6月8日、福島市の高湯温泉の手前に「信夫温泉 青州」がオープンした。コロナ禍の2021年に廃業した旅館を、同旅館のファンだった漢方医・侯殿昌さん(61)が買い取って改修した。
客室は3部屋。各部屋に生薬を浸した「漢方露天風呂」を備えるほか、2つの露天風呂と、炭酸泉の内風呂が設けられている。希望者には福島県産の漢方用植物などを用いた薬膳料理を提供し、侯さんによるカウンセリングや食事療法指導を受けることもできる。
侯さんは在日中国人。中国山東省から東北大医学部に留学。仙台市の漢方薬局での勤務を経て、現在は「青州堂漢方薬局」を福島市と郡山市に1店舗ずつ展開している。福島市と信夫温泉の環境が気に入り、3年前には福島市に移住。2022年3月に旅館を買い取り、この間準備を進めてきた。
侯さんは「『温泉』と『漢方』を備えた癒やしと健康促進の施設の実現は夢だった。宿泊料金は1人5万円以上に設定し、ターゲットは東京圏やインバウンドの富裕層客です。東北新幹線が通る駅(JR福島駅)から西に約10㌔、車で20分の場所で、これだけの自然と温泉を楽しめる環境は他にない。長さ70㍍の自家つり橋を渡った先に一軒だけある温泉旅館という隠れ家感も魅力の一つ。ここに泊まりに来て魅力を感じてほしいです」とPRした。
目の前にはメガソーラー整備の在り方が議論になっている先達山があるが、旅館からそれらの設備が直接見えるわけではない。「温泉×漢方×大自然」の新たな高級宿泊施設は人気を集めそうだ。
同市では今年2月、土湯温泉に高級志向のホテル向瀧が開業した。同ホテルについては本誌2023年6月号で取り上げている。原発事故とコロナ禍の影響で休業していた旅館・旧向瀧の運営を福島市のワールドサポート合同会社(菅藤真利代表社員)が引き継いだ。建物が福島県沖地震で大規模半壊となったため、新たに和モダンスタイルのホテルに建て替え。あえて客室数を9室に抑え、全室に露天風呂を備えるなど高級路線に転換する方針を打ち出していた。公式ウェブサイトによると、1室2人利用時の1泊2食付き料金は1人4万2000円から。
記事で菅藤氏は「インバウンドや首都圏のお客さんをターゲットに、(中略)稼働率も25%程度(2・25部屋)を想定しています」と話していたが、「目標の稼働率は達成している状況です。会席料理かフレンチが選べる料理を気に入り、リピーターになっていただいたお客様もいらっしゃいます。インバウンドの方の宿泊実績は少なく、『自然の中の温泉宿で静かに過ごしたい』と訪れる首都圏からのお客様が中心です」と開業後の様子を語った。集客は計画通りに進んでいるようだ。
観光庁の旅行・観光消費動向調査2025年1―3月期(1次速報)によると、国内旅行の1人1回当たり旅行支出は4万7212円(前年同期比8・9%増)。宿泊旅行に限ると1人当たり6万8807円(同9・8%増)。旅行に金をかけるようになっている傾向を踏まえ、各宿泊施設では改修工事を機に、コロナ禍や福島県沖地震関連の補助金などを活用して高級路線にかじを切る傾向も見られる。逆に言えばここで何も手を打たず、新たな付加価値を見いだせなかった宿泊施設は今後経営が厳しくなる可能性がある。
交通アクセスに優れ、首都圏からも比較的近くて温泉がある福島市。福島駅周辺にはビジネスホテルが次々と立ち並んでいるが、今後高級路線の宿泊施設は定着していくのか。
























