只見町三セク「季の郷 湯ら里」の増資案に賛否両論

只見町三セク「季の郷 湯ら里」の増資案に賛否両論

 只見町の温泉宿泊施設「季の郷 湯ら里(ときのさと ゆらり)」は、主に町が出資する第三セクター・株式会社季の郷湯ら里によって運営されているが、近年は厳しい経営状況が続いている。そんな中、10月には資金ショートの可能性があるとして、町が増資に踏み切った。

問われる公設温泉施設のあり方

 「季の郷 湯ら里」は宿泊と日帰り入浴が可能な温泉施設を中心とした多目的交流施設で、1996年にオープンした。最初の2年間は町直営で運営されてきたが、1998年に主に町が出資する第三セクター・株式会社季の郷湯ら里が設立され、以降は同社が運営を担っている。

 同町議会は2018年に「交流施設に係る調査特別委員会」を設置し、同施設に関する提言を行ったのだが、そこに同施設の生い立ちが記されているので紹介したい。

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 平成5(1993)年11月16日、深沢地区に温泉が湧き出た。これが交流促進センター立ち上げの始まりであった。この頃社会は、バブル景気の崩壊により、景気低迷に陥っていた。当時、貿易の自由化が世界のなかで進められ、日本でも農業分野における市場開放も対象となり、「米」の輸入が大きな課題となっていた。農業の中心となる「米」の輸入は、 米農家に対し大きな脅威に感じ取られていた。このため、細川内閣は、事業費6兆0100億円、国費2兆6700億円のウルグアイラウンド農業合意関連国内対策事業費を予算執行した。しかし、予算の5割強は、土地改良事業などの公共事業など、農業農村整備事業に用いられ、日本の農業強化にはならなかった。

 交流促進センターは、こうした国の整備事業を活用することで町の負担軽減を図りながら進められた。また、この頃の只見町では、人口6000人を割り込み、若年人口の減少とともに高齢化が進み、過疎化への危機意識の高まりも事業推進の背景にあった。また、柏市との交流都市締結や観光の国内志向などを理由に交流人口の増加を契機とし、「若者の定住、Uターン」を目標に交流が施設の中心となり、事業規模、内容が固まり、平成6(1994)年、町は、『都市と農村を結ぶ活性化の拠点』として、交流施設「季の郷 湯ら里」を建設した。その後は、2年間の町営(直営)から第3セクター「株式会社季の郷湯ら里」により運営が続けられている。

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 併せて、同特別委は以下のような提言を行った。

 ①経営管理体制の見直し

 代表取締役の変更をはじめ、社外取締役の導入など経営体制の強化を図り、責任の所在を明確にする組織体へと編成を見直すこと。また、経営の透明性を確保するため、収益部門と公益部門を明確にした交流施設特別会計を設けること。

 ②経営安定化を見据えた施設更新・整備

 まちづくりの中心的な拠点として位置づけ、必要となる施設機能整備を進める。具体的な機能等については、大規模な個室の増設とリニューアルを実施し、宿泊収容能力の拡大を図ること。

 ③周辺の滞在拠点の整備

 後述する観光政策との連携を踏まえ、亀岡スポーツパーク、比良林つつじ公園、会津ただみ考古館等周辺施設における取り組みは観光のみならずさまざまな交流機会に繋がるものである。こうした活動との関わりについて、只見町の特徴を創り出す視点から整備を推進すること。

 ④官民一体によるまちづくりの推進

 今後の只見町がより魅力的な町として維持、発展していくために、限られた資源を最大に活用すべく、官民が一体となりまちづくりに向けた具体化を図る。具体化に向けては、「只見まちづくり推進会(仮称)」の設置下で進める。人選については、住民への理解や透明性を確保する観点から、自薦他薦を含め、やる気のある中堅若手を中心に参集する。なお、推進するにあたり、外部から専門家等を招聘して、実効性を追求すること。

 ⑤将来の環境変化を見据えた観光政策の策定

 まちづくりを進めていくにあたり、まち全体の観光政策が重要になることはいうまでもない。過去経験のしたことがない変化を迎えることになるはずである。地元経済の視点からすれば、千載一遇のチャンスともなりうるものである。こうした観点から、地元経済に資する政策と持続可能なまちづくりに向け、全体を包含しつつ、実現可能な政策を取り纏めること。

