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福島県警の贈収賄摘発は一段落!?【赤羽組】【東日本緑化工業】

福島県警の贈収賄摘発は一段落!?

 県発注工事を巡る贈収賄事件は8月、県中流域下水道建設事務所元職員と須賀川市の土木会社「赤羽組」元社長に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。9月13日には、公契約関係競売入札妨害罪に問われている大熊町の法面業者「東日本緑化工業」元社長に判決が下される。県警による贈収賄事件の検挙は、昨年9月に田村市の元職員らを逮捕したのを皮切りに市内の業者に及び、さらにその下請けに入っていた東日本緑化工業の元社長へと至った。業界関係者は、県警が「一罰百戒」の目的を達成したとして、捜査は一区切りを迎えたとみている。

「一罰百戒」芋づる式検挙の舞台裏

須賀川市にある赤羽組の事務所
郡山市にある東日本緑化工業の事務所

 贈賄罪に問われた赤羽組(須賀川市)元社長の赤羽隆氏(69)には懲役1年、執行猶予3年の有罪判決。受託収賄罪などに問われた県中流域下水道建設事務所元職員の遠藤英司氏(60)には懲役2年、執行猶予4年の他、現金10万円の没収と追徴金約18万円が言い渡された。公契約関係競売入札妨害罪に問われている東日本緑化工業(大熊町)元社長の坂田紀幸氏(53)の裁判は、検察側が懲役1年を求刑し、9月13日に福島地裁で判決が言い渡される予定。

 本誌は昨年から、田村市や県の職員が関わった贈収賄事件を業界関係者の話や裁判で明かされた証拠をもとにリポートしてきた。時系列を追うと、今回の県発注工事に絡む贈収賄事件の摘発は、田村市で昨年発覚した贈収賄事件の延長にあった。

 福島県の発注工事では、入札予定価格と設計金額は同額に設定されている。一連の贈収賄事件の発端は設計金額を積算するソフトを作る会社の営業活動だった。積算ソフト会社は自社製品の精度向上に日々励んでいるが、各社とも高精度のため製品に大差はない。それゆえ、各自治体が発注工事の設計金額の積算に使う非公表の資材単価表は、自社製品を優位にするために「喉から手が出るほど欲しい情報」だ。

 2021年6月、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、同町内の建設業「丹野土木」の男性役員(50)、そして仙台市青葉区の積算ソフト会社「コンピュータシステム研究所」の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報同7月1日付より。年齢、役職は当時、紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。

 同紙の同年12月28日付の記事によると、この3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、仙台地裁から有罪判決を受けた。判決では、同研究所の社員が丹野土木の役員と共謀し、町職員に単価表の情報提供を依頼、見返りに6回に渡って商品券計12万円分を渡したと認定された。1回当たり2万円の計算だ。

 同紙によると、宮城県警が川崎町の贈収賄事件を本格捜査し始めたのは2021年5月。田村市で同種の贈収賄事件(詳細は本誌昨年12月号参照)が摘発されたのは、それから1年以上経った翌22年9月だった。

 福島県警が、田村市内の土木会社「三和工業」役員のA氏(48)と、同年3月に同市を退職し民間企業に勤めていたB氏(47)をそれぞれ贈賄と受託収賄の疑いで逮捕した(年齢、肩書きは当時)。2人は中学時代の同級生だった。同研究所の営業担当社員S氏が「上司から入手するよう指示された単価表情報を手に入れられなくて困っている」とA氏に打ち明け、A氏がB氏に情報提供を働きかけた。 

 川崎町の事件と違い、同研究所社員は贈賄罪に問われていない。しかし、同研究所が交際費として渡した見返りが商品券で、1回当たり2万円だったように手口は全く同じだ。

 裁判でB氏は、任意捜査が始まったのは2022年の5月24日と述べた。出勤のため家を出た時、警察官2人に呼び止められ、商品券を受け取ったかどうか聞かれたという。警察が同研究所を取り調べ、似たような事件が他でも起きていないか捜査の範囲を広げたと考えるのが自然だろう。

 ある業界関係者は「県警は田村市の元職員を検挙し、元職員とつながりのあった業者、さらにその先の業者というように芋づる式に捜査の手を伸ばしたのだろう」とみている。

 どういうことか。鍵を握るのは、田村市の贈収賄事件と、今回の県発注工事に絡む事件のどちらにも登場する市内の土木会社「秀和建設」である。

 田村市の一連の贈収賄は、三和工業が贈賄側になった事件と、秀和建設が贈賄側になった事件があった。秀和建設のC社長(当時)は、市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6~9月に行われた入札で、当時市職員だったB氏に設計金額を教えてもらい、見返りに飲食接待したと裁判所に認定された(詳細は本誌1月号と2月号を参照)。

 県発注工事をめぐる今回の事件では、県中流域下水道建設事務所職員(当時)の遠藤氏から設計金額を聞き出し元請け業者に教えたとして、東日本緑化工業社長(当時)の坂田氏が公契約関係競売入札妨害罪に問われている。その東日本緑化工業が設計金額を教えた元請け業者が秀和建設だった。

 秀和建設は坂田氏を通じて設計金額=予定価格を知り、目当ての工事を確実に落札する。坂田氏が社長を務めていた東日本緑化工業は、その下請けに入り法面工事の仕事を得るという仕組みだ。

