サイトアイコン 政経東北|多様化時代の福島を読み解く

収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

 またもや県発注の公共工事をめぐる贈収賄事件である。1月の会津管内に続き、今度は県中流域下水道建設事務所の主任主査と須賀川市の土木会社社長が5月16日に逮捕。その3週間後には大熊町の土木会社社長も逮捕された。主任主査からもたらされた入札情報をもとに工事を落札した業者は他にもいるとみられる。不正はなぜ繰り返されるのか。また〝小物〟ばかり逮捕する県警の狙いは何か。

業者が設計金額を知りたがるワケ

 今回の事件で逮捕されたのは6月25日現在3人。

 1人目は、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査の遠藤英司容疑者(59)=受託収賄、公契約関係競売入札妨害。2人目は、須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆容疑者(68)=贈賄。3人目は、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸容疑者(53)=公契約関係競売入札妨害(以下、容疑者を氏と表記する)。

 事件は大きく二つある。一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを赤羽氏に教えた見返りに、赤羽氏から現金10万円の謝礼や18万円相当の飲食接待を受けた贈収賄事件。遠藤氏は収賄容疑で逮捕されたが、起訴の段階で受託収賄罪に切り替わった。癒着は2018年6月ころから22年8月ころにかけて行われていたとみられる。

 もう一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを坂田氏に漏らし、坂田氏がこの情報を他社に教えて落札させた公契約関係競売入札妨害事件。坂田氏は落札させた業者の下請けに入り、仕事を得ていた。遠藤氏と坂田氏の間で謝礼や飲食接待が行われていたかどうかは、6月25日現在分かっていない。

 遠藤氏は1982年に土木職として県庁に入った。2011年度に県中建設事務所、15年度に石川土木事務所、18年度にあぶくま高原道路管理事務所で土木関連業務に携わり、現在の県中流域下水道建設事務所は21年度から勤務していた。

 遠藤氏は前任地から工事の設計・積算に携わるようになり、土木部内の設計金額などを閲覧できるIDを持っていた。それを悪用し、所属先だけでなく担当外の入札情報も入手し、赤羽氏や遠藤氏に漏らしていたとみられる。県によると、今年2月にシステムを改修したため、現在は担当外の入札情報にはアクセスできないという。

 入札情報を漏らしたことで遠藤氏が受けた見返りは、赤羽氏から約28万円(時効分も含む)。坂田氏からは現時点で不明だが、ゼロとは考えにくい。事件の全容が明らかになれば懲戒免職は免れない。現在59歳の遠藤氏はこのまま勤務していれば来年度で定年を迎える予定だったが、たった数十万円の賄賂を受け取ったがために約2000万円の退職金を失ったことになる。

 その点で言うと、本誌3、6月号で報じた県中農林事務所主査と会津坂下町のマルト建設㈱をめぐる贈収賄事件でも賄賂の額は約26万円だった。主査は逮捕時44歳。県のシミュレーションによると「勤続24年の46歳主任主査が自己都合で退職した場合、退職金は約1100万円」というから、業者からの見返りと逮捕によるペナルティは釣り合っていない。

 遠藤氏や県中農林事務所主査と同じく「出先勤務」が長い40代半ばの県職員はこんな感想を述べる。

 「出先の方が本庁より業者と接する機会は多く、距離感も近くなりがちなのは事実です。おそらく、情報を漏らす職員は悪気もなく『それくらいならバレないだろう』との感覚なんでしょうね。見返りが何百万円とかではなく、飲み代やゴルフ代をおごってもらう程度なのも『それくらいいいか』との感覚に拍車をかけているのかもしれない。要は個々人の倫理観の問題だと思います」

 既に引退した元土木会社社長の思い出話も興味深い。

 「昔は入札の金額をこっそり教えてくれる県職員がいたものです。ある入札の札入れ額でウチが万単位、A社が千円単位、B社が百円単位で刻んだ結果、B社が僅差で落札したことがあったが、後日、全員が同じ職員から金額を教わっていたと知った時は驚いた。ウチは謝礼や接待はしていないが、A社とB社がどうだったかは分かりません」

 県土木部では1年に二度、全職員を対象にコンプライアンス研修を行っているが、遠藤氏は逮捕される前日(5月15日)に上司との面談で「コンプライアンス順守については十分理解している」と述べていたというからシャレにならない。前出・県職員の「個々人の倫理観の問題」という指摘は的を射ている。

「私たち社員も不思議で」

須賀川市にある赤羽組の事務所

 そんな遠藤氏に接近した前述・2社はどのような会社なのか。

 赤羽組(須賀川市長沼)は1972年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役・赤羽隆、取締役・赤羽敦子、赤羽晃明、監査役・赤羽恵美子の各氏。