 同特別委の調査報告書がまとめられたのは2019年3月。この時点で湯ら里は厳しい経営環境にあり、だからこそ、そうした提言がまとめられたわけだが、周知のようにその後はコロナ禍に見舞われた。同社(同施設)のような観光・宿泊業はもろにコロナ禍の影響を受け、ますます厳しい経営環境になった。

資金ショートの危機

季の郷 湯ら里
季の郷 湯ら里

 同社の昨年4月〜今年3月期の決算報告書によると、当期売上高は2億3500万円、当期純損失額は3885万円となっている(1000円単位切り捨て、以下同)。つまりはそれだけの赤字を計上しているということ。さらに、売上高には「委託及び委託管理料」という項目があり、その金額は5774万円となっている。町に確認したところ、これは指定管理料として町から同社に支出されたもの。金額は年度で違うとのことだが、それだけの金額が町から支払われているのだ。

 民間信用調査会社のデータよると、近年は売上高は増加傾向にある。といっても、コロナ禍で落ち込んだ分が徐々に戻っているというのが実際のところだろう。民間信用調査会社のデータでは一部不明なところはあるものの、コロナ禍以降は毎年のように当期純損失(赤字)を計上している。

 そんな中、今年10月には資金ショートの可能性が浮上した。そこで、町は10月10日に臨時議会(※只見町議会は通年議会を採用しているため、正確には「10月会議」だが、この稿では一般的な呼称となっている臨時議会と表す)を開き、増資案を提案した。

 同社の登記簿謄本によると、発行可能株式総数は1600株、発行済株式総数は864株、資本金は4320万円となっている。町の提案は736株、3680万円の増資案で、これが認められると発行済株式は1600株となり、定款で定める発行可能株式総数いっぱいとなる。つまりは、定款を変えない限り、これ以上の増資はできないというラインである。

 臨時議会に先立ち、全員協議会が2回開催され、協議・意見調整を行ってきた。そのうえで臨時議会が開かれたのだが、議員からは厳しい指摘が多数あった。以下は「議会だより」(No.181、今年10月17日発行号)より。

 質問 経営改善案が不十分ではないか。

 答弁 主たる要因ではない経営分析も見受けられる。実行可能で理解が得られる内容に改訂が必要である。

 質問 今までの経営改善策は。

 答弁 様々なことを実施してきた。経営面を重視するのか、町民の福祉の向上を重視するのか方向性を出していかなければならない。

 質問 町が考える第三セクターの指針とは。

 答弁 先述した2つの側面は交わるものだと考える。町外との交流が伴って一緒にやっていく考えである。親方日の丸では持続できない時代である。

 臨時議会では、当日の上程議案とは少し話が逸れるが、累積赤字の問題について言及する議員もいた。今年3月期の決算報告書によると、負債の部の合計は1億1532万円となっている。この分について、町から「今後、議会と協議して……」といった発言があった。

 つまり、町としては「今回(臨時議会)は、10月末に資金ショートの可能性があることから、早急な対策として増資案を提案したが、累積赤字の補填についても、今後協議させてほしい」ということだ。

 同日の臨時議会で出された議案とは、直接的に関係がないことから、その件について詳細は出なかった。ただ、町は「それ(累積赤字の補填)が最後で、承認してもらえるなら、あとは湯ら里に結果で示してもらうしかない」といった考えを持っていることがうかがえた。

 質疑が出尽くした後、討論が行われ、賛成討論を1人、反対討論を3人の議員が行った。その後、採決が行われ、賛成6、反対4で増資案は可決された。10月末に資金ショートの可能性があるとされていたが、それを回避したことになる。

 今回の件を受け、ある町民は「町がお金を出すのはいい。だけど、それで湯ら里の経営状況が好転するのか。その部分を、希望的観測ではなく、シビアな話として捉えなければならないと思う」と話した。最大のポイントはそういうことだろう。

