三春町議会で任期満了1日前に辞職勧告

三春町議会で任期満了1日前に辞職勧告

 三春町議会で、任期満了の1日前に辞職勧告決議が可決されるという奇妙な出来事があった。背景には、議員定数削減や4年前の正副議長選をめぐる議会の混乱がある。

定数削減やポストをめぐり議員が対立

新田信二前議員

 9月29日に開かれた三春町議会の臨時会は、議会運営副委員長の佐久間正俊議員から提出された新田信二議員に対する辞職勧告決議案が審議された。

 議案書には次のような理由が書かれていた。

 《令和5年9月7日、新田信二議員は、令和5年9月5日告示の三春町議会議員一般選挙における当選予定者である小林孝氏宅を訪れ、当選証書を受け取らないよう長時間にわたり執拗に要求した事実が判明した。

 三春町議会基本条例第21条では、「議員は、町民全体の代表としてその倫理性を常に自覚し、町民の疑義を招くことのないよう行動しなければならない」と規定されており、議会における諸活動だけでなく、私生活においても法令を遵守し、高い倫理観と自立性の下に行動することが求められている。

 今回の行為は、地元を同じくする町議会議員候補者に対する不当な圧力と強要であり、さらには公職選挙法にも抵触するおそれがあるものであると判断されることから、三春町議会として決して許容・看過することはできない。

 よって、新田信二議員は(中略)速やかにその職を辞するよう勧告するものである》

 臨時会の約3週間前、三春町議会は改選を迎え、9月5日告示で議員選挙が行われたが、定数16に対し立候補者は現職10人、新人6人にとどまったため、16人の無投票当選が決まった(別掲)。

◎三春町議選当選者

影山 孝男 66 無新①
影山 常光 71 無現③
橋本善一郎 68 無現②
松村 妙子 63 公現③
三瓶 文博 66 無現④
鈴木 利一 69 無現④
三瓶 一壽 67 無新①
佐久間正俊 73 無現⑤
佐藤  弘 77 社現⑧
篠崎  聡 59 無現②
影山 初吉 75 無現⑤
大内 広信 44 無新①
山崎ふじ子 63 無現③
遠藤 亮子 62 無新①
石井 一正 81 無新①
小林  孝 73 無新①
※年齢は告示時点
※丸数字は期数

 新しい議員の任期は10月1日から4年。つまり辞職勧告決議案が審議されたのは、9月30日の任期満了の1日前だったのである。ちなみに当時2期目だった新田氏は今回の町議選に立候補していない。その新田氏から、当選証書を受け取らないよう迫られたのが初当選した小林孝氏だった。新田氏と小林氏は同じ山田地区に暮らしている。

 両氏の間に何があったのか触れる前に、臨時会の模様を伝えると、当事者である新田氏が退席後、辞職勧告決議案が審議されたが、質疑はなく賛成・反対討論もなかったため、全会一致で可決された。

 ただ、採決前に臨時会を中断して開かれた議員全員協議会では、橋本善次議員から「会議規則に違反するやり方で、審議をやり直すべき」と異論が出されていたが、佐藤弘議長(当時)が問題ないと退けていた。

 臨時会の様子から、新田氏の〝味方〟は橋本氏と、もう一人、本田忠良議員という印象を受けた。興味深いのは、この3氏がいずれも今回の町議選に立候補せず、町議を引退していることだ。

 話を戻すと、辞職勧告決議は可決されたが法的拘束力はない。臨時会閉会後、新田氏は本誌の取材に「決議は納得できない。任期は明日(9月30日)までなので、辞職勧告に応じるつもりはない」と不満を露わにしたが、任期満了の1日前に辞職を迫られるのは極めて異例だ。

 新田氏はなぜ、議員を辞めろと迫られたのか。

 「町議選終了後、小林氏の親族と地域代表の方から『小林氏に当選を辞退するよう言ってほしい』と相談された。親族と地域代表の方は、小林氏に『議員になってほしくない理由』を述べていたが、個人情報の絡みもあるので詳細を明かすのは控えます。そこで私は、小林氏が当選した2日後の9月7日、親族と地域代表と3人で小林氏の自宅を訪ね、本人に『9月11日の当選証書付与式は欠席し、当選を辞退してはどうか』と伝えた。そのやりとりが2時間半と長時間にわたったのは確かだが、議案書にある『不当な圧力』をかけた事実はない」(新田氏)

 今回の町議選は当初、立候補の意思を示していたのが現職10人、新人1人しかいなかった。告示前日の時点でも14人で、実際、掲示板に貼られた候補者ポスターも14枚だった。

 こうした中、告示日に新人2人が急きょ名乗りを上げたが、そのうちの一人が小林氏だった。新田氏によると「小林氏と石井一正氏はポスターを1枚も貼らずに当選した」。親族と地域代表は、小林氏に「議員になってほしくない理由」があったほかに、このような当選の仕方で地元の代表と言えるのかという疑問も感じていたようだ。

 とはいえ、突然訪ねて来た現職議員から「当選証書を受け取るな」と言われれば、圧力と受け取るのは当然だ。小林氏は「同じ山田地区に暮らす者として新田氏を応援してきたのに、なぜそんなことを言われなければならないのか」と激怒。すぐに佐藤議長ら現職議員に当時の状況を説明したという。

 佐藤議長(現在は議長ではなく議員)の話。

 「現職議員が当選者に『当選証書を受け取るな』などと迫るのは言語道断です。私は9月21日に小林氏から事情を聞き、翌22日には新田氏からも聞き取りをして発言が事実であることを確認した。その際、新田氏は受け取るなと言った理由も説明したが、ここで問題なのは現職議員にあるまじき発言をしたのか・していないのかであり、その結果、発言は事実と確認できたので、議会基本条例に抵触すると判断した」

