【猪苗代町】副町長・教育長人事「半数反対」の背景

 猪苗代町3月議会で副町長と教育長の人事案が提出され、どちらも議会の同意を得た。ただ、内実は両者ともに半数ほどが反対し、ギリギリで承認が得られた格好。人事案件でそれだけの反対が出るのは異例のことと言えるが、その背景には何があるのかを探った。 

町長選挙時から立場が入れ替わった議員

 3月15日付の地元紙で猪苗代町副町長、教育長人事について報じられた。以下は福島民報「人事消息」記事より。

 《猪苗代町の3月定例議会は14日、最終本会議を開き、副町長に元町企画財務課長の野矢実氏(61)=猪苗代町川桁字曲渕5587=、教育長に同町出身の佐藤隆宏氏(60)=二本松市表1丁目110―14=を新任する人事案に同意した。佐藤氏は二本松一中校長で3月末に退職する。現副町長の渡部昭氏(75)、現教育長の宇南山忠明氏(68)はいずれも任期途中の31日付で退任する。野矢氏の任期は4月1日から4年。佐藤氏の任期は前任者の残任期間で4月1日から9月30日まで》

 この報道を見るだけでは分からないが、実はこの人事案には議員の半数ほどが反対したのだという。

 副町長は賛成6、反対6の同数となり、後藤公男議長の判断で同意、教育長は賛成7、反対5で承認されたのだ。人事案件でそれだけの反対が出るのは異例のことと言えるが、その背景には何があるのか。人事案のため、討論等はなく、すぐに採決に入ったため、その理由は議場では明かされていない。

 本誌が後に関係者に確認したところ、両人事案の各議員の賛否は別掲の通り。なお、佐藤英一郎議員は病気のため3月議会を欠席していた。佐藤議員が採決に加わっていたら、副町長人事は承認されなかった可能性が高いという。

賛否一覧

副町長

賛成反対
長友海夢議員鈴木元議員
山内浩二議員大高佐代美議員
渡部一登議員長澤操議員
星野あけみ議員渡辺真一郎議員
瀧田勝昭議員五十嵐ミエ子議員
関沢和人議員安齋浩明議員

教育長

賛成反対
長友海夢議員鈴木元議員
山内浩二議員大高佐代美議員
渡部一登議員長澤操議員
星野あけみ議員五十嵐ミエ子議員
瀧田勝昭議員安齋浩明議員
渡辺真一郎議員
関沢和人議員


 一方で、渡辺真一郎議員だけが両人事案で違う立場をとっていることが分かる。

 ある関係者によると、「前日に町内の有力者から、『教育長だけは賛成してほしい』と頼まれ、それに応じたため」とのこと。

 この関係者は「まあ、いろいろと付き合いがあるのだろうから、それ自体(渡辺議員が有力者の頼みに応じたこと)はいいとしても、その背景がおかしい」と話す。

 「議員らは(本会議最終日)前日の3月13日の全員協議会で、執行部(二瓶盛一町長)から、『明日の本会議で追加議案として副町長と教育長の人事案を出す』旨を明かされたそうです。その時点では『副町長・教育長として同意を求めるのはこういう人物だ』という経歴などは説明されたが、氏名は明かされていなかった。当然、議員らは『副町長はこの人、教育長はこの人』という目星は付いていたようだが、正式には名前は知らされていない。にもかかわらず、渡辺議員に頼みに行った有力者の口からは『佐藤隆宏氏の教育長人事案に賛成してほしい』と、実名を出して頼まれたというのです。議員には知らせていないのに、いち町民(有力者)は知っているのはおかしいですよね」(同)

議会内で逆転現象

 これが議員(両人事案に反対した議員)が二瓶町長に不信感を募らせた理由の1つだが、今回の件はそれだけではない。

 発端は2年前の町長選に遡る。実は、今回の人事案に反対した議員は、その町長選で二瓶町長を支持した人ばかり。

 2023年6月に行われた町長選は、それまで3期12年務めた前後公氏が引退したことから、二瓶氏のほか、佐瀬真氏、佐藤悦夫氏、髙橋翔氏の新人4人の争いとなった。二瓶氏は前後氏の後継者という位置付けで、佐瀬氏は2015年、2019年と2回にわたり、前後氏と町長選を争った。実質、二瓶氏と佐瀬氏の争いとなり、結果は二瓶氏が4297票、佐瀬氏が2280票、佐藤氏が359票、髙橋氏が220票で、大差で二瓶氏が当選した。

 「その原動力となったのが、前後氏の後援会関係者や、今回の人事案に反対した議員らです。ただ、二瓶氏が町長に就任すると、自身を応援してくれた人を軽んじるようになり、むしろ佐瀬氏を応援した人たちと接触するようになった。こっち(選挙で応援してくれた議員)はもともと味方だから、あとは佐瀬氏を応援した議員らを取り込めば盤石になるとでも思ったんですかね。ただ、実際には自身を応援した議員らと溝ができ、それがどんどん広がっていったということです」(前出の関係者)

 今回の人事案に賛成した議員がすべて前回町長選で佐瀬氏を支持した人というわけではないが、町長選のときと、議員の立場(与野党)が入れ替わったということだ。

 そうして溝ができ、いろいろなことが積み重なり、前述の「議員には知らせていないのに、いち町民(有力者)は知っているのはおかしい」ということもあって、今回のような事態になった。

 つまりは人選などの問題ではなく、議員、特に前回町長選で二瓶氏を支持した議員と、二瓶町長の軋轢がこうした事態を生み出したわけ。

 それだけでなく、この関係者はこうも話した。

 「副町長と教育長は昨年11月の時点で、退任したい意向を示した。言ってみたら、匙を投げた格好だと思う。ただ、慰留され、3月末までは残ることになった」

 前任の副町長、教育長はいずれも任期を残しての退任となった。両者は前後町長時代から務めており、町長交代の際、二瓶氏が行政経験がないことから引き続き役職に就いてもらったのだという。それが、この関係者の言葉を借りれば「匙を投げた格好」というのだ。

 本誌は町総務課を通して「人事案で半数あるいはそれに近い反対が出るのは、あまりないことと言えます。そこで、この件につきまして、どのように捉えているか、二瓶町長の見解(コメント)を頂戴できればと考えています」と依頼した。それに対する回答は「特にコメントはありません」というもの。

 病気で休んでいた佐藤議員が復帰したら、二瓶町長に不信感を抱く議員のグループが1人増えることになる。前述の事情を踏まえると、今後議案を通せない事態も出てくるのではないか。

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