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【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

 本誌でこの間報じてきた田村市の新病院建設計画。市は先月の臨時会に工事請負契約の議案を提出したが、賛成7人、反対10人で否決された。百条委員会で鮮明になった白石高司市長と反対派議員の対立が尾を引いた形だが、同時に白石市長の稚拙な議会対策も見えてきた。

したたかさを備えなければ市政は機能しない

会対策に苦慮する白石高司市長

 まずはこの間の経緯を振り返る。

 老朽化した市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は昨年4~6月にかけて施工予定者選定プロポーザルを実施。市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募したゼネコンの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。

 しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。

 百条委は、白石市長と安藤ハザマが裏でつながっているのではないかと疑った。しかし、百条委による証人喚問の中で白石市長は、①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった――と安藤ハザマに覆した理由を説明した。

 今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は「白石市長の職権乱用」と厳しく批判するも法的な問題点は確認されず「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。

 百条委の一部メンバーからは「さらに調査すべき」との声も上がったが、最終的には「新病院建設が遅れれば市民に不利益になる」として百条委は解散された。

 これにより新病院建設はようやく実現に向かうと思われた。実際、3月定例会では全体事業費を55億7000万円とすることが議決され、6月定例会では資材高騰などの影響で7億円増の62億7000万円とすることが再度議決された。これに伴い今年度分の病院事業会計の予算も増額された。

 予算が全て通ったということは関連議案も議決されると考えるのが普通だが、そうはならなかった。

 市は7月6日に開かれた臨時会に新病院を47億1100万円、厨房施設を4億8900万円で安藤ハザマに一括発注するため、工事請負契約の議案を提出した。同社とは6月28日に仮契約を済ませていた。(※工事費と全体事業費に開きがあるのは、全体事業費には医療機器購入費などが含まれているため)

 しかし、採決の結果は賛成7人、反対10人で、安藤ハザマとの工事請負契約は否決された。市議会は定数18で、採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛否の顔ぶれは別表の通り。(6月定例会での予算の賛否と百条委設置の賛否も示す)

石井 忠治 ⑥××
半谷 理孝 ⑥××
大和田 博 ⑤××
菊地 武司 ⑤××
吉田 文夫 ④××
安瀬 信一 ③××
遠藤 雄一 ③×
渡辺 照雄 ③××
石井 忠重 ②××
管野 公治 ①××
猪瀬  明 ⑥×
橋本 紀一 ⑥×
佐藤 重実 ②×
二瓶恵美子 ②×
大河原孝志 ①×
蒲生 康博 ①×
吉田 一雄 ①×
※〇は賛成、×は反対
※1は工事請負契約の賛否
※2は6月定例会での予算の賛否
※3は百条委設置の賛否
※丸数字は期数

 反対した議員によると、当初、工事請負契約は賛成多数で可決される見通しだったという。

 「6月定例会では賛成9人、反対8人で予算が通ったので、工事請負契約も9対8で可決されると思っていました」(反対派議員)

 風向きが変わったのは臨時会の2日前。予算に賛成した石井忠重議員が工事請負契約には反対することが判明し「9対8」から「8対9」に形勢逆転した。さらに、臨時会当日になって遠藤雄一議員も反対。工事請負契約は想定外の「7対10」で否決されたのである。

 賛成派議員は「予算には賛成しておいて工事請負契約に反対するのはおかしい」と石井忠重議員と遠藤議員を批判したが、実情は臨時会の前から不穏な空気が漂っていた。

 両議員と佐藤重実議員は「改革未来たむら」という会派を組んでいるが、臨時会直前、会派会長を務める佐藤議員は賛成派議員に「私たちは自主投票にする」と説明。佐藤議員はこの時点で石井忠重議員と遠藤議員が反対に回ることを分かっていたため、会派として拘束をかけることができなかったとみられる。

 「大橋議長は無会派だが、もともとは改革未来たむら。だから採決の前に、大橋議長が『会派として賛成する』と拘束をかけていれば3人がバラバラの判断をすることもなく、工事請負契約は9対8で可決していた。大橋議長と白石市長は距離が近いが、両者が連携して議員の動向を把握しなかったことが想定外の否決を招いた」(ある議会通)

 なぜ、石井忠重議員と遠藤議員は予算には賛成したのに、工事請負契約に反対したのか。石井議員とは連絡が取れず話を聞けなかったが、賛成派議員には「臨時会の前に地元支持者と協議したら反対の声が多かった」と説明していたという。

 一方、遠藤議員は本誌の問いにこう答えた。

 「事業費は専門家が積み上げて出しているので、それを素人の私が高いか安いかを判断するのは難しい。しかし契約は、選定委員会が選んだ業者を市長が独断で覆したという明確なルール違反がある。予算は9対8で僅差の可決だったが、今後事業費が増えていけば、その度に補正予算案が出され、僅差の賛否が繰り返されるのでしょう。そこに私は違和感がある。全議員が『新病院は市民にとって必要』と思っているのに、関連議案は僅差の賛否になるのは、正しい姿とは思えないからです。新病院が本当に必要なら、関連議案も大多数が賛成する姿にすべき。もちろん、反対した議員も賛成に歩み寄る努力をしなければならないが、議案を提出する市長も、どうすれば賛成してもらえるのか努力すべきだ」

