【会津若松市】ごみ緊急事態宣言の波紋

 会津若松市は5月20日、「ごみ緊急事態宣言」を発令した。6月から11月までの半年間を「緊急減量期間」と位置付け、市民・事業者にさまざまな協力を求めている。同市が「ごみ緊急事態宣言」を発令した背景と、この間の取り組みを取材した。

1年半後の新焼却施設稼働がタイムリミット

建設が進む新焼却施設
建設が進む新焼却施設

 ごみの減量――。これは焼却量を減らすことによる地球温暖化の進行阻止、限りある資源の有効活用、埋立処分場の長期利用化など、地球規模の大きな課題と言える。

 そんな中でも、福島県は後進地になってしまっている。

 国(環境省)が毎年実施している「一般廃棄物処理事業実態調査」の最新版である2022年度調査結果(今年6月公表)によると、県民1人が1日に出すごみの量は1021㌘で、富山県と並び全国ワーストだった。最も少ない京都府は770㌘、全国平均は880㌘だから、京都府の3割以上、全国平均の2割近く多い。

 なお、これは「事業系」と「生活系」の合計で、事業系は事業所から排出されたもの、生活系は家庭から排出されたもの。中でも、生活系の排出量が全国最下位クラス。福島県はこの10年間の同調査で、毎年ワースト3前後を行き来しており、ごみ大量排出地になっている。

 そうした中、会津若松市は5月20日に「ごみ緊急事態宣言」を発令した。同宣言は「市民・事業者と危機意識を共有し、燃やせるごみ減量の期間と目標を定めて集中的に取り組む」ために発令された。実施期間は6月から11月までの半年間で、昨年同期比12%以上の減少を目標に定めている。

 同市が同宣言を出した理由はいくつかあるが、何と言ってもごみの排出量が多いことに尽きる。

 別表は、市が7月19日に「ごみ緊急事態宣言」に関するタウンミーティングを行い、その際に配布された資料を基に本誌が作成したもの。前述した環境省の一般廃棄物処理事業実態調査(2022年度調査)から、人口10〜50万人の全国232自治体のごみ排出量と順位をまとめたものである。

ごみの排出量(事業系と生活系)

1位(東京都)日 野 市601㌘
185位いわき市971㌘
221位福 島 市1080㌘
223位会津若松市1098㌘
231位郡 山 市1165㌘
全国平均――880㌘

ごみの排出量(事業系)

1位(東京都) 小金井市 39㌘
144位 いわき市 260㌘
176位 福 島 市 300㌘
184位 会津若松市 314㌘
220位 郡 山 市 410㌘
全国平均 ―― 260㌘

ごみの排出量(生活系)

1位(静岡県)掛 川 市478㌘
196位いわき市694㌘
223位郡 山 市755㌘
228位福 島 市779㌘
229位会津若松市784㌘
全国平均――620㌘
※順位は人口10万人から50万人の自治体232中のもの。
※会津若松市が実施した「ごみ緊急事態宣言」に関するタウンミーティングで配布された資料を基に本誌作成。
※市配布資料の出典は環境省2022年度一般廃棄物処理事業実態調査。


 県内の4市はいずれも全国平均を超える排出量になっており、会津若松市は同規模自治体のうちワースト10、生活系に限るとワースト4になっている。

 もう1つの大きな要因としては、現在建設中の新しいごみ焼却施設の焼却能力が関係している。既存のごみ焼却施設は1日当たり225㌧の焼却能力がある。これに対し、新施設は、1日当たり196㌧で29㌧減(約13%減)になるのだ。

 実際のごみ処理は、同市のほか、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、湯川村、柳津町、三島町、金山町、昭和村、会津美里町の1市7町2村で構成する会津若松地方広域市町村圏整備組合で行っており、焼却施設も組合が運営している。新しいごみ焼却施設も同組合が整備し、2020年度に事業化された。その際、今後人口減少が避けられない中、それに見合った施設にすべきである、といった考えから、現在のごみ焼却施設から規模(焼却能力)を縮小したものにすることに決まったのである。

 新施設完成は2025年度中で、2026年3月の稼働を予定している。それに当たり「新施設稼働までに、各構成市町村でこのくらい燃やせるごみを減らそう」といった減量目標の割り当てがあり、会津若松市は最終的には燃やせるごみの排出量を1日当たり82・1㌧まで減らさなければならない。これに対して、この間の目標値と実績値は別表(次頁)の通り。減少傾向にはあるものの、目標には届いていない。

詳細な分析を実施

詳細な分析を実施

 もっとも、ほかの構成町村も減量には苦戦しているようだが、会津若松市が全体の約65%を占めているため、同市が目標値に届くかどうかが大きなポイントになる。組合の衛生費負担金はごみ排出量の割合で決まるため、目標に届かなければ負担割合が増加することになる。

 昨年度は98・2㌧だから、あと1年半ほどで16・1㌧減らさなければならないわけだが、この間の減り幅を考えると簡単ではない。

 そもそも、新しいごみ焼却施設の問題が出てくる前から、行政では「ごみの減量化にご協力ください」ということを常時言い続けていた。それでも、思うように減量は進まなかった。そんな現状で、どう呼び掛けても「ハイ、ハイ、いつものね」くらいにしか捉えられない。そのため、本当に危機的状態であることを示す意味で、「ごみ緊急事態宣言」の発令に至ったのである。実施期間、目標値は前述の通りで、達成できなかった場合は、ごみ処理有料化もあり得るとしている。

