他人事でない山火事の恐怖

他人事でない山火事の恐怖

 岩手県大船渡市で大規模な林野火災が発生し、大きな被害をもたらした。福島県内の関係者によると、「悪条件が重なれば、どこでもそういうことが起こり得る」という。あらためて林野火災(山火事)の怖さと予防ポイントについて考えてみたい。

悪条件が重なれば大船渡同様の事態は起こり得る

山火事予防を呼びかけるポスター
山火事予防を呼びかけるポスター

 大船渡市は、岩手県南部の太平洋沿岸に位置する人口約3万1500人の市。港町をイメージする人が多いと思われる。実際、水産業が盛んなのは間違いないが、市域の約8割は山林・原野で占められる。

 同市の発表によると、火災発生を覚知したのは2月26日。漁港付近にいた人から通報があった。同日中に、県を通して自衛隊派遣要請、県に緊急消防援助隊要請、災害救助法適用申請などを行ったほか、住民に対して順次避難指示を出した。その対象は、最大時の3月1日時点で1896世帯4596人に上った。

 消火活動は、地元消防・消防団、県内外からの応援部隊による地上隊と、自衛隊、防災航空隊による空中隊によって行われた。最大時は1日2000人規模の体制で当たったが、鎮圧宣言が出されたのは3月9日で、火災発生覚知から12日間を要した。なお、詳細は後述するが、「鎮圧」には至ったものの、3月26日時点で「鎮火」には至っていない。

 焼失面積は約2900㌶で、これは市域の1割弱に当たる。そのほか、死者1人、建物210棟(住家102棟、住家以外108棟)の被害があった。さらに、鎮圧宣言が出された時点で、通信障害や断水(約900戸)が起きており、3月下旬時点で200人近くが避難生活を送っている。

 この間の報道等を見ると、まだ鎮火に至っていないこともあり、出火原因などは明らかになっていない。

 今回の山火事は平成以降で国内最大規模とされる。福島県内で近年発生した山火事で最も規模が大きい事例でも、焼失面積は約100㌶とのことだから、大船渡市の件がいかに大きいかがうかがえよう。ただ、悪条件が重なり、一歩間違えれば、大船渡市のような事態になることもあり得るという。そのため、警鐘・啓発の意味で、山火事発生の原因や予防策について考えていく。

 福島県では、2月10日から5月30日までを「山火事防止強化月間」と位置付け、さまざまな呼びかけなどを行っている。秋(10月20日から12月20日)にも同様の強化月間があるが、山火事はそれらの時期に集中しているため、特に注意を促しているという。

 県森林保全課によると、県内での山火事発生件数は2023年が42件、2022年が26件、2021年が41件、2020年が28件、2019年が47件と、年によって上下している。気候・積雪量などが関係しているのだろう。ただ、2000年は79件、2005年は76件だったというから、その辺と比較すると、発生件数が減少している。

 県森林保全課は「原発事故後、山菜等の出荷制限(摂取制限)があり、山菜採り目的での入山者が減ったことも関係していると思われます」との見立てだ。

 もっとも、入山者は山菜採りだけではなく、トレッキングなどもあるから、総体的に減っているとはいえ、注意が求められるのは変わらない。それが多いのがこの時期ということになる。

 山火事の原因は、「たき火」や「火入れ」、「放火の疑い」など、人為的要因によるものが圧倒的に多いという。そのため、①燃えやすいものがある場所では火気の使用を控える、②強風、乾燥時はたき火、火入れをしない、③やむを得ず火を使用する場合は、火気から離れず、使用後は完全に消火する、④火入れを行う際は、市町村長の許可を必ず受け、十分な実施体制をとる、⑤たばこは指定された場所で喫煙し、吸い殻は必ず消すとともに投げ捨てない、⑥火遊びをしない、させない――といったことを呼びかけている。

 「そのほか、ラジオやポスター掲示による呼びかけ、市町村と連携して広報誌で注意を促してもらっています。また、県で雇った巡視委員の方に定期的に山に入ってもらい、入山者への注意や、異常がないかなどの報告をしてもらっています」(県森林保全課)

郡山広域消防の統計

山火事の消火活動は困難を伴う(郡山地方広域消防組合の資料より)
山火事の消火活動は困難を伴う(郡山地方広域消防組合の資料より)

 一方、郡山地方広域消防組合では、同組合管内(郡山市、田村市、小野町、三春町)の過去10年間(2015年から2024年)の山火事(枯草・林野火災)発生件数を調べた。

 それによると、同期間の枯草・林野火災発生件数は246件で、月別に見ると、最も多いのが3月で81件(32・9%)だった。以下、4月が57件(23・2%)、5月が27件(11・0%)、2月が20件(8・1%)と続く。2月から5月の4カ月間で全体の約75%を占めている。

 これは空気が乾燥し、風が強い日が多いこと、暖かくなり農作業が活発化すること、山菜採りやハイカーなどの入山者が増加することが原因と考えられるという。そのほか、お彼岸で使用したろうそくや線香から火災が発生するケースもある。

