いわき市政の泣き所・水道局

いわき市政の泣き所・水道局

 いわき市水道局が発注した配水管工事の入札を巡り官製談合があったとして、担当職員と落札した大松興産(小名浜)の役員らが逮捕された。不正は昨年1月に職員の積算ミスで偶然発覚し、市は県警に情報提供しつつ、調査確認委員会を設置して本格調査を託したが、当事者から真相を聞き出せなかった経緯がある。問題は官製談合に留まらない。局内では別の職員2人が過去に交通事故対応を誤って市民の怒りを買ったり、パワハラ告発を受けたりしている。風土改革が喫緊。9月の市長選で順風満帆に2期目をうかがう内田広之市長にとって、水道局は泣き所と化している。(小池航)

官製談合に加え「交通事故トラブル」や「パワハラ」も

 昨年1月に行われた配水管改良工事を巡り、地元業者の大松興産に設計金額を漏らして落札させたとして官製談合防止法違反などで逮捕されたのは、いわき市水道局工務課技術主任の真山佳幸氏(34)。大松興産代表取締役社長の松原文司氏(74)、同社役員で息子の松原文隆氏(48)は、設計金額などを真山氏から教えてもらい公正な入札を歪めたとして公契約関係競売入札妨害の疑いで逮捕された。

 地元紙報道によると、真山氏と大松興産側は業務を通じて知り合い、業者側から価格漏洩の働きかけをしていたという。見返りはなかったのか。贈収賄事件に発展するかどうかが注目だ。市営住宅解体工事でも価格漏洩が疑わしい入札があった。

 各自治体では「入札の円滑化」のために職員が個人判断で価格漏洩するのが常態化している。よくあるのが、入札担当者が、専門知識を有し経験豊富で頭が上がらない老獪な業者にうまい具合に秘密の入札情報を抜かれてしまい、業者同士の談合に使われるケースだ。入札担当者と受注業者が旧知の仲のケースもある。 いわき市水道局の入札で官製談合が露見したのは、真山氏が誤った最低制限価格を算定したからだった。別表「平下平窪配水管改良工事の入札(2024年1月18日)」を見てほしい。誤った最低制限価格に迫って落札した大松興産の4609万7685円と、本来の最低制限価格に迫った3社の4615万4574円の間には5万円以上の開きがある。昨今は高性能な積算ソフトを用いて正しい価格を導き出せるのに、なぜ誤った価格に近い額を弾き出す業者が3社もいるのか。誤差では説明が付かない。 

平下平窪配水管(第106ー49号外)改良工事の入札(2024年1月18日)

誤って定めた最低制限価格=4609万7685円

入札参加者本社所在入札額※赤文字は、いわき管工事協同組合
公栄管工設備㈱小名浜4362万0240円最低制限価格を下回り失格
㈱アクア工業4515万4580円
㈱大松興産小名浜4609万7685円最低制限価格と同額落札
㈱矢光総合設備内郷4610万0600円
㈱山上工業小川町4610万0601円
欣幸建設㈱4614万7584円
菅野建設工業㈱内郷4615万2000円
㈱不二代建設内郷4615万3860円
㈱福島スイケンエンジニアリング内郷4615万4530円
㈱沼里工業所常磐4615万4570円
㈱大倉工業所小名浜4615万4573円
㈲平設備興業好間4615万4573円
福吉工業㈱(現レジリエンス)小名浜4615万4574円本来の最低制限価格
㈱こだま産業常磐4615万4574円
渋谷設備㈱常磐4615万4574円
㈱久田設備工業4615万4580円
㈱創和内郷4615万4680円
㈱清水水道好間入札無効
長谷川工業㈱四倉辞退
㈲大証建設小名浜辞退

2024年8月28日にやり直した入札

誤って定めた最低制限価格=4708万5600円

入札参加者本社所在入札額※赤文字は、いわき管工事協同組合
㈱矢光総合設備内郷4703万0300円最低制限価格を下回り失格
㈱山上工業小川町4703万0400円
㈱久田設備工業4703万0500円
㈱創和内郷4708万4700円
㈱こだま産業常磐4708万5400円本来の最低制限価格
公栄管工設備㈱小名浜4708万5600円最低制限価格と一致し3社によるくじで公栄管工設備が落札
長谷川工業㈱四倉4708万5600円
㈱酒井組四倉4708万5600円
㈱吉多美工業小名浜4708万5800円
福吉工業㈱(現レジリエンス)小名浜4708万5800円
渋谷設備㈱常磐4708万5900円
㈲平設備興業好間4708万6100円
㈱アクア工業4708万6100円
㈱沼里工業所常磐4709万5000円
菅野建設工業㈱内郷4723万0000円
㈱大松興産小名浜辞退
欣幸建設㈱辞退
㈱不二代建設内郷辞退

 当初、真山氏は「前年の資材単価を使った」と市の調査に説明し、大松興産の松原社長も本誌に「市と同様に前年の単価を使い、同じ間違いをしてしまった」と釈明していた。

 過去に入札を担当していた別の自治体の元職員は「職員は最新の見積もりをしていなかったことを意味する。見積もりは最新の単価で行うのが常識で、1年前の単価を使ったら上から指導を受けるレベルだ」とコピペを指摘していた(本誌2024年5月号)。

 大松興産の「市と同じ間違いをした」との説明には、「最新の単価を用いるのが常識なので、過去の単価を入力するには意図して引っ張り出してくる必要がある。単純ミスで過去の単価を用いたとは考えにくい。応札した過半数の12社が本来の最低制限価格に近いことが、市と同じように誤った価格を積算するのが逆に難しいことを示している」(同)

 真山氏があり得ない間違いをしていたにもかかわらず、誤った最低制限価格に迫っていた業者が大松興産をはじめ3社いた時点で、価格漏洩と談合の疑いは拭えなかった。そもそも水道局では、17人もの少なくない職員が設計書を閲覧できる立場にあった点も価格漏洩を助長し、漏洩者の特定を困難にした。やり直しの入札(別表)も誤った価格が設定され、3社が同額となり、疑われる始末。

 官製談合事件をきっかけに、水道局の組織風土や職員の質にも目を向けるべきだ。本誌はこれまで別の水道局職員が起こした地方公務員法違反を報じてきた。一つは、プライベートで追突事故(時速5㌔でむち打ち)に遭った職員が、加害者が萎縮するまで罵倒し、海外旅行のキャンセル料など法外な補償を求めたことで市役所職員への信頼を失墜させた行為(2024年2月号)。もう一つは、別の職員が会計年度任用職員3人にパワハラをしたとして水道局の東分庁舎に1人移され、同僚が仕事ぶりを確認にいったところ、業務に関係のない学習参考書の束や資格試験の勉強をしている形跡を目にした職務専念義務違反など(同6月号)。

 前出の元職員は本誌の過去の取材に「水道局は、本庁とは会計も事務所も別なこともあり、独自の文化がある」と語った。

 9月の市長選が、水道局の風土改革を後押しする。出馬に意欲を示す元職の清水敏男氏は、曖昧に終わった調査確認委員会を問題視し、争点化を図っている(2025年6月号)。内田市長は順風満帆に支持を固め、再選を狙うが、ここに来て水道局の一連の不祥事と真相追及が曖昧になった調査が足を引っ張る。在任中に改革は進むか。候補者たちは改善案を示せるか。

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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