【白河市】合併で生じた「議員空白地帯」

【白河市】合併で生じた「議員空白地帯」

 2000年代を中心に進められた「平成の大合併」により、旧市町村単独の時代と比較すると、合併自治体の議員数は大きく減少している。とりわけ、核となる市があり、そこと合併した町村では「地元議員大幅減少」の傾向が強い。それに伴い、行政とのパイプが細くなっていると推察されるが、実際の影響はどうなのか。今年7月に市議選が行われた白河市の状況をリポートする。(末永)

住民の声が届きにくくなった旧3村

大信庁舎(旧大信村役場)
大信庁舎(旧大信村役場)
表郷庁舎(旧表郷村役場)
表郷庁舎(旧表郷村役場)

 白河市は2005年11月に、旧白河市と西白河郡の表郷、大信、東の3村が合併して誕生した。以降、市議会議員選挙は2007年、2011年、2015年、2019年、今年と計5回行われた。2007年は4月に市議選が行われたが、2011年は東日本大震災・福島第一原発事故の影響で、選挙時期を7月に繰り延べた。それ以来、7月に市議選が実施されている。なお、合併後最初の市長選は2005年12月に行われたが、初代市長を務めた成井英夫氏が2007年6月に病気のため急逝。同年7月に、市議選と同じ日程で市長選が行われ、以降は同時選となっている。

 今回の市議選は7月9日に投開票された。現職22人、元職2人、新人6人の計30人が立候補し、現職20人、元職1人、新人3人の計24人が当選した。投票率は56・25%で、前回を3・02ポイント下回り、合併後最低となった。結果は次頁の通り。

選挙結果(7月9日投開票、投票率56・25%)

1521室井 伸一(58)公現(旧市内)
1518大木 絵理(36)無現(旧市内)
1374水野谷正則(59)無現(東)
1252菅原 修一(72)無現(旧市内)
1246永山  均(56)無新(大信)
1194高畠  裕(58)無現(旧市内)
1145根本 建一(59)無現(表郷)
1089藤田 文夫(68)無現(表郷)
1023緑川 摂生(64)無現(表郷)
999深谷  弘(69)共現(旧市内)
936吉見優一郎(38)無現(旧市内)
924筒井 孝充(66)無現(旧市内)
906大竹 功一(59)無現(旧市内)
859遠藤 公彦(61)無新(東)
859戸倉 宏一(69)無現(大信)
842佐川 京子(62)無現(旧市内)
816佐川 琴次(67)無元(東)
795植村 美洋(66)無新(旧市内)
790柴原 隆夫(74)無現(旧市内)
772高橋 光雄(75)無現(旧市内)
739石名 国光(75)無現(旧市内)
735北野 唯道(83)無現(大信)
726大花  務(73)無現(旧市内)
692鈴木 裕哉(51)無現(旧市内)
686須藤 博之(69)無現
601阿部 克弘(65)無元
557山口 耕治(69)無現
553市川  勤(50)無新
471大森  仁(62)無新
382大花 恵子(55)無新

 当選者は旧市村のどこに住所があるかを併記した。選挙ではやはり、旧市内の候補者は旧市内を中心に、旧表郷村の候補者は旧表郷村内を中心に……といった具合に、遊説を行ったようだ。

 「例えば、旧東村に住まいがある候補者が旧表郷村に、あるいはその逆というのは、多少はあるんでしょうけど、大部分はそれぞれの地元で選挙カーを走らせていたように感じます」(旧東村の住民)

 普段の活動でも、やはり地元中心になるという。

 「住民の中にも、まだ旧村の意識は残っており、議員もそうだと思います。近年は災害が相次いでいますが、例えば、市内で旧表郷村だけが局所的に被害を受けたということであれば、旧市内や旧他村の議員も集中して当該地区に来るでしょう。ただ、市内全域で被害を受けたとなれば、やはり議員は地元の状況を見て回って、必要なことがあれば市に伝える、といった活動になっていると感じます」(旧表郷村の住民)

 別表は合併時と現在(今回の改選後)の旧市村の人口と議員数をまとめたもの。旧3村では、合併時12〜14人の議員がいたが、現在はそれぞれ3人となっている。

合併前、現在の人口と議員数

合併前(2005年)現在
旧白河市4万8000人4万3000人
24人15人
旧表郷村7100人5700人
14人3人
旧大信村4800人3600人
12人3人
旧東村6000人4700人
14人3人
(上段が人口、下段が議員数)

