南相馬・復興団体代表「不同意性交事件」を追う

南相馬・復興団体代表「不同意性交事件」を追う

 東日本大震災・原発事故後に南相馬市で復興活動をするボランティア団体の代表・上野敬幸氏(52)が、活動に携わる知人女性に性的暴行を加えたとして不同意性交等罪に問われている。事件の現場となった群馬県の裁判所で、これまでに3回の公判が開かれた。初公判と被害女性が証言台に立った第3回公判をリポートする。(小池航)

法廷で明かされた被害証言

 被告人は南相馬市の復興団体「福興浜団」代表で農業を営む上野敬幸氏(52)。上野氏は東日本大震災の津波で子ども2人と両親を亡くした。東京電力福島第一原発事故の影響で人が入れず、捜索活動が進まなかった沿岸部で、地元消防団の仲間と共に家族の行方を探し続けた。

 上野氏らはその後、被災した地元に賑わいを取り戻そうと復興に携わるボランティア団体「福興浜団」を立ち上げ、菜の花を植えた巨大迷路や追悼の花火大会を企画した。活動はドキュメンタリー映画や書籍で取り上げられた。2021年の東京五輪では聖火ランナーを務め、福島の復興活動に携わる中で知らない人はいない存在だった。

 上野氏の事件が初めて報じられたのは昨年12月のこと。読売新聞12月3日付によると、群馬県警が同10月に不同意性交等容疑で逮捕し、同11月7日付で起訴された。

 上野氏は大震災・原発事故からの復興の象徴としてメディアで大きく取り上げられてきた一方で、負のニュースとなる性的暴行での起訴についてはあまり報じられていない。12月14日に配信された「デイリー新潮」は、群馬県太田市内で事件が起きた経緯を関係者の話として詳しく伝えている。ただ、あくまで上野氏のスキャンダルとしての扱いだ。

 例えば南相馬市内で会社を経営する年配男性の話としてこう伝える。

 「彼が被災地のために尽くしてきた功績は計り知れません。だからこそ、ちゃらちゃらした身なりをしたり、復興支援関係者かボランティアか分からないけど、奇抜な格好をした人たちとつるまないでほしい。その様子に眉をひそめる年寄りもいるんです。ましてや今回のような女性問題など言語道断。天国のご家族に顔向けできないじゃないですか」

 周囲が見た上野氏の交友関係と今回の事件を唐突に結びつける内容だが、これまでに開かれた3回の公判を傍聴して詳細を把握すると、スキャンダルに矮小化するのは実態に反する。

 公判は前橋地裁で開かれており、第1回は今年1月30日。検察官が読み上げた起訴状によると、上野氏は昨年7月18日午前3時28分ごろから同9時42分ごろの間に群馬県太田市内のビジネスホテルで女性Aさん(当時25歳)と2人で飲酒中、性的行為が予想しえない状況において「触らせろ」「見せろ」などと言って恐怖を与え性交に及んだという。

 上野氏は起訴内容を否認し無罪を主張。「酔っぱらって下ネタで盛り上がった中でAさんと性交しようとしたが、自分の年齢と飲酒の影響で行為ができなかった」「Aさんに口頭で『いいですか』と確認はしなかったが、Aさんに嫌がる様子はなく応じてくれたので同意はあると思っている」などと述べた。

 弁護人も「主観的にも客観的にもAさんが予想と異なる事態に直面し、恐怖と驚愕の状態にはなっていない」とした。

不同意性交等罪の要件

 2023年7月の刑法改正で従来の強制性交等罪を基に不同意性交等罪が新設された。性被害の実態に鑑み、性行為をさせるまでに暴行、脅迫を用いなくとも、「同意しない意思を形成・表明、又は全うすることが困難な状態にさせること」などがあれば罰せられるようになった。例として不意打ちや、予想と異なる事態に直面させて恐怖させたり驚愕させたりするフリーズ状態、上司や部下などの立場に乗じた影響力が挙げられる。

 検察側の冒頭陳述によると、事件が起こる前日の2024年7月17日夜は群馬県太田市で懇親会があった。大震災・原発事故後に福島県から群馬県に避難・移住したBさんを上野氏とAさんが訪ね、Bさんの知人ら十数人を交えて市内で会食することになった。Aさんは都内の会社に所属しつつ、業務の一環で福興浜団の活動に携わっており、上野氏と一緒にBさんたちを訪ねることを上司のCさんに報告。Aさんが宿泊先の2部屋を手配し、都内からCさんに現地まで送ってもらった。上野氏は南相馬市の自宅から単身車で来た。

 夕方から居酒屋で始まった一次会は午後10時ごろに終わり、上野氏、Aさん、Bさんら6人は二次会のスナックに移動。二次会を終えた18日午前1時半ごろ、上野氏とAさんの2人はBさんから紹介されたバーで閉店の午前3時20分ごろまで飲んだ。

