会津若松市は同市中心部に位置する県立会津総合病院跡地に複合施設を整備する。整備費用は概算で約27億円。屋内遊び場を中心とした子育て支援施設となる計画だが、民間収益施設スペースへの映画館・商業施設誘致を望む声も根強く残っている。
市民は映画館、商業施設を期待

県立会津総合病院は1953年、鶴ヶ城近くの同市城前・徒之町に開設された。敷地面積約2万7000平方㍍。県立喜多方病院と統合し県立医大会津医療センターが開設したのに伴い、2013年に閉院した。跡地は市が県病院局から取得してまちづくりのために利活用することで話がまとまったが、医療廃棄物が見つかったほか、土壌調査でヒ素、鉛、フッ素が基準値を超過し、この間土壌の入れ替えが行われていた。
市は利活用方法について、懇談会や意見交換会、インターネットアンケートなどで市民からの意見を聞きながら、基本構想、基本計画を策定。今年2月に開かれた市議会2月定例会議では、新年度の一般会計当初予算案として、取得費などの利活用事業費8億4455万円が計上され、可決された。
複合施設は屋内遊び場機能(約900平方㍍)のほか、相談・多目的スペース(300平方㍍)、緑地・広場(約3200平方㍍)、駐車場(約6000平方㍍=約190台)、防災倉庫などが設けられる。
加えて民間収益施設も入居する予定で、「『子どもの遊び場・子育て支援』との親和性や子育て世代を主とした施設利用者の利便性の向上につながる」、「周辺の観光施設や文教施設、既存商店街などとの相乗効果が期待できる」施設が期待される要件として提示されている。面積は最大約1万2000平方㍍。
2月から施設の建設や維持・管理、運営を担う事業者を公募しており、提案に関するヒアリングを経て、8月に優先交渉者を決定。基本協定や契約を結ぶ予定となっている。
具体的にどんな施設が入るのかは事業者の提案次第ということになるが、市民の期待は膨らんでいる。というのも、基本構想の段階で、「映画・飲食・物販・サービス」などの機能を導入する方針が示されたからだ。映画館がない同市では、市民が最新の映画を観賞するため市外に出かけている現状にあり、映画館整備を切望する声は多い(本誌2021年9月号参照)。
会津若松商工会議所は同跡地利活用に関するパブリックコメントに意見を寄せ、次の点を主張している。
①2021年に商議所が実施したアンケートでは同跡地の利活用について映画館を望む声が最も多く寄せられた、②中高生も映画館建設を強く望んでいる、③映画館建設が実現すれば、会津地方の商圏人口約30万人を取り込むことができ、地域経済活性化にもつなげられる、④子育て施設に併設されることで課外学習の場としての活用も期待できる、⑤教育旅行誘致の際、映像を通して歴史・文化・伝統・自然・食などを学ぶ場があれば強力なPR要素になる。
これに対する市の見解は《収益機能については、「子どもの遊び場・子育て支援」との親和性や利用者の利便性の向上につながる機能、地域の賑わいや活気の創出、地域経済の活性化につながる機能を期待しており、事業者からの提案を受け、より良い機能を選定する考えです》。
「子どもの遊び場・子育て支援」と親和性があるなどの要件をクリアし、高評価を受ける映画館事業者がいれば実現する可能性もある、と。
ちなみに、映画業界関係者によると、地方で新たにシネコンなどの大型映画館を作る際の前提条件となるのは広い駐車場で、「併設されている駐車場がないと気軽に見に行こうという思いが削がれ、集客に影響する」という。前述の通り、同跡地に整備される駐車場は約190台。映画館紹介サイトの情報によると、福島市の映画館・フォーラム福島の駐車場は約150台。そもそも民間収益施設を「子育てと親和性があるもの」に限定する必要があったのか、という疑問も残るが、果たして挑戦するシネコン事業者は現れるか。
会津若松商工会議所の担当者は「現時点では優先交渉者がどんな事業者になるのか、注目して待つしかない。当会議所ではアンケートで中心市街地に映画館を求める声を多くいただいているので、引き続き要望していく」と語った。
「根本から見直すべき」

同跡地の利活用に関しては、根本から見直すべきだと主張する声もある。JR只見線の絶景写真で知られる奥会津郷土写真家・星賢孝さんは「鶴ヶ城に近い場所なのだから道の駅や飲食店、映画館などの商業施設を整備すべきだ」と主張し、フェイスブックにはこう記している。
《集客力のある道の駅と飲食店、ショッピングや映画館を集約すれば、これまで逃げていた300万人の観光客と全会津の市民住民がそこに集結する事となる。
(中略)全会津100年の経済発展を灰塵に化して、膨大な維持管理費が発生する「子供の遊び場設置」等という「世紀の愚策」は絶対に止めていただきたい。
子供の遊び場は経済隆盛の後の、余裕資金で陸上競技場跡地にいつでも設置できる。くれぐれも順番を間違えないでいただきたい》
新型コロナウイルスの世界的流行がひと段落し、国内の観光需要、インバウンド需要ともに回復しつつある(78頁参照)。県内でも外国人観光客の姿を見かけるようになっており、会津若松駅前では観光客・インバウンド客を見込んだビジネスホテル整備も検討されているという。
星さんの写真は特に台湾で人気が高く、昨年12月には台北市で写真展が開催された。只見線を見に台湾から奥会津まで足を運ぶ観光客も多い。観光のパワーを体感してきた星さんだけに、いまから屋内遊び場の計画を見直すのは現実的ではないものの、あえて提言したのだろう。もちろん、子育て支援施設を待ち望む市民も多いだろうが、同跡地に大きな可能性を見いだしている人はそれだけ多いということだ。
今後に向けた懸念材料は、同跡地の前を走る都市計画道路藤室鍛冶屋敷線の渋滞だ。道路沿いには鶴ヶ城や県会津若松合同庁舎、竹田綜合病院などがあり、交通量が多い。同跡地に出入りする車が増えれば、周辺で慢性的に渋滞が発生する事態になりかねない。
市まちづくり整備課によると、道路拡幅の予定はあるが、時期等はまだ決まっておらず、同跡地の方針が固まり次第調査を始める予定とのこと。アクセスの良さは利用状況を左右するだけに、道路整備にスピード感を持って対応できるかが今後の課題になっていきそうだ。
このほか、同跡地に隣接する市営住宅の建て替えなどに関しても、さまざまな意見が出ている。室井照平市長がどのようにまちづくりを進めていくのか、その象徴的存在として注目が集まる同跡地。果たして優先交渉者にはどのような事業者が選ばれるのか。