会津坂下町が検討を進める新庁舎の建設場所は、計画では「2024年度中に決定」となっている。しかし、本当に決定するのか雲行きが怪しくなっている。
〝本命〟坂下厚生病院跡地に決まらない理由

なぜ、ここまで迷走するのか――というのが率直な感想である。会津坂下町が検討を進める新庁舎の建設場所のことだ。
老朽化が著しい同町の庁舎は、2018年に「現庁舎周辺で建て替える」ことがいったんは決まった。ところが、財政難を理由に建設が延期されると、2022年には「4年前と町内事情が変わっている」として町民有志から建設場所の再考を促す請願が議会に提出された。議会は請願を賛成多数で採択し、建設場所を再度協議することを求める意見書を古川庄平町長に提出した。
これを受け、町は望ましい建設場所を尋ねる町民アンケートを行ったところ「旧坂下厚生病院跡地」と答えた人が最も多かったため、古川町長は2023年に新庁舎の建設場所を同病院跡地にする方針を示した。
だが、一部議員や町民からは「現庁舎周辺で建て替えると議決したのに、あっさり覆すのは議会軽視だ」、「町が作成した資料を見ると病院跡地へ誘導しようとしている」、「町は事業費など正確な情報を町民に伝えていない」という批判が続出。各地区で開かれた住民説明会では、出席者が「そんな決め方でいいのか」と古川町長に詰め寄るシーンも見られた。

「そんな決め方」とは、現庁舎周辺に決めた時は検討委員会を計10回開いて議論を戦わせたのに、同病院跡地はロクに検討委員会を開かずアンケート結果が決定の根拠になっていることを指している。事実「町は丁寧さを欠いている」との意見は同病院跡地に賛成・反対する町民双方から聞こえてくる。
同病院跡地そのものに不審の目を向ける町民もいる。
同病院跡地はもともと、町内のマルト建設がJA福島厚生連から購入する約束になっていた。同社は旧坂下厚生病院の解体工事を請け負った関係で、更地になったあとの利活用に困っていた厚生連から売却を打診され、断り切れずに応じた。ただ、両者は買付証明書と売渡承諾書を交わしたものの正式契約ではなく、あくまで売買を「約束」しただけだった。そうした中で同病院跡地が新庁舎の候補地に挙がったため、同社は「もし町が厚生連から取得するなら約束は破棄してもいい」との意向を示している。
取得後は宅地造成をするしかないと考えていた同社にとって、新庁舎建設は渡りに舟だったわけだが、タイミングが悪かったのは、当時の社長と役員が県職員への贈収賄容疑で逮捕され、町民に悪いイメージを持たれたことだった。それが「マルト建設が買うはずの土地に町が新庁舎をつくろうとするのは、何らかの密約があるに違いない」との見方につながったことは否めないだろう。
取材では密約を裏付ける証拠は得られなかったが、同社は創業50周年を迎えた2021年から町や学校などに多額の寄付をしており、それが曲解されて「下心の表れ」と見られた面もある。
あらためて、同社は同病院跡地にどう関わっているのか尋ねると、
「もし町が病院跡地に新庁舎を建てるなら、当社と厚生連の約束は破棄し、町が厚生連と直接契約していただいて構いません。ただ、新庁舎を別の場所に建てることが決まったら、当社は約束通り厚生連から病院跡地を取得します。取得後は町の発展に貢献するため、宅地整備を考えています」(担当者)
と語り、「密約」については
「もちろん、そんなものあるわけないです」(同)
と明確に否定した。
同病院跡地ばかり注目が集まるが、建設場所はこのほか現庁舎跡地、南幹線県有地、県立坂下高校改修と計4カ所が候補地に挙がっている。
別表は町が昨年11月に公表した資料に基づき、本誌が作成した概算事業費の内訳である。既存校舎(3階建て)を活用する坂下高校改修案以外は2階建てと3階建てにした場合の事業費を示している。

それを見ると、最も安上がりなのは坂下高校改修案で、他の6案は40~41億円台と大差ない。しかし、町民アンケートで同病院跡地を望む回答が多数を占めたのは①駐車場が広く確保できる、②町内の発展を見据えると適地、③防災機能を備えることができる――等々が主な理由になっている。
同病院跡地が有力な候補地であることは間違いなさそうだが、だからと言ってすんなりと決まるわけではない。同病院跡地に新庁舎を建設するには「ある問題」をクリアしなければならないからだ。
別掲の図は町が発表した同病院跡地に建設する場合の配置計画(2階建て庁舎案)だが、全体(2万1000平方㍍)を使うのではなく西側半分(1万0750平方㍍)に新庁舎を建て、東側半分(1万0250平方㍍)は空き地になっている。