 関連会社に赤羽隆氏が社長を務める葬祭業の㈲闡王閣(須賀川市並木町)がある。2002年設立。資本金300万円。

 赤羽組の直近5年間の決算は別表①の通り。売上高は4億円前後で推移していたが、2021年は7億円台、22年は5億円台に伸びた。それに伴って当期純利益も21年以降大幅増。好決算の背景に、遠藤氏からもたらされた入札情報があったということか。

表① 赤羽組の業績

売上高当期純利益
2018年4億0600万円1300万円
2019年3億7900万円2300万円
2020年3億9500万円2000万円
2021年7億3700万円4600万円
2022年5億6500万円5900万円
※決算期は5月。

 複数の建設業者に話を聞いたが、今はどこの業者も積算ソフトを用いて札入れ金額を弾き出し、その金額はかなり精度が高いので、

 「県職員から設計金額を聞き出すような危険を冒さなくても、公開されている設計金額を参考にしたり、必要な情報を開示請求するなどして自社で研究すれば、最低制限価格はほぼ割り出せる。あとは他社の札入れ額を予測して、自社の札入れ額をさじ加減すればいいだけ」(県中地方の土木会社社長)

 今はほとんどの業者で、社内に積算担当の社員を置くのが当たり前になっているという。

 「工事の大きさにもよるが、小さければ1~2時間、大きくても半日あれば積算できると思う」(同)

 ただし、どうしても取りたい仕事では、積算ソフトに打ち込むための「正確な設計金額」が必要になる。

 「極端な話、100円でも不正確だったら、積み上げていくと大きな開きになってしまう。シビアな入札では僅差の勝負もあるので、開きが大きいほど致命傷になる」(同)

 公共工事の積算は県が作成する単価表に基づいて行われるが、それを見ると生コンクリートやアスファルト合材など、さまざまな資材の単価が細かく示されている。一方で木材類、コンクリート製品、排水溝、管類など複数の資材や各種工事の夜間単価は非公表になっている。単価表の実に半分以上が非公表だ。

 各社は、非公表の単価は前年の単価を参考に「今年度はこれくらいだろう」と見当をつけて積算する。その金額はほぼ合っているが、必ずしも正確ではない。「だから、絶対取りたい仕事の積算はミスできないので、正確な設計金額を欲する」(同)。赤羽氏が遠藤氏に接近した理由もそういうことだったのだろう。

 須賀川・岩瀬管内の業者がこんな話をしてくれた。

 「赤羽組と同じ入札に参加し、ウチも本気で取りにいったが向こうに落札されたことが何度かある。赤羽組は精度の高い積算ソフトを使っているのかと思い、赤羽社長に聞いたがウチと同じソフトだった。積算担当社員と、なぜ同じソフトを使っているのに向こうと同じ金額にならないのか考えたが『この資材の単価が違っていたのかもしれない』というくらいしか思い当たらなかった」

 この業者は対策として別メーカーのソフトも導入し、さらに精度を上げようと努めた。その直後に事件が起こり「そういうことだったのかと合点がいった」(同)。

 「入札に参加して一番悔しいのは失格(最低制限価格を下回ること)です。失格は、土俵にすら上がれないことを意味するからです。失格になれば、積算担当社員にすぐに原因究明させ、反省材料にします。昔と違い、今の積算はそれくらいシビアなんです」(同)

 そういう意味では、赤羽社長は自社の積算を一手に行っていたというが、積算ソフトを使う一方で、年齢的(68歳)には昔の積算も経験しており、いわゆる〝天の声〟が落札の決め手になったことをよく理解しているはず。遠藤氏に接触し、正確な設計金額を聞き出したのは「古い時代の名残を知るからこそ」だったのかもしれない。

 6月上旬、赤羽組の事務所を訪ねると「対応できる者が不在」(女性事務員)。夕方に電話すると、男性社員が「この電話でよければ話します」と応じてくれた。

 「積算は社長が担当していたので他の社員は分からない。正直、私たちも新聞報道以上のことは知らなくて……。積算ソフトですか? もちろん使っていた。それなのに、なぜ不正をする必要があったのか、私たちも不思議でならない」

 一部報道によると、遠藤氏は県を定年退職後、赤羽組に就職する予定だったという。そのことを尋ねると社員は「えっ、それも初耳です」と絶句していた。

 事件を受け、赤羽組は県から24カ月(2025年5月まで)、須賀川市から9カ月(24年2月まで)の入札参加資格制限措置(指名停止)を科された。売り上げの大部分を公共工事が占める同社にとって、見返りとペナルティのどちらが大きかったことになるのか。

オーナーは大熊町議

郡山市にある東日本緑化工業の事務所

 東日本緑化工業(大熊町)は1967年設立。資本金1000万円。役員は代表取締役・千葉幸生、坂田紀幸、取締役・千葉ゆかり、千葉幸子、千葉智博、監査役・千葉絵里奈の各氏。逮捕された坂田氏は昨年6月に就任したばかりだった。

