自民党会津高田支部が機能不全に陥っている。令和4、5、6年と総会を開かず、会計監査も受けていないのに、県選挙管理委員会に政治資金収支報告書を提出している。運営を司る支部長と会計責任者は共に会津美里町議だが、地元党員が総会開催を求めても、互いに責任をなすり合い、言い訳をしてはぐらかしている。彼らが総会を開かない理由は何なのか。監査を受けていない収支報告書を見ると、使途不明のカネが毎年30万円前後支出されていることが分かった。
役員の会津美里町議2人に使途不明金疑惑

大沼郡の4町村(会津美里町、三島町、金山町、昭和村)にはそれぞれ自民党の支部があるが、会津美里町では合併前の旧3町村ごとに会津高田支部、会津本郷支部、新鶴支部が活動する。それらの支部を束ねるのが大沼郡総支部で、支部長には同郡選出の山内長県議(63、2期)が就いている。
今、山内県議をはじめ、会津美里町内の自民党員を悩ませているのが会津高田支部の運営だ。同支部は令和4、5年と総会を開いておらず、6年も何度か開催するとアナウンスがあったものの、結局開かれないまま7年度に突入している。
コロナ禍では人との対面を避けるため、総会は書面決議で済まされていたが、会津高田支部は書面決議すらしておらず、会計監査も受けていない。にもかかわらず、県選管には政治資金収支報告書が毎年提出されているのだ。
「政治資金規正法上は『総会を開け』とか『監査を受けろ』という規定はない。しかし、政治資金がどう使われたかを明らかにするのは政治家、政党、支部の務めなのは言うまでもない」(県選管)
政党から支部への交付金は税金が原資であり、高い透明性が求められるのは当然である。会津高田支部の運営は公党の支部とは思えない杜撰さだが、更に驚くというか呆れるのは、支部を率いる支部長の根本剛氏と会計責任者の堤信也氏が現職の会津美里町議という点だ。
今年1月には支部運営をめぐり、根本氏と堤氏を批判する匿名投書がマスコミ各社に届いた。そこには概ね次のようなことが書かれていた。
▽自民党会津高田支部はコロナ禍以降、総会を開いていない(書面総会も含む)。直近の令和5年も開いていないが、会計責任者の堤氏により県選管に政治資金収支報告書が提出されている。
▽総会を開かず、会計監査も受けず、形式的に収支報告書を提出しているわけだが、収支報告書に書かれている支出金の根拠は不明。大沼郡総支部長を務める山内長県議の後援会役員が根本氏と堤氏に総会開催や適正な支部運営を求めても、両氏は全くやろうとしない。
▽私たちが納めた党費がどのように使われているのか全く不明で、党員の多くは両氏が虚偽の収支報告書を提出し、自分のフトコロに入れているのではないかと疑っている。
▽2023年11月の県議選では、両氏は自民党員にもかかわらず山内氏と激突した立憲民主党の候補者を応援した。支部長、会計責任者としての責任を果たさず、離党もせずに自民党員でいるのは理解できない。
根本氏は67歳。明治大学卒業。会津美里町議5期目。伊東正義衆院議員の秘書を務めた経験があり、県議選(大沼郡選挙区)に立候補したこともある(結果は落選)。
堤氏は66歳。国士舘大学工学部中退。会津美里町議4期目。副議長などを歴任。本業はJR会津高田駅前で営業する中華料理店「神龍」。
そんな両氏は2021年10月に行われた会津美里町議選(定数16)で根本氏467票(15位)、堤氏587票(10位)を獲得。今年秋には町議選が控えるが、同議会は現在、定数削減を議論しているため、仮に定数が2~4削減されれば下位当選の両氏は厳しい戦いを強いられることが予想される。
それはともかく、会津高田支部の現状を会津美里町内の党員はどう思っているのか。
ある若手党員はこう話す。
「根本氏と堤氏はこの間、新型コロナの拡大や派閥の裏金問題を持ち出し『総会開催を見合わせたい』などと説明してきた。他の支部も同じ理由で開催を見合わせているなら納得できるが、他は通常通り開催しており、会津高田支部だけ開催しない理由が分からない」
過去の総会資料を遡ると、支部長に根本氏の名前がある平成27、28年はセミナーや会議、地元衆院議員を囲む会、国政報告会のチケット、選挙運動の運転手代など政治活動にまつわる支出がきちんと報告され、疑わしさは見られない。もちろん監査も受けている。しかしコロナ禍で総会が開けなくなると、令和3年までは書面で決算報告を行っていたが、翌4年以降は総会が開かれない状態が続いている。
若手党員によると、通常は総会前に監事から監査を受け、承認を受けたあと、総会を開いて決算報告を行い、質疑応答を経て承認を得る流れになっている。それをもとに政治資金収支報告書がつくられ、県選管に提出される。
しかし、会津高田支部は総会を開いていないので、監査も受けていなければ決算の承認も得ていない。複数の党員が「公党としておかしい」と根本氏と堤氏に総会を開くよう何度申し入れても、両氏はその度にはぐらかしてきたという。
「根本氏と堤氏は『会計がまとめない』『支部長がやらない』と互いに責任をなすり合うので、話が前に進まないのです」(同)
根本氏に至っては、口うるさい党員からの電話には一切出ず、折り返しの連絡もよこさないという。
3年で計92万円の印刷代

「困り果てた山内県議が令和5年の冬、会津高田支部の他の役員と相談し、根本支部長名で総会開催を伝える通知を党員に出した。すると、根本氏は対抗措置として、山内県議からの通知を否定する文書を出したのです」(同)
