日本郵便の不祥事が次々と明らかになっている。同社は集配業務を担う全国3188局の郵便局のうち、75%に当たる2391局で、配達員に酒気帯びの有無を確認する法定点呼業務が不適切だったと発表。飲酒運転やそれに起因する事故も確認された。これとは別に県内では、田村市の大越郵便局の男性配達員が配達先の敷地内で立小便をしていたことが判明。自宅敷地を汚された男性には、郵便局から謝罪があり土が入れ替えられたが、当初は「業務委託者」を理由に謝罪に難色を示されたといい、男性は責任逃れに憤りを覚えている。
「汚した土入れ替え」に発展した郵便局のお粗末対応

田村市大越町在住の男性X氏が、大越郵便局の男性配達員Y氏(70代)が自宅敷地内で立小便をしているのではと疑念を抱いたのは、昨年12月に設置した防犯カメラの映像がきっかけだった。
「日中は私も家族も外に出る機会が多いので防犯カメラを2台設置しました。試しに録画映像を確認すると、郵便配達員が自宅奥の庭に入る不審な動きをしていたんです」(X氏)
本誌が1月31日に記録された映像を確認すると、玄関前の駐車スペースに乗り付けた軽自動車から降りた男性配達員は、玄関の宅配ボックスに郵便物を入れた後、迷いなく自宅奥の庭の方に向かった。一度カメラから姿が消え、1分以上して車に戻ってくる様子が確認された。
「庭は宅配ボックスが置いてある玄関よりも奥にあり、入る必要はない。不審に思い、ひょっとして立小便をしているのではと疑いました」(同)
大越郵便局は、従業員9人、業務委託者1人の郵便局。X氏が事実関係を問い合わせると対応しきれない案件というので、この地域を統括する三春郵便局に2月3日、Y氏が何をしていたのかを確認すると、聞き取りの結果、敷地内で立小便したことを認めたという。
「郵便局として謝ってほしかったので、謝罪文を求めると、当初は『業務委託している配達業者がしたことなので局として謝罪文は出せません』と言われました。詳しく聞くと、Y氏は70代で配達業務を受託している一人親方のような立ち位置らしい。ただ、受託している立場だとしても同じ郵便局の業務には変わりない。郵便局としての謝罪を文書でほしいと要望しました」
すると、2月7日付で次のような顛末書が届いた(原文では実名)。
《(前略)この度は、大越集配委託者Yの無作法な行為により、X様に対し多大なるご迷惑をお掛けしご気分を害してしまいましたこと、誠に申し訳ございませんでした》
顛末書の「事故内容及び起因日」によると、今年1月31日午後2時15分ごろ、業務委託者のY氏がX氏へゆうパックの配達に来た際、「配達担当者の身勝手な判断で無作法な行為に及んでしまいX様宅敷地内を汚してしまった」という。
顛末書では「無作法な行為」とぼかされているが、本誌が広報窓口の日本郵便東北支社(仙台支社)に「立小便を指すのか」と問い合わせると「その通りだ」との回答があった。郵便局として謝罪した顛末書をX氏に出したのも事実とした。
夏に冷凍品を置き配
もっともX氏によると、Y氏の不適切な行為は立小便に留まらないという。
「夏の時季でしたが、チルドゆうパック(冷凍便)で送られてきたお中元が不在時に届けられ、外に置いてある宅配ボックスの上に保冷剤と一緒に載せられていました。再配達は手間がかかり、仕事を早く終えたい気持ちは分かるが、Y氏の仕事ぶりは丁寧さに欠けます。隣家に届け物がある時は、私の家に配達物がないにもかかわらず駐車場代わりに車を停めます。そのくせ、悪びれずに『どーもない』とやけに馴れ馴れしい。不快な思いをしたくないので、自分から何かを送るときは郵便局を使わないようにしていました」(同)
顛末書では再発防止策として、2月4日の朝礼で大越郵便局の全社員(Y氏を含む)に次のことを周知し指導を徹底していくとした。①宅配ボックスへのチルドゆうパックの配達禁止、②郵便物等が無いにもかかわらずX氏宅の敷地への駐車禁止、③大越集配委託者Y氏によるX氏宅への配達禁止、④配達先での無作法な行為の禁止。
だが、X氏の中では郵便局の対応にわだかまりが残った。当初は「委託業者のY氏がしたこと」と下請けに責任転嫁する態度だったからだ。X氏は大越郵便局や三春郵便局など県内の末端局のみで事案が処理されることを恐れ、日本郵便本社の顧客相談窓口に連絡した他、自宅敷地内での立小便が不法侵入と軽犯罪に当たるのではと考え警察に相談した。
「郵便や宅配業務は下請けで成り立っており、構造上は郵便局に対してY氏が弱い立場にあることは重々承知しています。確かに郵便局にとって、正社員と業務委託者は別かもしれないが、顧客にとってはどちらも郵便局員。全国的に不適切な点呼が問題になり、組織風土に疑念が向けられているのに、『業務委託者がしたこと』と責任を外部になすりつける態度は組織として改善が見込めないと思いました」(同)
