【南会津町】【だいくらスキー場】険しい存続への道

【南会津町】【だいくらスキー場】険しい存続への道

 本誌2月号に「廃止方針が示された南会津町公設2スキー場の前途 住民有志が存続に向けた活動を展開」という記事を掲載した。南会津町は町有観光施設のあり方を検討しており、町内4つのスキー場のうち、会津高原だいくらスキー場と、北日光・高畑スキー場を2031年3月末で閉鎖する方針を盛り込んだ素案をまとめたことから、その余波についてリポートしたもの。その後、町内でタウンミーティングが開かれ、そこではスキー場存続を求める声が相次いだ。

事業価値はあるものの施設更新費が最大の課題

だいくらスキー場
だいくらスキー場

 この間の経過は別掲の通り。

主な経過

2023年度 一般社団法人・福島県中小企業診断協会に経営評価を委託
2024年3月 一般社団法人・福島県中小企業診断協会から報告書(評価結果)が示される
2024年5月 報告書について議会に説明
2024年6月 報告書について住民説明会開催
2024年6〜8月 報告書について町民の意見募集
2024年9月 議会に経過説明
2024年12月 議会に今後の方針(素案)を説明
2024年12月 素案に対する議員の提言募集
2025年1月 議会に素案の改正版を説明
2025年2月 素案について住民説明会開催

 町は2023年度に、一般社団法人・福島県中小企業診断協会に町有観光施設の評価を委託した。「人口減少や少子化による税収減など、今後さらに厳しい財政状況が予想される中、町有施設の維持経費が将来的に大きな財政負担になることが危惧されることから、今後の町有観光施設の指定管理者公募を見据え、町の方針等を決定する際の判断材料のひとつとするため」というのが目的。

 評価の対象とされたのは16施設で、昨年春までに「南会津町観光施設評価業務報告書(評価結果)」が示された。中でも厳しい評価となったのがスキー場。だいくらスキー場と北日光・高畑スキー場は「2026年3月末で廃止あるいは売却」、南郷スキー場は「今シーズンの収支状況次第で廃止」とされた。

 この報告書について、昨年6月には町内4地域(旧町村単位)で住民説明会を実施した。その中で町が強調したのが「この報告書は判断材料の1つであり、ここで『廃止・売却すべき』と評価されても、必ずそうなるわけではない」ということ。そのうえで、住民から意見を募った。

 町はそれらを踏まえて、昨年12月までに素案をまとめ、同月13日の議会全員協議会で示した。その内容は、町内4つのスキー場のうち、だいくらスキー場と、高畑スキー場を2031年3月末で閉鎖する方針が盛り込まれ、渡部正義町長は「苦渋の決断」と説明したという。一方で、たかつえスキー場と、南郷スキー場は「継続」とされた。

 なお、スキー場の運営は指定管理者制度を採用しており、だいくらスキー場、南郷スキー場、たかつえスキー場は町100%出資の第三セクター・みなみあいづ、高畑スキー場は猪苗代スキー場などを運営するDMC aizu(猪苗代町)が指定管理者になっている。DMC aizuについては、本誌でもたびたび取り上げてきた。代表の遠藤昭二氏は猪苗代町出身で、端的に言うと、東京でビジネスに成功し、地元貢献として、さまざまな事業を行っている人物。

 現在の指定管理者とは5年契約を結んでおり、残契約期間は2026年3月末まで。そのため、報告書では、だいくらスキー場と高畑スキー場はその期間が終わったら廃止・売却、南郷スキー場は契約期間最終シーズンの経営状況を見て廃止・売却を判断――というような案が示されたのである。

 一方で、スキー場ではそれぞれ季節雇用が40〜60人前後、4スキー場で約200人おり、農家などの冬季の貴重な収入源になっているほか、民宿・ペンションなどにとってもスキー場があるかどうかで経営が大きく違ってくる。そのため、最初の素案では今回の指定管理契約期間満了での廃止ではなく、緩和措置として再度5年間の指定管理契約を結び、2031年3月末で廃止といった内容になっていた。

 この時点ではあくまでも素案で、これを基に議会と協議し、修正案を示すことになっていた。ただ、同日の全協で示された素案内容が地元紙などで「だいくらスキー場と高畑スキー場が廃止方針」と伝えられ、波紋を広げることになった。
 特に、だいくらスキー場については、町民有志が「だいくらスキー場を未来につなぐ会」を立ち上げ、再検討を求める活動を行っている。

 議員からも、計57件の提言項目があったという。

 こうした動きを受け、町は最初の素案に改正を加えた「今後の方針(案)」をまとめ、1月22日に開催された議会全協で示した。それによると、廃止方針が示されていただいくらスキー場、高畑スキー場について「2031年度以降、民間主導により運営する方向性が見いだせれば、指定管理者以外の方法で施設を継続」と、少し方向性が変わった。

 今回の件で、町の基本的な考え方は「スキー場を整理して町の負担を軽くし、もっと別の部分にその予算を振り向けられるようにしたい」というもの。

 町総合政策課によると、リフト修繕や圧雪車の経費などの公費負担は各スキー場ワンシーズンで2000〜3000万円、4つで1億円超になるという。加えて、だいくらスキー場は、2027年度に第一ロッジの建て替え計画を含め、5億6000万円もの多額の経費支出が予定されている。こうした町の財政負担がなく存続できるのであれば、町の基本的な考え方に反しないから存続可能との方向性を明らかにしたのだ。

