【いわきFC】新スタジアムの夢と現実

 サッカーJ2いわきFCは、新たなホームスタジアムを小名浜地区に建設する計画を立てている。地方でのサッカースタジアム建設計画は頓挫することも少なくないが、いわきFCは成功例になれるのか。

長崎視察で見えたスポーツビジネスの現在地

 いわきFCは2015年12月、スポーツを通した被災地復興貢献を目的に設立された。スポーツブランド・アンダーアーマーの日本総代理店「ドーム」の創業者である安田秀一氏(現いわきFCオーナー)と、元Jリーガーで、当時Jリーグクラブ湘南ベルマーレの社長を務めていた大倉智氏(現いわきFCの運営会社・いわきスポーツクラブ社長)が中心となり立ち上げた。サッカー県社会人2部リーグに所属するアマチュアチームの運営権を譲り受け、若くて有望な選手を集め、フィジカル強化に特化した「90分間止まらない、倒れない、魂の息吹くフットボール」を目指した。

 同クラブは1年目から結果を出し、毎年のように昇格。2022年にはJ3、翌23年からはJ2に参戦している。ホームタウンはいわき市と双葉郡8町村。Jリーグの経営状況データによると、2024年度は売上高14億0800万円、経常利益700万円、当期純利益600万円。

 「スポーツによる人づくり、まちづくり」をミッションに掲げ、社会貢献・SDGsの活動に力を入れているのも大きな特徴だ。

 試合の平均入場者数は右肩上がりに伸びており、2024年は過去最高の4290人だった。そんな好調の同クラブがいま直面している大きな課題がスタジアム問題だ。

 JリーグではJ1からJ3でそれぞれスタジアムの収容人数や屋根の有無などの基準が定められている。

 いわきFCのホームスタジアムであるハワイアンズスタジアムいわき(旧いわきグリーンフィールド)はJ3基準だが、例外規定が認められ、本来より上のクラブライセンスが付与されている(現在はJ1クラブライセンス)。ただ、期日までに本来の基準を満たしたスタジアムを整備する必要がある。J2昇格を見据えてライセンス申請した2022年6月から3年後の今年6月末までに新スタジアムの場所、予算、内容を盛り込んだ整備計画を示し、2027年6月末までに着工、2031年開幕までに完成させなければならない。

 ちなみに、2024年シーズンからは前述したスタジアム基準だけでなく、Jリーグ規約に定められた「理想のスタジアム」の規約の要件を満たしている場合は収容人数5000人以上(全席指定)でも認めるルールに変更されている。

 こうした事情のもと、いわきFCは新スタジアム建設に向けた意見収集と機運醸成に努めてきた。2023~24年度には、スポーツ庁「スタジアム・アリーナ改革推進事業」の実行団体に採択され、「Iwaki Growing Up Project(IGUP=新スタジアム検討委員会)」を立ち上げた。この間、市民(子どもたち=ユース委員を含む)を交えて検討し、①まちの構造を変えるスタジアム、②常に時代の先をゆく可変的スタジアム、③教育・学びを支えるスタジアム、④人が集い「偶然の出会い」が生まれるスタジアムという4つのビジョンをまとめ、市内で冊子として配布した。

 3月28日には、いわきFCが4つのビジョンに基づき検討した結果、建設予定地が小名浜地区に決定したことを発表した。小名浜地区に決めた理由については、前出「理想のスタジアム」の要件(アクセス性に優れていること=交流人口が多い施設に隣接していることも含まれる=など)を満たしていることに加え、▽人が集まりやすくて経済効果が高い、▽まとまった面積の土地が取得できる、▽いわき・双葉郡の象徴でもある海が見える場所――などの要素を総合的に判断した。今年8月7日に小名浜港と常磐自動車道をつなぐ自動車専用道路「小名浜道路」が開通し、アクセス性が高くなることも決め手になったと思われる。

 小名浜地区在住で前出・IGUPにも参加していたローカルアクティビスト(地域活動家)の小松理虔さんはこのように語る。

 「市の都市計画や人口動態の見通しなどを踏まえると、自ずとスタジアムが建設できる場所は限られる。その中でも、イオンモールいわき小名浜やアクアマリンふくしま、9月に道の駅になる『いわき・ら・ら・ミュウ』などが立地し、地方のスタジアムとして人を集める可能性にあふれた小名浜地区に決めたのだと思います」