 旧村単位で「議員空白地帯」は発生していないが、旧表郷村には25行政区、旧大信村には26行政区、旧東村には30行政区あり、かつては2行政区に1人くらいの割合で議員がいた。それが現在は8〜10行政区に1人くらいの割合になっている。旧村内の行政区レベルで見ると、「議員空白地帯」が生じていることになる。

 ここで問題になるのは、旧3村は市政(市役所)が物理的(距離的)に遠くなっているということ。そのうえ、議員もいない(少ない)となると、さらに「遠い存在」になってしまう。

 合併前はほぼ毎回議員を輩出していたという行政区の住民は、「役場の業務などについて、『あの件はどうなったか』、『今度、村でこういう事業をやると聞いたが、具体的にはどういった形になるのか』等々、比較的気軽に(行政区内から出ている議員に)聞くことができたが、いまは(行政区内に議員がいないため)なかなかそうもいかない」という。

 一方、合併当時の旧村の役場関係者はこう話す。

 「合併議論の中で、最初のうちはこの地区(旧市村)は何人という具合に割り当て制にすべき、といった意見もありましたが、そこまでしなくても、落ち着くところに落ち着くだろうということで、そうしなかった。結果的には当初想定したような形になっていると思います」

旧東村は1人から3人に

東庁舎(旧東村役場)
東庁舎(旧東村役場)

 人口比率で言うと、旧市内は約2800人に1人、旧3村は約1200〜約1900人に1人の割合で議員がいることになる。人口比率で言うと、旧3村の方が議員が多い格好だ。

 前段で今回の市議選の投票率は56・25%と書いたが、旧市村別に見ると、旧市内が約52%、旧3村は約66〜約70%となっている。旧3村の住民はそれぞれ地元の候補者に投票する、と仮定すると、旧市村別の投票率の差がこの結果になっていると言えよう。

 実は今回の改選前、旧東村は水野谷正則議員1人しかいなかった。つまりは、水野谷議員1人で、旧東村約4700人の声を市政に届ける役割を担っていたのだ。

 水野谷議員に話を聞いた。

 「執行部はやりやすかったかもしれません。同地区(旧村)内に議員が複数いたら、(限られた予算で地区内の課題解決に向けた事業を行う中で)『オレはこれを優先すべき』、『私はそれよりもこっちを優先すべき』といった具合に、それぞれが考えを持っているでしょうから。住民からしたら、選択肢が広がると言いますか、相談したり、市政情報を聞くことができる人は多い方がいいでしょうね。私自身、この地区の代表として、地元のために活動していますから。もっとも、白河市では、道路の補修や側溝に蓋をしてほしいなどのちょっとした事案については、町内会長や行政区長などを通して、市役所に話ができるようなシステムができていますから、議員を通して市につなぐということを求められることはあまりありません」

 旧東村の住民によると、「今回の市議選では、何とか議員を増やそうという動きがあり、その結果、旧東村からは3人の議員が当選した。まだ任期がスタートしたばかりで、何が変わったということはないが、少なくとも、1人のときより地元の声を届けやすい環境になったのは間違いないと思います」という。

 逆に言うと、それだけ「このままではわれわれ(旧東村)の声が届かなくなってしまうのではないか」との危機感があったということだろう。もっとも、議員が少ないことで、明確に「こうした不利益を被った」という事例は聞かれなかったが。

 強いて言うなら、前段で災害時の議員の対応についてのコメントを紹介したが、「水害があった際、市に一度見に来てほしいとお願いしても、なかなか来てくれなかった。そこで、議員にお願いしたところ、ようやく来てもらった。まあ、被害が広範囲に渡ったから、なかなか細部までは見て回れない、人が足りない、ということだったんでしょうけど」との話が聞かれたくらいか。

商工団体は協議会を組織

白河商工会議所
白河商工会議所

 このほか、かつて十数人いたのが3人になり、「何となくですが、商工業関係ならこの議員、農業関係ならこの議員というように、役割分担ができているように思う」(旧表郷村の住民)との声も。

 もっとも、商工団体の関係者によると、白河商工会議所、表郷商工会、ひがし商工会、大信商工会の4団体で連絡協議会を立ち上げ、定期的に情報交換をしたり、市に要望活動などを行っているという。その点では、少なくとも商工関係者は、かつての旧村内に十数人いた議員が3人ほどになっても、大きな支障は出ていないようだ。