 退店後、上野氏は「もうちょっと飲もうか」とAさんを誘った。Aさんは了承したが、上野氏と自身の関係が復興団体の代表とその支援者に留まることや、上野氏に妻子がいる点などから性的行為を迫られる状況を想定していなかったとした。コンビニで酒やつまみを買い、宿泊先の部屋で雑談する中で上野氏は急にAさんの胸に言及してきたという。

 これ以降、事件の詳細が続くはずだが、検察官は「書面記載の通り」と読み上げるのを避けた。

 検察側の冒頭陳述は犯行後の時点から再開した。Aさんは上野氏から離れようと部屋に戻っていいか聞くが、上野氏は「行かないでここにいて」と引き留める。Aさんは携帯電話に昨晩会ったBさんや上司のCさんから着信があったことに気付き、それを理由に部屋を出て自室に戻った。この時点では、Aさんは被害を周囲に打ち明ければ上野氏から不利益を受けたり、震災復興活動の中心に立つ上野氏との関係性が壊れ、やりがいを感じていた支援に関われなくなると思い、何事もなかったように振る舞うことを決めたという。

 18日昼、Aさんは上野氏が運転する車に同乗してBさんたちと会食して別れ、福島県への帰路に就いた。Aさんは県内の自宅に帰宅後、上司のCさんに業務内容を電話で報告。その際に上野氏から意に沿わぬ性行為を受けたことを打ち明けた。避妊具を着けない性行為だったことから、20日に病院を受診してアフターピルを処方してもらい、23日に警察に被害申告した。上野氏とAさんのLINEのやり取りや、Cさんへの被害申告の記録が証拠として提出されている。

 弁護側は、身体面や年齢面で上野氏が挿入できなかったと述べ、他の性的な行為があったとしても同意があり、Aさんは拒絶するのが困難ではなかったと反論した。被害の証拠になっているLINEのやり取りの一部に着目し、Aさんが上野氏を受け入れる態度があったとした。

 5月16日に開かれた第3回公判は被害者のAさんが証言台に立った。証言台は傍聴席から見えないように衝立が置かれた。時間は検察側からの主尋問180分、弁護側からの反対尋問120分の一日がかりだった。弁護側からは「なぜ逃げなかったのか」のような被害者に精神的負担を強いる質問が繰り返され、「同じ内容の質問をしないでほしい」と検察側から異議が唱えられることもあった。長大なやり取りなので、一部を抜粋する。

 検察側からの尋問は上野氏とAさんの関係に関するものから始まった。Aさんはジャーナリスト志望で、都内の会社に身を置きながら福島県の浜通りに移住して取材活動をしていたという。学生時代に上野氏が主人公となったドキュメンタリー映画『Life 生きてゆく』(2017年)を見て感銘を受け、上野氏を追った同作品は自分の指針になったという。現場に身を置きたいと福島県の被災地に足しげく通うようになった。検察側は事件当日についての質問の前に、Aさんにとって復興団体代表の上野氏がどのような存在かを聞いていった。

被害申告の経緯

 ――被告人とはいつ知り合ったのか。きっかけは。

 「2023年5月の大型連休だ。福興浜団が主催する菜の花迷路というイベントにボランティアとして関わり、南相馬市の会場で会った」

 ――被告人との関わりはどうなったか。

 「ボランティアに携わろうと県内に移住した。会う頻度が増えた」

 ――その時の気持ちは。

 「自分にできることはないかなと考えた。取材活動をしていたので、復興のためになりたいとゆくゆくは映像や文章などの作品にして発信していきたいと考えていた」

 ――あなたと被告人の関係は。

 「一つはボランティアだ。イベントの手伝いをしていた。二つ目は親しくしてもらった人物だ。被告人は家族を亡くしている。私の受け取り方だが、その娘さんと私は同世代で重ね合わせていたのかもしれない。被告人は『娘が生きていたら同じぐらいの年だな』『娘が生きていたら大学に行っていたかもしれないな』と私に話していた」

 ――2024年3月に移住した理由は。

 「通うことで地域に愛着が湧いた。また、たくさんの人々と知り合い、地に足を付けて生活して同じ目線に立つことでできる取材活動や復興への貢献があると思った」

 ――被告人に対して恋愛感情はあったか。

 「全くない。年は離れており異性として見ていない。復興活動に携わる姿を見ていた」

 質問は被害申告の経緯に及んだ。

 ――初めて被害を打ち明けたCさんとの関係は。

 「インターンシップの時代から3年ほど働いている会社の社長で上司。最も信頼できる年長者であり、自分のキャリアについて何度も相談してきた」

 ――被害届を出した経緯は?

