町有観光施設のあり方を検討していた南会津町は昨年12月、町内4つのスキー場のうち、会津高原だいくらスキー場と、北日光・高畑スキー場を2031年3月末で閉鎖する方針を盛り込んだ素案をまとめ、議会に提示した。これが波紋を広げ、地元有志が存続に向けた活動を展開している。
住民有志が存続に向けた活動を展開

南会津町は2023年度に、一般社団法人・福島県中小企業診断協会に町有観光施設の評価を委託した。「人口減少や少子化による税収減など、今後さらに厳しい財政状況が予想される中、町有施設の維持経費が将来的に大きな財政負担になることが危惧されることから、今後の町有観光施設の指定管理者公募を見据え、町の方針等を決定する際の判断材料のひとつとするため」というのが目的だ。
評価の対象とされたのは16施設で、昨年春までに「南会津町観光施設評価業務報告書」が示された。中でも厳しい評価となったのがスキー場。だいくらスキー場と北日光・高畑スキー場は「2026年3月末で廃止あるいは売却」、南郷スキー場は「今シーズンの収支状況次第で廃止」と評価されたのだ。
これが波紋を広げているわけだが、本題に入る前に、過去の経緯に触れておきたい。
同町は2006年に田島町、南郷村、舘岩村、伊南村の南会津郡4町村が合併して誕生した。旧町村ではそれぞれスキー場を所有していたほか、それら施設を運営する第三セクターがあり、合併新町がすべて引き継いだ。旧田島町のだいくらスキー場、旧南郷村の南郷スキー場、旧舘岩村のたかつえスキー場、旧伊南村の高畑スキー場だ。財政規模がそれほど大きな自治体ではないにもかかわらず、4つのスキー場を抱えることになったのだ。そのため、それらをどうしていくかは合併直後から課題だった。
そこには、2006年に事実上の財政破綻した北海道夕張市の事例が間接的に関係している。同市は石炭産業で発展したが、国のエネルギー政策転換によって、1970年後半から80年代にかけて炭鉱は閉山していった。そんな中、市が石炭産業に代わる雇用対策として着手したのが観光事業で、テーマパークやスキー場などを開設した。当時はいわゆるバブル期で、各地でリゾート開発が行われていた時期だった。しかし、バブル崩壊以降は、それが重荷になり、事実上の財政破綻に至ったのである。
その後、2007年に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)」が施行され、一般会計だけでなく、特別会計や企業会計、第三セクター等も含め、最終的に自治体が負担すべき部分を踏まえた指標等の公表が求められることになった。
そうした経緯があり、町有施設とそれらを運営する三セクのあり方をどうするかが問われていたのだ。最初にアクションがあったのは合併から3年が経った2009年。同年4月に第三者機関「南会津町第三セクター経営評価委員会」を立ち上げ、第三セクターの経営改革プランを策定した。同プランの実践期間は、2010年度からの3年間で、この期間は「経営改善期間」と位置付けた。同期間終了後の2012年度には再度、経営評価が行われた。
本誌は2012年11月号でその詳細をリポートしたが、各施設の評価は散々だった。
だいくらスキー場は、2012年は約1300万円の営業利益を出したが、町が修繕費約2200万円と起債償還で約4300万円を負担しており、実質的には約5300万円の赤字になるという調書結果だった。

高畑、南郷両スキー場はそれぞれ400万円超の営業損失を出しており、前例同様、町の負担を踏まえると、実質的な損失はそれぞれ約3500万円と約6300万円。
こうした診断結果から、高畑、南郷両スキー場は「廃止」の方向性が示された。一方、だいくらスキー場は、最も経営状況がいいため「選択と集中により、町内各スキー場に分散されていた資源・顧客を集中させる」といった観点から、存続の答申となった。

たかつえスキー場は、公費負担を含めると、約9800万円の営業損失を出しているが、「付随するアストリアホテルとの一体的な付加価値などから再生可能」と判断され、同ホテルとともに「売却を視野に入れた継続」との方針が打ち出された。
