麻薬特例法違反に問われた俳優の村杉蝉之介(本名・友一)氏(58)に3月27日、福島地裁は懲役10月執行猶予3年(求刑懲役10月)を言い渡した。福島ではめったにない芸能人の裁判に同地裁は傍聴整理券を用意したが抽選に至らず知名度の低さが表れた。村杉氏も法廷で「自分は芸能人という認識はない。それが軽率な行動につながった。報道では所属劇団『大人計画』が引き合いに出されて迷惑を掛けた」と詫びた。
村杉氏は28歳で俳優松尾スズキ氏が率いる大人計画に参加し舞台デビュー。テレビや映画では名脇役に徹した。「見たことある顔」ではあっても名前までは知らない読者・視聴者が多いため、マスコミは村杉氏の逮捕を、松尾氏や宮藤官九郎氏、星野源氏ら著名俳優が所属する「大人計画の俳優が逮捕」と報じた。
公判で村杉氏は、俳優業を続けることの限界を吐露した。
「誰かが輪になって話している時、そこに入って話すことがすごくストレスだった。仕事でも初対面の人と話すと汗がダラダラ流れた。ただ、稽古、本番は何よりも楽しかった」
対人ストレスから眠れなくなり、睡眠導入剤を使用するが、効き目を感じなくなる。頼ったのが大麻の成分を一部加工した薬物だった。電子タバコのように器具で加熱して吸引する。2022年3月まで健康食品として「合法」に販売されていた。規制が進むたびに微妙に異なる成分の製品が開発されるイタチごっこが続いている。
「吸うと気持ちが落ち着き眠れた。普段の自分とは思えない陽気な言動になった。合法なので体に影響はないだろうと思っていた」
合法のうちに買い込んでいたが、底を突くと、大麻の他、MDMAやLSDなどの幻覚剤をネットで買うようになる。昨年11月に福島県警が家宅捜索して違法薬物を発見し逮捕した。吸引器具は三十数個あった。
東京都足立区在住なのになぜ福島県警が逮捕したのか。福島県はいまやアパートや山間地で密栽培が横行する大麻供給地と化している(本誌昨年12月号参照)。今回、福島県警は捜査網を広げ、鹿児島県警と協力し、同県姶良市の密売人にたどり着いた。密売人はSNSで注文を受けた全国の客に大麻をレターパックで送っており、その中に村杉氏がいた。
芸能人を逮捕するとマスコミは大きく報じるため、捜査機関は啓発効果を期待して立件により力を入れる。村杉氏逮捕は福島県警の大きな手柄となった。
逮捕したのが福島県警だったのは村杉氏にとっても悪くはない。もし警視庁が逮捕すれば、傍聴マニアがひしめく東京地裁で裁かれることになり、在京マスコミも「とりあえず傍聴するか」と衆目にさらされる。 これが福島市なら村杉氏の知名度と費用対効果を考えてわざわざ来る者はいない。実際、3月12日に福島地裁で開かれた初公判には54席の一般傍聴席に23人の傍聴希望者しかいなかった。鹿児島県警が逮捕した場合、福島と同じように裁判の注目度は低かっただろう。だが、保釈中で自宅にいる村杉氏は都内から鹿児島地裁にまで赴かねばならず、負担は福島よりも大きくなったはずだ。
裁判が福島で静かに行われた中、村杉氏は「俳優を辞めた」と打ち明けた。心理療法を受けながら、新たな職を探しているという。面談にこぎつけたものの不採用となり、還暦前に再就職する難しさを語った。
「保釈後、松尾スズキさんにお会いした時は『この年で何をやっているんだ』と言われました。松尾さんの『悲しかった』との言葉が一番胸に刺さった。本当に後悔しています」
再犯すれば、執行猶予が取り消され薬物累犯者を受け入れる福島刑務所に収監される可能性が高い。2022年10月には田代まさし氏が同刑務所から出所した。村杉氏には仕事や観光以外では二度と福島に来ないでほしい。