「もしかしたら自分が騙されていたかもしれない。そう思うとゾッとします」
こう話すのは、なこそ病院(いわき市勿来町)で勤務した経験を持つ医師Aさんだ。
なこそ病院に関する記事は本誌昨年12月号、今年3月号で取り上げている。2014年に新築されたなこそ病院が、昨年春から夏にかけて突然解体された。病院を運営する医療法人社団栄央会は給料未払いが長く続き、2023年から休眠。地裁いわき支部では土地の所有者である地元スーパーのマルトと元理事長の大橋健二氏が栄央会を相手取り、それぞれ民事訴訟を起こしていた。
建物には県が多額の補助金を支給していたが、栄央会と県の間で財産処分の手続きが完了する前に解体されたため、県地域医療課は「甚だ遺憾」と困惑。さらに国会議員の口添えで、開設時の理事長・永井博典医師の個人保証付きで、独立行政法人福祉医療機構から6億5000万円の〝超異例融資〟を受けるなど、栄央会は奇妙さが目に付く法人だった。
これらの記事を読んで本誌に連絡をくれたのが冒頭の医師Aさんだ。Aさんは現在、首都圏の大学病院に勤務している。
「私は給料の未払いはなかった。実害は勤務体系が勝手に変更されたことくらいですかね」(Aさん)
Aさんは親がいわき市出身で、同市の医療をサポートしたいと考えていたところ、なこそ病院の求人を見つけ非常勤として採用された。
Aさんが問題視するのは、なこそ病院の医療サービスを担う㈱RICHE BOND(リッシュボンド)という会社。法人登記簿によると2012年設立、資本金300万円。東京都千代田区に事務所を置く。役員は複数いたが、現在は福井啓介氏1人しかいない。福井氏は休眠する前の同病院で事務長を務めていた。
「リッシュボンドには元検事、国会議員秘書、地方議員、元テレビ解説委員などが関わっていたが(※Aさんは実名を挙げたが、ここでは伏せる)、活動の実態が見えず、最初から『怪しい会社』という印象が拭えなかった」(Aさん)
リッシュボンドを調べると、元検事や元テレビ解説委員の名前は確認できなかったが、千葉県内の市議と同姓同名の人物がかつて役員に就いていたことが判明した。横浜市には同社の元役員が代表を務める合同会社Richebond MS法人という会社があることも分かった。
福井氏が事務長の時、理事長を務めていたのは北川智之医師だが、
「北川氏は若く、病院の中身なんてよく知らなかったはずだが、福井氏らに言いくるめられて理事長に就かされたのでしょう。理事長になれば債務の連帯保証も付いてくるはずだから、事情を知らない若手医師を騙したようなものだ」(同)
ちなみに、北川氏の前の理事長は中村洪一医師だが、中村氏は半年、北川氏も8カ月で理事長を退任。北川氏の後を受けた前出・大橋健二医師も「福井氏と北川氏に騙されて理事長に就かされた」と地裁いわき支部に提訴し、大橋氏の訴えが認められる判決が出ている。
「彼らがどんな事情で理事長を引き受けたかは分からないが、こういう怪しい病院の運営に関わると同業者の間で『経歴に問題アリ』と注意喚起が出回る。キャリアに傷が付いた彼らは本当に気の毒」(同)
このほかAさんは「県の補助金を使ってつくられた建物が解体されるのは超異例。普通は居抜きで介護施設に転用される。高級なMRIなどもたくさんあったが、どのように処分されたか興味深い」とも語った。
今は跡形も無いなこそ病院だが、関心を向ける人はまだまだ多い。
























