【いわき・湯本駅前再整備】くすぶる異論 遠い合意

 いわき市常磐地区のJR湯本駅前の再整備事業が本格化している。市が土地区画整理の手法を使って駅前に公共施設を集約し、地権者は周辺に用意された土地に移転する。来年度、北側から移転が進む。移転対象者、対象区域外の住民の声をリポートする。

移転対象者、対象区域外の住民の声をリポート

移転のスケジュール(予定)
移転のスケジュール(予定)

 JR湯本駅前の再整備計画は、いわき市が2021年5月に「常磐地区市街地再生整備基本方針」を作り、翌22年10月に「常磐地区市街地再生整備基本計画」を策定し具体化した。常磐地区全体で九つの取り組みがあるが、住民の関心事は、公共と民間機能を併せ持つ施設を造る「交流拠点施設・駐車場整備事業」と、交流拠点施設の用地のために住宅や事業所を換地移転し、道路整備を行う「湯本駅前街区再編・駅前交通広場整備事業」(=土地区画整理事業)にある。両事業とも2030年度に完了を目指す。

 市街地再生整備基本計画策定と同時に公表された2022年時点の概算事業費は、交流拠点施設・駐車場整備事業に約40億円、土地区画整理事業に約20億円。資材費や人件費の高騰から上振れを想定している。国の補助金を活用するという。

 いわき市では老朽化する公共施設を、減少する今後の人口規模に合わせて削減する方針を示している。常磐地区の人口は3万3000人(2020年)から2万4000人(40年)に減少する試算だ。

 湯本駅前では、老朽化する市営住宅天王崎団地が廃止になり、取り壊されて空き地ができたり、空きビルが増えるなど、ところどころ虫食いのように低未利用地が発生。市が区画整理の手法を使って、駅前の公有地と民間所有地を集約する。

 常磐地区では常磐支所と、高台にある体育館、公民館、図書館の老朽化が進んでいることから、駅前に移転・複合化して新たに「交流拠点施設」にする。同施設では、公共機能の他に民間に敷地を売却したり貸したりしてテナントを誘致する。市によると、2026年度中に入札か公募型プロポーザルの形で呼び込むとしている。区画整理に伴い、駅前にある「湯本駅前みゆきの湯公衆浴場」が今年3月末で廃止される方針だ。

湯本駅前の土地利用イメージ

湯本駅前の土地利用イメージ
(出典:いわき市「湯本駅前のまちづくりについて」)

 ある住民は「駅のすぐ近くに公衆浴場がないとね。新しく建物を造っても、金太郎あめみたいな街になってしまう。いわき駅前にある再開発ビル『ラトブ』のコピーになってはいけない」と力を込める。ラトブは民間テナントを呼び込むのに苦慮しており、人気ショップの「無印良品」が移転したことがそれを物語っている。湯本駅前周辺を取材して回ると「『第2ラトブ』になってはいけない」と引き合いに出す人が多かった。市によると、駅前に建設予定の交流拠点施設に温浴施設ができるかどうかは「民間次第」という。

 区画整理の対象エリア地区内の居住人口は6人(2023年4月1日現在)。住宅の他、青果店、福島銀行湯本支店、接骨院、和菓子店などが事業を営む。これら民間地権者の土地は、駅前の道路沿いの「共同利用エリア」と2カ所ある「個別利用エリア」の土地に換地して移るか、市に土地を売って別のところに移るかの選択を迫られる。

移転を迫られる地権者・入居者の迷い

 1976(昭和51)年から湯本駅の目の前で「和菓子の久つみ」を営む久頭見叔子さんは「後継者もいるので店は続けたい。工事の間は仮店舗が用意されるとのことだが、駅のすぐ前ではないし、広さもどうか気になる。(共同利用エリアに建つ見込みの)建物に入るか、別の場所で本店舗を再開するか迷っています」と語る。

 換地先決定と移転契約は2025年度に北側から順次始まる予定。駅前の事業者がスムーズに本店舗で再開できるように、共同利用エリアの構想明確化が必要だ。

 土地区画整理事業エリアの地権者や入居者は直接影響を受けるが、事業エリア外の住民への影響も小さくはない。周辺のある住民は道路の変更に不満を漏らす。

 「区画整理では道路の変更が行われる。簡単に言うと、駅前を通る道路が一方通行になり不便になる。北から駅前に向かう一方通行の『一番町通り』が、交流拠点施設が建つとふさがれるため、右折して駅西側を南北に走る県道に流すための市道を新たに取り付ける。駅側から県道に出入りする道が3本から4本に増え混むのではないか。朝夕は通勤や子どもの送り迎えで、ただでさえ混むのに」

 駅前にあった駐車場が県道を挟んで西側に移動し、交流拠点施設や駅から遠くなるのも不満だ。

 駅前で洋菓子店を営む長岡裕子さんは支所機能を持ってくることに懐疑的だ。

 「交流拠点施設と言っても、支所などの役場機能が主。土日に閉まる施設を駅前に持ってきて意味があるのか。常磐支所は震災後に多額の費用を掛けて耐震化したばかり。駅前は大雨が降ると、浸水しやすい。湯本川に排水するが、追い付かないとすぐにあふれ、駅前のある店舗では土のうを積み上げて浸水しないようにしている。2023年夏の大雨でもあふれた。防災面でも問題があると思う」

 市が行う土地区画整理事業は、県都市計画審議会の審議を経て県の事業認可が必要。湯本駅前の土地区画整理事業は昨年9月、福島市で審議があり、長岡さんを含む周辺住民3人が疑義の立場から意見陳述した。加えて住民ら当事者から122件の意見(意見書15通)が提出され、このうち17件が審議された。

