相馬市内の住宅敷地に侵入し、入浴中の女性を撮影しようとしたとして、住居侵入と性的姿態等撮影処罰法違反(撮影未遂)の罪に問われたふたば未来学園中の元男性教諭の初公判が1月21日、地裁相馬支部(岩田真吾裁判官)で開かれた。元男性教諭は罪を認め即日結審し、検察側は懲役1年を求刑、弁護側は「実名報道されるなど社会的制裁を受けている」として執行猶予付き判決を求めた。2月3日に判決が言い渡される(原稿執筆時点は1月)。
相馬の住宅地に侵入して盗撮未遂

罪に問われた元教諭は、相馬市在住の佐藤弘章被告(32)。大学院を卒業後、2017年4月から中学校教諭としていわき市や相馬市の中学校で勤務し、広野町のふたば未来学園中には昨年4月に着任した。
罪に問われている相馬市内での犯行は昨年の4月と9月に実行した。検察側の証拠や佐藤被告の法廷での発言によると、佐藤被告はインターネット上に違法にアップロードされている風呂場を盗撮した動画を見て「自分にもできるのでは」と興味を持ったという。
2023年夏に小型カメラを購入したが、隠し撮りをするには大きく画質も悪いため、同年10月に新たに小型カメラを購入。冬になり、窓を開ける家が少ないため、「暖かくなってから実行しよう」と盗撮計画を温めていた。春になり、佐藤被告はふたば未来学園中に異動になる。
犯行当時、佐藤被告は現在の居住地とは別の相馬市内の住居に1人で暮らしていた。生徒名簿を見て、自宅近くに住む元教え子の女子生徒の家を狙ったという。人通りが少なく、奥まっていて人目に付きにくい場所にあることも選ぶ際に重視した点だった。取り調べでは、相馬市内の状況について「車の窓を開けっぱなしにしており、防犯意識が低い」と供述していたという。盗撮対象は元教え子でも母親でも女性であればよかった、とも述べていた。
佐藤被告が所持していたスマートフォンの地図アプリに記録されていた位置情報によると、昨年4月25日午後9時29分から10時18分に元教え子宅の敷地に侵入し、滞在していた。元教え子の母親で被害に遭ったAさんの供述によると、入浴中に風呂場の窓が開いていることを不審に思い調べると、コードが外につながっていた。すると、外から人の手が伸びてきて、コードを引っ張ってきた。外からは「うわっ」と男の驚いた声が聞こえた。箱形の小型カメラがあり、白色のテープで窓枠に固定してあるのが見えた。佐藤被告はカメラを回収したため、この時は犯人は判明しなかった。カメラは故障したので廃棄した。
Aさんは「子どもが世話になった先生で、良い印象を抱いていた。悪い話は聞いたことがないのでショック。子どもを狙ったとしたら気持ち悪く、裏切りだ」と供述している。
佐藤被告は犯行の数日前にもAさん宅の敷地内に滞在しており、下見をしていた可能性が高い。敷地内の防犯カメラや死角を確認する目的だったという。小型カメラとそのバッテリーには、窓枠に設置した時に窓に触れて音が出ないようスポンジをクッション代わりに巻いていた。
盗撮に気付かれたため、佐藤被告は警察に逮捕されないかと不安に怯えていたという。4カ月後の8月に防犯カメラの有無を確認するため、犯行現場に2回侵入した。
二つ目の事件の被害者も元教え子の母親だった。佐藤被告は同年5月から9月にかけて被害者Bさん宅の敷地に7回侵入。同年9月13日に小型カメラを新たに購入し、同15日午後11時1分から同44分の間、敷地内に滞在した。
入浴しようとした被害者Bさんが、窓に白いテープが付いているのに気付いた。小型カメラのレンズが風呂場に向いている。カメラを引っ張ると、つながっている赤いコードも引き寄せられた。佐藤被告は全速力で走って逃げ、その場を立ち去ったが、現場には履いていた黒色のサンダルが落ちていた。
Bさんは「動画が拡散されていないか不安だ」と恐れていたが、幸い小型カメラのスイッチは押されておらず、佐藤被告が問われた罪も盗撮未遂だった。
サンダルを現場に残してしまったことから、佐藤被告は逮捕されるのは確実と思い、9月27日に弁護士同伴で出頭した。贖罪の意識が働いたことが主な理由だが、家族や教育現場への影響を考え、実名が公表されない在宅起訴での事件化を期待したという。被害者2人には金銭を払い、被害届を取り下げて厳正な処罰を求めない示談が成立している。
