くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大学卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、16年11月から会頭。現在3期目。
新型コロナウイルスは徐々に収まってきたが、円安、物価高、人手不足の影響は深刻さを増している。インバウンドで賑わう首都圏や有名観光地とは異なり、地方経済の回復はまだまだ遠い。加えて相馬市は、二度の福島県沖地震による被害からも完全に立ち直っていない。地元経済界の現状と今後を相馬商工会議所の草野清貴会頭に聞いた。
災い転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたい。
――新型コロナウイルスが昨年5月に5類に移行しました。
「昨年から祭りやイベントなどを従来通り実施していますが、コロナ前と比べても大盛況でした。スポーツ合宿で市内を訪れる人の数も戻っています。
コロナの影響を大きく受けた飲食店や宿泊業などは回復傾向にあります。飲食店は店ごとに差はありますが、コロナ前の7~8割まで回復しています。ただ、昨今の物価高を価格転嫁できておらず、それが雇用に支障を及ぼしており、経営は未だ不安定です。宿泊業は、人流は回復しているものの地震被害の復旧が完了済みの所とこれから建て替えを行う所があり、格差が見られます。地域全体では回復に至っておらず、イベントが行われても市内に宿泊できる場所が少ないのが現状です」
――2021、22年に発生した福島県沖地震の影響は。
「地震で半壊以上となった市内の建物は2621件、うち公費解体は1176件に上ります。会員事業所も多くが被災しましたが、国・県に要望してグループ補助金が適用され再開に至った所もあります。しかし比較的大規模な宿泊施設はこれから着工となる所もあり、全体的に回復したとは言えません。
地震被害からの回復を目的に県内一斉に行われた宿泊県民割では、管内の宿泊施設の復旧が遅れたため、県に要望し『県民割相馬版』を実施しました。ほかにも15%割増プレミアム商品券や飲食マップ作成、ほろ酔いスタンプラリーや推奨物産品発掘事業『相馬逸品』など、地域経済回復のための事業に取り組んできました。
今後も行政、観光協会、漁協、農協など各種団体と連携し、地域経済浮揚に向け努力していきたい。また事業所に寄り添い、それぞれが抱える課題には伴走型支援を行うなど経営改善普及事業を積極的に進めていきたいと思います」
――円高・物価高が大きな問題となっています。人手不足や後継者不在も深刻です。
「8割を超える事業所が異口同音に『物価高に対する価格転嫁ができず利益を見いだせない』『賃上げの意思はあるが余力がない』と述べています。中には『高齢化で廃業を検討せざるを得ない』などの声もあります。建設業や運送業からも『人手不足と資材・燃料高騰で業績が低迷している』との声が聞かれる中、4月からは運送業で年間残業時間上限960時間の規制が始まるため、業界の縮小も懸念されます。ただ一方では、価格転嫁をできている事業所もあり『新たなサービスや付加価値を付けて対応している』という意見も少なからずあるので、全体に波及させていきたいと思います。
後継者問題は、特に小規模事業所では深刻に捉えており、事業継続を断念するケースが多い。会議所としては、そういった事業所に積極的に相談するよう呼びかけながら、経営アドバイザー的な役割を果たしていきたいと思います」
――国・県に望むことは。
「原油、原材料、資材価格の急激な高騰に対応するため、経営環境が逼迫している中小企業・小規模事業所の実態に沿った事業コストの負担軽減支援策を求めたい。また、エネルギー価格高騰の影響を受ける中小企業・小規模事業所に対する総合的な支援および原油価格高騰の影響を抑えるための総合的な対策を迅速かつ的確に実施していただきたい。
また公共事業を受注する際、受注から納品までの期限が長い事業については、当初の見積もり額から値上がりすることが想定されるため再見積もりを認めるなど、受注側に配慮した負担軽減支援策を実施するようお願いしたい」
――昨年、福島第一原発で処理水海洋放出が行われました。
「幸い、管内で大きな影響は出ていません。日本商工会議所の小林健会頭が全国に呼びかけた『常磐ものの活用促進』により各地から多くのアプローチがあります。当会議所でも水産加工事業者と連携し情報発信を行っており、今後も地元水産物のPRに努めていきます」
人気を集める「福とら」
――相馬沖で捕れる天然トラフグ「福とら」が人気を集めています。
「『「福とら」泊まって、食べてキャンぺーン』を展開中ですが、お陰様で大変好調です。『福とら』を取り扱う店舗も11に増えていますが、さらなる拡充に努めていきたい。また『福とら』との相乗効果でカレイやヒラメの人気も高まっており、直売所・浜の駅松川浦には週末になると多くの観光客が訪れています。
一方、課題としては他県に比べて水産加工品が少ないので、以前からアオサの加工品などの開発に取り組んでいます。アオサは健康食品として注目されており、現在四つの加工品が発売されています。今後もさらなる加工品開発に取り組んでいきたいと思います」
――今年度取り組んでいる事業について。
「この間、相馬駅東改札口設置をJR東日本に要望してきましたが、常磐線を管理する水戸支社からは前向きな回答をいただいています。東側には法務局があり、以前から開発のための土地もあって、ようやく東口開発が進むと思います。
東北中央自動車道の開通により中通り方面とのアクセスは格段に向上しましたが、県立医大附属病院への救急搬送には伊達桑折ICで下りなければならず、さらなるアクセス向上が求められます。そこで、国道115号の改良を県に要望していますが、当会議所だけでなく原町、福島、会津若松、会津喜多方の各商工会議所や各種商工団体も加わったことで県にも前向きに検討していただいているので、引き続き改良実現を目指していきます。
また、相馬野馬追の開催時期が今年から5月に変更されます。周知活動はもちろんのこと、これまで以上の誘客につなげられるよう取り組んでいきたい」
――最後に、今後の抱負をお聞かせください。
「観光をさらなる産業の柱とすべく『福とら』を生かした『新たな食文化の創造』『豊かな海と城下町の歴史を生かした交流事業』『音楽によるマチ起こし事業』など、これまでの基幹事業に文化事業を幅広く加え、新たなアイデアを駆使しながら交流人口拡大に取り組んでいきたい。近年多くの災いに襲われていますが、転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたいです」