広野町のJR常磐線広野駅東側に「広野みらいオフィス」というオフィスビルが建っている。地上6階、延べ床面積3454平方㍍。清水建設が設計・施工を担当し、関連会社のシミズ・ビルライフケアが運営を手掛けている。
町が新たな復興拠点と位置づけた広野駅東側開発整備事業ゾーンのシンボル施設として整備されたもので、2016年3月に完成。当初は建設、不動産、放射線管理、除染、警備、給食などの事業所、富岡労基署、ハローワーク富岡などが入居し、200~300人が働いていた。
だが、その後、入居テナントは増えず、ビルには常に「テナント募集」という垂れ幕がかけられている。この2月には5~6階に入居していた東双不動産管理(遠藤和人代表取締役会長、今井義人代表取締役社長)が大熊町に移転することになった。
「当社は福島第一・第二原子力発電所の廃炉事業に関する施設の管理・運営を担っており、もともと大熊町に本社がありました。広野町には『仮本社』という形で拠点を置き約70人が勤めていますが、大熊町の復興が進んでいるのに加え、町の方からも産業交流施設『CREVAおおくま』への入居をお声がけいただいたこともあり、大熊町に本格的に帰還することになりました」(同社担当者)
同社では大熊町下野上に東双サテライト事務所を建設し、2月にも新オフィスでの事業をスタートする予定だ。すなわち、広野みらいオフィスの5~6階が丸ごと空きテナントになってしまうわけ。

同ビル1階にはニューヤマザキデイリーストア広野みらいオフィス店が入居しており、東双不動産管理の社員が昼食を購入している姿がみられた。東双不動産管理が移転することで売り上げへの影響はないのか、同店の担当者に尋ねたところ「うちは隣接するビジネスホテル(ハタゴイン福島広野)や広野駅の乗降客の利用が多い。そこまで影響は大きくないと見ている」と述べた。だが、近隣住民からは「もともと利用客が少ない店舗なので、この機会に撤退しても不思議ではない。ただでさえひとけのない広野駅前がさらに寂しくなる」と不安視する声が聞かれる。
ビルを管理しているシミズ・ビルライフケアいわき連絡所に問い合わせたところ、担当者は東双不動産管理の後継テナントがまだ決まっていないことを明かし、「今後も入居を呼び掛けていきたい」と話した。
同ビルの空きテナント問題に関しては広野町復興企画課でも把握しており、企業誘致の問い合わせがあった際やイベントでの「情報提供」を心がけているという。
広野町は福島第一原発20㌔~30㌔圏内にあり、原発事故直後に緊急時避難準備区域に指定され、町の判断で全町避難を促した。緊急時避難準備区域は2011年9月、町独自の避難指示は2012年3月末に解除となった。町内のJヴィレッジが原発事故の対応拠点となったこともあり、原発作業や除染作業関連の事務所が町内に置かれ、一時期は3000人もの作業員が居住していると言われていた。
だが、その後、福島第一原発周辺の自治体で避難指示が解除になったこともあり、広野町に住む作業員は「約1000人にまで減っている」(広野町復興企画課担当者)。
帰還困難区域を抱えていた双葉町や大熊町などが復興まちづくりを加速させており、人や企業の流れもそちらに集中する中、広野町では今後、どのようにまちづくりを進めていくのか。町では引き続き広野駅東側開発に取り組み、企業誘致や造成済みの住宅団地の分譲を町振興の起爆剤にしたい考えだ。