 場所は同市小名浜地区のふくしま海洋科学館「アクアマリンふくしま」西側の駐車場周辺。土地の所有者は県で、敷地面積約2・8㌶。名称は「IWAKI STADIUM LABO(いわきスタジアムラボ=仮称)」。収容人数8000~1万人を想定している。

 スタジアムはスタンドで4面を囲まず2面に集約する。臨海道路1号線が走る側にビルディング棟を設け、ホーム戦が行われる年間20日以外の日も住民に活用されるように、さまざまなテナントの入居を検討する。アウェーサイドにもスタンドを設けず、多目的広場として活用する。

 大倉社長は記者会見で総事業費の具体的な数字を明かさなかったが、5月24日に開かれた住民説明会では「8000人規模のスタジアムを造るとなると最低80億円はかかる」と目安を示した。

冷ややかな市民の反応

 今後は前述の通り、6月末までに整備計画をJリーグに提出し、基本設計を策定しつつ総事業費を確定。特別目的会社を設立し、金融機関から資金調達する流れになるという。

 市内の経済4団体(いわき商工会議所、いわき地区商工会連絡協議会、いわき経済同友会、福島県中小企業家同友会いわき支部)は市に対し、「民間主導・行政支援」の原則のもと、官民連携で進めるように要望書を提出。いわきスポーツクラブ(いわきFC)の理念に共感する市内団体で構成される「スポーツによる人・まちづくり推進協議会」でも官民一体となってスタジアム建設を強く推進していくことが決議された。

 5月21日には、市、いわき商議所、いわきスポーツクラブ、IGUPが共同記者会見を開き、市が①小名浜港周辺エリアの価値向上に向けた可能性調査の実施、②企業版ふるさと納税等の活用、③庁内のプロジェクト推進体制の構築などを進める方針を示した。

 もっとも、市民の反応は思いのほか冷ややかだ。5月24日に開かれた住民説明会の質疑応答では「防災面の課題や電波障害など建設前にしっかり調査してほしい」、「ハワイアンズスタジアムいわきでは周辺で違法駐車が横行し近隣住民が困っている。駐車場の整備は怠らないでほしい」、「年商10億円のサッカークラブがこの規模のスタジアムを新設して維持できるのか。行政からの財政支援も受ける考えなのか、詳細に示してもらえないと判断できない」など厳しい意見が相次いだ。

 特に民間事業に対し、行政が財政支援することに懸念を示す声が多い印象を受ける。

 本誌2024年12月号でJR湯本駅前の再整備事業を取材した際、周辺住民からは新たにできる交流拠点施設について「JRいわき駅前にある再開発ビル『ラトブ』の二の舞になってはいけない」と引き合いに出す人が多かった。同ビルはいわき総合図書館やいわき産業創造館など市の施設が入居し、建設時に多額の公金が投じられたことでその費用対効果を問う声があった。スタジアムへの行政支援に関しても同様に捉える人が多いのかもしれない。

 市では減少する人口規模に合わせて老朽化する公共施設を削減する方針を示しており、市民は公共サービスの低下を覚悟しながら、市全体が縮んでいくのをひしひしと感じている。だからこそ、官民挙げてサッカースタジアム建設に突っ走る姿勢に警戒感を抱くのだろう。

 実際、地方のサッカースタジアム整備計画は建設費をめぐり頓挫している事例も少なくない。IGUPの座長を務めた日本女子体育大学の上林功教授(スポーツマネジメント、スポーツ産業論、スポーツ施設論)によると、スタジアム・アリーナ整備の構想は全国に100件前後存在するが、実際に着手できているのは40~50件程度に留まっている。

 一例を挙げると、北九州市は約100億円をかけてJクラブギラヴァンツ北九州のホームスタジアム(J1基準)を建設した。ところがその後、成績不振でJ2からJ3に降格、観客動員や利用状況が低迷し、市が厳しい経営を余儀なくされた。

スポーツビジネスの最前線


 こうした厳しい現実もある中で、いわきFCはどのようなスタジアムを目指していくべきなのか。

 最近建設されたスタジアムの中で注目を集めているのは、昨年10月に開業したJ2「Ⅴ・ファーレン長崎」のホームスタジアムを核とした複合施設「長崎スタジアムシティ」だ。同クラブの親会社・ジャパネットホールディングスが総事業費約1000億円(実際は1200~1300億円と囁かれている)をかけて整備し、昨年10月に開業した(巻頭グラビアページ参照)。

