【元祖白糸本舗】納豆嫌いの社長が辿り着いた「奇跡の納豆」

会津若松市の老舗納豆メーカー「元祖白糸本舗」が、臭い控えめで驚異的な日持ちを誇る納豆を開発し、注目を集めている。その開発秘話に迫る。

コロナ禍で導入した二酸化炭素測定器がヒントに

西村社長
西村社長

同社の西村文亨社長はこう話す。

「学校給食の栄養士が、ウチの納豆の保存サンプルを見て『3週間以上経過しても、色が白いままで、嫌な臭いも全くしない』と驚いていました。また、納豆が苦手な子どもたちが、学校給食のウチの納豆だけは『おいしい』と完食したというのです。そのため、『奇跡の納豆』と称されましたが、同時に栄養士や先生からは『何か特別なもの(添加物)を入れているのではないか?』と疑念すら持たれるような状況で、だからこそ、ウチ独自の製造技術を知ってほしいと思ったのです」

通常、納豆は時間が経てば発酵が進みすぎてアンモニア臭が強くなり、色も黒ずんでいく。しかし、同社の納豆は、添加物を一切使用していないにもかかわらず、作りたてのような色合いと清涼な香りを保ち続けていた。そのため、学校給食の栄養士や教師から「何か特別なもの(添加物)を入れているのではないか?」と疑念を持たれるような状況だったというのだ。

同社がこの「奇跡の納豆」を製造するまでにはさまざまな挫折があった。1993年に行われた県の技術支援センターによる調査で、同社の納豆は「県内最低」の評価を下された。製造からわずか数日で色が黒くになり、異臭を放つ状態だった。

この屈辱を受け、品質改善に取り組んだ結果、それ以降は全国納豆品評会で日本一の賞を二度受賞するほどになった。

その後は会津産大豆にこだわった商品を製造していたが、2011年の東日本大震災・原発事故を受け、いわゆる風評被害、さらにはこだわりの会津産大豆が手に入らない状況になり、売り上げは激減した。薄利多売に走り、品質低下→クレームが入るといった負のサイクルに陥り、2017年ごろには経営危機に瀕した。

体制を大幅に縮小し、西村社長と従業員1人だけで再出発を図る。そのとき、従業員から「この際だから、本当に納得のいくものだけをつくりましょう」と言われ、北海道産大豆だけを使用した少量受注生産に切り替え、いいモノを突き詰める方向へとシフトした。

その結果、「臭い控えめ」「驚異的な日持ち」の納豆開発に至るわけだが、同社の製造法は独特だ。

いま世に出回っている「臭わない納豆」の多くは、納豆菌そのものを品種改良し、においの成分を作らない菌(低臭菌)を使用する手法が主流だった。しかし、同社が着目したのは「製造プロセスそのものの改善」。納豆の臭いの原因は、菌の性質ではなく、製造過程で大豆や菌にかかる「過度な負荷」にあると突き止めた。

コロナ禍で気付き

「納豆臭低減製造法」でつくられた納豆
「納豆臭低減製造法」でつくられた納豆

同社は納豆製造の「3大工程」である洗浄・蒸煮・発酵のすべてで、これまでにないアプローチをとっている。

①大豆洗浄

通常、大豆は大量の水とスクリューで激しく撹拌して洗う。この際に大豆の糖分やサポニンが流出し、大量の泡が発生する。同社は、この「水による旨味の流出」を防ぐため、水を極力使わない洗浄法や、表面を研磨する手法を取り入れ、大豆が本来持つ甘みを閉じ込める。

②蒸煮

多くの製造現場では、効率化のためにボイラーによる高圧蒸煮缶を使用する。しかし、高圧・高温は、大豆の細胞壁を破壊し、酸化窒素や酢酸などの刺激臭を生む原因となる。同社はあえて「低圧」で、大豆を焼かないように優しく蒸し上げる。これにより、色白で雑味のない煮豆が完成する。

③発酵

いまの納豆製造は、コンピューター管理された発酵室で、強制的に温度を上げて発酵を促す「強制発酵」が一般的。しかし、同社はこれを「大豆・納豆菌への過度な負荷」と捉えた。負荷がかかった菌は大量の炭酸ガスを放出し、酸素欠乏状態に陥る。その結果生成されるのが、バレリアン酸(吉草酸)などの不快臭だった。同社は、機械による制御を最小限に留め、菌が自らの力で繁殖する「環境」を整えることに徹した。この「ゆるやかな発酵曲線」こそが、驚異的な日持ちと、嫌な臭いのない澄んだ味わいを生む。

西村社長によると、「最初から臭いの少ない納豆をつくろうとしていたわけではない」という。

「実は、私も納豆嫌いでした。ですから、納豆嫌いの人でも食べられる納豆をつくりたいと考え、研究していく中で、『納豆臭低減製造法』にたどり着いたのです」

大豆が持つ本来のポテンシャルを最大限生かし、菌にストレスを与えないようにする――その結果として生まれたのが、「3週間以上が経っても品質が変わらない鮮度保持力」、「鼻から抜ける不快な戻り臭がない清涼感」、「大豆本来の甘みが際立つ美しい『色白』の仕上がり」だった。

西村社長の話で興味深かったのは、「コロナ禍で二酸化炭素測定器を購入し、それがある『気付き』を与えてくれた」ということ。

新型コロナウイルス感染症が流行した際、室内の密閉度合い(二酸化炭素濃度)を図るため、二酸化炭素測定器を導入する事例が増えたが、西村社長は「これで発酵室の二酸化炭素濃度を測ったらどうなるだろう」と試してみた。そこでいままでにない「気付き」があったというのだ。詳細は「企業秘密」とのことだが、コロナ禍がなければ「奇跡の納豆」は生まれなかったかもしれない。そう考えると「コロナ禍が産んだ副産物」と言えよう。

西村社長は「納豆嫌いの人にこそ、ぜひ食べてほしい」という。

現在、同社の商品は会津地方を中心に、学校給食などのほか、主要スーパーで販売されている。


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