「政局での反対じゃない」

田村市百条委員会

 百条委で白石市長は「自分の判断は間違っていない」と繰り返し強調した。鹿島から安藤ハザマに覆したやり方自体はよくなかったかもしれないが、客観的事実に基づいて安藤ハザマに決めたことは筋が通っており、市民にも説明が付く。逆に選考委員会の選定通り鹿島に決まっていたら、新病院を運営することになる星総合病院は、郡山市内にある本体施設の工事や旧病棟の解体工事を鹿島に任せているため、白石市長と安藤ハザマがそう見られたのと同様、裏でつながっているのではないかと疑われた可能性もあった。要するに安藤ハザマと鹿島、どちらが施工者になっても疑念を持たれたかもしれないことは付記しておきたい。

 工事請負契約に反対した議員は、1期生と一部議員を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し、賛成した議員は白石市長を支える市長派という色分けになる。その構図は別表を見ても分かる通り、百条委設置でも持ち込まれた。

 そうした中で気になるのは、百条委メンバーが「新病院建設をこれ以上遅らせれば早期開院を望む市民に不利益になる」と述べていたにもかかわらず、工事請負契約を否決したことだ。発言と矛盾する行動で、結局、開院は遅れる可能性が出ていることを市民に何と説明するのか。

 百条委委員長だった石井忠治議員に真意を聞いた。

 「新病院建設が打ち出された際の事業費は36億円だった。その後、プロポーザルで各業者が示した金額は46億円前後、そして3月定例会では55億円超、6月定例会では62億円超とどんどん増えていった。その理由について、市は『ウクライナ戦争や物価高騰で燃料・資材の価格が上がっているため』と説明するが、正直見積もりの甘さは否めない。議員は全員、新病院建設の必要性を認めている。にもかかわらず賛否が拮抗しているのは、市の説明が不十分で議員の理解が得られていないからです。起債で毎年1億2000万円ずつ、30年かけて償還していくことを踏まえると、人口減少が進む中で将来世代に負担させていいのかという思いもある。私たちは事業費が膨らみ続ける状況を市民に説明するため一度立ち止まってはどうかと言いたいだけで、政局で反対しているのではないことをご理解いただきたい」

 石井忠治議員は「市の説明が不十分だから議員の理解が得られない」と述べたが、まさにこれこそが白石市長が考えを改めるべき部分なのかもしれない。

市民のために歩み寄りを

田村市船引町地内にある新病院建設予定地

 前出・議会通はこう指摘する。

 「白石市長は大橋議長や一部議員とは親しいが、反対派議員とは交流がない。これでは工事請負契約のように、どうしても可決・成立させたい議案が反対される恐れがある。反対派議員にへつらえと言いたいのではない。公の場で喧々諤々の議論をしながら、見えない場で『この議案を通すにはどうすればいいか』と胸襟を開いて話し合えと言いたいのです。こちらが歩み寄る姿勢を見せれば、反対派議員も『市長がそう言うなら、こちらも考えよう』となるはず。そういう行動をせずに『自分は間違っていない』とか『市民のために正しい判断をすべき』と言ったところで、施策を実行に移せなければ市民のためにならない」

 要するに、白石市長は各議員との関係性が希薄で、議会対策も稚拙というわけ。

 いみじくも、白石市長は工事請負契約が否決された臨時会で次のように挨拶していた。

 「私たちは市民の声に真摯に耳を傾け、それを施策として反映・実行していく責務があります。今回の提案は残念な結果になりましたが、今後も議員の皆様とは市民の声をしっかり聞きながら、行政との両輪で市政を運営して参りたい」

 反対派議員に「市民のために賛成しろ」と泣き言を言っても始まらない。賛成してほしければ自身の至らない点も反省し、理解を得る努力が必要だ。それが結果として市民のためになるなら、白石市長は政治家としてのしたたかさも備えないと、任期が終わるころには「議会と対立してばかりで何もしなかった市長」との評価が定まってしまう。

 「そもそも、市長と議会が対立するようになったのは本田仁一前市長の時代です。本田氏は個人的な好き嫌いで味方と敵を色分けしていた。それ以前の市政で見られた、反対派議員とも腹を割って話す雰囲気はなくなった。そういう悪い風習が、白石市政になっても続いているのは良くない。本田市長時代の悪政を改めたいなら、市長と議会の関係性も見直すべきだ」(前出・議会通)

 工事請負契約の否決を受け、今後の対応を白石市長に直接聞こうとしたが「スケジュールの都合で面会時間が取れないので担当課に聞いてほしい」(総務課秘書広報広聴係)と言う。保健課に問い合わせると、次のように回答した。

 「現在、善後策を検討しているとしか言えません。いつごろまでにこうしたいという責任を持った回答ができない状況です」

 担当課レベルではそうとしか言えないのは当然だ。事態を打開するにはトップが動くしかない。白石市長には「自分は間違っていない」という思いがあっても、私情を捨て、反対派議員と向き合うことが求められる。もちろん反対派議員も「反対のための反対」ではなく、賛成へと歩み寄る姿勢が必要。嫌がらせの反対は市民に見透かされる。双方が理解し合うことこそが「市民のため」になることを、白石市長も議会も認識すべきである。

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