 前段で、県では2月10日から5月30日までを「山火事防止強化月間」と位置付けていることを紹介したが、同組合の統計からも、この期間は発生件数が多く、注意が必要であることが裏付けられている。

 発生時間を見ると、12時台から13時台が最も多く51件(20・7%)、次いで14時台から15時台が48件(19・5%)、10時台から11時台が46件(18・7%)となっており、日中の人の活動が活発な時間に多く発生している。特に、12時台から13時台が多いのは、大丈夫だろうと、昼休憩(昼食)でちょっと離れた際に制御不能な状態になってしまうことなどが考えられる。

 原因別では、「たき火(火入れを含む)」が96件(39・0%)、「放火(疑いも含む)」が85件(34・6%)、「たばこ」が23件(9・3%)と続く。原因が特定されているものの大部分は、人為的な要因によって発生していることが分かる。

 そのため、同組合では以下のように呼びかける。

 ○農作業の一環として田畑の枯草等の焼却を行う場合は、近くの消防署・分署等に事前届出、電話連絡したうえで、①周囲に建物や燃えやすい物があるところでは行わない、②風が強い時は行わない、③必ず消火の準備をする、④完全に消えるまで決してその場を離れない――ということに注意して行う。

 ○たばこは指定された場所で喫煙する。喫煙所以外で喫煙する際は、各自で携帯灰皿を準備するなどマナーを守る。吸い殻は確実に消し、投げ捨てる行為は絶対にやめる。

 ○ライターやマッチは子どもの手に届く場所には置かない。火遊びをしている子どもを見かけた時は、見過ごさずに注意する。
 結局のところは、個々が注意するということに尽きるようだ。

消火活動の難しさ

 一方で、ひとたび山火事が起きると、その消火活動は困難が伴う。同組合消防本部総務課の吉田武司さんは、その難しさをこう話す。

 「市街地と違い、消火栓があるわけではないので、防火水槽などが近くになければ水の確保が大変です。また、クルマ(消防車)で入って行けるところには限界があるため、水が確保できるところからホースを持って現場まで歩いていくことになります。そういった面で体力的な部分での難しさがあります。さらに山岳地帯での夜間の消火活動は危険を伴うため、時間的な制約もあります」

 こうした理由から山火事の消火活動は難しいのだ。

 実は、吉田さんは応援部隊として大船渡市の消火活動にも参加した。廃校になった学校を拠点に消火活動に当たり、地元住民からはお礼や激励の言葉をもらったという。

 「私が現地に行ったのは消火活動の終盤でしたが、風が強い日が続いたこと、雨・雪がほとんど降らなかったことなどから、焼失範囲が広がりました。そういった悪い条件がいくつも重なると、どこでも今回のような事態になりかねないのです」(吉田さん)

 風が強いと、延焼のスピードが早まるだけでなく、ドローンやヘリが飛ばせないこともあるという。加えて飛び火の危険性や範囲が広がる。山の高いところで火災が発生すると、侵食するように燃え広がるだけでなく、風によって火種が飛び、場合によっては数百㍍離れたところに飛び火することもある。そうなると、延焼範囲を把握するのが容易でなく、目の前の消火活動に当たっていたら、後ろに飛び火して、後ろからも火の手が襲ってくるということも起こり得るのだ。吉田さんによると、それが山火事の怖いところだという。

 さらに、落ち葉や枯れ草は何層にもなっており、表面を消しても、中に火種が残っていることもあり得る。そのため、もう燃え広がることはないという時点で「鎮圧宣言」が出されるが、本当に火種が残っていないかの確認作業が必要になる。それを経て「鎮火宣言」に至るわけだが、大船渡市のケースでは、焼失エリアが広いだけに、その確認作業に時間を要しており、3月26日時点で「鎮火(宣言)」には至っていない。

 県内では、2023年3月に郡山市中田町で山火事が発生し、県森林保全課によると、「近年では県内で最も大規模な山火事だった」という。たき火が原因とみられ、鎮圧までに3日間を要した。

 地元住民は当時をこう振り返る。

 「夜、消防車のサイレンが鳴り響いた。火事だと思って窓に目を向けたら、カーテンの隙間から外が真っ赤になっているのが見えた。炎が周辺の木々より高く燃え上がっていたのです。慌てて庭に出たら、近所の人たちも炎の様子を見ていた。気のせいか、少しずつ炎が家の方に近付いているように見えて不安だった。消防団の友人たちが懸命に作業している姿が印象的だった。あそこまで燃え広がると、人間の力ではどうにもできない。雨よ降れって祈りましたね。大船渡の山火事を見て、当時のことを思い出しました」

 県森林保全課によると、焼失面積は51㌶で、自衛隊の応援を受け、150人体制で消火活動に当たった。懸命の消火活動と、幸い3日目に雨が降ったこともあり、火の勢いは弱まり鎮圧された。

 ただ、吉田さんが話していたように、悪い条件がいくつも重なっていたら、もっと大きな火災になっていた可能性もある。それだけ恐ろしいものなのだ。

 繰り返しになるが、山火事の原因の大部分は人為的なものとされているから、火入れやたき火をする人、入山する人の個々が十分に注意を払うということに尽きる。

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