 4月下旬、長崎といわきFCの試合観戦を兼ねて視察に訪れた際に感じたのは、立地・交通アクセスの良さだ。JR長崎駅から徒歩約10分。路面電車を使えば約3分。とにかく公共交通機関が充実しているので、試合前の交通渋滞がほとんど起きない。坂が多い長崎市の一等地に広いスタジアムを建設できたのは、同クラブがスタジアム建設を検討しているとき、たまたま市内の三菱重工長崎造船所幸町工場が閉鎖され、跡地問題が浮上したためだったという。

 併設されている商業施設には食品スーパーやドラッグストア、飲食店などが入居しているので、試合がない日も買い物や食事に訪れる人が多い。敷地内は7時から23時まで入場できる。おそらく自治体所有ではここまで自由なスタジアム運営はできないだろう。

 ホテルやフードホール、サウナなどからスタジアムを一望できるなど、サッカーファンの心をつかむポイントが随所にあり、会員登録すれば使える無料ワイファイ、独自のスタジアムグルメ、並ばずに入れるトイレなど快適さも充実。スポーツビジネスの最前線と感じた。

 ただ、同クラブを発足時から追い続けている地元スポーツライターによると、全てが想定通りのわけではないようだ。

 「天然芝の管理などあらゆる面で当初の想定以上の費用がかかっているため、ジャパネットホールディングスでも困惑しているようです。試合がない日は基本的に人出がなく、食品スーパーがにぎわっているぐらい。スタジアムに併設されたホテルは1人1泊2~4万円するので、稼働率もそれほど高くない。昨年、J1に昇格できなかったことも誤算だったと思います。ただ、髙田旭人社長は一流のスポーツエンターテインメントを提供して楽しんでもらうためなら、多少の損失は惜しまない性格。当面はこの路線を継続していくと思います」

 大企業一社が負担してスタジアムを整備するのも簡単ではないということだ。

 中心市街地との連携も課題だ。サッカーの試合が終わった後は打ち上げで市内の繁華街・思案橋などがにぎわっているのかと思いきや、長崎市中央地区商店街連合会の本田時夫会長(梅月堂社長)によると「ホテルや飲食など長崎スタジアムシティ内の施設で完結してしまい、中心市街地への回遊がないことへの懸念がある」と言う。

 「市や商店街が連携して、長崎ならではの食文化や夜の楽しみ方を提案し、中心市街地へ誘導するための具体的なプロモーションを行っていこうと考えています」(本田会長)

 スタジアムのにぎわいが、中心市街地のにぎわいにはつながっていないようだ。この問題は、スタジアム建設予定地である小名浜地区と、中心市街地である平地区が離れているいわき市にとっても他人事ではない。

 前出・上林教授は「重要になるのが『スタジアム単体で利益を出すのではなくまち全体の利益につなげる』という考え方です」と話す。

 「スタジアムなどを中心に、施設の多機能化や民間活力導入、街なか立地、周辺エリアのマネジメントなどに取り組んでいくことを『スマート・ベニュー』と呼びます。近年はさらに、まちの既存の施設と連携し、スタジアムを拠点にまちづくりを進める『スポーツ・コンプレックス』という考え方が示されており、国が新たに推進しようとしている。イオンモールやアクアマリンふくしまなどと連携することになる小名浜地区のスタジアムは、スポーツ・コンプレックスの第一号にふさわしい事例だと考えています」

いいとこどりを目指せ


 上林教授が「いろいろヒントになる事例」と話すのはアシックス里山スタジアム(愛媛県今治市)だ。同スタジアムはJ2FC今治のホームスタジアムで、元日本代表監督の岡田武史氏がオーナーを務める。

 同スタジアムは民設民営で約40億円という低コストで建設されたこと、将来を見据えて拡張性・更新性の高いユニットスタンドやコンテナショップを活用していることなどで注目されている。加えて上林教授が評価するのは「ライブビューイングを楽しめる仕組みが徹底されていること」だ。

 「アシックス里山スタジアムは里山の上に建設されているのですが、目抜き通り近くの広場にも大型ビジョンが設置され、試合の日はキャンピングチェアーに座って観戦する姿が見られた。スタジアムで試合を見られない人のため、ライブビューイングを楽しめる環境を整えるのはいわき市でも大きなポイントになると思います」

 上林教授は地元紙などで、広島県が事業主体で事業費約286億円のエディオンピースウイング広島(広島市)を「周辺の公園などと一体で整備されたという点で、いわきFCの参考になるのではないか」とも指摘していた。いわきFCが目指すべきは長崎、今治、広島、3つのスタジアムのいいとこどりのスタジアムということになりそうだ。