その時、根本氏が党員に出した文書には「会津高田支部長根本剛の名を使い総会に関する誤情報の通知が送付されているが、私文書偽造の恐れがある。年も押し迫っており、派閥の裏金問題も重なる状況なので、年内の開催を控え、年明けに総会の開催を予定したい」などと書かれていたが、結局、令和6年になっても総会は開かれなかった。
昨年11月には、山内県議が総会開催などを求める内容証明郵便を根本氏に送ったが、根本氏が不在票に基づく再配達の手続きをせず、郵便局の保管期間(7日)を過ぎてしまったため届かなかった。そこで山内県議は配達証明付きで再送したが、それに対する返答はないという。内容証明郵便は堤氏にも送っているが、こちらも一切返答がない。
こうなると、両氏は総会を開かないのではなく「開けない理由」があるのではないかと疑いたくなる。
実は、令和5年の収支報告書を見ると「その他の事業費」として27万9000円が支出されている。「その他の事業費」とは何なのか、収支報告書をめくっていくと「印刷代」と記されているが、内訳や支出した日付は書かれていない。
同じく、令和4年の収支報告書にも33万8000円を「印刷代」として支出したことが書かれている。3年も同じく30万7000円が支出されている。3年間で計92万4000円も使って何を印刷したのか。
会津高田支部のベテラン党員は首をかしげる。
「何か特別な印刷物をもらった記憶はない。支部の事務所でも印刷物の束を見掛けたことはない」
ベテラン党員によると、思い当たる印刷物は看板用のポスターや室内用のチラシだが、それらは県連から必要枚数が配られるため、支部単独で印刷することはないという。
政治家のポスターやチラシを制作している広告代理店にも聞いた。
「例えば、県議の県政報告チラシは大きい市になると5万枚配るが、制作費、両面刷りカラーの印刷代、新聞折り込み料で計70万円かかる。30万円の印刷代があれば、単純計算で2万枚以上のチラシをつくることが可能です」
会津美里町は人口約1万8000人、世帯数約7200世帯なので、チラシを2万枚つくっても配り切れない。3年にわたり印刷したら、6万枚以上になる。会津高田支部で印刷したということは、配布対象は旧会津高田町になるので、人口、世帯数は更に少なくなる。
「だから総会を開け、監査を受けろと言っているのに、根本氏も堤氏も無視し続けているため、党員は怒りを通り越して呆れている」(前出・ベテラン党員)
挙げ句、両氏は党員の間で「2021年の町長選で元自民党県議の杉山純一氏ではなく対立候補の元副町長を応援した」「2023年の県議選(大沼郡選挙区)でも再選を目指した山内氏ではなく立憲民主党の女性候補者を応援した」などと言われている(※根本氏と堤氏は否定)。ベテラン党員も「明確な反党行為。除名すべきだ」と憤る。
こうした状況に嫌気を差し、会津高田支部を辞めて会津本郷支部に転籍した党員もいるという。
山内県議にも批判の矛先
両氏は平然としているが、支出されたカネは党員が納めた党費や県連からの交付金だ。党員には「使途を明かせ」と言う権利があるし、政党への交付金の原資は税金なので、支出されるカネには高い透明性が求められる。無法状態の運営が見過ごされていいはずがない。
「本来は両氏が非難されるべきなのに、問題の長期化で大沼郡総支部長の山内県議にも批判の矛先が向いている」(前出・ベテラン党員)
山内氏に県議の座をバトンタッチした杉山町長や杉山町長の後援会幹部も、両氏を指導するよう促しているが、山内県議が煮え切らない態度のため「もう知らない」と距離を置いているとか。
「こういう時にリーダーシップを発揮しないと山内県議は自分の選挙で応援してもらえなくなるし、夏の参院選や、いつ解散されるか分からない衆院選にも影響が出る」(同)
現状を放置すれば、山内県議自身にも大きな痛手となって跳ね返ってくることが懸念されるわけ。
山内県議に話を聞いた。
「大沼郡総支部としても大変困っている。根本氏は令和6年の総会を今年1月に開く、3月に開くと言って結局開かず、今(4月上旬)はゴールデンウイーク前に開くと言っているが、電話も出ず、内容証明郵便も受け取らないため、私たちと意思疎通が図れていない。党勢拡大活動の形跡が見られない点も問題視している」(山内県議)
山内県議によると、会津高田支部の監事は自身が務めているが、根本氏も堤氏も監査をさせてくれないという。異常な運営状態にあるのは間違いないが、大沼郡総支部長という立場を考えると「努力したけどできなかった」では党員は納得しない。毅然とした態度で厳しく対処することが望まれる。筆者が「党員は山内県議の態度に不満を持っている」と伝えると、山内県議は「そうですよね……改めます」と応じた。
ちなみに県連は「地元の問題は地元で解決しろ」と関心を寄せないのだという。
4月中旬、筆者は根本氏と堤氏を直撃し、真意を問い質した。
まずは根本氏。

――なぜ総会を開かないのか。
根本 コロナや派閥の裏金問題があり、落ち着いてから開いた方がいいと思っていた。ゴールデンウイーク前には開くつもりだし、大沼郡総支部にもそう伝えている。
――監査を受けずに収支報告書を出して問題ないのか。
根本 とりあえず県選管に出しておこう、と。その辺は会計に任せている。監査はやっていると思うよ。
――いや、監事を務める山内県議はやっていないと言っている。
根本 そんなにカネの動きもないしね。全て会計に任せている。
――令和3、4、5年と30万円前後の印刷代を支出していますよね?
