「喜ばしいことではあるが、正直かなりの負担です」
とため息をつくのは、聖光学院高校(伊達市)の関係者だ。
硬式野球部が甲子園の常連となっている聖光学院。今年春の選抜も出場が確実視されているが、今回、関係者が複雑な心境を吐露したのは野球部ではなく、ラグビー部の全国大会出場だ。
第104回全国高校ラグビー福島県大会で6年ぶり二度目の優勝を果たした聖光学院ラグビー部。全国大会は東大阪市の花園ラグビー場などを会場に12月27、28、30日、1月1、3、5、7日の日程で開かれるが、同高同窓会・保護者会と同部保護者会・OB会は11月に「ラグビー部全国大会出場後援会」を結成し、募金活動を行った。
目標金額は2000万円。経費の内訳を見ると選手派遣費600万円、用具購入費400万円、応援団派遣費300万円、広報費・事務費150万円、強化費250万円、予備費300万円となっている。
「同窓会顧問の浅倉俊一さん(アレンザホールディングス会長)、会長の安齋文夫さん(福一屋社長)は全国大会の度にポケットマネーでかなりの額を寄付している。優良企業のトップじゃないと、同窓会役員なんて務まらない」(前出・関係者)
野球部の寄付金をめぐっては、昨年夏の甲子園について10月に決算報告があった(詳細は別掲の通り)。結果は1回戦負けだったが、それでも3700万円もの費用がかかったのだから、勝ち進むといくら必要になるのか想像もつかない。
2024年夏の甲子園の寄付金決算
◎収入
寄付金額 3586万円
市町村助成金 330万円
主催者交付金等 104万円
応援参加旅費等 28万円
合計 4049万円
◎支出
選手派遣費・強化費 879万円
応援団派遣費 1182万円
用具購入・修繕費 891万円
広報・記念品費 721万円
事務費 28万円
合計 3704万円
※千円以下は切り捨てているので項目毎の金額を足しても合計とは合わない。
「何回戦まで勝ち進むと、もう一度寄付を集めなければならないというボーダーラインがあるし、部員の保護者は一家庭いくらと決められている。勝てば嬉しいし、県民も喜んでくれるが、その裏では募金集めに苦労していることも知ってほしい」(同)
聖光学院では野球部とラグビー部のほかに女子バレー部、剣道部、サッカー部が特別強化指定部、ハンドボール部、陸上部が強化指定部に指定され、女子野球部も創設されるなど全国大会を狙える部活動が多い。そのため、毎年のように1000万円単位の募金を集めなければならないのは容易ではないという。
とはいえ、私立高校にとって部活動の成績は広く生徒を集める上で大きな宣伝効果になる。急速に進む少子化にあっては、定員割れしている私立高校も珍しくない。
本誌の手元に2024年度県内私立高校の定員、合格者、入学者に関するデータがある。「実数」を明らかにするのは控えるが、それによると半数近い高校は定員より2~3倍多い合格者を出している。合格者は通常、入学してもしなくても入学金を納めるので、その分だけ高校の収入は増える。受験者は合格者より必然的に多くなるので、私立高校にとっては受験料も貴重な収入源だ。
これに対し、定員の2倍以下の合格者しか出せていない高校は、入ってくる入学金も受験料も少ない。
一方、実際の入学者はどうかというと、半数の高校が定員割れで、中には定員より3倍多い合格者を出しながら、入学者は定員に満たなかった高校もある。入学者は授業料を納めるので、定員割れだとその分、収入は減ることになる。
こうした状況を回避するため、私立高校は部活動を強化し、全国的に有名になって県外や海外からも生徒を集めているが、部活動が強くなればなるほど全国大会出場のために多額の募金が必要になるというのは、なんとも皮肉である。