セブン&アイホールディングス傘下のイトーヨーカ堂は2月9日、北海道、東北、信越地方の全17店舗を閉鎖すると発表した。県内では現在営業中の福島店、郡山店が閉店する。かつて高い集客力を誇った総合スーパー(GMS)は大型ショッピングセンターなどに顧客を奪われ、ついには本県から姿を消すことになった。本県の状況と併せて、福島店の跡地問題に関してもリポートする。
郡山、いわきと明暗が分かれた福島
イトーヨーカ堂はセブン&アイホールディングスの中核企業で、1920年に創業。1958年に株式会社を設立し、全国に出店した。
特徴は食料品や日用品など日常生活に必要なものに加えて、衣料品や家電、家具などを総合的にそろえていること。高度経済成長期において各都市の駅前などに出店を加速させ、福島県内には福島市、郡山市、いわき市、白河市に店舗があった。
だが、消費者の需要の多様化が進み、ユニクロやしまむらといったアパレル系チェーン店が人気を集めたこと、さらには大規模駐車場を備えた大型ショッピングセンターが進出したことで、顧客離れが進んだ。衣料品売上高は総合スーパーにとって大きな収入源。それを他社に奪われる形となり、完全に一時代前のビジネスモデルになってしまったということだろう。
イトーヨーカ堂は閉店する店舗のうち、食品スーパー「ロピア」などを展開するOIC(オイシー)グループにイトーヨーカドー青森店など9店舗を引き継ぐ方針を発表。このほか、北海道でスーパーを展開するダイイチに1店舗、同じセブン&アイグループのヨークベニマルに1店舗を事業承継する。
本誌3月号「福島駅東口再開発に暗雲」という記事で報じた通り、福島県内では現在営業中だったイトーヨーカドー福島店、郡山店が閉店することになった。5月26日に閉店する郡山店はヨークベニマルが店舗を継承する方針を示している。一方、5月6日に閉店する福島店は3月下旬になってもなお撤退後の話が出てこない。
土地・建物を所有する不動産大手ヒューリック(東京都)は、本誌3月号の取材に対し「(イトーヨーカドー撤退後の利活用方針について)まだ決まっていない」と回答した。木幡浩市長によると、当初は民間の会社が入る話があり、現在も交渉は継続しているという。ただ、敷地面積2万3750平方㍍、地上4階建て、680台分の駐車場を備え、帳簿価額約17億円(ヒューリックの2015年12月期有価証券報告書)の店舗跡をそっくり引き受けるところが現れるとは、常識的に考えにくい。
JR福島駅西口が〝駅裏〟と呼ばれていたころににぎわいをもたらした福島店だが、ひとたび撤退となると、地域にとって大きな打撃となる。郡山店同様、福島店もヨークベニマルに事業承継してほしい、という声も聞かれるが、西口にはすでにヨークベニマル野田店があるため、同社の動きは鈍い。
2021年2月、一足先に閉店が決まったイトーヨーカドー平店跡地では、今年2月、商業施設「Paix Paix(ペッペ)」がオープンした。ヨークベニマルをはじめ、無印良品、マツモトキヨシ、ダイソー、ケンタッキーフライドチキンなどが入居する。

日本経済新聞ウェブ版3月1日配信記事では、同施設を開発した真砂不動産の猪狩達宏社長を取材しており、平店撤退が決まった後、建物を解体して単独で再開発に至った理由を次のようにリポートしている。
《商圏人口は市の人口の約半分にあたる15万人と想定する。(中略)ただ、1万2600平方㍍の敷地面積で採算がとれるように、機能を絞り込むことにした。業務内容は衣食住に関わる物販に特化し、映画館のようなエンターテインメント施設やイベントホールなどは設置しない。飲食店は3区画に抑え、商業施設にはつきものの「フードコート」を置かなかった。(中略)いわきでの事業の成否が、他の地域の再開発の試金石ともなろう》
現在、多くの開発プロジェクトが、建設費用や水道光熱費高騰、人手不足で見直しを求められるなか、一足早く閉店が分かったことで、逆に割り切って再開発を進められたと言える。そういう意味ではラッキーだったと言えるし、福島店とは明暗が分かれる格好となった。
2月28日には、市民や大学教授らを委員とする「福島駅周辺まちづくり検討会」が開催された。JR福島駅東口で進む再開発事業の複合ビル建設の計画見直しを機に、駅周辺のまちづくりをどのように進めていくべきか議論するのが狙い。
西口の福島店跡に関しては、「買い物できる場所がほしい」という意見も出たが、「都市機能は東口に集積していることを考えると、西口は商業機能にこだわらなくてもいいのではないか」という声も聞かれた。
東口の再開発事業の複合ビルでさえ、テナント集めに苦戦しており、検討会の委員からもこうした意見が出るということは、商業施設を集積する施設として活用する流れにはならなそう。もちろん、前述の通り、同地の土地・建物を所有するのはヒューリックなので、その判断に委ねられることになる。
なお、この日の主な議題は公会堂と市民会館に代わる施設として東口に整備される「福島駅前交流・集客拠点施設」について、コンベンションホール案がいいか、劇場ホール案がいいか、というもの。委員の多くはコンベンション機能を支持したため、木幡市長が案を絞り込んで、次回からはコンベンションホール案を中心に検討を進めることになった。
傍聴していた市民からは「サッカースタジアム整備や大物アーティストのコンサートを受け入れられる劇場ホールなど夢のある計画を期待していたが、中途半端な案で決まりそうなので落胆した」、「一方的に決まってしまった印象だ」といった声が上がった。
図書館はどうなった?
ふと気になったのは、市内でさまざまな再開発の動きが活発になる中で、市立図書館本館の再整備の動きが見えてこないことだ。
市立図書館は1958年に建設され、老朽化が著しいため、市では市立図書館再整備検討委員会で議論を行い、2019年11月に市に報告書を提出した。だが、その後は全く動きがない。
同報告書では①駅東口地区再開発事業区域、②本庁西棟用地、③現在地の3案を検討し、①、②は設置階層や駐車場の問題で適地ではないと結論付けた。そのうえで「現在地のほか中心市街地内で再編が検討されている他の公共施設用地も候補に検討することが必要と考える」となっていた。要するに、場所が決まらず塩漬けになっているのだ。
そう考えると、「市立図書館を核とした福島店跡地利活用」という声が出てもおかしくないし、実際に地元紙にも市民からそうした意見が投稿されていた。ただ、そうなれば市の負担がさらに大きくなるという問題を抱えているので、慎重な判断を迫られることになるだろう。木幡市長はどのような判断をするだろうか。この号が出るころには新たな動きがあることを期待したい。