根本 そんなのあったかな。(根本氏に収支報告書を見せると)分からないな。会計に任せているから。
――党員からの電話に出ないのはなぜか。
根本 電話? よく分からない。
――山内県議からの内容証明郵便を受け取らなかったのはなぜか。
根本 そんなものは見ていない。
――町長選や県議選では自民党の候補者ではなく、対立候補を応援したという話を聞いた。
根本 誰がそんなことを言ったんだ! 私は相手の演説を偵察しに行っただけだ。
続いて堤氏。

――なぜ総会を開かないのか。
堤 コロナや裏金問題など、いろいろあって開けなかったが、ゴールデンウイーク前には開く。
――監査を受けずに収支報告書を出すのは問題ではないか。
堤 今までずっと、そうやって出してきたので……。
――ずっと監査を受けていない?
堤 ええ、まあ、そんなにカネが動いているわけではないし。
――でも、印刷代として毎年30万円前後支出していますよね。
堤 それは党から入ってくる交付金を……。
――何に使ったんですか。
堤 選挙の活動費に。
――収支報告書には印刷代と書かれていますよ。
堤 そういう項目にしたのは県の振興局の指示で……。
――振興局の指示?
堤 当時の振興局の担当者がその項目でいいと言うので、指示に従ってずっと印刷代としてきた。
――振興局の何課の誰が言ったのか教えてください。
堤 もうその人はいないし……。
――支出の詳細を知りたい。
堤 出納帳をつくっているので、それを確認すればいい。
――出納帳を見せてほしい。
堤 今ここにはない。監査を受ければ問題ないことが分かる。
――監査を受けずに収支報告書を出した張本人が「監査を受ければ問題ないことが分かる」って、おかしいでしょう。現状は使途不明金と言われてもやむを得ないのでは。
堤 使途不明ではない。
ちなみに県選管は「県が収支報告書の書き方を指示することはない。きちんと書くために会計責任者が存在する」と話している。
GW前に総会開催⁉
根本氏も堤氏も〝暖簾に腕押し〟とはこのことだが、一方で両氏は筆者に「町長選と県議選の候補者を一部の人たちで決めたため、会津高田支部は一枚岩ではない」と不満も漏らした。それが、党員たちが言う反党行為につながっているのかもしれないが、だからと言って総会を開かなくていい理由にはならない。
根本氏は2023年、研修先で町職員にパワハラ的言動をして問題視され、町議会ハラスメント防止条例が施行されるきっかけになった。堤氏は2022年、会津若松市議の一般質問を丸写しして一般質問を繰り返していたことがバレた。党員たちは「両氏とも厚顔無恥だから、総会を開かなくても平然としている」との認識で一致している。
今号は5月2日以降に店頭に並ぶが、両氏が揃って述べた「ゴールデンウイーク前の総会開催」は実現したのか。そして印刷代の使途は明らかになったのか。
最後に。山内県議は筆者の取材を受けたあと、両氏に厳しい態度で臨むことを党員に〝宣言〟し、党県連に除名も視野に対応するよう申し入れるなど、これまでの煮え切らない態度を改めようとしている。山内県議の変身が、会津高田支部の正常化に結び付くかどうかも注目される。
※この稿を脱稿したタイミングで根本剛氏が急死した。地元紙の訃報記事によると、4月18日に大動脈解離で亡くなった。67歳。ここに指摘した問題は褒められたものではないが、長年議員を務めたことには敬意を表し、ご冥福をお祈りしたい。