異色の経歴からラーメン店経営に挑戦【フユツキユキト】

異色の経歴からラーメン店経営に挑戦【フユツキユキト】

 県内でユニークな活動に挑戦している人にインタビューして掘り下げる本シリーズ。3回目は福島市の人気ラーメン店の店主に話を聞いた。職人気質で情報発信に消極的な店主も多い中、開店前からSNSで発信して固定ファンを生み出すことに成功。他店と積極的にコラボしてイベントなどに出店し、多様なラーメンを楽しめる福島市の魅力を周知することで、地域振興につなげようと奔走している。

〝独自戦略〟で苦境に抗う【福島市】若手店主

 物価高騰による原材料のコスト増で、ラーメン業界が苦境に立たされている。個人店は人手不足も深刻で、店主が高齢で後継者がいない人気店がやむなく閉店を決断するケースも少なくない。県内でも、喜多方ラーメン発祥の店として知られる老舗店「源来軒」(喜多方市)が9月24日に閉店したばかりだ。

 そうした中で、積極的なSNS発信や他店とのコラボ企画を武器に攻め続けている店がある。

 JR福島駅から徒歩10分圏内の中心市街地に位置する福島市置賜町。11月のある週末、かつて玩具店「トイランド」、衣料品店「男性専科バラ」が立地していたエリアの一角に行列ができていた。ラーメン店「RAMEN NOODLE #フユツキユキト」に並ぶ人たちだ。

 収容人数最大10人ほどの店舗に、週末は約150人が訪れる。豚の背がらやげんこつを用いた豚清湯ベースのスープに、羽田製麺と共同開発した特注麺「雪月華」を合わせた〝濃厚でクセになる一杯〟が市内外のラーメンファンを魅了している。

 シンプルな「ショウユ」、こってり系の「セアブラーメン」、7種類のスパイスがクセになる「シン・ショウユ」など、どのメニューも中毒性が高く、昨年発行された『ラーメンWalker2025福島グランプリ』では、2025年を代表する店舗の2位に相当する銀賞に輝いた。

人気メニューの「シン・ショウユ」
人気メニューの「シン・ショウユ」

 同店はもともと約100㍍東側の文化通り沿いの人気ラーメン店「麺や うから家から」で、夜だけ間借りする形で営業。2022年の開業当初からコロナ禍にもかかわらず人気を集め、昨年9月に満を持して単独でオープンすることになった。

 「実は20歳までラーメンをほとんど食べていなかったんですよ」

 こう明かすのは、店主の冬月雪兎さん(本名非公表)だ。

 小学生のころ、体調が悪いときに食べて吐いたのがきっかけで、ラーメンが嫌いになった。家族でラーメン店に行っても一人だけチャーハンを頼んでいた。福島工業高を中退後、上京して働き始め、20歳になるころ福島市に戻った。ふと思い立って市内の店舗でラーメンを食べたら、感動するぐらいおいしく感じた。

「フユツキユキト」前に立つ冬月雪兎さん
「フユツキユキト」前に立つ冬月雪兎さん

 「味覚が変わったのか、地元に戻ってきたという精神的なものか、原因は分かりません。もはやどんな店で食べたのかも覚えていないが、その日からラーメンが好きになり、県内外の人気店を食べ歩くようになりました」(冬月さん)

 10~20代にかけて、ホストなどさまざまな仕事に就いてきた冬月さん。28歳でかつて中退した福島工業高の定時制課程に入学し、4年かけて卒業した。ちなみに、現在の店舗の内装はそのときに学んだ知識・技術を生かして冬月さんが担当したというから、いかに真面目で行動力があるか分かるだろう。

 ラーメン業界に本格的に関心を持ったきっかけは、飲食業の会社に勤めている際、ラーメン事業開設に向けてラーメン店開業のノウハウや経営戦略を本気で学んだことだった。「いっそ修行して自分で開業しよう」と考え、会社をやめて福島市内の人気店「自家製麺しげ」で修業し始めた。その結果、前述の通り、間借り営業で開業するチャンスをつかんでみせた。

味付けを濃くした理由


 オープンに当たって、冬月さんは「東京で流行のラーメンをそのまま福島市に持ってきても敬遠されるだけだ」と考え、作戦を練ったという。

 「福島市で売れるメニューは何かと考えたとき、塩分摂取量が高い地域であることを踏まえ、やはり濃い味付けが好まれるのではないか、と判断しました。一方で、当時流行の兆しを見せていた▽しなやかなこしのある細麺、▽低温調理のチャーシュー、▽ビジュアルを意識したきれいな盛り付け――などは市内の店舗で導入しているところが少なかったので、あえて採用して他店と差別化を図ることにしました」(同)

 福島市で好まれる味付けや全国の流行を分析し、差別化が図れるメニューを考えた結果、前述した人気メニューが誕生したわけ。濃い味付けにするのは、食べる人を選ぶという意味である種の〝賭け〟のように思えるが、冬月さんはこう断言する。

 「僕が尊敬しているのは日清のカップヌードルです。化学調味料が強くて味は濃いけど、うまみが強くて記憶に残るから何度でも食べたくなる。そうした観点から、福島市内の人に繰り返し食べてもらうためには通常の0・1%、塩分を高めに作った方が受け入れてもらえやすい、と考えました。その後も『ちょっと下品で、クセになる味』を目指してメニューを開発しています」