教える立場に未練

教員の性犯罪、とりわけ教え子を狙った犯罪への社会の目は厳しい。結局、佐藤被告は10月15日に逮捕され、実名報道された。11月22日には、県教委から懲戒免職処分を科された。佐藤被告は出頭理由の一つに「家族や教育現場への影響を恐れていた」と話していたが、福島民友昨年10月17日付の記事を読むと納得がいく。
《佐藤容疑者の父で大熊町教育長の佐藤由弘氏(62)は16日、福島民友新聞社の取材に「このような事態を招き申し訳ない。町長らと話し合った上で自らの進退について判断し、責任を取る」と語った》
本誌が1月22日に大熊町教育総務課に佐藤教育長の任期を確認すると、2023年4月~26年3月の3年間で在任中。進退の判断は判決確定後になるだろう。
佐藤被告は犯行時は1人暮らしで、盗撮に手を染めたきっかけはネットの違法動画を視聴し興味を持ったからだった。親に責任があるとは言い難く、進退判断は体面と今後の町政運営への影響を考慮してのことだろう。
このように、弁護側は実名報道による社会的制裁を受けたとして執行猶予付きの判決を求めた。被告人質問で弁護人は、教員が教え子を狙って盗撮未遂を起こした重大性を難じた。「いずれ露見して捕まるとは思わなかったのか」との問いに、佐藤被告は「マズいとは思っていたが想像力が足りなかった。ここまでいろんな人に迷惑をかけ、社会的な信用を無くすとは考えなかった。被害者やその家族に怖い思いをさせ、迷惑をかけると想像が足りなかった」と反省の弁を述べた。恩師に盗撮に入られたショックで被害者らは転居を強いられている。
弁護人と佐藤被告のやり取りの一部を抜粋する。
――懲戒免職されたが、あなたは良い先生という評価をもらっていた。そもそもなぜ教員を志したのか。
「憧れていた。家族も教員だ。自分も学校時代に良い先生方に恵まれ、よくしていただいた。そのような先生方を尊敬していた」
――もし、あなたが教え子の立場だったら、先生から自宅に入られ、そのようなこと(盗撮行為)をされたらどう思うか。
「残念に思う」
――今回、教え子たちに同じようなことをしたのは分かっているか。
「申し訳ない」
――教師生活を振り返って良い思い出はあるか。
「こんな自分でも卒業生を受け持って、人生の岐路に立ち会えた」
――それを台無しにしたということは分かるか。
「……」
――なぜ自首したのか。犯人が特定されない可能性もあった。
「罪の意識があったのが主な理由だが、逮捕されずに在宅起訴されて、然るべき罰を受けるという選択肢を考えた。自分だけが犯した罪で、家族に言われもないペナルティが科されるのを恐れて出頭した」
――最初に話したのは9月の事件だけで、4月の事件は打ち明けていなかった。侵入したのが元教え子宅ということも話していなかった。
「懲戒処分は免れられないと思ったが、逮捕され実名報道され、家族に迷惑を掛けることは免れられる可能性もあるのではと考えていた」
佐藤被告は、被害者とその家族への償いを続け、いずれは成人の学び直しの事業を手伝いたいという。留置場で出会った人物との交流を振り返り、教育への熱い思いを語った。
「留置場では私よりも若い人だったが、社会経験は豊富でも、本を読んでこなかったなどあまり教育の機会に恵まれてこなかった方に出会った。『勉強を教えてほしい』と請われ、大人になっても学びたい人がいることを実感した。大人の学び直しを支援していきたい」
若者が儲け話に乗って闇バイトに巻き込まれる問題に関心があり、成人が社会で必要なスキルを学び直す機会を支援する事業に携わる計画があるという。
意気込みは伝わったが、刑事裁判は有罪か無罪か、有罪の場合は量刑を決める場に過ぎない。佐藤被告の話が続きそうだったので、裁判官は「ちょっと長いので質問を切ってください」と弁護人に言った。
犯行の呼び水になったのは、ネットにあふれている盗撮動画だ。ネット通販で小型カメラが入手しやすくなり、「自分でもできる」と一線を越えてしまう。「誰もが盗撮の誘惑に乗る」とは言えず、犯罪に及ぶかどうかは最終的には個人の問題だが、以前よりもその障壁は低くなっているのは確かだ。ネット社会の浸透で、闇バイトに手を染める若者が増えたこととある種の共通点がある。佐藤被告にはその共通点に気付き、今後の人生に生かしてほしい。