そもそも、同スキー場・ホテルを経営する会津高原リゾートは、町の出資比率が20%程度とそれほど高くなかった。実質的には東武グループが経営を担っており、その点が町100%のほかのスキー場とは違っていた。なお、現在は東武グループはたかつえスキー場から手を引き、完全に町の責任下に置かれるようになった。
指定管理者公募で存続
こうした評価・答申を受け、町がどう判断するのかが注目されたが、すぐに廃止するのではなく、指定管理者を公募することで、当面は存続させることにした。
その背景にあったのは、1つはスキー場は農家や土木・建設作業員などの季節雇用での貢献が大きいこと。特に南郷スキー場は、同地区では南郷トマトの栽培が盛んで、都市部などから新規就農者を受け入れており、夏場は南郷トマトを栽培・出荷し、冬場はスキー場の季節雇用があるから農閑期の収入も確保できるというのが誘い文句だった。そのスキー場が廃止されたら、「話が違う」ということになってしまう。
もっとも、ある関係者からは、「南郷スキー場が好きで、よく通っているうちに、ここに住みたいと移住する人が出てきた。その人たちがどんな仕事をするか、といったときに南郷トマトの生産に携わるようになった」との話も聞かれた。
南郷トマト生産のために移住した人、スキー場ありきで移住した人がいるようだが、いずれにしても同地区にとっては大きな産業だったのは間違いない。
ちなみに、南郷スキー場は北京2022オリンピック、スノーボード男子ハーフパイプ金メダリストの平野歩夢選手が練習拠点としていたことでも知られる。
もう1つは、前述の答申が示された前年(2011年)に震災・原発事故があり、「そうした外的要因がなければ、経営状況は違っていたかもしれない。だから、もう少し様子を見てもいいのではないか」といった考えもあったようだ。
こうした理由から、当時は廃止には踏み切れなかった。前述したように指定管理者を公募することで存続させることにして今日に至る。要するに、スキー場を廃止すべきといった話は10年以上前からあったことなのである。
もっとも、今回は以前の「三セク評価」ではなく、施設ごとの評価になった。町企画政策課はこう説明する。
「以前は町有観光施設=三セク運営という構図でしたが、いまは指定管理者制度の浸透などにより、民間企業が町有観光施設を運営することも多くなりました。ですから、かつての『三セクの経営状況を評価する』といった形ではなく、施設ごとの経営評価と、今後町の負担がどのくらいになるかといった観点から、経営評価を委託したものです」
そうして、町は2023年度に一般社団法人・福島県中小企業診断協会に経営評価を委託したわけ。
3スキー場の詳細評価
評価結果は前述の通りだが、以下は報告書に基づき「廃止・売却」との評価が下ったスキー場の詳細について見ていきたい。
だいくらスキー場
▽県内外から多くのスキー客が来訪し、地元の宿泊施設に宿泊したり、食事や土産品を購入したりと地域経済の発展や観光振興に大きく寄与してきた。一方で、2007年度には約10万人の来場者があったが、2022年度は約6・6万人となっており、スキー人口の減少の流れに同調する形で、来場者、売上額とも減少傾向にある。2022年度は最終利益は黒字になっているが、施設が老朽化しており、2024年度以降、毎年4000万円以上の修繕費等が必要な見込みである。特に2027年度には第一ロッジの建て替え計画を含め、5億6000万円もの多額の経費支出が予定されており、改善効果を織り込んでも、設備投資を上回る利益を生み出せる余地は見いだせない。このため、2026年3月末で施設を廃止し、民間事業者への売却を進めていくことが妥当であると考える。
南郷スキー場
