【国見町】公文書訴訟が裁判外で解決の兆し

 本誌は11月号で、町長選後に高規格救急車事業を巡って国からの圧力が強まると展望し、「国見町長選後に直面する2つの外圧」という記事を掲載した。内閣府が町から提出された資料を基に同事業を調査しているのが外圧の一つ。前述した通り、それは同事業を盛り込んだ町の地域再生計画を取り消すという前代未聞の結果になった。

村上町長は「町の開示拒否は問題」

 もう一つの外圧は、公文書の不開示決定に至る法令違反を巡り、町が開示請求者から不開示の取り消しを求めて訴えられていること。12月24日午後1時15分に福島地裁で第4回口頭弁論が開かれる。ここで結審し、来年初めに判決が言い渡される見通しだ。

通報者を守る理由

 公文書不開示取り消し訴訟の原因もまた高規格救急車事業だった。課長級(当時)の男性職員が事業に官製談合の疑念を抱き、内部情報を収集して監査委員事務局などに情報提供した。町は今年3月、「職権を逸脱して内部情報を集めたことが町の情報管理規則に違反した」として、男性職員に減給10分の1(6カ月)の懲戒処分と管理職から一般職への降任処分を科した。男性職員はその後、「公益通報目的だったので処分は公益通報者保護法に違反する」と主張し、公平委員会で争っている。

 公益通報者保護法は、不正の告発者への不利な取り扱いを禁じる。企業や役所は不正が起こると、内部の利益を優先して隠蔽に走る。告発した者は、逆に「組織の裏切り者」として制裁を受ける。これでは報復を恐れて告発する者がいなくなり、不正が横行してしまう。社会の大きな損失だ。

 同法では、①事業者内部、②行政機関、③その他の事業者を通報先に想定し、通報者を保護して不利益を与えないように義務付ける。本誌は③に属し、事業者内部に通報しても改善がみられない場合や、内部に通報したらかえって報復を受ける恐れを感じた場合の「外部の通報先」となる。本誌は取材活動や記事内容で通報者が特定されないようにし、記事を発表して世論に訴える。

 公益通報した男性職員の処分をニュースで知った愛知県西尾市職員の簗瀬貴央氏(60)は、処分が妥当かどうかを調べるため、関連文書を開示請求した。町は「個人情報」を理由に全面不開示。簗瀬氏が審査請求(不服申し立て)すると、町は「簗瀬氏は町民ではないので開示請求権者ではない」と別の理由で却下した。

原告の簗瀬氏。12月24日は、積雪が心配なため愛知県から新幹線で来福するという。

 町は情報公開条例で開示請求権者を「何人も」と定めており、条例に従えば簗瀬氏の審査請求に対して不開示決定の是非を町設置の審査会に諮らねばならなかった。明らかな条例違反だったため、簗瀬氏は開示を求めて福島地裁に提訴した。

 11月までに3回の口頭弁論が開かれた。町側は「全面不開示決定は妥当」との姿勢を崩さない。判決を待つしかないと思われたが、全面不開示を決定した現職引地氏が町長選で敗れたことで、係争が裁判外で解決する可能性が出てきた。

 新町長の村上氏は町長選前、本誌の取材に「条例では開示請求権者を制限していないのに、町が簗瀬氏を『請求権者ではない』との理由で手続きを拒否したとすれば問題だ」と町の対応を疑問視していた。

 当選後の11月14日に改めて聞くと、「まだ町長に就任したわけではなく、報道以上のことを把握していないので一般論に留まるが、誤りは誤りとして正しいやり方に改めていく。何が誤りなのか、誤りでなかったのか詳しく確認した上で対応していく」と話した。

 当選後はトーンダウンした感もあるが方針は変わっていない。村上氏に託されるのは、前町長や幹部職員にアクセスが限られていた内部情報に触れて全体像を把握し、町役場内部の意思決定、公文書管理の問題点を洗い出すことだ。透明で公正な行政運営の徹底が根底になければ、新規事業を始めても成功は望めない。

 原告の簗瀬氏は、町の公文書開示拒否に疑問を抱いていた村上氏が新町長になったことを受け、裁判外での開示を求めていくという。

 「公文書開示請求では、請求者と文書の管理者が交渉して対象の文書を特定する補正の手続きが定められています。新しい町長の下で補正手続きを再開し、法令に照らして納得のいく一部開示が受けられれば訴えを取り下げることもやぶさかではない」(簗瀬氏)

 簗瀬氏は当初から懲戒処分を受けた職員の氏名は不開示で構わないと一部開示を許容している。11月5日の第3回口頭弁論では、文書の日付や決裁権者の引地真町長(当時)の名前など、法令や判例に照らして一部開示すべき項目を挙げ、町側に「落としどころ」を示していた。それでも町は、頑なに全面不開示にこだわり、裁判官から「一部開示できない具体的な事情はあるのか」と説明を求められた。無益な法廷闘争に固執するのは町側だ。

 ただ簗瀬氏は、村上氏に対してもファイティングポーズを崩さない。

 「新しい町長が前任者と同じように、あくまで全面不開示にこだわるなら判決を待ちたい。仮に敗訴しても、控訴して仙台高裁で争います」

 二つの外圧のうち、残り一つの行政訴訟については、村上氏の手腕次第で回避できそうだ。

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