南相馬市が整備を計画する「園芸作物集出荷団地」の事業費が当初予定より大幅に増え、議員から反発の声が上がっている。事業費は震災復興の交付金で賄われるため、市の持ち出しはほとんどないが、農業生産者が減り、卸売市場の経由率も下がる中で立派な施設をつくり、売上確保と施設維持ができるのか。加えて施設に入場予定の業者は「市長の後援会長」ということもあり、疑いの目を向ける人も少なくない。
デキレースで施設運営者は決定済み!?
市が2022年2月に公表した南相馬市園芸作物集出荷団地整備基本計画(以下、集出荷団地基本計画と略)によると、予定地は原町区上高平字柳町地内の都市計画道路下高平北長野線と市道西殿京塚線の交差部付近。
計画では、1万9300平方㍍の予定地に①集出荷貯蔵施設(2365平方㍍)、②加工施設(730平方㍍)、③卸売市場(1203平方㍍)の3施設と敷地内通路、駐車場、排水路、緑地などを整備。市が施設を整備し、運営は民間に委託する公設民営方式がとられる。
集出荷貯蔵施設は、主に市内での生産量が多いねぎやブロッコリーを大量に集荷。情報通信技術を活用したデータ管理を行いながら洗浄、皮むき、分荷、包装、保管を通じて規格を統一化し、首都圏や仙台圏など大消費地に効率的に出荷できるようにする。
加工施設は卸売市場等から原材料を提供してもらい、農産物の洗浄、皮むき、カット、フリーズドライ、パウダー化等の加工処理を行うことで付加価値の高い製品を製造する。
卸売市場は閉鎖型施設として可能な限り外気や風雨、虫、小動物などを遮断し、衛生環境を維持するとともに、空調設備により年間を通じて一定温度以下が保たれるコールドチェーンを確立する。
目標取扱重量と目標取扱金額(年間)は、集出荷貯蔵施設が5600㌧・7億円、加工施設が300㌧・1億円、卸売市場が2800㌧・8億円。
開場までのスケジュールは、2022年度に実施設計を行い、23、24年度に工事、25年度から供用開始。
事業費は32億9610万円だが、このうち市は土地取得費として3040万円を負担すればいいだけで、あとの全額(建物の整備費)は震災復興のために創設された福島再生加速化交付金で措置される。
この事業費をめぐり、議員を反発させる事態が起きた。
「当初予定より倍以上に膨らんでいるのです」と話すのは櫻井勝延議員(3期)だ。
「計画公表時は33億円だった事業費が昨年46億円になり、今年に入って71億円に増えると担当課から説明されたのです」
小川尚一議員(6期)も次のように一喝する。
「震災復興の交付金で賄われるんだし、市の持ち出しは無いからいいんだ、という話ではない。お金の出所が国だろうと市だろうと税金には違いないのだから、余計な支出は改めるのが当然だ」
なぜ、事業費は倍増したのか。背景にあるのは資材価格の高騰だ。県内でもJR福島駅前で行われている再開発事業が計画の中断・見直しに追い込まれたように、資材価格の高騰が各地の大型事業にマイナスの影響を及ぼしている。
事業の窓口になっている南相馬市農政課の担当者はこう述べる。
「事業費が33億円から46億円に増えたのは、集出荷貯蔵施設の面積が当初予定の2300平方㍍から4400平方㍍に変更され整備費が増えたことが影響したが、同時に▽急激な物価高騰で資材価格が上がり続けている、▽当初予定の33億円はあくまで概算で実施設計をしたら事業費が増えた、▽計画について県と協議する中で施設内に入れる機械の種類が変わった――等々が重なり、金額を積み上げていった結果、71億円になった、と」
民間なら事業費が概算より倍以上になれば即中止されるだろうが、担当者によると「増えた分も福島再生加速化交付金で措置してもらえるよう国と協議中」というから、前出・小川議員が言うように、税金の使われ方として正しい姿なのかと疑問を感じてしまう。
ところで、集出荷団地基本計画に示されたスケジュールだと今年度は工事2年目のはずだが、現実には着工すらしていない。
「交付金は県を通じて復興庁、財務省、農林水産省に申請するが、必要書類に不備や不足があり、それを整える作業に時間を要したため、計画が1年後ろ倒しになった」(同)
後援会長に公的支援!?