 一方で、同宣言に先立ち、市は2023年度にこれまでにないごみの分析を行った。これまで環境省、あるいは広域組合では、「紙・布類」、「ビニル、樹脂、ゴム、皮」、「木、竹、わら」、「厨芥類(生ごみ)」、「不燃物類」、「その他」の6つに分類して集計していた。市ではそれを、例えば「紙・布類」であれば、「飲料容器」、「段ボール」、「新聞、広告」、「雑誌、コピー用紙、包装紙」、「空き箱」、「ティッシュ、キッチンペーパー」、「その他の紙」、「紙おむつ」、「衣類」、「その他の布」とさらに細かい品目に分類した。

 加えて、1日当たりの燃やせるごみの内訳も明らかにした。それが別表である。

5つのお願い

 市廃棄物対策課の青山一也課長はこう話す。

 「そうした分析の中で見えてきたのは、これまで燃やしていたものでもリサイクル可能な資源ごみ、堆肥化・乾燥化・消滅化が可能な生ごみがあるということです。ポイントになるのは、生ごみ対策と、(リサイクル可能なものの)分別の徹底で、それができれば、目標値までの減量は可能と考えています」

 では、具体的にどうするのか。市は「市民・事業者に協力を求める行動」として、以下の5点を求めている。

 ①家庭での生ごみの減量

 ○食材・食品の「適量購入」、食材の「使いきり」、料理の「食べきり」、調理時の「適切除去」により、食品ロスを発生させない。

 ○発生した生ごみは、各家庭で、消滅型生ごみ処理容器キエーロ(春夏秋)で「消滅化」、またはコンポスト(通年)で「堆肥化」する。

 ○燃やせるごみとして排出する前に、電動生ごみ処理機で「乾燥化」、または「水切り」する。

 ②家庭でのリユース

 ○まだ使える不要品は、リユースショップやフリマアプリなどを活用して「売却」する、または家族・友人などに「譲渡」する。

 ③家庭でのリサイクル(古紙、プラスチック製容器包装、古着)

 ○プラスチック用・雑がみ用ごみ箱の配置、汚れたプラスチック製容器包装の洗浄、状態の良い古着の選別などによる、「古紙」「プラスチック製容器包装」「古着」の分別徹底。

 ④事業所でのリサイクル(古紙)

 ○古紙の分別保管と、買取業者や古紙回収業者、収集運搬許可業者を利用した再資源化。

 ○機密文書のシュレッダー処理とシュレッダー古紙の再資源化。

 ⑤事業所での食品ロス対策

 ○業種共通の取り組みとして、需要予測の精度向上、季節商品の完全予約制導入、余剰食品のフードバンク寄付。

 ○食品製造業の取り組みとして、賞味期限延長。

 ○卸・小売業の取り組みとして、小容量販売、ばら売り、量り売り、賞味・消費期限が近い食品の割引販売。

 ○外食産業の取り組みとして、提供サイズの調整、3010運動(※宴席・会合での最初の30分と中締め後の10分は自席で料理を食べることで食べ残しをなくす運動)などの食べ切り呼びかけ、持ち帰り用タッパーの配置など持ち帰り呼びかけ。

意見交換会を開催

タウンミーティングの様子

 同宣言以降、市はこうした取り組みの周知・意識啓発活動を行ってきたわけだが、変化は出ているのか。

 市は7月19日に「ごみ緊急事態宣言」に関するタウンミーティングを行い、同宣言を出してから1カ月間(今年6月分)の最新データを明かした。それによると、全年同期比で15・3%の減少が見られたという。もっとも、曜日の並びの関係で、今年6月は昨年6月と比べてごみの収集回数が2回少なかった。その分を補正すると9・2%減になるが、一定程度の成果は出ていると言える。

 そのほか、市では関連の出前講座を実施しているが、その依頼が昨年は4件だったのが、今年は17件に増えたという。市民の関心が高まっていることがうかがえる。

 タウンミーティングには約80人が参加し、「県外の自治体ではこういった取り組みをしているところもある。参考にしてはどうか」といった意見や、「新庁舎が完成したら、現在、仮庁舎として使っている旧会津学鳳高校を、古着の回収など、ごみの有効活用の場にしてはどうか」との提案もあった。

 その一方で、「目標を達成できなかったら、ごみ処理有料化もあり得るとのことだが、そうなると不法投棄が増えるのではないか。そうしたことを踏まえた対応が必要だ」との声もあった。

 説明に当たった室井照平市長は、ボックスの中に黒土を入れ、そこに生ごみを入れて消滅化を図る取り組みを実践しているようで、「やっていると、段々楽しくなってくる。それを皆さんにも体験してほしい」、「やれる人がやれることから実践してほしい」と呼びかけた。

 こうして見ると、一部では関心が高まっていると言えるが、こんな意見もある。ある市民の話。

 「昔からの商店街では事業系と生活系のごみが混じっている。真面目なところは業者と契約して生ごみを出しているが、店舗兼住宅になっている飲食店、理容店などは事業系と生活系の境目がなかったりする。そういうところがごみが多い要因だと思う。有料化の話も出ているが、有料化している事例を聞くと、1㍑当たり1円か2円の手数料を取っている。一般的なごみ袋が45㍑だから、1袋で45〜90円。4人家族で週に1袋分とすると、各家庭で年間2000〜4000円くらいの負担になる。このような丁寧な説明をしなければ伝わらないのではないかと思う。新しい焼却施設の稼働時に、減量目標に届かなければ負担金が増えるが、有料化に伴う手数料はそこに当てられることになる。もっと早く本気になって取り組まなければならなかったのではないか」

 タイムリミットはあと1年半ほどだが、冒頭で述べたように、ごみの減量は地球規模の問題である。新しいごみ焼却施設の稼働に間に合わせるだけではなく、長期的な取り組みが求められる。さらに言うと、それは同市だけでなく県内全般に言えることでもある。

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