そうなると、町は厚生連から西側半分だけを取得すればいいことになるが、厚生連は同病院跡地を一括売却したい意向で、半分ずつ売却することはしないという。
実際、町は同病院跡地の取得費として4億6000万円を見込んでいるが、東側半分を2億円で売却すると想定し、実質的な取得費は2億6000万円としている。
とはいえ、町に売却先のアテがあるわけではない。昨年11月に開かれた第15回新庁舎建設検討委員会では事務局が「一度全てを購入し残敷地を売却という形となるが、ただ売却するのではなく、町としては優良な団体を誘致したい」と希望的観測を述べるにとどまっている。
「売却先のアテがないのに一括で取得するのはリスクがある」
とこぼすのは五十嵐正康議員(4期)である。
「仮に売却先が見つかっても、町が想定する2億円で買ってくれるかどうかは分からない。また、町は西側半分に新庁舎を建てるとしているが、売却先が北と南に分筆することを求めたらどうするのか」(同)
だから五十嵐正康議員は「厚生連から取得する前に、跡地全体の利用計画を策定すべき」と主張する。
「売却先が決まり、相手がどんな利用をするか協定を結ぶなどしてから新庁舎建設に取り掛からないと全体の有効利用は難しいし、いつまでも売れないまま空き地として残り続ける恐れもあります」(同)
売却先として以前から候補に挙がるのがJA会津よつばである。背景には、同JAが支店の統廃合を迫られる中、町内の坂下支店は会津西部の中核を成すとみられているが、建物が老朽化し規模も小さいことを考えると新築移転する必要がある、との見方が持ち上がっているのだ。
2023年6月に開かれた第13回新庁舎建設検討委員会では、ある委員がこんな発言をしている。
「確かにJAも支店施設の再編ということで進んでいる。2024年度からは若宮支店、金上支店、広瀬支店で体制が変わる予定。若宮支店は坂下支店と一緒となり、金上支店と広瀬支店は各日週2回の営業で、ゆくゆくは坂下支店と一緒になる構想。ただそうするとボリュームが大きすぎるので、今の坂下支店では対応できない部分もある。先のことで分からないが、新店舗建設という流れで上の方も我々の方も考えてはいる」
ただ、同JAは同病院跡地を買うとも、坂下支店を新築移転するとも言っていない。新築移転する場合は総代会に諮る必要があるが、執行部が関連議案の提出を予定しているわけでもない。
「JA会津よつばはかろうじて黒字なので、跡地取得や新築移転する財政的余裕はないと思う。原喜代志組合長も、今のところその気はないと聞いている」(町内の事情通)
町は3月定例会に建設場所に関する議案を提出し、今年度中に正式決定したい意向。もちろん、本命は同病院跡地だが、敷地半分の用途が決まらない中で議会が一括での取得を認めるかは不透明な情勢である。
「なぜ、建設場所を決めるのにここまで迷走するのか分からないが、一つ言えるのは、町民に丁寧に説明するのは当然として、最後はトップが『こういう理由でここに建てることを決めた』と決断できるかどうかだと思います。批判を恐れて決断できないと、ダラダラと時間だけが過ぎていくことになる」(同)
6月には町長選が控えており、古川町長は再選を目指して立候補する意向だが、3月定例会の議会の判断によっては新庁舎の建設場所が大きな争点の一つになるかもしれない。
最後に苦言を一つ。町民から「丁寧さを欠いている」と批判された町はその後、こまめに情報を発信して町民に周知を図ったり、若手職員による研究部会を立ち上げ、現庁舎の問題点や新庁舎に求められる機能を洗い出している。一見、丁寧な対応に努めている印象だが、町議会のインターネット録画配信をめぐっては前出・五十嵐正康議員が12月定例会で建設場所に関する突っ込んだ質問をしたにもかかわらず、その部分は公開されず、観光と教育に関する質疑応答のみが公開された。
五十嵐正康議員の質問に執行部がどう答えたのか、その様子を非公開とするのは「町にとって都合の悪い質疑応答だったので公開を避けた」と疑われても仕方がない。こういう恣意的な判断が続く限り、丁寧な対応をしていることにはならない。