。
「1期4年間で2回も辞職勧告を決議されるのは稀有なこと。ハッキリ言って恥ずかしい。しかも、遠藤村長は昨年4月に行われた村議選に積極的に介入して、自派の議員を増やした。にもかかわらず、半数以上の議員が辞職勧告に賛成したのだから、そのことをしっかりと受け止めてほしい」
この村民が言うように、遠藤村長は昨年4月の議員改選前は議会対策に苦慮していた。中でも、遠藤村長が気にしていたのが小椋眞議長(当時)の存在だった。小椋氏は最古参議員で、県町村議長会長を務めていた〝大物〟。議長会長を務める中で、国・県、他町村の関係者などとのつながりもでき、役場職員の中には何か困ったことがあると、小椋氏に相談に行く人もいたほど。なお、今回の辞職勧告の緊急動議を出したのも小椋氏だった。
そのほかでは、佐藤善博議員と池田睦宏議員が議会のたびに執行部に厳しい質問をぶつけており、遠藤村長から疎ましく思われていた。
そんな中、遠藤村長(とその支援者ら)は、小椋氏、佐藤氏、池田氏の3人の得票を削るために、3人と同地区、あるいは同業関係者などの新人候補を複数人擁立した。
当時、ある事情通は次のように解説していた。
「新人候補の中には、最初から当選する気はなく、小椋議長とその子分と目される佐藤議員、池田議員の票を削れればいいと考えている人もいた。さすがに小椋議長を落選させるのは無理だろうが、佐藤議員、池田議員を落選させ、小椋議長を孤立させればいい、といった目論見もあるようだ」
そうした中で迎えた村議選では、小椋氏は再選されたが、池田氏は事前に立候補を取りやめ、佐藤氏は落選した。
遠藤村長の狙い通りの結果になったと言えよう。
実際、村内では「改選前は小椋氏を中心とする一派が議会の過半数を占めていたが、佐藤氏が落選したほか、池田氏が立候補を取りやめたことなどで、その牙城が崩れた格好。逆に、遠藤村長は自派の議員を増やしたから、今後はやりやすくなるだろう」と囁かれていた。
こうした経緯があるだけに、前出の村民は「村議選に積極的に介入して自派の議員を増やしたにもかかわらず、辞職勧告が可決されたのだから、重く受け止めなければならない」との見解を示したのだ。
一方で、本誌に伝わっている話では、小椋氏は改選後、遠藤村長に「県町村議長会長の任期があと数カ月残っているから、その期間だけ議長に就けるよう取り計らってほしい。県町村議長会長の任期が終わったら、議長を辞して後進に譲るつもりだ」と持ちかけたらしい。ただ、そのようにはならず、改選後、議長に選任されたのは五十嵐善清議員だった。
議長不信任の理由

その五十嵐議長についても、この6月議会で追加議案として不信任案が提出された。遠藤村長の辞職勧告が出されたのと同日のことだ。
議長不信任案の提案理由はこうだ。
前述したように、ラビスパ裏磐梯の廃止に関する条例改正案が二度にわたって否決された。ということは、同施設の管理運営はこれまで同様に行わなければならないことになるが、放置され、村の財産が廃墟同然の姿になっている。議会として否決した以上、議長の責務として議員をまとめ、いまの異常な状態の解決に向けて努力すべき。しかし、二度目の否決から3カ月以上経過しているにもかかわらず、そうした行動は全く見られず、そればかりか多くの議員の声を無視し、傍観者となっている。こうした議長の姿勢に対する不信感は高まっており、不信任案提出に至った。
このほか、提案理由の中には入っていないが、五十嵐議長は遠藤村長に近い関係で、「議会の代表でありながら、執行部の方ばかりを向いている」といった思いを抱いている議員も少なくないようだ。
同案は、五十嵐議長が退席し、遠藤春雄副議長が採決を取り、賛成7、反対1の賛成多数で可決された。
五十嵐議長は本誌取材に「結果を重く受け止め、これからも議会発展に尽力していく」と述べた。村長の辞職勧告決議と同様に法的拘束力はなく、五十嵐議長は辞職しない方針を示した。
ある関係者によると、五十嵐議長は不信任案の採決時は退席し、可決後、議場に戻ると「法的拘束力はないですから」というようなことを述べたのだという。そのため、議員から議場外(議員控え室)で「そういった発言・態度はいかがなものか」と詰められる場面もあったのだとか。議会初日(不信任が可決された日)のほか、議会最終日も閉会後1時間以上、議員は控え室から出てこなかった。おそらく、そこでも五十嵐議長への追及があったのだろう。
「五十嵐議長は昨年4月の就任からわずか1年で、大部分の議員から『信任できない』という現実を突きつけられたのだから、もっと重く捉えるべき」(前出の関係者)
もう1つ、この関係者によると、「本来は議会最終日に村長の辞職勧告と議長の不信任が出される予定だった」という。
実は本誌も事前に「議会最終日に村長の辞職勧告と議長の不信任が出されるかもしれない」との情報を得ていた。ところが、実際には議会初日に行われた。
「(辞職勧告の一因となった)条例改正案の専決処分の承認採決だけ、なぜか初日に行われたのです。その流れで辞職勧告の緊急動議が出されたわけだが、議会初日は議案説明だけで、傍聴者も少ないから、(辞職勧告を出されるなら)その日にやってしまおう、ということになったのではないか。まして、村長選が近いから、なるべく目立たないようにしたいとの思惑があったように思えてならない」
この見立てが正しいかどうかはともかく、傍聴者は少なくても(いなくても)、翌日の地元紙でそのことが報じられたから、事態の矮小化が図られたとは言い難い。
村長選で信を問え
一方で、村長選が近いのは事実。7月19日に立候補予定者説明会が開かれ、8月20日告示、25日投開票の日程で行われる。
遠藤村長は昨年12月議会で、任期満了後の対応を聞かれ、「ラビスパ裏磐梯の整理や移住定住対策といった山積する課題の解決と、公約の実現のため、来年の村長選挙への出馬を考えている」と述べた。
現状、遠藤村長のほかに立候補の動きはないが、村内では「議会から二度にわたって辞職勧告を受けた人を、無投票で再選させるのはいかがなものか」との声もあり、今後の動向が注目される。
遠藤村長は同村出身の69歳。旧喜多方工高(現喜多方桐桜高)卒。2015年4月の村議選で初当選し、その任期途中で辞職して、2016年8月の村長選に立候補した。このときは当時現職の小椋敏一氏に敗れた。2020年8月の村長選に再度立候補し、元村議の蟹巻尚武氏との新人同士の一騎打ちを制して初当選した。菅家一郎衆院議員は義弟(遠藤氏の妻が菅家氏の姉)に当たる。
「遠藤村長は菅家衆院議員の義兄に当たり、支援が得られる環境にはあるが、いま菅家衆院議員は自民党の裏金問題でいろいろと大変だろうから、今回はその関係がマイナスになる可能性もある。その辺がどう影響するか」(前出の関係者)
いずれにしても、「議会から二度にわたって辞職勧告を受けた人を、無投票で再選させるのはいかがなものか」との声があり、一般の村民が遠藤村長をどう評価するのかを問う機会は必要だろう。
加えて、「村長の辞職勧告決議と、議長の不信任が同時に可決されるのは前代未聞」との指摘があり、両名はそうした指摘を重く受け止めなければならない。