新たなスケジュールは、今年度中に造成と建物整備の契約を交わし工事に着手、2026年4月から供用開始となるが、そもそも集出荷団地を整備することになったきっかけは何だったのか。
市内では㈱原町中央青果市場(増山一郎社長)が、集出荷団地の予定地から程近い場所(同じ原町区上高平地区)で青果卸売市場を運営しているが、開場から50年以上経過し老朽化が進んでいる。震災後、グループ補助金の活用や福島相双復興官民合同チームの協力で新市場の整備を目指したこともあったが断念。そうした中、2019年10月に起きた令和元年東日本台風で市場一帯が水没し、増山社長は同年11月、市に対し公設民営による新市場の整備を求める要望書を、市議会には同じ内容の陳情書を提出した。
市議会の建設経済常任委員会は同年12月定例会で陳情を継続審査としたが、翌2020年3月定例会で採択。続く本会議でも賛成多数で採択された。
同年7月には、門馬和夫市長名で内堀雅雄知事宛てに財政支援を求める要望書が提出された。
《民設の卸売市場において、震災前は売上が約13億円、取扱量が5400㌧を超えておりましたが、震災直後は売上が約5億円、取扱量が約2000㌧まで減少しました。(中略)今後も継続して支援を行い、震災前の数値に近づけたいと考えておりますが、既存施設は老朽化し、機能も不十分であるため、このままでは市民への適切な供給に支障をきたします》《つきましては本市農業、ひいては、相双地方の復興を一段と進めるために、下記(卸売市場および関連施設の整備に係る財政支援)を強く要望いたします》
門馬市長が県に財政支援を求めた背景には、卸売市場に関する国の補助金は補助率が低い割に競争率が高いため、県を通じて国に、補助率の高い震災復興の交付金で措置してほしいと打診する狙いがあった。
しかし、前出・小川議員は2020年3月定例会でこんな反対討論を展開している。
「開設以来50年が経過し、老朽化や台風の影響も甚大だったことは理解する。しかし、民間事業者に対して莫大な交付金を投資することが予想される点からすると、慎重な審査によって採択すべきだ」
生活インフラとしての役割を果たす卸売市場は公共性が高いが、見方を変えると「民間事業者=原町中央青果市場への公的支援」になるため公平性に欠けるというわけ。
それだけではない。実は、同社の増山社長は門馬市長の後援会長を務めているため、卸売市場に公共性があるのは事実としても「市長が後援会長の会社に公的支援をしようとしている」との見方が拭えないのだ。
南相馬市長を2期(2010~18年)務めた前出・櫻井議員はこう指摘する。
「一般的な話として、市長は市民全体の奉仕者なので、特定の人物に便宜を図っていると誤解されるような行動は慎まなければなりません。自分にそのつもりはなくても市民が見たらどう思うか、と考えながら行動するのが市長のあるべき姿です」
ところが、内堀知事に財政支援を求めた直後、門馬市長は中川庄一議員(5期)と一緒に公設民営に納得していない市場関係者を直接訪ね、理解と協力を求めていた。中川議員は当時、増山社長から陳情書を受け取った市議会建設経済常任委員会の委員長だった。訪問を受けた市場関係者は「市長と常任委員長が後援会長のためにわざわざそこまでするのかと驚いた」と振り返っている。
ここまでの経緯は本誌2020年10月号「違和感だらけの南相馬市・卸売市場『公設民営化』」という記事で詳報しているが、当時の本誌取材に市農政課は「公設民営は市議会が賛成多数で採択したことなので、市長の後援会長が経営する会社云々と言われても市として答えることはない」とコメント。増山社長にも取材を申し込んだが、面会の約束を取りつけたものの、直前になって「取材は受けない」と断られている。
公募と言いながら……
公設民営に賛成という意見にも耳を傾けてみたい。岡﨑義典議員(3期)は2020年3月定例会で次のような賛成討論をしている。
「集出荷施設がなくなってしまった場合どうなるのか。JAなどの出荷団体に加盟していない小規模農家は農作物の出荷ができなくなり、ふぞろいの農作物は行き場を失ってしまう。(原町中央青果市場は)地元の農産物を学校給食に提供する役割も担っているが、これもできなくなり小売店などから仕入れなければならなくなる。(増山社長からの)陳情の願意は、施設の内容や規模に言及したものではなく、あくまで農産物の集出荷施設として好ましい場所に公設の市地方卸売市場を整備してほしいというもの。当然、市で設置した場合は指定管理者制度を導入するなど、特定の事業者のために設置することには当たらないため、本陳情は採択すべきと考える」
陳情したのは原町中央青果市場だが、施設が開設されれば指定管理者制度が導入されるので、同社のために設置するわけではない点を強調している。これについては、2020年6月定例会で市も「卸売市場については指定管理者制度を導入し、一般公募したい」、「市内に限らず実績のある業者、安定経営が可能な業者に委託したい」と答弁している。