 今後の課題の一つに駐車場問題が挙げられる。新スタジアムの建設予定地はもともと駐車場として使われており、スタジアムが建設されれば観光客が集まる小名浜地区から数百台分のスペースが〝消滅〟する。地権者である県からは、代替となる駐車場を確保することが条件として示されているという。建設予定地周辺では三菱ケミカル小名浜工場、新菱いわき工場が2年後の3月末までに順次営業終了し撤退する方針が発表されたが、それらの敷地を駐車場として活用できるのか、それとも他に適地を見つけられるのか。

 もう一つの課題は交通問題だ。どんなにサッカーが好きな人でも、気軽に観戦に行けないスタジアムは自然と足が遠のく。

 観客全員が新スタジアムまで車で向かえば、平地区と小名浜地区を結ぶ鹿島街道(県道26号小名浜平線)が大渋滞になるのは必至。専用の公共交通機関を新たに運行するか、「地元住民は泉から小名浜産業道路を通るルートを推奨してはどうか」(小松理虔さん)など、何らかの対策を講じる必要がある。

 上林教授は「自動運転の公共交通機関も視野に入れながら、湯本駅などとうまく連結する仕組みを作ることで各地区の連携体制が構築できるのではないか」と提言する。

 JRいわき駅がある平地区とスタジアムができる小名浜地区を一直線に結ぶのではなく、近くの駅に接続してはどうかというわけ。宿泊施設が少ない小名浜地区と、常磐湯本温泉に近いJR湯本駅をつなげることで宿泊者増につながるメリットもありそうだ。

 「国はコンパクトシティを公共交通ネットワークで結ぶ『コンパクト・プラス・ネットワーク』というまちづくりを推進しています。小名浜地区と湯本駅を公共交通機関でつなげる構想はそうした方針にも合致するはずです」(同)

 もともとハワイアンズスタジアムいわきがあった湯本地区と、新スタジアムができる小名浜地区がつながるという意味では興味深いが、果たして試合以外の日にどの程度利用者がいるかは不透明であり、今後さらなる議論の余地があろう。

協力企業を集められるか


 スポーツ庁に提出した計画書によると、いわきFCは新スタジアムの収入の半分以上をスタジアム利用料やテナント収入で賄う予定。

 スタジアムの施設に関しては、経済人や市民の間でどんな施設を入れるべきかいまから議論が交わされている。現在建て替えが検討されているいわき市役所小名浜支所、さらには市などが誘致を表明する防災庁関連施設を入居させてはどうかという大胆な意見も聞かれた。

 前出・上林教授は小名浜には周囲に観光・商業施設があり、連携できるので同類の施設をスタジアム内に整備する必要はないという見解を示す。小松さんも同様の考えで「公共的な場所が入れば、地元の人も気軽に利用しやすくなる。デイサービスや保育園、託児所など日常的な施設、若者がさまざまな挑戦ができる施設が入るのも面白いと思います。ただ、『店舗を出店して利益を追求すべきだ』という人もいるだろうし、今後議論が活発化していくでしょう。いずれにしても、スタジアムができて、それによってまちをどう発展させていくのかが重要であり、住民がしっかり意思表示していくべきです」

 長崎視察で衝撃を受けた本誌としては、サッカーファンが魅了され、全国から足を運びたくなるスタジアムに期待したいところ。

 そのためには、ジャパネットホールディングスほどではないにしろ、いわきを代表する企業や県内上場企業から、いわきFCと一緒の夢を見る出資者をどれだけ増やせるかが鍵になる。2022年度のいわき市のGDPは1兆3816億円。小名浜地区にできるスタジアムであっても、いわき市・浜通りにとって有用な施設になる、ということを強調し、理解を得る必要があろう。

 これから計画がより具体的になっていくにつれて、協力したいという出資者やファンが増えていくことが予想される。そうした点で気になるのが、今季のいわきFCは開幕から負けが込んでいること。5月25日現在の順位は20クラブ中19位(J3自動降格圏)。いわきFCは「スポーツによる人づくり、まちづくり」を重視してクラブ運営に取り組んでいるとは言え、スタジアム建設に向けて動き出したタイミングでの降格は避けたいはず。そういう意味ではシーズン後半の選手たちの奮起が大きなポイントになる。

 なお、4月26日にはJ3福島ユナイテッドも福島市内に新スタジアムを建設する意向を示した。8月末ごろに構想を発表する予定。果たしてどのような計画になるのか、こちらも併せてウオッチングしていく。

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