 坂田氏と秀和建設のつながりは、氏が以前勤めていた郡山市の「福島グリーン開発」が資金繰りに困っていた時、秀和建設が援助したことから始まった。福島グリーン開発は2003年に破産宣告を受けたが、坂田氏は東日本緑化工業に転職した後、秀和建設との関係を引き継いだ。

 坂田氏は今年8月に行われた初公判で「取り調べを受けてから1年近くになる」と述べているので、坂田氏に任意の捜査が入ったのは昨年8月辺り。田村市元職員のB氏が秀和建設のC氏から見返りに接待を受けたとして逮捕されたのが昨年9月、C氏が在宅起訴されたのが同10月だから、秀和建設と下請けの東日本緑化工業の捜査は呼応して行われていたと考えられる。

 捜査はさらに県職員と赤羽組に波及する。坂田氏と県中流域下水道建設事務所職員だった遠藤氏、赤羽組元社長の赤羽氏は3人で会食する仲だった。警察が坂田氏を取り調べる中で、遠藤氏と赤羽氏の関係が浮上したと本誌は考える。裁判では、遠藤氏の取り調べが始まったのが今年3月と明かされたので、秀和建設→坂田氏→遠藤氏・赤羽氏の順に捜査が及んだのだろう。

杓子定規の「綱紀粛正」に迷惑

 芋づる式検挙をみると、不正は氷山の一角に過ぎず、さらに摘発が進むのではと、入札不正に心当たりのあるベテラン公務員と業者は戦々恐々している様が想像できるが、前出の業界関係者は「『一罰百戒』の効果は十分にあった。県警本部長と捜査2課長も今年7〜8月に代わったので、継続性を考えると捜査は一段落したのではないか」とみる。

 とりわけ、県に与えた効果は絶大だったようだ。「綱紀粛正」が杓子定規に進められ、業者からは県に対しての不満が漏れている。

 「県土木部の出先機関に打ち合わせに出向くと職員から『部屋に入らないで』『挨拶はしないで』と言われる。疑いを招くような行動は全て排除しようとしているのだろうが、おかげで十分なコミュニケーションが取れず、良い仕事ができない。現場の職員が判断するべき些細な内容もいちいち上司に諮るので、1週間で終わる仕事が2週間かかり、労力も時間も倍だ。急を要する災害復旧工事が出たら、一体どうなるのか」(前出の業界関係者)

 この1年間で、県土木部では出先機関の職員2人が贈収賄事件に絡み有罪判決を受けた。県職員はまさに羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹いている。県は不祥事防止対策として、警察官や教員を除く職員約5500人に「啓発リーフレット」を配り、コンプライアンス順守を周知するハンドブックを必携させたが、効果は未知数だ。

 実際、いま管理職に就く世代は、業者との関係性が曖昧だった。60歳の遠藤氏は「入庁当初の1990年ごろは、県職員が受注業者と私的に飲むのは厳しく制限されていなかった」と法廷で振り返っていた。赤羽氏が「後継者を見つけてほしい」との趣旨で退職を控える遠藤氏に現金10万円を渡していたことからも、県職員が昵懇の業者に入札に関わる非公開情報を教える関係は代々受け継がれていたようだ。

 ただ遠藤氏も、見境なく設計金額を教えていたわけではない。「設計金額を教えてほしい」と単刀直入に聞きに来る一見の業者がいたが、「初対面で教えろとは常識がない。何を言っているんだ」と思い断ったという。

 では逆に、教えていた赤羽組と東日本緑化工業は遠藤氏にとってどのような業者だったのか。遠藤氏は、自身が入札を歪めたことは許されることではないとしつつ、「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むようになった」と法廷で理由を語った。

 遠藤氏と9歳年上の赤羽氏は、熱心で優秀な仕事ぶりから初対面で互いに好印象を持ち、兄弟のような関係を築いた。東日本緑化工業の坂田氏とは、前述のように赤羽氏を交えて会食する仲であり、遠藤氏は坂田氏に有能な人物との印象を抱いていた。

 東日本緑化工業のオーナー家である千葉幸生社長(坂田氏が社長を辞任したのに伴い会長から就任。現在大熊町議5期)は、浜通り以外でも営業を拡大しようと、2003年に破産宣告を受けた福島グリーン開発から坂田氏を引き取り、郡山支店で営業に据えた。おかげで中通り、会津地方でも売り上げが増えたという。同社の破産手続きを一人で完遂した坂田氏の手腕も評価していた。坂田氏を代表取締役社長にしたのは、事業承継を考えてのことだった。

見せしめの効果は想像以上

 公務員だった遠藤氏は、丁寧な仕事ぶりと人柄を熟知する赤羽氏、坂田氏に「良い工事をしてもらいたいから」と便宜を図ったのか。それとも、赤羽氏から接待を受けていることに引け目を感じた見返りだったのか。何が非公開情報を教えるきっかけになったかは分からない。言えるのは、事件の時点では、清算できないほど親密な関係になっていたということだ。

 今回の摘発は、コンプライアンス重視が叫ばれる昨今、捜査の目が厳しくなり、県・市職員と受注業者の近すぎる関係にメスが入ったということだろう。

 公務員は摘発を恐れ、仕事が円滑に進まないくらいに「綱紀粛正」に励んでいる。一方、業者は有罪判決を受けた結果、公共工事の入札で指名停止となり、最悪廃業となるのを恐れている。公務員と業者、双方への見せしめ効果は想像以上に大きかった。前出の業界関係者が「一罰百戒」と形容し、警察・検察が十分目的を果たしたと考える所以だ。

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