 一方で、前出・合併当時の旧村の役場関係者はこう話す。

 「合併協議の中で、旧自治体の区割りは『地域自治区』と位置付けられ、旧村役場は総合支所方式(旧役場の名称はそれぞれ表郷庁舎、東庁舎、大信庁舎)が採用されました。大規模なものでなければ、各総合支所の権限で予算を執行できたのです。ただ、合併から4年でその制度は役目を終えたということでなくなりました。ですから、住民は(旧役場の予算執行権がなくなったことで)市役所が物理的にも、気持ちの面でも遠くなったと感じていると思います」

 合併に伴う議員減少、それによって、住民の声が行政に反映されにくくなることは、合併前から想定されていたことだ。とはいえ、実際、議員数は大きく減っているが、現状ではそれに起因する「大きな問題」は発生していない。

 旧東村のように、一時(今改選前)は1人まで減ったが、住民の動きによって3人まで増やした(戻した)事例もある。当然、その分、議員に求められることは多くなる。

 もっとも、議員が多ければ地域の課題が解決するかと言うと、そうではなかろう。とりわけ、同市の旧3村に限らず、核となる市があり、そこと合併した町村では、人口減少などの衰退が進んでいる、といった問題に直面しているケースが多く、それはまた別の問題と言えよう。

 河村和徳・東北大学准教授(政治情報学)はこう話す。

 「合併によって単独自治体時代と比較して議員数が減るということは当選のハードルが上がるということです。最初のうちは『オラが地域から何とか議員を出そう』と一生懸命支援します。ただ、後が続かない。選挙自体も、かつての(旧村の)ノウハウが通用しなくなり、なり手不足が加速していきます。全国的には旧町村単位で空白ができているところもあります。そうなると、地域の声を行政に伝えていけなくなってしまいます」

 こうした状況をどう是正していくかが問われている。

議員のあり方

白河市役所
白河市役所

 最後に、これからの議員のあり方についても述べておこう。白河市の議会の会期は60〜70日程度。町村議会だと30〜40日程度。議員からすると「一般質問の準備など、それ以外の活動も多い」というだろうが、少なくとも公式な議会活動はそのくらいにとどまる。

 本誌は以前から、地方議員は仕事を持つべき、と主張してきた。なぜなら、落選したら収入がなくなるため、何よりも再選を優先させる恐れがあるからだ。結果、執行部(この場合は市長)から、次の選挙で刺客を立てられ、落選させられることがないような振る舞いになり、執行部に厳しい目を向ける姿勢が弱くなる。それは、議会全体の活力低下につながる。

 そういう意味で、仕事を持ちながら議員を務めるのが本来あるべき姿。前述した実働日数を加味してもそれができないはずがない。

 ちなみに、同市議会のホームページに掲載された議員名簿には、職業が出ているが「市議会議員」となっているのは3分の1の8人。ほかは「農業」が6人、「会社役員」が4人、「呉服店」、「旅行業」、「理容業」、「自営業」、「政党役員」、「行政書士」が各1人。普通の会社勤めの人はいないようだが、議員の期間は休職扱いにするとか、何らかの対応により可能になるのではないか。

 関係者の中には、議員報酬だけでは食っていけないから、なり手がいないという人もいる。同市の議員報酬は月額38万5000円、副議長は同40万6000円、議長は同46万3000円。そのほか、年2回の期末手当がある。

 一方で、同市議会の会期は前述の通り。その点で言うと、議会の開催日時を工夫するなどして、会社勤めをしている人でも議員になれるような取り組みが必要だろう。そうなれば「議員報酬だけでは食っていけない」という話にはならない。

 もう1つ付け加えると、いま多くの議会では定数削減の流れにある。人口が減少しているから、それに見合った議員定数に、ということだが、本誌はむしろ、議会費(議員報酬の総額)はそのままで定数をできるだけ多くした方がいいと考える。議員の数が多ければ、それだけ住民の意向を反映させることができるからだ。当然、そのためには、前述したように会社勤めの人でも議員活動ができるような工夫が必要になる。

 議会進行などにしても、いまの地方議会は「無駄に大仰なもの」になっているが、「形式」にこだわりすぎではないか。もっとフランクな形にした方が馴染みやすいだろうし、いい議論ができるのではないか。

末永 武史

すえなが・たけし

1980(昭和55)年生まれ。南相馬市出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
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