▽表面上のキャッシュフローに基づく事業価値は、さいたま自然の教室(※小中学校のスキー教室)実施受け入れによる特需要因を除いて算出すると、565万円の赤字という現状である。スノーボード愛好家やインバウンドなどの潜在顧客に向けたPRをさらに進め、併せて隣接ホテルとの連携を進めて、来訪者増大と客単価向上を図ることで単体の営業利益ベースで黒字化の可能性はある。一方、スキー場運営は設備投資型であり、売り上げ改善と単体黒字化を見込んだ後でも設備投資コストを差し引いたキャッシュフローベースの事業価値は7949万円の赤字と算出される。収支改善による黒字化ができない限り施設の運営継続は難しく、コスパ部門満足度1位を返上する覚悟で価格戦略の再検討(客単価を向上)に踏み込み、来シーズンにかけて単価引き上げや近隣ホテルとの相乗効果の創出により、まずは黒字化を目指し、結果次第で廃止あるいは売却の判断を行うことが妥当。
高畑スキー場
▽栃木県からの利用が多いが、栃木県民はハンターマウンテン塩原スキー場をはじめ、福島県内でも多くのスキー場にアクセスできる。栃木県の顧客をいかに誘客できるかが判断の分かれ目になると思われる。また、尾瀬檜枝岐温泉スキー場との距離が約10㌔と非常に近く、エリアとしての魅力や価値という観点からは競争劣位の状態にあり、スキー場としての事業価値の向上は容易でない。中途半端に追加投資を行ってもそれほどの効果は期待できず、町が保有する施設という観点では「選択と集中」により存続する施設に集中的に投資を行うべきである。指定管理者であるDMCaizuとしても、事業価値を高めるために多額の設備投資を行いながら利用客の増加に奮闘しているが、投資回収が見込めず事業価値のマイナスが今後も続くとなると、グループ本社として撤退の判断をせざるを得ないタイミングを迎えることになると思われる。町として売却の意向をDMCに伝え、撤退を含めた判断や準備に取り掛かってもらうべきと考える。その上で、残りの期間について町として事業価値の向上を可能な範囲で後押しし、2026年3月末までに①DMCが引き受け可能なら売却、②引き受けが困難で撤退するなら廃止のいずれかの選択を行うべきと考える。
三セク経営評価で「廃止」の方針が示された際、指定管理者を公募することで当面存続としたことは前述した。現在の指定管理者はだいくらスキー場、南郷スキー場、たかつえスキー場は第三セクター・みなみあいづ、高畑スキー場は猪苗代スキー場などを運営するDMCaizu(猪苗代町)となっている。DMCについては、本誌でもたびたび取り上げてきた。代表の遠藤昭二氏は猪苗代町出身で、端的に言うと、東京でビジネスに成功し、地元貢献として、さまざまな事業を行っている。
現在の指定管理者とは5年契約を結んでおり、2026年3月末までとなっている。そのため、だいくらスキー場はその期間が終わったら廃止、南郷スキー場は契約期間最終シーズンの経営状況を見て廃止・売却を判断、高畑スキー場は契約期間満了までにDMCが引き受け可能なら売却、それが無理なら廃止――といった案が示されたのだ。
なお、もう1つのたかつえスキー場は、東北有数の規模であること、教育旅行・合宿旅行の受け入れ態勢を磨いてきた強みがあること、だいくらスキー場より改善の可能性が高いことなどから、選択と集中により「暫時継続」との評価だった。
この報告書について、昨年6月には町内4地域(旧町村単位)で住民説明会を実施した。その中で町が強調したのが「この報告書は判断材料の1つであり、ここで『廃止・売却すべき』と評価されても、必ずそうなるわけではない」ということ。そのうえで、住民からは「廃止やむなし」との声も一部あったが、やはり「残してほしい」といった意見が多かった。
素案と修正案
町はそれらを踏まえて、昨年12月までに素案をまとめ、同月13日の議会全員協議会で示した。冒頭で述べたようにだいくらスキー場と、高畑スキー場を2031年3月末で閉鎖する方針が盛り込まれ、渡部正義町長は「苦渋の決断」と説明したという。
この時点ではあくまでも素案で、これを基に議会と協議し、修正案を示すことになっていた。ただ、同日の全協で示された素案内容が地元紙などで「だいくらスキー場と高畑スキー場が廃止方針」と伝えられ、波紋を広げることになった。
だいくらスキー場関連では町民有志が「だいくらスキー場を未来につなぐ会」を立ち上げ、再検討を求める活動を行っている。同会共同代表の湯田浩和さんと関根健裕さんに話を聞いた。