 陳述者からは、前述の水害対策を施したり、道路変更の再考の他、住民の意見を集約して市に上げるまちづくり団体「じょうばん街工房21」から企業への委託プロセスが「不透明」という指摘があった。意見はいずれも賛成1人のみで不採択。事業は昨年10月に県の認可を受けた。多数の意見が出されたこと、加えていわき市から福島市まで、はるばる3人が来て意見陳述するのは異例のこと。合意という点ではまだ足りないと言える。

 合意形成について、まちづくり団体「じょうばん街工房21」の小泉智勇会長(㈲マルテツ社長)にコメントを求めたところ、メールで寄せられた。

 「区画整理事業に関する合意形成は、いわき市にしかできません。地権者の移転、保証、など私たちでは関わることができません。ただ、この市街地再生整備事業は、これまで、まちをまもってきた地元の事業者が、涙をのんで、つくりあげる事業でなく。地元によりそった再開発でなければならず、そこに関しては、先日の配布の要望書の内容にも書かせていただいていることです。街工房は、この事業が始まりだした時に、多くの方々と議論して作り上げてきた過去20年間、まちづくり計画に携わってきました。それの見える化を行い、まちの理想を見える形につくりあげました。その後、いわき市は基本概念、基本計画、ビジョンブックを作り上げ現在に至ります。もちろん、基本概念や基本計画は、いわき市が勝手につくったものではなく、まちづくり団体や、商店会や、地域団体など議論しながら作成したものです。基本計画と見える化で作成したものと現状のギャップを埋める作業を、行政と地域住民と街工房が敵対視するのではなく、同じ方向を見据えられるように対話しつづける努力をしていきます」

 移転を迫られる地権者・入居者か、どの団体に所属するかで再整備計画に望むことは異なるし、財産の保障という点で優先順位も変わる。そもそも合意形成はできるのかという問題もある。土地区画整理事業は公共的側面が強いので、関係者は異論を出し合い、市とまちづくり団体は住民の意見を聞く姿勢を持ち続けることが重要だ。

伝わっていなかった「みゆきの湯」廃止

3月末で廃止の方針が示された
「みゆきの湯」
3月末で廃止の方針が示された「みゆきの湯」

 湯本駅前の土地区画整理事業に伴い、前述のように「みゆきの湯」は今年3月末で廃止される方針だ。市議会の昨年12月定例会の政策総務常任委員会で審査され賛成多数で可決された。商店会からは廃止条例案取り下げを求める請願が付託されていたが、みなし不採択となった。

 市は昨年3月に「いわき市温泉事業等経営戦略」を公表し、湯本駅前に三つある公衆浴場について、廃止や民間譲渡を検討していた。本誌2024年5月号記事「過渡期を迎えた公設温浴施設 いわき編」では、この問題についてリポートした。以下、抜粋する。

 経営戦略では、3つの公衆浴場は廃止や民間譲渡を検討することとされているのだ。

このうち、上の湯は常磐湯本財産区の時代に廃止が決定しており、2028年度まで運営して以降は廃止される。

 (中略)

 さはこの湯は、今後、民間譲渡が検討されるという。現在、同施設はキョウワプロテックが指定管理者になっているが、経営戦略策定時の市からのヒアリングに「仮に、公衆浴場施設の譲渡の話があれば、運営権を引き継ぐ意思がある」旨の回答をしている。

 みゆきの湯は、今年度から2030年度に渡り「いわき都市計画事業湯本駅周辺土地区画整理事業」が実施されるが、そのエリアに含まれている。それに伴い、2025年度中に一時解体されることになる。その後についてはまだ決まっていないとのことだが、収支状況などを考えると、再建設するのは現実的ではないと思われる。

 つまり、上の湯は廃止決定、みゆきの湯は土地区画整理事業との兼ね合いで未定、さはこの湯は民間譲渡というのが基本的な方針になる。

 リポートでは、上の湯の常連利用者や周辺住民の声も紹介した。

 常連の男性利用者は、記者の「この施設は数年後に廃止になるそうだが」との問いかけに「え? なくなるの? いつ?」と困惑した様子。そのうえで「それは残念だね。無くしてほしくないよね」と話した。

 一方、近隣に住む女性は次のような思いを明かした。

 「当然、家にお風呂はあるけど、結構な頻度で通っています。特に、冬場は時間が経ってもポカポカしてよく眠れる。市内でも、平や小名浜、四倉など、遠くから来る常連客もいて、みんな『なくさないでほしい』と言っています。管理・運営などが大変なのは分かりますが、『温泉のまち』なのだから、こういった施設は存続させてほしかった」

 別の近隣女性によると、「一人暮らしの高齢者にとっては、1日中家に1人でいると良くないからと、談笑目的で来る人もいる。そういう側面もあるのだから、やっぱり存続させてほしい」という。

 みゆきの湯にも同じような思いを持つ常連利用者がいただろう。

 みゆきの湯の存続は「未定」だったが、再建設が現実的でない以上、廃止は既定路線となっていた。

 昨年12月、廃止条例案提出が話題になっていたタイミングで周辺住民に話を聞いたところ、昨年4月に取材した時と同じように「聞いていない」「土地区画整理後も駅近くに温泉はほしい」という声が多く上がった。市は昨年3月に廃止や民間譲渡の方針を示しており、説明したつもりになっているのだろうが、廃止が現実的ということは伝わっていなかったようだ。  

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