東京電力「特別負担金ゼロ」の波紋

contents section

 共同通信(5月8日配信)で次の記事が配信された。

 《東京電力福島第一原発事故の賠償に充てる資金のうち、事故を起こした東電だけが支払う「特別負担金」が2022年度は10年ぶりに0円となった。ウクライナ危機による燃料費高騰のあおりで大幅な赤字に陥ったためだ。(中略)東電は原発事故後に初めて黒字化した13年度から特別負担金を支払い始め、21年度までの支払いは年400億~1100億円で推移してきた。だが、22年度はウクライナ危機や円安による燃料高で10年ぶりの赤字が見込まれたことから、0円とすることを政府が3月31日付で認可した》

事故を起こした東京電力だけが支払う「特別負担金」:ウクライナ危機や円安による燃料高で10年ぶりの赤字が見込まれるため「0円」

事故を起こした東京電力だけが支払う「特別負担金」:ウクライナ危機や円安による燃料高で10年ぶりの赤字が見込まれるため「0円」

 原発事故に伴う損害賠償などの費用は、国が一時的に立て替える仕組みになっている。今回の原発事故を受け、2011年9月に「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が設立された。国は同機構に発行限度額13・5兆円の交付国債をあてがい、東電から資金交付の申請があれば、その中身を審査し、交付国債を現金化して東電に交付する。東電は、それを賠償費用などに充てている。

 要するに、東電は賠償費用として、国から最大13・5兆円の「借り入れ」が可能ということ。このうち、東電は今年4月24日までに、10兆8132億円の資金交付を受けている(同日付の東電発表リリース)。一方、東電の賠償支払い実績は約10兆7364億円(5月19日時点)となっており、金額はほぼ一致している。

 この「借り入れ」の返済は、各原子力事業者が同機構に支払う「負担金」が充てられる。別表は2022年度の負担金額と割合を示したもの。これを「一般負担金」と言い、計1946億9537万円に上る。

一般負担金の内訳

 そのほか〝当事者〟である東電は「特別負担金」というものを納めている。東電の財務状況に応じて、同機構が徴収するもので、2021年度は400億円だった。

 ただ、冒頭の記事にあるように、2022年度は、ウクライナ危機や円安による燃料高で10年ぶりの赤字が見込まれたことから、特別負担金がゼロだった。21年度までは年400億~1100億円の特別負担金が徴収されてきたから、例年よりその分が少なくなったということだ。

交付国債の利息は国民負担:最短返済でも1500億円

交付国債の利息は国民負担:最短返済でも1500億円

 ここで問題になるのは、国は交付国債の利息分は負担を求めないこと。つまりは利息分は国の負担、言い換えると国民負担ということになる。当然、返済終了までの期間が長引けば利息は増える。この間の報道によると、利息分は最短返済のケースで約1500億円、最長返済のケースで約2400億円と試算されているという。

 もっとも、「借り入れ」上限が13・5兆円で、返済が年約2000億円(2022年度)だから、このペースだと完済までに60年以上かかる計算。「特別負担金」の数百億円分の増減で劇的に完済が早まるわけではない。

 それでも、原発賠償を受ける側は気に掛かるという。県外で避難生活を送る原発避難指示区域の住民はこう話す。

 「東電の特別負担金がゼロになり、返済が遅れる=国負担(国民負担)が増える、ということが報じられると、実際はそれほど大きな影響がなかったとしても、われわれ(原発賠償を受ける側)への風当たりが強くなる。ただでさえ、避難者は肩身の狭い思いをしてきたのに……」

 東電の「特別負担金ゼロ」はこんな形で波紋を広げているのだ。

related post

関連記事