「若者のアルコール離れ」が加速していると言われる一方で、夜の街に自分の居場所を見つけ、年齢を偽って飲酒している10代もいる。実際に会津若松市の繁華街で今冬起きた、女子高生が店に出入りしていたというケースを取材した。会津若松市の「夜の街」の現状を追うリポート第1弾。
悪いのは店か、親か、社会か

2月4日からの記録的な大雪により、市民生活・交通・経済が麻痺状態に陥った会津若松市。連日積雪が続いたため、繁華街でも宴会の予定が軒並みキャンセルになり、やむなく休業にした飲食店も多かった。
そんな混乱状態の夜の街で、ある男女6人のグループが酒を飲んで盛り上がっていた。実はこのグループのうち、女性3人は未成年だったという(民法改正により成年年齢は18歳に引き下げられたが、本稿では飲酒や酒類の提供が禁止されている20歳未満の意味で使用する)。
同市の繁華街事情に詳しい男性がこのように明かす。
「市全体が雪に覆われていた2月8日、女子高校生2人と15歳の無職の女性が、20歳以上の男性3人から声を掛けられ、男性の友人が営む店で酒を飲んだ。同10日の深夜も同様のメンバーで飲んだが、その際一人が動画を撮影し、インスタグラムのストーリーズ(24時間後に自動的に削除される投稿機能)にアップしてしまった。それが証拠となり、学校に飲酒がバレたようです」
動画は翌朝5時には消去されたが、女子高生の一人・伊藤加奈さん(仮名)の顔が映り込んでおり、それをたまたま知っている人にダウンロードされた。当時は大雪で市内の高校は休校になっていたので、深夜まで夜更かししていた同級生が見かけたのかもしれない。
学校に連絡が行き、教員が本人に確認したところ、加奈さんは飲食店で飲酒したことを認めた。その結果、退学を促され、学校側からの提案もあって県外の学校へ転学した。
「小さい頃から、正月などに酒を舐めさせても、顔色が変わらない子どもだった。昨年秋、私の了解を取らずに居酒屋でアルバイトを始め、そのあたりから繁華街に出入りするようになったようだ。それに気付いて即刻バイトを辞めさせてから、今回の出来事が起きた」
こう唇をかむのは、女子高生の父親・伊藤孝義さん(仮名)だ。年頃の娘に父親が口うるさくしても、否定的感情の受け止め方は互いに難しい。「妻を通して進むべき道、注意喚起はしてきたつもりです」と語る孝義さんだが、気付いたときには退学か、転学かという選択を迫られる状態になっていたという。
一緒に飲酒した15歳の無職女性は、加奈さんの妹の友達で、繁華街でもよく知られる存在だと後から知った。居酒屋のバイトを始めたのも、最初は同級生の親が経営する店だったと聞いた。さまざまな交友関係ができたことや、新しい体験が楽しくなってしまったのか……。
孝義さんが納得できないのは、未成年である娘だけが責任を負わされたことだ。自分の娘がやったことは許されることではないし、実質的な退学通告や転学も甘んじて受け入れた。親としての監督責任も感じている。ただ一方で、加奈さんら未成年者と同席し飲酒をさせた者や、必要な年齢確認などを怠り酒類を提供した店側に違法性はないのか、その是非を問いたい。
「何より納得がいかないのは、誰がどう見ても未成年の女性を店内に入れ、オーナー自らシャンパンを開けて接客をしていたことです。娘の携帯電話に残っていた動画で確認しましたが異常ですよ」(孝義さん)
孝義さんは飲食店の見解を聞きたいと考え、娘の携帯電話の写真を確認し、ソファーの色やパネルなどから店舗を特定した。
市内の雑居ビルの5階に入居しており、エレベーターを使えば人目を気にせず入店できる。営業時間は夜10時から朝方まで。前出・事情通によると「スナックなど飲食店で働く女性が仕事終わりに立ち寄る『ボーイズバー』のようだ」とのこと。
孝義さんが店を訪れると、加奈さんらを飲みに誘った男性の一人・佐藤啓介氏(仮名)がおり「僕が悪いんです」と平謝りだったという。だが、店のオーナーの田中優斗氏(仮名)は「未成年だと気付かなかった。接客はしていない」と主張。後日、市内の法律事務所に相談したうえで、あらためて「弁護士に確認したが、自分に非はないと考える」と孝義さんに連絡してきたという。
「再度娘(加奈さん)に事実関係を確認したところ、佐藤氏には2月8日に飲酒する前、『年齢は17歳』と明かしていたそうです。普通なら『まずい、未成年に酒を飲ませてしまった』と思うはずで、友人であるオーナーに伝えないとは考え難い。田中氏がソファーに座ってシャンパンを開けている動画も娘の携帯に残っていた。『接客していないというのは嘘でしょ』と動画を見せたら頭を抱えていました」(孝義さん)
会津若松署が店に指導
