首相官邸で除染土再利用の裏事情

朝日新聞(オンライン版、4月22日配信)は、「福島県外での除染土再利用事業、環境省が終了 反対で運び込めず」との見出しで次のように報じた。
東京電力福島第一原発事故後の除染で出た土(除染土)を首都圏3カ所の花壇などで再利用する実証事業について、環境省が昨年3月に終了させたことが分かった。国は2045年までに除染土を福島県外で処分すると約束しており、その足がかりになる事業だったが、地元の反対で土を運び込めなかった。
福島県内の中間貯蔵施設にある東京ドーム11個分の除染土について、国は4分の3を全国の公共事業で再生利用する方針。環境省は22年末、そのための実証事業を埼玉県所沢市、東京都の新宿御苑、茨城県つくば市の国立環境研究所で行うと発表した。大手建設会社などで作る組合が約5億4000万円で受注し、トラック数台分の土で芝生広場や花壇などを作る予定だった。
だが、反対運動にあい、同省は組合との契約を2度延長し、昨年3月末で終えた。担当者は「県外3カ所の実証事業を工期内に進めることが困難になったため」とする一方、「契約は終わったが計画自体を断念したわけではない」と説明している。
除染作業により発生した汚染土壌、いわゆる「除染土」は、双葉・大熊両町に設置された中間貯蔵施設に運び込み、これを30年間(2045年3月まで)、適正管理した後、県外で最終処分することになっている。その量は1400万立方㍍に上るが、環境省は管理する土壌の容量を減らし、県外での最終処分をしやすくするため、除染土を道路用資材などとして再利用する方針を示している。
環境省「中間貯蔵施設情報サイト」には「再生利用実証事業」として、南相馬市小高区、飯舘村長泥地区のほか、県外での実証事業関連の情報も掲載されている。県外での実証事業は、2022年12月に首都圏で実施する旨が発表され、朝日の記事にもある通り東京都新宿区、埼玉県所沢市、茨城県つくば市の3カ所が候補地とされた。その後、新宿区と所沢市で説明会が開催され、環境省(中間貯蔵施設情報サイト)のHPには説明会資料・説明会要旨がアップされているが、それ以降の情報は更新されていない。
そんな中、地元住民などからの反対を受け、思うように進められず、実証事業を請け負った事業者との契約を終えたというのだ。過去には県内でも、二本松市原セ地区の市道整備で路床材として用いる実証事業(詳細は本誌2018年7月号でリポート)、南相馬市小高区の羽倉地区周辺で、常磐道拡幅工事の盛り土に使う実証事業(同2019年2月号)などが周辺住民の反対を受け、計画を断念した経緯がある。
その点で言うと、首都圏での実証事業が進まなかったのは考え得ることではあったが、その後、5月22日までに「首相官邸や霞が関の中央省庁敷地での再利用を検討」と、中央紙や地元紙などで報じられた。
県外での除染土再利用に反対の意向を示し、環境省と直接交渉などを行ってきた市民グループ「放射能拡散に反対する会」の関係者は、「首都圏での実証事業が事実上難しくなり、そうした中で首相官邸や霞が関の中央省庁敷地でやろう、ということになったのだろう」という。
一方で、この関係者はこうも話した。
「この件の本質は、汚染土壌(放射能汚染廃棄物)のクリアランスレベルの問題や、安全性の問題、放射性物質汚染対処特措法の解釈を捻じ曲げていることなどで、場所を変えたからいいということではない。ただ、首相官邸や霞が関でやるとなれば、近隣に人が住んでいるわけではないから反対運動は起こりにくい。それが狙いでもあるんだろうけど、問題の本質はいま言ったようなことにあるということは伝えていきたい」
本誌過去記事でも指摘したが、除染土再生利用は管理しなければならない除染土の容量を減らし、それによって県外最終処分をより現実的にするのが狙いとされる。しかし、容量を減らしたところで、最終処分場を受け入れてもいい、というところが出てくるとは思えない。そう考えると、除染土再生利用に意味があるように思えず、まずは県外最終処分の道筋を付けることに全力を注いでもらいたい。
県民健康調査「データ提供」の意義

5月16日に「第55回県民健康調査検討委員会」が開催された。県民健康調査は原発事故を受け、県が県民の被ばく線量の評価などを行うもの。主なものとしては、甲状腺検査、健康診査、こころの健康度・生活習慣に関する調査(ここから調査)、妊産婦調査などがある。検討委員会はこの調査について、専門家から広く助言をもらうことを目的に設置されている。
同日の検討委員会では、甲状腺検査の昨年12月末までの結果が報告されたほか、県民健康調査のデータ提供が議題となった。県では「県民健康調査に関する幅広い研究を促進させ、科学的知見の創出につなげ、県民の健康維持、増進につなげるため、公益性のある研究に対して県民健康調査データの提供を行う」との方針で、そのための制度づくりを進めてきた。
今回、近畿大医学部の今野弘規教授から避難指示区域に居住歴がある人などが対象の「健康診査」と「こころの健康度・生活習慣に関する調査」のデータ提供依頼があり、試験的に提供する方針。これに当たり、自身のデータ提供を拒否したい人がいれば県に申し入れ、その人の情報は除外(オプトアウト)することにしており、現在(5月末時点)はオプトアウトを受け付けている。そうした手続きが済めば、今野教授にデータが提供される予定。
「制度づくり自体は以前からしており、今回、試験的にデータ提供することになりました。今後、改善を経ながら、(第三者データ提供を)本格運用することになります」(県県民調査課)
ちなみに、これまでに県民健康調査検討委員会は55回、同委員会甲状腺検査評価部会は24回開催されており、県県民調査課のホームページでは各回の議事録や配布資料(各種データ)、会合の映像などが公開されている。ただ、ここで言う「第三者データ提供」では、ホームページで公開されている資料(データ)より、さらに詳細なものが提供されることになるという。
こうした方針について、ある識者は「データの取り方自体に疑問を感じることもあるので、それを提供してどんな研究がされるんだろうか、と思ってしまう」との見解を示す。
そうした懸念はあるものの、県民健康調査、特に甲状腺検査の評価については賛否両論ある。そうした中で、県から委嘱された検討委員会だけでなく、第三者がデータ提供を受けて検証できるようになるのは歓迎すべきだろう。