 新田氏はこの問題を協議するために開かれた議員全員協議会や臨時会の場で「弁明の機会がなかった」と憤っていたが、佐藤議長は「9月22日に聞き取りをした際、影山初吉副議長と議会事務局長も同席し、事実関係を確認しているので問題ない」と取り合う様子はなかった。

定数削減で対立

定数削減で対立

 新田氏の行為は、現職議員として軽率だったことは否めない。ただ、任期満了1日前の辞職勧告はやはり違和感がある。

 「背景には議員定数削減がある」と語るのは前出・新田氏の〝味方〟の橋本善次氏だ。

 「1年前、議会内で議員定数削減が議論されたが、反対多数で否決された。4年前の当選時、議会は10人と6人で分かれており、そのままいけば定数削減も実現していたと思うが、その後、数人が立ち位置を変え議会構成が逆になったのです」(同)

 要するに、切り崩しにあったことで定数削減は実現しなかったと言いたいようだ。

 新田氏のもう一人の〝味方〟である本田氏もこう補足する。

 「三春町議会の適正な定数は14だと思う。今回の町議選で言えば告示前日までに立候補の意思を示していたのは14人だったので、それでよか
ったんです。そのまま14人が当選しても欠員2では補選は行われないからね(※欠員が定数の6分の1を超えた場合は補選が行われる)。ところが告示日になって小林氏と石井氏が急きょ立候補したため、無理やり定数16に届いた形になった」

 本田氏は、他の市町村では定数削減が進み、ただでさえ議員の成り手がいない中、「定数に届いていないなら出てみるか」とばかりポスターも貼らずに当選してしまう状況はよくないと問題提起しているわけ。ちなみに新田氏、橋本氏、本田氏は議員定数削減を目指して活動してきた仲間でもある。

 確かに、町民からは「三春町は議員が多すぎる」との声が上がっている。しかし、前出・佐藤議長に言わせると

 「今回の町議選で引退した現職は(新田氏、橋本氏、本田氏を含む)4人だが、彼らは後継者を立てず、あえて定数割れになるよう仕向けたのです。その結果、告示前日の立候補予定者は14人にとどまったが、告示日に小林氏と石井氏が立候補したため彼らの思惑は崩れた。山田地区からは他にも立候補を模索する人が何人かいたが〝圧力〟がかかり全員立候補を断念したという話も聞いている。そういう事情を知る者からすると、新田氏が小林氏に『当選証書を受け取るな』と迫ったのは、どうにかして定数割れに持ち込みたかったのではないかという疑いも出てくるわけです」

 今回の改選後に議長に就任した影山初吉議員もこのように話す。

 「定数削減をやらないとは言っていない。問題は、議論が深まる前に『とにかく数を減らせ』という拙速な決め方にある。定数削減は今の議員でしっかり議論し、適正な定数を導き出したい」

 このように、表面的には定数削減でモメているように映るが、実は橋本氏、本田氏と佐藤氏、影山氏の間には浅からぬ因縁がある。

尾を引く正副議長選の因縁

尾を引く正副議長選の因縁

 本田氏と橋本氏は4年前の町議選後(2019年10月)に正副議長に選出されたが、その前に正副議長を務めていたのが佐藤氏と影山氏だった。この時の選出をめぐり軋轢が生じたことに加え、複数議員による不適切発言なども重なって議会は大きく混乱。結局、本田議長と橋本副議長は就任からわずか2週間で辞任に追い込まれ、佐藤氏が議長、影山氏が副議長に返り咲いた経緯がある。

 「4年前の町議選と一緒に行われた町長選で今の坂本浩之町長が初当選したが、この時、ほとんどの議員は坂本氏を推した。その流れで正副議長も引き続き佐藤氏、影山氏が務める方向でまとまったが、蓋を開けたら本田氏と橋本氏が就いたため、裏切りが有ったの無かったので対立が起きたのです」(事情通)

 実際、橋本氏は「4年前(の正副議長選)は10対6という構図だったが、定数削減を議論していた昨年には構図が逆になった」と述べているのに対し、影山氏は「橋本氏や本田氏は『裏切った議員がいる』みたいなことを言っているようだが、とんでもない話」と反論。関係がこじれている様子がうかがえる。

 その影響からか、ここに名前が挙がった議員は自民党三春町支部に所属しているが(佐藤氏は社民)、一枚岩になれない状態が続いている。新田氏、橋本氏、本田氏は「私たちは根本匠先生も星北斗先生も推しているが、支部とのつながりは……」と言葉を濁し、三春町支部代表者の影山氏も「ちょっと彼らとはね」と突き放したような発言をしている。

 前出・事情通によると、新田氏は11月12日投票の県議選田村市・田村郡選挙区(定数2)に立候補するかどうか悩んでいたという。三春町議選に立候補しなかったのは、そのためと言われていた。新田氏に確認したところ曖昧な返答に終始していたが、自民党は同選挙区に現職で4選を目指す先崎温容氏を擁立し、1議席を死守する方針のため、三春町支部では新田氏の動きをよく思っていなかったのかもしれない。

 「新田氏の本業は電気工事業の㈱タツミ電工社長で、三春町商工会副会長を務めるなど町内では目立った存在。それをやっかむ人も一定数いると思う」(同)

 ただ、町民の中には「本当に当選証書を受け取るなと言ったり、出たいと考えていた人を立候補させないようにしていたとすれば、公選法に違反するのではないか」と厳しい見方をする人がいるのも事実で、警察も小林氏に「話を聞きたい」と接触しているという。

 定数削減のやり方には問題があったかもしれないが、減らすこと自体に町民から異論は出ていない。今の議会が、遺恨を残して辞めた3氏の意向をどう受け取るか注目される。

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