 理想の味を追求する職人気質の店主が多い中、マーケティングの観点から独自のメソッドを構築し、行列ができる店舗を実現してみせた冬月さんは、ラーメン業界でも異色の存在と言えよう。

 〝マーケター〟としての一面はSNS戦略にも垣間見える。

 冬月さんは間借り営業でオープンすることが決まってから、X(旧ツイッター)で「#100日後にラーメン屋開業」、「#毎日ラーメン食べて勉強」というハッシュタグを使って、ラーメン関連の情報をとにかく投稿し続けた。ただ、期待値を高めるため、どこにどんな店を出すのかという点については、最終日(100日目)まで公表しなかった。その結果、投稿するごとに「毎日ラーメンを食べ歩いていたあの人は、最終的にどんな店を出すのか」と注目を集めることに成功した。

 冬月さんは「当初は『間借り営業で成功する確率は低い』と見られていたと思います」と笑う。

 「ただ、人気店だった『うから家から』を間借りさせてもらったこと、SNSでの積極的な発信、他店との差別化戦略により何とか定着できました。喜多方市や白河市のように〝ご当地ラーメン〟のイメージ・文化が根付いておらず、多様なラーメンを受け入れる土壌がある福島市だからこそ、うちのような店が続けられているとも感じます」(同)

 冬月さんのユニークな点は、経営や商品作りではマーケティングを意識して動く一方で、競合相手である市内のラーメン店とのコラボ企画を積極的に実施していることだ。その理由を冬月さんはこう語る。

 「人気店のラーメンを食べるために市外・県外から足を運ぶ人は意外に多い。そういう意味では、交流人口増加に貢献できるコンテンツだと思うが、1店舗だけでは対応しきれません。それならば、競合店と協力して地域全体で盛り上げた方がいいと考えたのです」

 具体的には、市内6店舗で協力して、釜玉(ゆで上がった麺に卵をからめて食べる)風のまぜそば「福島釜玉拉麺」を提供している。メニューは店舗ごとに異なるが、麺は6店舗と羽田製麺が共同開発したオリジナル麺「ふくまどか」で、極太の麺幅にするなど統一ルールを定めた。

 イベントなどへの共同出店も行っており、福島市で開催された音楽フェス「LIVE AZUMA2025」では「福島釜玉拉麺組合」として出店。人気店「麺や飯や仁」とともに、スタミナ系汁なし釜玉風まぜそばを提供した。

 震災・原発事故後、県内人気ラーメン店の若手店主により組織された「福島ラーメン組っ! 獅子奮迅隊」としても活動しており、12月9日には福島市のホテル福島グリーンパレスでラーメン業界関係者による交流会イベント「地域経済と共に福島ラーメン業界の発展を願う交流会2025」を開催する。

 当日は、ユーチューブチャンネル「令和の虎」の出演者として知られる飲食業プロデュース企業「お客様みなさまおかげさま」代表の島やん(島田隆史)さんが来場。そのほか、ラーメンイベントプロデューサーの森本聡子さん、ラーメン店を擬人化したイラストでおなじみの髙橋わな美さんも登場する。

地域振興につなげたい


 福島市がPRに力を入れている食品と言えば、家計調査で1世帯当たりの消費額が全国1位だった納豆が思い浮かぶ。しかし、実はラーメンの外食消費額も2024年7位と全国上位になっており、2012年には全国1位になったこともあった。いわば納豆に並ぶ「県民食」なのだから、ラーメンも福島市の名物グルメとしてアピールするべきだ、と冬月さんは主張する。

 「特に重視すべきはインバウンド需要です。福島空港と台湾を結ぶ定期便が運航していることから、台湾からの観光客が多く足を運んでいます。うちの店もグループ客で満席になることがあり、メニューには英語の表記もありますが、官民で連携して受け入れ体制を整備し、発信していくべきだと感じます」(同)

 福島市には喜多方市や白河市のような〝ご当地ラーメン〟はないが、「ラーメン激戦区・東京に負けないぐらい人気ラーメン店がひしめき合っているエリアであり、多様なラーメンを味わえるのが魅力」と分析する冬月さん。業界全体を盛り上げ地域振興につなげたいと、さまざまな試みに挑戦している。

 例えば、中心市街地の多くの飲食店が深夜0時までに閉店する中、「フユツキユキト」は「シメのラーメン需要」に対応すべく、金曜・土曜に限り深夜0時30分まで営業している。

 「チェーン店の居酒屋ですら深夜0時で閉店してしまう。『人件費をかけて深夜営業しても客は来ない』という経営判断なのでしょうが、それでは県都の夜の街としてあまりに寂しすぎる。若い世代の自分が明かりを灯して元気づけたい思いから遅くまで営業しています。一方で、最近では、新商品として開発した喜多方ラーメン風のラーメンを〝朝ラー〟として提供したら喜んでもらえるのではないか、と考えたのをきっかけに、週2、3回、朝7時から営業を開始しています」(同)

 〝ご当地ラーメン〟がない点を逆に強みに変え、クセになる味わいのメニューや深夜営業・朝ラーで差別化を図り、新興店同士でコラボして盛り上がりを演出する。「ラーメン職人」、「マーケター」、「コラボ仕掛け人」――3つの顔を持つ冬月さんが、これから福島市をどう盛り上げていくのか目が離せない。

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