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【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?

【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?

 町営大平山霊園の改修費用を地縁団体(町内会や自治会のような組織)である大字請戸区が負担して進めようとしていたことが分かり、一部住民が反発している。背景には複合災害被災地ならではの事情がある。

申し出認めた町の対応に住民反発

 東日本大震災により浪江町では182人が死亡し、441人が原発事故関連死として認定された。

 請戸漁港が位置する請戸地区では、津波により死者95人、行方不明者24人の人的被害が発生した。同地区は住宅などの建築を制限する災害危険区域に指定され、住民は地区外への移住を余儀なくされた。

 その請戸地区の住民により運営される地縁団体・大字請戸区について、複数の住民から本誌編集部に電話が寄せられた。

 その内容は「大平山霊園の改修工事を大字請戸区の負担で行うのはいかがなものか」というものだ。

 大平山霊園は津波で流失した墓地を再建するため、2015年に町が整備した。約400区画あり、請戸地区をはじめ、沿岸部に位置する両竹・中浜地区の住民が区画利用者となっている町営の霊園だ。

 にもかかわらず、なぜか大字請戸区が発注者となる形で、霊園内に敷かれている玉砂利撤去と石板整備を実施しようとしているというのだ。

 町建設課に確認したところ、電話で指摘されたことは事実であり、改修工事は大字請戸区の申し出により進められることになったという。

 「『将来的な団体解散に向けて、資金を整理したい。こちらの負担で工事を行わせてほしい』と打診がありました。検討した結果、利用者の利便性向上につながるし、問題はないと判断し、道路管理者以外が工事を行う『承認工事』として進めることを認めました」(町建設課)

 実は、大字請戸区では昨年3月に開かれた総会の時点で《大平山町営霊園の墓地周りと先人の丘(請戸地区共同墓地跡に整備された鎮魂の広場)の大字関係碑の周りの歩道を、車いすでも通れるように町へ要望する。又は、大字予算で施工する》とする議題を承認していた。

 町議会6月定例会の一般質問では、請戸地区を地盤とする高野武町議がこの件について質問し、町建設課長は「国の補助を受け工事した。原則10年は改修して形状や機能を変えてはならないことになっている」と答弁していた。

 ところが関係機関などに確認したところ、「全面改修でなく、第三者が一部改修する分には問題ない」という解釈だったため方針転換。前述の通り、「承認工事」として進めることになった。

 昨年11月には町建設課が区画利用者に向けて、請戸行政区(大字請戸区)が改修工事を行う旨をファクスで周知。ここで事実が広く知られることになり、町議会12月定例会の一般質問では佐々木茂町議が「執行部への質問ではない」としながら、この問題を取り上げる一幕があった。

 複数の住民によると、改修工事費用は「先人の丘」の分も含めて約1700万円。昨年には「先人の丘」の草刈りを行うためのロボットを300万円で購入し、町に寄付したという。将来的な解散に向けての清算のためとは言え、町にお金を投じまくっているのだ。

被災地の現状を象徴

 請戸地区に住所を置きながら県外に避難しているという年配女性は憤りながらこう話す。

 「災害危険区域に指定された行政区の住民は、津波で家族や友人を亡くし、故郷に住むことを禁じられた。自宅を自然災害で失ったので、住宅関連の原発賠償もわずかな金額しかもらえない。ただでさえ強い不公平感を抱いているのに、地縁団体のお金も町のために使われるのだとしたら、不満が募るのも当然です。両竹・中浜行政区では解散に向けてすべての現金を分配しているのに、請戸はそのように対応しようとしません」

 こうした声を大字請戸区はどう受け止めるのか。区長に電話で問い合わせると「総会で承認され、ほぼ全員が賛成したので(疑問の声が出たことに)困惑している。1月中に役員による委員会が開かれるので、そこで取材を受けていいか確認する」と述べた。だが、期日を過ぎても電話はかかってこず、そのまま音信不通となった。

 やむなく別の役員に連絡したところ、「地縁団体の解散を静かに進めたい。一人の反対意見を聞いて報道で騒ぎ立てるのは住民を傷つける行為。記事にしないでほしい」と訴えた。

 役員らの口ぶりからは、「特定の人物にイチャモンを付けられて参っている」という〝本音〟が透けて見えた。ただ冒頭で述べた通り、本誌には複数の住民を名乗る人物から意見が寄せられた。取材拒否するのは自由だが、住民から幅広く意見を聞く必要があるのではないか。

 同町の事情に詳しい男性は次のように分析する。

 「団体などの総会に参加せず、運営に興味も示さないのに、後から決議内容を知り文句を言ってくる人は確かにいる。全国に避難者がいる分、その傾向は強くなっている。また、町内の行政区(地縁団体)は共有地や集会所の原発賠償などで収入増になっているという事情もある。その使い道に困っているところが多く、大字請戸区もやむを得ず町のために使おうと考えたのではないか」

 一方で、この男性は次のようにも指摘する。

 「だとしても、町営霊園の改修工事を地縁団体が担うのはさすがに違和感がある。町が地縁団体に補助金を出すこともあり得るわけで、そうした関係性も考慮し、申し出は断るべきだったと思います」

 複数の住民によると、1月中に行われた委員会で、大字請戸区による改修工事は中止する方針が決められたようだ。

 現住人口ゼロの請戸地区で起きた騒動。ある意味、複合災害被災地の現状を反映していると言えよう。

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