岡崎議員はこう語る。
「卸売市場が地震や水害、老朽化で十分な機能を果たせなくなっているのは事実。卸売市場がなくなれば農家や仕入れ業者が困るのも事実。その卸売市場を運営しているのがたまたま市長の後援会長だったから、あれこれ言う人がいるわけだが、市民のために整備する、指定管理者制度を導入するというなら進めるべきだと思います」
ただ、岡崎議員は公設民営に賛成しつつ、建設経済常任委員会副委員長(当時)として厳しく釘も刺している。以下は2020年6月に開かれた同委員会での発言。
「原町中央青果市場からの陳情は建設経済常任委員会と本会議で採択となったが、同社の決算資料を見ると、行政が補助金を使って立派な建物をつくっても結局赤字経営で、赤字を市の財源で毎年補填しなければならないのではないかという懸念があるから、議案質疑でも様々な質問が出るんだと思います」
「問題は施設運営に携わる団体の経営不安です。もし市内に受託できる団体がなく、公募しても競争原理が働かず、自動的に一つの団体にお願いするしかない状況になった時、その団体の経営改善については『努力します』みたいになることを、私は非常に懸念しています」
賛成している岡崎議員も、公募と言いながら結局、原町中央青果市場しか任せるところがなく、いざ運営したものの経営に問題があれば市が尻拭いをしなければならない不安があっては困ると指摘しているのだ。
集出荷団地整備基本計画には「施設運営者はプロポーザルにより選定します」と明記されているが、1者が団地全体を一元管理するのではなく、集出荷貯蔵施設、加工施設、卸売市場ごとに委託業者を決めるとしている。
ところが、集出荷団地整備基本計画には3施設の開場1年目から10年目までの収支計画が載っているが、その元となった数字は集出荷貯蔵施設がJAふくしま未来、卸売市場は原町中央青果市場の決算書が用いられているのだ。
2022年3月に開かれた建設経済常任委員会で、市はこのように答弁している。
「集出荷貯蔵施設は農協を想定しています。ただ、入っていただくに当たっては集出荷団地内の連携もあるので、農協と想定はしているがプロポーザルは実施する予定です。そのうえで収支計画ですが、農協とも調整しながら毎年このくらい収支を上げていくということで調整し、基本計画に載せたところです」
「卸売市場については原町中央青果市場の決算書から収支計画を策定しました。今後、この施設を整備することでより効率的な施設を目指しているので、流通のやり方を変えることで生産現場および消費現場の大きな改革と言うと言い過ぎかもしれないが、農業者が農業に専念できる環境を構築していく考えです」
一方、市は農産物加工施設には言及していないが、原町中央青果市場内で仲卸を営む㈲丸上青果が候補に挙がっているという。
厳しい交付金支出の条件
なぜプロポーザルで施設運営者を決めるとしながら、委託先の候補者が既に明らかになっているのか。
JAふくしま未来そうま地区本部に尋ねると「ウチは新しく施設ができたら市からお借りすることになっているが、詳細は市に問い合わせてほしい」と言う。原町中央青果市場にも、増山社長が後援会長という立場で計画が進んでいることをどう考えているかを併せて質問したいと思い取材を申し込んだが「そういう方向(施設運営者)で話は進んでいるが、正式決定したわけではないので答えられない。詳しいことは市に聞いてくれ」と断られた。
丸上青果の岡田義則社長はこのように話している。
「まだ何も決まっていないし、市と打ち合わせをしているわけでもない。新施設については一般市民と同じく、ネットの公開情報を知る程度です。仮に新施設に入ることになれば、現状の施設と違って空調や水回りが変わり、経費の見込みが全く違ってくる。施設内に入る機械も現状から変われば、ランニングコストも違ってくる。あまりに経費がかさむようなら、売り上げの見込みがあってもウチは(施設運営者に)ならないかな。カット野菜や漬物、弁当などの加工業者はウチ以外にもたくさんいますから」
集出荷貯蔵施設と卸売市場の運営は、JAふくしま未来と原町中央青果市場以外に市内で委託できそうな団体が見当たらないが、加工施設は丸上青果以外にもアテがありそう、という違いが見て取れる。
市農政課の担当者は、委託先が既に決まっているかのような状況が起きている理由をこう説明する。
「施設運営者をプロポーザルで決めるのは間違いありません。ただ、建物の費用全額を震災復興の交付金で賄う中で、国、県から『3施設の委託先がはっきりしないと補助金を出しようがない』と言われ、ひとまず要望者(原町中央青果市場)を優先して計画を策定しなければならなかった」