孝義さんは会津若松署に一連の経緯を説明し、携帯電話に残っていた動画なども見せた。それを受けて捜査が行われ、二十歳未満への酒類の提供を禁じる「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」(未成年者飲酒禁止法)や風俗営業法に抵触する恐れのある行為があったと判断された。田中氏に対しては、たとえ未成年者だと気付かなかったとしても法令違反に当たるので、今後注意するよう同署から「指導」が行われた。
孝義さんは「警察から指導を受ける行為があったのに、『自分に非はないと考える』という主張はできないでしょう」と指摘する。
加えて「市内の法律事務所に相談したというが、弁護士は田中氏にどんなアドバイスをしたのか。この弁護士は学校などで講義をすることもあるようだが、青少年保護育成条例に反する助言をしていたとすれば、大問題。保護者の立場から見て不自然に感じます」とも語った。
田中氏は、孝義さんの指摘をどう受け止めているのか。開店直後の店を直撃して話を聞いた。
――女子高生に酒類を提供していたと聞いたが事実か。
「先輩たちのグループに混ざっていたので酒を提供しました。まさか未成年を連れてくるとは思わないじゃないですか。俺は全然分かんなかったです」
――年齢確認はしなかったのか。
「したかったけど、先輩が連れてきたとなると、なかなかアレ(確認しづらい)じゃないですか」
――未成年が出入りすることはほかにもあるのか。
「うちの店はもともと年齢層が高めなんです。親御さん(孝義さん)から電話が来ましたが、俺は本当に未成年だと分からなかったし、正直顔もよく覚えていないので困った。どう責任を取るかという話から裁判の話にもなったが、すでに会津若松署に指導を受けたし、そもそも店に来たのは深夜1時ごろで、未成年の深夜徘徊を許していたんだから保護者の責任も問われる話でしょう。仮にそうなった(裁判になった)ら、それを主張するしかない」
あくまで加奈さんが未成年であることは分からなかった、と主張しているわけ。
田中氏が相談したという弁護士にも問い合わせたところ、次のように回答した。
「田中氏からは相談を受けただけで正式に契約したわけではありません。田中氏の話を聞く限り、未成年だったと分かっておらず、年齢確認をしなかったという過失はあったとしても、故意に未成年を店に入れたわけではない。相談の中で一緒にそうした点を整理したので、(田中さんは孝義さんに電話で)『少なくとも店側としては過失がないと考える』と意思表示したのだと思います。私は相談業務の中で田中氏から聞いた話をもとに助言しただけで、実際に過失があったかどうかは知り得ないし、それらは警察による行政指導や裁判で明らかになることです」
要するに、田中氏の話だけを聞いて捉え方について法律的な視点で助言したに過ぎず、どの立場に立つものでもない、と。
県警によると、未成年への酒類提供に関しては、提供者が未成年であることを知らなかった場合、事件(=違反者を逮捕し起訴する手続きを進めること)にはならないという(風俗営業法違反による逮捕は現認逮捕が原則)。過去10年間で未成年への酒類提供が原因で事件化され検挙に至ったケースはない。
仮に故意に酒類を提供するなどして、風俗営業法の禁止行為に違反した場合、同法に基づく許可取り消しや営業停止、指示などの行政処分が下されることになる。ただ、故意に酒類を提供したわけではない場合、警察からの「指導」として、店舗に対し再び法令違反をしないよう厳しく注意される。田中氏の店のケースもこれに当てはまる。
言い換えれば「未成年とは分からなかった」と主張すれば行政処分を避けられるわけで、こうした点を踏まえ、田中氏や弁護士は「店側としては過失がないと考える」と主張したのだろう。
店舗経営者の本音
未成年は脳や体が成長段階にあり、アルコールを分解する力が弱いため、飲酒は脳や肝臓、心臓などの臓器の発達に悪い影響を及ぼすとされる。夜の街に出入りして飲酒する未成年はどれぐらいいるのか。その実態やチェック体制について、会津若松市の飲食店関係者に尋ねたところ、「店の入り口に『20歳未満の飲酒はお断りします』と表示しているものの、個別の年齢確認は徹底されていない」という回答が多かった。
「女子高生なんて化粧をすると、もう何歳なのか分からない。仮に年齢確認して『21歳です』と言われるとそれ以上は追及できないし、顔なじみや常連客が連れてきた人ならいちいち聞いたりできない。スタッフ数も限られているのでそこまでやる余力もない」(ボーイズバーを経営する男性)
