首都圏工事の残土捨て場となる福島県

首都圏工事の残土捨て場となる福島県

 昨年11月30日、福島市で開かれた県町村会と内堀雅雄知事との意見交換会で、中通りの複数の自治体に大量の土砂が搬入され、盛り土が造成されている現状が明らかになった。

 土砂は廃棄物処理法の規制対象外で、私有地への盛り土造成に関しては行政が立ち入ることができない。西郷村や矢祭町などでは近隣住民から不安の声が上がっており、各自治体が対応に苦慮しているという。

 西郷村真船地区の国道294号沿いに足を運んだところ、高さ10㍍(マンションの3~4階)ほどの土砂が積み上げられていた。

 近隣住民は次のように語る。

 「8月ごろから夜中に10㌧ダンプで土砂が搬入され、みるみるうちに高く積み上げられた。よく見るとヒビが入り始めており、いつ崩れるか心配で仕方ない。一度様子を見に行ったら、コワモテの人が立っていて、あいさつしたが名刺も計画書もよこそうとしませんでした」

 新聞報道によると、県は同地への立ち入り調査を実施しており、土砂搬入に関わったとみられる運搬業の業者は「自社で排出した土だ」と説明しているという。なおこの業者は昨年、千葉県野田市の休耕田に無許可で土砂を運び込み盛り土としたとして、市残土条例違反容疑で摘発されたほか、前年には埼玉県でも同様の行為で措置命令を受けた(河北新報12月5日付)。

 2021年7月に静岡県熱海市で盛り土が原因とみられる土石流災害が発生し、多数の死者・行方不明者、家屋被害が生じたのを受けて、「盛土規制法」が施行された。盛り土などで被害を及ぼす可能性がある区域を規制区域として指定し、一定以上の盛り土は許可を必要とする仕組みだ。だが、福島県内では規制区域の指定がまだ進んでいない。

 内堀知事は12月4日の記者会見で、「規制区域の指定に向けた基礎調査を実施し、今年度内に調査結果を取りまとめて、市町村と調整しながら規制区域を指定していく」と述べ、県議会12月定例会では区域指定を24年度中に前倒しして対応していく方針を明らかにした。

 産業廃棄物の収集運搬を請け負う企業の経営者はこのように語る。

 「首都圏では道路整備や開発事業が活発化しており、工事で出た残土の置き場所に困っている。私も実際に首都圏の工事関係者から『多めにお金を出すから、残土を処分してほしい』と相談を受けたことがある。モラルが低い一部の業者は請け負ってしまうのではないか」

 関東地方では独自に一定以上の土砂の投棄を規制する条例を定めて〝自衛〟する市町村もあるが、県内自治体は条例制定が進んでいない。そのため、首都圏に近い〝残土捨て場〟として狙われていると言える。

 西郷村や矢祭町では独自の盛り土規制条例制定に向けて準備を進めており、県としても条例を制定する方針。早ければ県議会2月定例会での成立を目指す。ただし、既存の盛り土には効力が及ばない見込みで、県は引き続き盛り土されている土地の所有者・運搬事業者に土砂の内容物や発生元の報告を求め、災害の未然防止を図っていくとのこと。

 それにしても、中間貯蔵施設の除染土壌の最終処分先がなかなか決まらない中、逆に首都圏から建設残土が県内に運び込まれてくるというのは何とも皮肉な話だ。

 なお、110頁からの記事で取り上げている、松川浦県立自然公園内での埋め立て計画予定地にも首都圏の道路工事で出た土が使われるとのこと。〝もう一つの建設残土問題〟として併せてお読みいただきたい。

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