そういう事情で、JAふくしま未来、原町中央青果市場、丸上青果を委託先の候補に挙げざるを得ず、プロポーザルもまずは3者を優先して行うが「他者の参加ももちろん受け付けます」(同)。
こうなると「他者が立派なプレゼンをしたところで結局、委託先は3者で決まり」というデキレース説が浮上してくるが、仮にそう決まったとしても、3者は厳格な施設運営計画や収支見通しを示さないと、国、県から交付金支出を認めてもらえないのだという。
「全額補助というスペシャルな事業のため、施設運営者は補助金を受ける時だけでなく、施設稼働後も毎年、目標に対して実績がどうだったか、もし目標に届かなければ新たにどういう運営を行うかを国に報告しなければならない。また、公設のため施設運営者は減価償却がかからないので、その分、売り上げからプールして施設の継続性を自ら担保しなければならない。ハード面ばかりでなく、地域の農業者は後継者がいるのか、いない場合はどうするのか、生産量はどうやって伸ばしていくのかといったソフト面の見通しも国に示さなければならない」(同)
タダで建ててもらう代わりに、3者には厳格な見通しを示すことが求められているわけだが、集出荷団地整備基本計画に載っている3施設の収支見通しを見ると、集出荷貯蔵施設は売り上げが当初基準の1362万円から1年目で1・7倍の2290万円に増え、その後も毎年2%ずつ伸びていく見込みになっている。卸売市場も1年目に6億4917万円となり、10年目には8億円になると示されているが、どちらもどういう根拠で売り上げが増えるのかは書かれていない。JAや原町中央青果市場がどのようなアイデアで売り上げを伸ばそうとしているのか気になるところだ。
減少する市内の農家数
もっとも、市内農家や卸売市場の現状を知ると、売上確保や施設維持ができるのか疑問に感じる。
市内の農家数はもともと減少傾向にあったが、震災を境に離農が進んでいる。2015年は2223戸だったが、20年には1309戸と41・1%も減少している。農業従事者を年齢別で見ても60歳以上の割合(20年)は全国平均79・9%に対し84・1%と高くなっている。農業経営体も、ほ場整備などが進んだことで団体経営は15年の23経営体から20年には47経営体に倍増したが、逆に個人経営は1641経営体から741経営体に半減している。
集出荷団地整備基本計画によると団地整備の目的は《農業者にとっての生産環境の改善が、消費者にとっての豊かな食生活・健康増進につながり、ひいては本市農業が持続的に発展できるよう、農業者の負担軽減や流通の効率化、魅力的な商品づくりなど、生産から消費に至るあらゆる過程で新たな付加価値創造を図っていく》ことだが、ハコモノをつくっただけで農家数が回復したり、高齢化率が改善したり、経営体に変化が起きるとは思えない。
卸売市場を取り巻く環境も大きく変化している。公益財団法人流通経済研究所が2018年に発表した資料によると、卸売市場の経由率は06年度を100とした場合、14年度は食肉94・1、青果93・2、国産青果91・8、花卉91・1、水産83・0と下がっている。また、多くの卸売会社で買付品の割合が30~40%に上り、利益率の低い買付品の割合が上がれば卸売会社の経営は厳しくなる。いわゆる2024年問題でトラックドライバーが不足すると、農水産品は他の品目に比べて荷役時間が長いため物流費も増えてしまう。
こうした課題が横たわる中で、いくら市の持ち出しがほとんど無いとはいえ71億円もの税金を使って立派な施設をつくり、計画通り収支を上げることができるのか。
市役所内部から聞こえるのは「JAや原町中央青果市場の考え方が甘く、新しい施設でどうすれば画期的な経営ができるか、地元農業を元気にできるか、アイデアをひねろうという姿勢が見られない」という不満だ。市と協議を続ける中で施設に見合った経営に努めようとする姿勢は徐々に表れているようだが、ハコが立派になることだけに満足して経営を疎かにしたり、地元農業を立て直す気概もなければ、せっかくの集出荷施設が早晩瓦解してしまうことを市も業者も肝に銘じていただきたい。
※門馬市長に後援会長の会社(原町中央青果市場)が施設運営者の候補者に挙がっていることについてコメントを求めたところ、以下の回答が寄せられた。「お質しの今後の施設運営者選定については、県の指導も踏まえ進めます。具体的には、これまで本加速化交付金を使った事業(農業用機械器具貸付事業=56施設1673件、農業関連施設5施設)については、県と市の職員からなる農業用施設等貸付選定委員会で選定しています。今回の3施設についても同様の手順でなされ、3施設それぞれに要望のあった各1事業者を候補者としてプレゼンテーションを実施し審査することになります。現時点で審査基準や決定時期については検討中です。本件に限らず誤解を招かないようにするためには事実関係・情報を公表することが大切と考えており、本件についても審査結果を公表して参ります」