X氏から日本郵便本社への相談を受けての対応かは不明だが、2月26日には三春郵便局の副部長から「汚した土の入れ替えをしたい」と連絡があった。3月19日に地元の土木建築業者が、Y氏が立小便をした1㍍四方部分の土を掘って入れ替え、郵便局が工事の様子を写真に撮り、X氏に提出した。本誌が現場を確認すると、ちょうど1㍍四方だけ土の色が違った(写真)。
日本郵便本社にも苦情が届き、小便が掛かった土も入れ替えられた。しかし、X氏はまだ釈然としないという。
「私が近所の人に聞いたところ、Y氏はこれまで日本郵便の制服を着たまま業務とは関係のない自宅や地区の草刈りに参加したりしていたようです。地域の人に『郵便局とトラブルになって迷惑している』と何の気なしに話すと、『ひょっとしてY氏のこと?』と答えが返ってくるほどで評判は芳しくない。今回の一件でY氏への業務委託は更新されないだろうと思っていましたが、実際に配達している姿を目撃し、契約は更新されたんだと呆れてしまいました。教育は徹底しているのでしょうか。あれだけのトラブルを起こした人物と契約し続けることが理解できません。配達員が不足しているから委託せざるを得ないのでしょうか。そう言えば、Y氏は夜や土日など配達員が不足していそうな時間帯を担当しています」
本誌が日本郵便東北支社に確認すると、70代のY氏は二十数年前から配達業務を受託しているようで、速達や小包を配達する月額制集配委託契約を結んでいるという。X氏はY氏について、「立ちションが許されてきた罪悪感の薄い世代」と受け止めているが、「本人に人の家で立小便をするのは悪いことだと分かってほしい」と望みを持ち、4月に郵便局を通じて本人になぜ立小便をしたのか電話で聞いた。すると、Y氏は謝りつつも「年を取っているもんで我慢できなかった」と悪びれず答えたので拍子抜けしたという。
今回の件で、郵便局はY氏から違約金を徴収している。Y氏との委託契約を更新したことは認めるが、「配達員の人手不足が原因か」との本誌の問いには「今回の事案と関係がないためお答えいたしかねる」としか言わなかった。
Y氏が配達先でした立小便は、社員なら社内規定に基づく処分、委託業者なら違約金のようなペナルティが科される案件だ。本誌が日本郵便東北支社にY氏の身分を確認したところ、「個人事業主であり、集配受託者ではあるが『郵便局員』や『郵便局従業員』ではない」というスタンスだ。
立小便の違約金は?

Y氏に立小便に対する違約金が科されるのは当然として、配達業務を担う個人事業主は構造上、弱い立場に置かれている。今年1月6日配信のNHKニュースでは、配達ミスやクレームを受けた委託業者に十分な説明をしないまま高額な違約金を不当に徴収していたとして、公正取引委員会が下請け法違反と認定し是正指導していたことが報じられた。
《関東地方の郵便局が宅配便の配達を委託した業者から配達ミスなどに対する高額な「違約金」を十分な説明なく不当に徴収していたとして、公正取引委員会が去年、下請け法違反を認定し、日本郵便に是正するよう指導していたことが関係者への取材で分かりました。
関係者によりますと、関東地方にある郵便局が宅配便の「ゆうパック」の配達を委託した業者から、配達ミスや配達員のたばこのにおいなど客のクレームを受けた際に十分な説明をしないまま不当に高額な「違約金」を徴収していたということです。
公正取引委員会はおととしから去年にかけて、この郵便局がある県内を対象に調査した結果、下請け法で禁じられている「不当な経済上の利益の提供要請」にあたり法律に違反すると認定し、去年6月、日本郵便に「違約金」の制度を是正するよう指導したということです。
「違約金」制度は、日本郵便が配達ミスなどを抑止しサービスを向上させるため導入しているもので、今回、この制度自体は違法と認定されていませんが、一部の郵便局では「違約金」が1件当たり数千円から10万円ほどで、配達1個の代金と比べて数十倍以上になっていたということです。
物流業界ではいわゆる「2024年問題」で運転手不足の深刻化が懸念される中、公正取引委員会は下請け業者に対する不当な契約がないかなど監視を強化しています。
日本郵便によりますと、「ゆうパック」の委託業者に対する「違約金」の制度は2003年に導入されました。この中で、▽配達先を誤った場合は5000円、▽配達員のたばこのにおいのクレームに対しては1万円などと目安の額が設定され、委託業者との契約書の規定の範囲内で郵便局ごとに具体的な対象や金額などを決めることが認められていました。
日本郵便は「調査などを通じて、違約金の対象や金額などについて郵便局ごとに異なる運用が認められたため、ことし4月をめどに全国で統一する予定だ。今後も幅広い観点から検討を行っていく」とコメントしています(後略)》
公取委の方針では、下請けの弱い立場に乗じて不当に高い違約金を設けてはならないということが示されている。違反行為ごとに目安の額が決められるが、配達先での立小便がいくらに設定されているのかが気になる。