新社長に聞く


 ところで、株式会社季の郷湯ら里は、町が大部分を出資していることから、社長には歴代の町長が就いていた。とはいえ、町長には町の公務があるから充て職に過ぎず、支配人を中心とした従業員が現場を取り仕切るという実態があった。ただ、前段で紹介した議会特別委の報告書にもあったように、厳しい経営状況の中、そのような体制では好ましくないから、代表取締役の変更、社外取締役の導入など経営体制の強化を図るべき、といった指摘が以前からあった。

 そんな中、昨年5月、渡部勇夫町長が社長を退任し、新たに民間から社長を迎えた。新社長は同町内で株式会社会津工場を経営する鈴木直記氏。鈴木氏はもともと湯ら里の取締役に就いていたが、請われて社長に就任した格好だ。同社が設立されて以来、初めて町長以外の人物が社長になった。

 鈴木社長にコメントを求めると以下の回答があった。

 ――「季の郷 湯ら里」は経営的になかなか難しい状況にあると思いますが、その中で社長を引き受けた理由は。

 「2024年春に現町長から社長職の打診がありました。季の郷湯ら里は只見町を代表する宿泊、イベント施設であり、町の観光産業のリーディングカンパニーです。その施設が経営難に陥っており、もしもこの施設がなくなれば町全体が大きく疲弊すると考え、困難な道のりであることは覚悟の上、社長を引き受けました」

 ――社長として1シーズン(1決算期)を終えましたが、手ごたえと課題は。

 「私自身、観光業の経験はゼロであるため、何をどうすれば経営が改善するのかは手探りの状態からのスタートです。ただ言えることは、売り上げの最大化と経費の最小化なので、まずは付加価値を生まないバックオフィスの業務を最小化する活動を行っています。今までは旧態依然とした業務内容で手書きの帳票が多かったのですが、DX化を進め手書き帳票を廃止し、業務80%低減を目標に業務改善に取り組んでいます。また、売り上げの最大化に向けてはPDCAを意識し、戦略を立て実行しその検証をして次の作戦を企画する活動を続けています。ただ、この活動は経費と時間も掛かるので一時的に赤字が増え経営は悪化しています。第三セクターということもあり、今までは社員も攻めの経営をして来なかったので、チャレンジ活動という意識に乏しく戸惑いも多かったのですが、1年実行してきて社員の意識も変わりつつあります」

 ――今回の増資を受けての成算。

 「議会では否定的な意見も多くありましたが、議会や町民に納得してもらうには結果を出すしか道はありません。退路は断たれております。独り立ちするには数年かかると思われますが、1年かけて会社が変わって来ている手ごたえも感じておりますので、必ず成果を出します」

 いまは「高く飛ぶための屈伸」の時期で、これを乗り越え必ず結果を出すとの意気込みを語ってくれた。

町民が納得できるか


 一方、町によると、今後、詳細な経営改善計画を出してもらい、議会とも共有しながらサポートしていく考えを示した。
 本誌昨年3月号に「過渡期を迎えた公設温浴施設」という記事を掲載した。近年、県内では公設温浴施設を廃止したり、民間譲渡して存続を図ったり、あるいは再度温泉掘削をしてリニューアルし、さらなる誘客を目指している事例などを紹介した。自治体によって対応はさまざまだが、同記事で取り上げた事例は、いずれもオープンから30年程度が経ち、変革期を迎えていたという共通点があった。

 只見町のケースも同様と言える。理想は、町からの支出がなく経営ができること。かつてはそんな時代もあり、むしろ利益の一部を町への寄付という形で還元したこともあったという。現状、そこまでは望めないだろうが、要は「町民が納得できるかどうか」だ。

 町内では「町民福祉の向上や憩いの場としての役割を果たしているから、ある程度の町の持ち出しは仕方がないのではないか」といった意見も耳にした。ここで言う「ある程度の持ち出し」がどのくらいの金額なのか、いくらまでならOKで、いくら以上になったら「だったらほかの事業に回してほしい」ということになるのか。その辺は人によって違うだろうが、いずれにしてもこの問題の最大のポイントは、町の支出に対して「町民が納得できるかどうか」に尽きる。

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