町長は「柔軟に対応」と説明

タウンミーティングであいさつする渡部町長
タウンミーティングであいさつする渡部町長
タウンミーティングの様子
タウンミーティングの様子

 2月には「今後の方針(案)」について、町内4カ所(旧町村単位、田島地区は2回で計5回)でタウンミーティング(住民説明会)が開催された。本誌は2月13日に田島地区で開催された説明会を取材した。

 会場では「だいくらスキー場を未来につなぐ会」がブースを設け、存続に向けた署名を集めていた。

 最初に町当局から「今後の方針(案)」についての説明があり、その後に意見交換が行われた。当然、話題の中心になったのは同地区のだいくらスキー場に関してで、存続を求める声が続出した。

 もっとも、出席者は約90人で、その多くが町の方針に意見したいから参加したと考えられるため、それが町民(田島地区民)の総意かと言われると必ずしもそうとは言い切れない面はある。とはいえ、スキー場に対して思い入れがある人が相当数いることはうかがえた。

 渡部町長も「この案の見直しをしないという考えはなく、柔軟に対応したい」、「つなぐ会の方々との協議、多くの民意を聞いて最終的に判断したい」旨を述べていた。

旧町村間の不満

 一方で、意見交換では本誌前号で指摘したような意見もあった。同町は2006年に田島町、南郷村、舘岩村、伊南村の南会津郡4町村が合併して誕生した。旧町村ではそれぞれスキー場を所有していたほか、それら施設を運営する第三セクターがあり、合併新町がすべて引き継いだ。旧田島町のだいくらスキー場、旧南郷村の南郷スキー場、旧舘岩村のたかつえスキー場、旧伊南村の高畑スキー場である。本誌前号では《旧町村間で「こっちは廃止なのに、向こうは存続されるのは納得できない」との不満が生じる可能性もあり、なかなか簡単な話ではない》と指摘していた。

 別表に各スキー場のデータをまとめたが、南郷スキー場より、売上、入り込み、季節雇用者数、町内業者との取引額等が多いのに、なぜ南郷スキー場は継続で、だいくらスキー場は廃止なのか、といった意見が出たのだ。

各スキー場のデータ(たかつえ、だいくら、南郷、高畑)

 こうした質問に対する町の説明はこうだ。

 ○南郷スキー場は、単に観光施設としての役割だけでなく、町の基幹産業である南郷トマトの産地維持や地域経済に大きく関わっている。人口減少に歯止めがかからない中、若者の移住定住促進にも大きく貢献している施設であるため継続する方針とした。

 ○だいくらスキー場は、事業価値はあるが、施設の老朽化は喫緊の課題。2025年度以降、毎年3000万円以上の修繕費が見込まれ、これらの設備投資を上回る利益を将来にわたって安定的に生み出すことは容易ではないと考えられる。

 こうした説明を受けてもなお、「納得できない」との声もあったが、参加者からは「納得できないと言っても話は進まない。もっと建設的な議論を」という趣旨の発言もあった。

存続に向けた2つの方策

タウンミーティング会場に設置された「つなぐ会」のブース
タウンミーティング会場に設置された「つなぐ会」のブース

 それに倣い、本誌も「建設的」な視点で述べていきたい。

 「今後の方針(案)」では「2031年度以降、民間主導により運営する方向性が見いだせれば、指定管理者以外の方法で施設を継続」とされている。

 前述したように、だいくらスキー場は、一定程度の事業価値はあるが、施設の老朽化が課題になっている。「2027年度に第一ロッジの建て替え計画を含め、5億6000万円もの多額の経費支出が予定されている」(南会津町観光施設評価業務報告書より)ことや、「2025年度以降、毎年3000万円以上の修繕費が見込まれる」(タウンミーティング資料より)ことなど、それらの設備投資を賄えるだけの余裕はない。

 だから、それら設備投資分を含めて、町の負担がなく、引き受けてくれる民間事業者が現れれば、存続は可能ということ。つまり、そうした事業者を探し出すことが存続に向けた1つの方策になる。

 一方で、町の説明によると、20年前は10万人前後の入り込みがあったが、2023年度は約6万6000人に落ち込み、全国的なスキー人口減少もあり、安定的に利益を生み出すことは難しいという。

 これが、例えばいま中国ではスキーブームが起きており、ワンシーズン当たり数万人単位で呼び込めたらどうか。前述した設備投資分をペイしようと思ったら、どのくらいの入り込み(売上)が必要なのか。8万人なのか、10万人なのか、あるいはもっとか。

 それが達成できたとしたら、これまで通り、町100%出資の第三セクター・みなみあいづでの運営が可能なのか。

 そのために、財政面以外で町はどれだけ支援できるのか。

 町が今後スキー場に財政投資をしないというのであれば、①存続させられる事業者を探し出す、②今後の設備投資分をペイできるような状況にする――のいずれかしかないだろう。どちらも、簡単なことではないが、本当に「存続」を目指すなら、どちらが可能性が高いかを含めて、そういったことを議論していく必要があろう。

 今回は、田島地区のタウンミーティングを取材したため、だいくらスキー場を中心に話をしてきたが、ほかのスキー場についても同様のことが言える。

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