 「被害後にアフターピルの処方を受けるために仙台市の病院に行った。避妊具なしの性行為を受けたので性病や妊娠を恐れた。病院からの帰り道、安くはないアフターピルを使わなければいけなくなった状況を前に『なんでこんなことが私に起こっているんだろう。今後もこの気持ちが続くのでは』と思った」

 「その後も被告人からは『私の家に行きたい』などと連絡を受けた。このままでは被害が一度きりではなく今後も起こってしまうのではと考えた。私1人がアフターピルを手にしなければならない状況で虚無感に襲われた」

 Aさんは性被害の相談を受け付ける「ワンストップ支援センター」に電話し、群馬県警につないでもらい被害届を出すに至ったという。

 「被害届を出す判断はすぐにはつかなかった。周囲に明らかになると、自分もここでの仕事など失うものがある。それでも出した理由は、今後も(上野氏の下で)ボランティアをしてきた若い子たちが自分と同じ目に遭うのではと考えたからだ」

 事件当日に関する質問は、検察側の冒頭陳述に沿って行われた。Aさんの証言によると、上野氏が胸を見せろ、触らせろと繰り返し迫ってきて、最終的にはベッドに押し倒されて2回の性交に及んだという。

 最後に検察官は「今回の事件に関して思っていることを聞かせてほしい」と聞いた。Aさんは次のように語った。

 「被告人への尊敬があった中で事件は起きた。私の身に起きたことと彼に抱いていた尊敬は別のもの。私自身に警察に被害を届け出るメリットはない。自分に対してもそうだが、同じような被害者を出してほしくないと声を上げた」

 「被告人との会話の中で、福興浜団の関係者に関して『俺は10人以上抱いたことがある』と述べていたので、自分だけの問題ではないという認識だった。同意がない性行為に対して処罰を受けてほしい」

 次は弁護側の反対尋問。質問は部屋の明るさや上野氏とAさんの距離、衣服の様子についてが主だった。特にAさんが服を脱がされた、或いは脱いだタイミングについて「覚えていない」としている点を重ねて質問した。検察側は「何度も同じ内容を聞いている」「異なる前提を基に質問をしている」として質問を変えるよう異議を申し立てたが、多くの場合裁判所は異議を却下した。

 質問には、「なぜ逃げなかったのか」「目を覚ませと顔を引っぱたこうとはしなかったのか」「抵抗したら傷があるはず」などがあった。混乱やフリーズ状態での性被害を訴えている本人からすると、当時の行動を非難されているように受け取れる内容だ。

 反対尋問は終盤に入った。

 ――群馬に行った理由は。

 「被告人からBさんと3人で飲もうと提案があった。Bさんがドキュメンタリー活動に共感し、移住先の群馬を案内してくれることになった。飲み会は被告人とBさんが提案し、私が日程を調整したものだ」

 弁護側の最後の質問は「服を脱いだ記憶がないとのことだが、被告人が脱がすことはできなかったのでは」だった。Aさんはこれまでと同様に「覚えていない」と答えた。

裁判官の着目点

 最後は裁判官3人からの質問だ。

 1人目の裁判官は、Aさんが服を着ていないタイミングを今一度整理した。

 ――2回性行為を受けた際、着ていたワンピースを脱いだ記憶はないとのことだが、遅くともどの段階での記憶はあるか。

 「脱いだタイミングは覚えていないが、2回目の性行為を受けた時点では裸だったという記憶がある」

 ――被告人は「10人以上抱いたことがある」というような発言をしていたとのことだが、それはいつ聞いた話か。

 「三次会のバーで福興浜団が話題になり、当時は5、60人くらいメンバーがいたと聞いた。メンバーなのかボランティアに携わった人なのかは分からないが、被告人が『10人以上抱いた』という話をしていた」

 ――今の話の流れからすると、あなたは被告人が福興浜団の団員やボランティアに関わった方の中で10人以上と関係を持ったと捉えたということか。

 「そう捉えた」

 2人目の裁判官の質問。

 ――飲酒後、ビジネスホテルに入った時点でのあなた自身の酔いの程度は。

 「ほとんど醒めている状態。酒に弱い体質ではない。すごく眠気はあったが酔っている感覚はなかった」

 ――部屋に入ってからは飲酒したのか。

 「缶を1本程度飲んだが、酔いは回っていない」

 最後に高橋正幸裁判長が質問した。

 ――三次会の後で被告人は千鳥足だったというが、現場の部屋に入る際にも、あなたから見て被告人が酔っているという認識はあったか。

 「テンションが普段より高いなと思っていた。酔っているなという認識はあった」

 ――あなたが「被告人が酒に酔っている」と認識していたことが「被告人から性的行為を求められる可能性がある」という認識に影響を与えたか。共に酒に酔っていることが性行為を求められることになる認識はなかったということか。

 「認識はなかった」

 5時間に及んだ被害者の証人尋問は終わった。次回はAさんが被害を申告した上司のCさんへの証人尋問が行われる予定。

 筆者はあらゆる裁判を傍聴しているが、1人の証人につき計5時間の尋問は過去最大の時間だ。疲れのためか傍聴人たちからはため息が漏れたが、証人の心労はそれ以上だろう。Aさんが主尋問で最後に語った「私自身に警察に被害を届け出るメリットはない。自分に対してもそうだが、同じような被害者を出してほしくないと声を上げた」に置かれた境遇が表れているように思った。

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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