本誌昨年10月号に「福島県沖地震から2年半 松川浦旅館 険しい再生への道のり」という記事を掲載した。相馬市の景勝地・松川浦の旅館が震災・原発事故、コロナ禍、2度の福島県沖地震に見舞われながら、営業再開を目指す様子を報じたもの。
旅館・飲食店を経営する「齋春商店」では、2011年の震災で1階部分が津波で流されて全壊。改修を余儀なくされた。約10年後の2021年2月に発生した福島県沖地震でも壁や床が壊れ、地震保険などを使って約3000万円で改修した。ところが、その工事が終わり、営業を再開した直後の2022年3月、再び福島県沖地震に見舞われ、改修を断念。新たに建て直す道を選んだ。
中小企業等グループ補助金を活用したとしても、これまでの改修費用などが加わるので借金が膨れ上がるのは必至。コロナ禍で客足が一気に途絶えた時期もあった。にもかかわらず、旅館を再建する理由について、同商店の齋藤智英専務はこう語っていた。
「厳しいのは承知していますが、祖父の代から引き継いできた旅館を継続するため、家族で再建していくことを決めました。うちは仲卸をやっているので、松川浦の宿泊施設の中で唯一、新鮮な魚を直接買い付けて提供できる。本当の意味で〝とれたて〟の魚介類のおいしさを多くの人に知ってほしいし、首都圏や関西方面の方にも食べに来てほしいですね」
そんな齋春商店の建て替え工事がこのほど完了し、6月21日にリニューアルオープンを果たす。客室数は9室で、全客室から海が見えるのが特長。1階には食堂と宴会場が設けられる。収容人数は食堂48人、宴会場36人で、一体化すれば最大84人の収容が可能。食堂は宿泊客以外も受け入れ、鮮度抜群の魚介類を使った海鮮丼が2000円台から提供されるほか、仮店舗では出していなかった天ぷらなどもメニューに追加される。
2階には大浴場を設置。3階はワンフロア丸ごと1室の客室となり、リクシル社製の最高ランクの浴室設備が導入されるという。
齋藤専務はこの間、北は北海道、南は沖縄まで全国の有名旅館を視察し、料理やサービスを研究してきた。そこで学んだことを生かして、旅館運営を行っていくという。
「ここでしか味わえない料理、ここでしか体験できないサービスを提供し、大切な方との記念日や少人数での観光旅行などで利用していただける、良質な旅館を目指します。仙台空港に近いロケーションなので、関西方面の方などに多く来てほしいと考えています」(齋藤専務)

齋春商店で提供する魚介類は、日常的に魚を食べる浜育ちの人も高く評価する鮮度の良さで、本格再開を待ち望む人が多かった。食堂は大勢の人でにぎわいそうだ。
松川浦では「手づくりの湯 栄荘」も鉄骨造9階建ての新旅館を建設しており、秋ごろまでのオープンを目指している。高台の旅館「いちぼう」も15部屋のホテルに建て替える計画があり、立地場所変更の影響で遅れているが、計画は進行中だという。
松川浦観光旅館組合の管野正三組合長(丸三旅館社長、福島県旅館ホテル生活衛生同業組合副理事長)は「5月には中心市街地の『ホテルふたばや』が建て替え工事を終えて再オープンを果たした。松川浦の各旅館も特色を打ち出して再開しており、浜の駅松川浦がオープンしたり、店舗前で浜焼きも行われているので、祝日に訪れる人が増えている。市の宿泊業・観光業が盛り上がることに期待したい」と語った。
幾度も苦難に見舞われてきた松川浦だが、今年は多くの人でにぎわう光景が見られそうだ。
