「昨年6月に(評価報告書についての)説明会があり、12月には素案が示されましたが、正直こんなに早く素案が出されるとは思っていませんでした。現在『つなぐ会』では署名活動を行っており、先日、ある区長さんのところにそのお話に行ったところ、だいくらスキー場の廃止案が出ていることを私から聞いて初めて知ったというのです。まだそういう状況なんです。もっと住民の意見を聞いて、話し合いをすべきという思いは強い。今後、町の案についての住民説明会が行われるので、多くの人に参加してもらうと同時に、われわれは署名簿提出とともに、民意を伝えたいと思っています」(湯田さん)
「だいくらスキー場は廃止になることはないだろうと、漠然と思っていたので、素案が示されたときはショックと驚きでした。私自身、何かアクションを起こさなければと思っていた中で、住民有志の会を立ち上げるとのことだったので、参加することにしました。先日はスキー場でキックオフイベントを行い、いまは署名活動を行っています。今後、町は住民説明会を実施する方針ですから、そこで思いを伝えると同時に、存続に向けて地道に活動していきたい」(関根さん)
一方、高畑スキー場についても地元関係者などから要望書が上がっているという。ただ、現状ではだいくらスキー場(つなぐ会の活動)ほど大きなうねりにはなっていないように感じられる。
町企画政策課によると、リフト修繕や圧雪車の経費などの公費負担は各スキー場ワンシーズンで2000〜3000万円、4つで1億円超になるという。加えて、評価報告書にもあったように、だいくらスキー場は、2027年度に第一ロッジの建て替え計画を含め、5億6000万円もの多額の経費支出が予定される。そのため、「人口減少、財政縮小などの課題がある中で、スキー場を整理して町の負担を軽くし、もっと別の部分にその分の予算を振り向けたい」というのが町の基本的な考え方だった。
一方で、スキー場の季節雇用はそれぞれ40〜60人、4スキー場で約200人おり、農家などの冬季の貴重な収入源になっているほか、民宿・ペンション経営者にとっても死活問題。そのため、今回の指定管理契約期間満了で廃止ではなく、2031年3月末廃止といった内容になっていた。
そんな中でまとめられたのが最初の素案だったが、議会での協議や地元住民の動きを踏まえ、町は修正案をまとめ、1月22日に開催された議会全協で示した。それによると、町の財政負担がなければ存続を可能とする方向性を明らかにした。
前述したように、町の基本的な考え方は「スキー場を整理して町の負担を軽くし、もっと別の部分にその予算を振り向けられるようにしたい」というもの。それは変わっていない。要するに、これまでの指定管理ではなく、町財政負担がない状況で民間事業者による運営が可能なら、存続もあり得るということだ。
高畑スキー場は国有林

今後予定されている住民説明会を経て、この方針が本決まりになったら、町から施設を借りて、あるいは買って、完全独立採算で引き受ける民間事業者が出てくるかどうかが最大の焦点になろう。
ちなみに、だいくらスキー場は借地で、引き受ける事業者がいたら、そこが地権者と新たに契約を結んで借りることになろう。一方、高畑スキー場は、国有地(国有林)のため、スキー場を廃止するとなると、原状回復、植樹して国に返還しなければならない。その場合の費用は数億円規模、あるいはもっと大きくなろう。これでは町の基本方針に反することになる。そのため、高畑スキー場に関しては、正確には「廃止」ではなく「閉鎖」して別の使い道を探ることが現実的のようだ。ただ、それが何かは見えていない。その点では、同スキー場は廃止(閉鎖)するにしても、大きな課題が残されることになる。
前述したように、スキー場を廃止すべきではないかという議論は10年以上前からあった。そう考えると、よくここまで存続してきたと言えなくもないが、もし廃止(閉鎖)するにしても冬季の雇用をいかに確保するかや、スキー場跡地をどうするかといった課題が残される。もっと言うと、旧町村間で「こっちは廃止なのに、向こうは存続されるのは納得できない」との不満が生じる可能性もあり、簡単な話ではない。