「会津若松市の繁華街にはチェーン系の居酒屋がほとんどなく、個人経営の店舗が大半を占める。親や親戚、学校の先輩が経営する店があれば出入りするようになるし、飲酒の年齢も早まる。自分も10代から飲酒していたし、この辺りではそれが当たり前だった。ただ、マスコミなどで問題視されるようになり、このあたりの店舗もルールを定めて厳格に年齢確認するようになっています。時代的に許されなくなっているということでしょうね」(街頭に立っていたホスト)
こうした現状は会津若松市に限った話ではないようで、福島市の飲食店経営者もこう語った。
「うちの店では酒を提供するし喫煙もできるので、未成年は基本的に入店を断っている。それでも大学生グループが未成年の1年生を引き連れてきたり、部活動の顧問が子どもたちを連れて来店するときがある。説明して店を替えてもらうしかないが、予約を入れていた場合などはその席がぽっかり空くことになります。飲酒運転もそうだが、酒を提供した店舗だけ責任を問われても困るというのが本音です」(福島市の飲食店経営者)
店としても年齢確認や入店制限に力を入れているが、なかなか徹底できない実態があるようだ。
会津若松市の複数の経営者によると、酒を飲む側ばかりでなく、酒を提供する側にも未成年が紛れ込んでいるようだ。「あの店で働いていたのは未成年だ」、「未成年がいるという意味では(田中氏の店舗が入るビルより)あっちのビルの方がやばいでしょ」など具体的な情報を複数聞いたが当人にはたどり着けなかった。
前述の通り、加奈さんと飲酒を共にした15歳の無職の女性は繁華街でもよく知られる存在だという。中3あるいは高1に当たる少女が店で飲酒しているという事実にあらためて驚かされる。
東京・新宿歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺には居場所がない若者たちが集まり、「トー横キッズ」と呼ばれている。規模こそ違えど、会津若松市の夜の街も居場所がない未成年の受け皿となっているのかもしれない。
こうした問題について市や商工会議所に意見を求めたが、いずれも「何ともコメントしようがない」といった対応。福島県社交飲食業生活衛生同業組合会津若松支部の役員もピンと来ていないようで、明確な回答を得られなかった。ビルの管理者にも話を聞いたが「テナントが未成年を入れているかどうかまで確認できない」と述べるばかりで、いずれも他人事の感じが否めなかった。
もちろん監督責任があるのは保護者だが、シングルマザー・ファーザーの世帯など家庭のあり方も多様化している中で、子どもの行動を常に把握できるわけではない。年齢確認が徹底されないのをいいことに未成年は夜の街を出入りしている。親のせいだ、店のせいだと責任をなすり付けあったり、「どっちもどっちだ」と冷笑するのではなく、社会全体でこの問題を考え、ルールを構築していく必要があるのではないか。
「これは社会問題」
前出・田中氏が経営する店を訪ねた際、ドアに「※20歳未満にはお酒は提供しません」という注意書きと、22歳以下を対象とする「フレッシャーズ割引」の案内の張り紙があった。
「身分証明書を提示することで、22歳以下は500円割引になるキャンペーンです。こうすることで、比較的若い来店客に『身分証を提示すればお安くなりますよ。念のため確認させてもらっていいですか』と年齢確認しやすくなる。正直、未成年に来店してもらったところで儲けにつながるわけでもないし、許可取り消しや営業停止になりかねない。そんな危ない橋を渡って、故意に飲ませようなんて考えませんよ」(田中氏)
未成年飲酒をめぐる一件を経て工夫して身分証明書を提示してもらうシステムを編み出したという。行政などが中心となって、こうした店ごとの工夫を共有していくことが今後は求められよう。
前述の通り、加奈さんは県外の学校に通い始めて新たな生活を送っているとのことだが、父親である孝義さんはいまも未成年の飲酒を取り巻く環境について考え続けている。
「今年1月には、会津若松市の別の店舗が営業停止処分を受けていました。特に会津地方はコンプライアンス違反に対する意識が全体的に低いのだと思います。娘も飲酒に限らず、さまざまなビジネスに誘われ、違法だと知らずサークル的な感覚で参加していた可能性もあった。青少年の環境整備を助長し、福祉を阻害する恐れのある行為を防止するべきなのにできていないという社会的問題だとも感じます。未成年者の入店チェック体制を厳しく機能させてほしいし、私は引き続き親としての責任を取り続けていきます」(孝義さん)
高校生が飲酒した事例から見えた会津若松市の繁華街の現状と課題。外国人も含めて観光客が多く訪れる場所だけに、より健全で安全に楽しめる環境を整備していかなければならない。未成年への酒類提供を防ぐ仕組みについて、業界を挙げて考える時が来ている。