 直近5年間の決算は別表②の通り。当期純利益は不明だが、2017年に1200万円の赤字を計上している。それまで2億円台で推移していた売上高が昨年5億円台になっているのは、赤羽組と同じく遠藤氏からの入札情報のおかげか。

表② 東日本緑化工業の業績

売上高当期純利益
2018年2億8600万円――
2019年2億8600万円――
2020年2億6300万円――
2021年2億6000万円――
2022年5億5300万円――
※決算期は3月。――は不明。

 東日本緑化工業は2000年代に郡山市富久山町福原に支店を構えたが、2011年の震災・原発事故で大熊町の本社が避難区域になったため、以降は郡山支店が事実上の本社として機能している。

 もう一人の代表取締役である千葉氏は現職の大熊町議(5期目)。2011~15年まで議長を務めた。

 構図としては、大熊町議が代表兼オーナーの会社に「千葉一族」以外の坂田氏が社長として入ったことになる。坂田氏とは何者なのか。

 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープラントという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」(ある法面業者)

 ジープラントは資本金300万円で2005年に設立されたが、昨年5月に解散。本店は郡山市菜根一丁目にあったが、2013年に東日本緑化工業郡山支店と同じ住所に移転していた。つまり千葉氏と坂田氏の付き合いは10年以上に及ぶわけ。

 東日本緑化工業は特定建設業の許可を持っていない。特定建設業とは1件の工事につき4000万円以上を下請けに出す場合に必要な要件だが、同社はこの許可がないため、大規模工事を受注しても下請けに出すことができず、すべて自社施工しなければならなかった。

 「そこで坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思い付いた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」(同)

 現在、坂田氏と遠藤氏が問われているのは公契約関係競売入札妨害だけだが、両者の間で謝礼や飲食接待が行われていれば贈収賄も問われることになる。実際に落札し、坂田氏に仕事を回していた業者は立件に至らないという観測もあるが、真面目に札入れしている業者からすると解せないに違いない。

 6月上旬、郡山支社の事務所を訪ねると「警察から捜査に支障が出るので答えるなと言われている」(居合わせた男性)と告げられ、話を聞くことはできなかった。

 ならば、オーナーの千葉氏に会おうと大熊町議会事務局を通じてコンタクトを取ったが「議員から『携帯番号等は個人情報に当たるので(記者に)教えないように』と言われました」(議会事務局職員)。議員が個人情報を盾に取材拒否するとは呆れて物も言えない。

 新聞やテレビは東日本緑化工業と千葉氏の関係を一切報じていないが、事情を知る大熊町民からは「逮捕されたのは坂田氏だが、そういう人物を社長にしたのは千葉氏だろうし、不正を繰り返していた会社のオーナーが議員というのはいかがなものか」との声が漏れている。

 事件を受け、東日本緑化工業は県から24カ月(2025年6月まで)の入札参加資格制限措置を科された。須賀川市やいわき市などからも1年前後の処分を科されている。

県警トップの意向!?

 県内では2021年に会津美里町長、22年に楢葉町建設課主幹と元田村市職員、今年に入って県中農林事務所主査、そして遠藤氏と公共工事をめぐる逮捕者が相次いでいる。

 かつての汚職事件はまず〝小物〟を逮捕し、その後に〝大物〟を逮捕するのがよくあるパターンだった。典型的な例が、当時の佐藤栄佐久知事が逮捕された県政汚職事件である。

 しかし最近の汚職事件を見ると、会津美里町長以外は小物の逮捕に終始。事件発生直後は「おそらく県警は別の狙いがあるに違いない」との推測が出回るが、結局、現実になった試しはない。

 これは何を意味するのか。

 「県警トップの意向が反映されているのかもしれない。大物の逮捕は組織における評価が高いとされ、かつては首長の汚職に強い関心を向けるトップが多かったが、今のトップは『相手が誰だろうと不正は絶対に許さない』という考えなのかもしれない。だから、役職が低かろうが賄賂の額が少なかろうが、ダメなものはダメという姿勢を貫いている。その結果が小物の連続逮捕となって表れているのではないか」(ある県政ウオッチャー)

 県警本部の児島洋平本部長は2021年8月に警察庁長官官房付から着任したが、今年7月7日付で同役職に異動し、後任には警視庁総務部長の若田英氏が就く。児島氏が着任したのは会津美里町長の逮捕後だったので、時系列で言うと、相次ぐ小物の逮捕時期と合致する。

 警察庁発表の資料によると、全国で発生した贈収賄・公契約関係競売妨害事件の件数は横ばいで、2021年度は過去10年で最多だった(別表③参照)。県内で続発する不正は、他の都道府県でも起きているわけ。

 そう考えると遠藤氏、赤羽氏、坂田氏の逮捕は氷山の一角で、「次は自分の番かも……」と内心ビクビクしている県職員、業者はもっといるのかもしれない。新しい県警本部長のもとでも引き続き「小物だろうが大物だろうが、不正は絶対に許さない」との姿勢が堅持されるのか。

モバイルバージョンを終了